フレアの冒険 4
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最近の、お城の中はとても忙しそうです。
それというのも、私がリリステラお姉様と星見の塔に行った時に、お外に魔獣が出たらしいのです。
私は星見の塔の中にいましたから、魔獣は見ていません。
でも、ルディお姉様とシフォニアは襲われたのだとか。
「シフォニア! 無事でよかった! 本当に、君が無事で……!」
うわきもののわるいおとこ、ガウェインが、お城の診療所で体を見てもらっていたシフォニアを迎えにきて、ぎゅうっと抱きしめました。
私はキルシュお兄様と一緒にルディお姉様の傍にいたものですから、ガウェインの大声におどろきながらも、じっとりとガウェインをにらみます。
「シフォニアは大丈夫よ。リリステラお姉様が、私とシフォニアを守ってくれたから」
ルディお姉様が言いました。シフォニアも、ガウェインにぎゅうぎゅうされて痛そうにしながら、困った顔で笑っています。
「リリステラ様の、勇敢なお姿、私は一生忘れません。コルフォル様に命じて湖を凍らせて、魔獣を倒して、私たちを守ってくださいました。湖に落ちたルディ様を助けるために、ためらいなく凍った湖の中に飛び込んだのです。本当に素敵でした」
「リリステラ様は、はじめてお目にかかったときは大人しそうな女性だと感じたが、さすがはアルベール様の選んだ方だ。難攻不落のアルベール様が、まさか他国から花嫁を奪ってくるとは思わなかったが」
「ええ、そうですね。とても驚きました。アルベール様は素晴らしい方を選びましたね。エルデハイムには魔獣がいないのでしょう、とてもおそろしかったと思います。私も、怖くて……何もできませんでした」
「まさか皇都に魔獣が出るとは思わない。皆が無事で、本当によかった」
ガウェインは、わるいおとこのひとには見えませんけれど。
シフォニアの顔をなでて、泣きそうな顔でこつんとおでこを合わせました。
「がうぇは、わるいおとこのひとではなさそうです。うわきもの、と、きいたのです」
「え……っ、ルディ様、フレア様、そんな目で見ないでください。俺はほら、少し、女性が好きだっただけで……」
「ガウェイン様、ルディ様とフレア様に余計なこといってはだめですよ」
「私はアルベールお兄様のような人と結婚したいです」
「私も」
「二人とも、僕も浮気はしないよ」
「そうですよね。キルシュお兄様もです」
「です」
ガウェインはとっても困ったように笑っています。笑いごとではないと思うのですが。
「ともかく、リリステラ様のおかげで皆が無事でよかった。皇都にまで魔物が現れるなんて、もう少し身辺に気をつけなくてはいけないな。姫様方も、皇子様も、気をつけてくださいね」
「大丈夫です、兄上がいますから」
「から!」
キルシュお兄様の言う通りなのです。
私は胸を張って、言いました。アルベールお兄様にはルーゼの力がありますから、きっと皆を守ってくれるのです。
魔獣におそわれてから何日かたちました。
私たちは、リリステラお姉様もですけれど、お父様やアルベールお兄様に言われてお城の外には出られなくなりました。
普段からそんなに、お外に出ることなんてないのですけれど。
できる限りお部屋にいるように、お外に出ないように言われています。
「どうしてお外に出てはいけないのでしょうか」
「危ないからよ。魔獣が出るかもしれないもの」
「あれから、皇都や街を魔獣が襲ったという話は聞かないけれどね。何かの偶然とか、何かの間違いだったんじゃないかな。星見の塔は、皇都の外れにあるから、そこまでルーゼの守護が届いていなかった、とか」
私たちはお庭で遊ぶことができましたが、リリステラお姉様はお部屋にばかりいます。
アルベールお兄様が、お外に出ると心配をするのだそうです。
私たちがリリステラお姉様のお部屋に行くことも、アルベールお兄様は嫌がっているのだといいます。
お兄様は意地悪です。それは、一人じめというのです。
「兄上が、リリステラ姉上を心配する気持ちはわかるけれど、部屋にばかり閉じ込めておくのも、よくない気がする」
「それぐらい、心配ということでしょう?」
「ひとりじめです。よくないのです」
「フレアはお子ちゃまだから、わからないのね。それも、愛というものよ。ね、お兄様」
「そうなのかな。僕にも、よくわからないけれど……」
私とルディお姉様とキルシュお兄様は、中庭でお茶会をしていました。
ルディお姉様が私を子供だというので、私は頬を膨らませてぷんぷんしました。
ルディお姉様も、私と同じぐらいなのです。
「そろそろ剣術の訓練の時間だ」
「私も、お勉強の時間だわ。フレアは一緒にくる?」
「いいです。私は、お花を見に行くのです」
私はお兄様やお姉様たちと別れて、庭園の奥に向かったのでした。
侍女たちがついてこようとするので「私は大人なので大丈夫です」と言って、侍女たちから逃げました。
お花を見るだけですから。
私は、野うさぎ探検隊の隊長ですから、一人でも大丈夫なのです。
背の高いバラの生垣の間を歩いていると、迷路の中にいるみたいで楽しいのです。
きょろきょろしながら歩いていると、ぴょんぴょん跳ねている、野うさぎのしっぽが見えました。
「うさぎさん!」
野うさぎ隊長としては、うさぎさんは捕まえたいところです。
バラの生垣の奥に、奥に、私はうさぎさんを追いかけていきます。
どれぐらい奥にきたのでしょうか。
うさぎさんが、行き止まりのところで立ち止まっています。そのうさぎさんを、誰かが抱きあげました。
それは知らない男の人でした。
アルベールお兄様と同じぐらいの歳でしょうか。金色の髪の、貴族の男の人に見えます。
「はじめまして、姫君」
「はい、はじめまして。あなたは誰ですか?」
「新しくここに務めはじめた、庭師です」
「にわしさんには見えません」
あんまり、言葉を話すのが上手ではないように思えました。
その人は、私と同じぐらいに、言葉がへたなのです。大人なのに。
「庭師ですよ。姫君、頼みがあるのですが」
「頼み、ですか?」
「リリステラ様を連れてきてくれませんか? 部屋にばかりいたら気が滅入るでしょう。咲いたばかりの青い薔薇を、見せてさしあげたいのです」
「青い薔薇、リリステラお姉様は喜ぶでしょうか」
「きっと喜びますよ」
リリステラお姉様の喜ぶ顔を、私は見たいと思いました。
お部屋に閉じ込められているのは、かわいそうなのです。
隊長として、私はリリステラお姉様をお外に出してあげないといけませんから。




