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フレアの冒険 2



 野うさぎ探検隊は、王都の外れにある星見の丘に到着しました。

 わたしは隊長として、リリステラお姉様に窓の外を見ながら色々教えてあげました。


「リリステラお姉様、あの雲はとても長いです、きっとドラゴンですよ」

「そうですね、フレア。あのドラゴンの隣にある雲は、パンケーキですよ、きっと」


 リリステラお姉様が指をさした雲は、まるくてふわふわで、美味しそうな形をしていました。


「ドラゴンはパンケーキを食べるのですか?」

「ドラゴンによっては食べるのかもしれません。ルーゼも、甘いものが好きですよ。パンケーキも食べますね」


 この国の守り神、昔はお父様の体の中に、今はアルベールお兄様の体の中にいるルーゼは、今までたいへんな時にしか姿を見せませんでした。


 たいへんな時というのは、悪いことがあるとき、ということです。

 たとえば、すごく強い魔獣があらわれたとき、とか。


 それから、すごく強くて悪い人があらわれたときです。


 それでも、わたしのお膝の上にいるコルフォルや他の幻獣たちで十分なことがほとんどですから、ルーゼが現れるのは、本当に本当に、大変な時だけでした。


 それぐらい、ルーゼの力を使うのはたいへんなことなのです。


 火分けや、水分けの力を使うのも、とても大変なことだとお父様はおっしゃっていました。

 すごくすごく、体の力を使ってしまって。


 それで、すごくすごくお腹がすくのだそうです。

 それ以上のルーゼの力を使うのは、その力を使って戦うのは、皇帝陛下にとってはとても大変なことなのだといいます。


 それなので、わたしたちでさえルーゼを見ることは少なかったのです。

 

 でも、リリステラお姉様が来てからは、ルーゼは自分の意思で、小さな可愛い獣の姿で姿を見せてくれます。きっとリリステラお姉様のことが大好きなんだと思います。


「ルーゼ様は、パンケーキをめしあがるのですね。……なんだか不思議な感覚です。ルーゼ様とは皇帝陛下の血の中にある、フェデルタの守護神のような存在です。ですが、今はもっと身近に感じます。こうしてコルフォル様の姿が傍にあることも、わたしたちにとっては驚きで……」


 シフォニアが困ったように笑っています。

 わたしのお膝の上のコルフォルは、得意気に首をあげました。


「なにか、お話をしているように見えますね」


 ルディお姉様がコルフォルを覗き込みます。

 コルフォルは私のお膝から、リリステラお姉様のお膝に移動して、大好きだとでもいうように体をリリステラお姉様の手の平にこすりつけました。


「コルフォル、アルベールお兄様が見たら怒るかもしれませんよ。キルシュお兄様が、アルベールお兄様はしっとぶかいって、言っていたもの」

「大丈夫です、ルディ。怒ったりはしませんよ。コルフォルは幻獣。ルーゼやアルベール様に……力を貸してくれていますから。ルーゼやアルベール様にとっては、家族のような存在です。アルベール様は、私がルディやフレアの頭を撫でても怒らないでしょう?」


 心配するルディに、リリステラお姉様が優しく言います。

 コルフォルは尻尾をぱたぱた振りました。幻獣は、人を守る存在だと思っていました。

 けれど、コルフォルにはきちんと自分の気持ちがあるように見えます。


「リリステラ様は、幻獣様たちにとって特別のように感じられます。アルベール様にとっても、特別なのと同じように」

「シフォニア様は、アルベール様と親しかったのですか?」

「親しい……というほどでもないのですけれど。ソフィア叔母様が前皇帝陛下に嫁いだご縁で、時折お話をさせていただくことがありました」

「幼馴染、という感じでしょうか」

「そうですね。それに近いかもしれません。私と、ガウェイン様、三人で遊ぶことがありましたね。私は完璧なアルベール様よりも、やんちゃで少し悪い男だったガウェイン様に夢中でした」


 悪い男とは、どういうことでしょうか。

 ガウェインは悪い人……?


「ふふ、ルディ様とフレア様には少し早いかもしれませんね」

「シフォニア、私たちも立派な淑女です!」

「です!」


 ルディお姉様が怒るので、私も怒りました。

 ほんとうはよく、意味はわかっていなかったのですけれど。


「ガウェイン様は、悪い男だったのですか?」

「色男ですね。ガウェイン様は公爵家子息。とても女性たちから人気がありましたし、火遊びもよくしていたようでした。アルベール様はそういった火遊びを好みませんから、お二人の性格は正反対ですけれど、仲はよかったのですよ」

「……シフォニア様、ご苦労をされたのではありませんか?」

「そうですね。私は火遊びをするガウェイン様を叱ったり、女性と揉めた時の仲裁をしたりしていました。ガウェイン様のことは好きでしたけれど、私には望みがないと思っていましたから。切なくもあり、友人として傍にいることができて嬉しくもあり、という感じでしたね」


 今となってはいい思い出でですと、シフォニアは笑います。

 ルディお姉様が「ガウェインはひとでなしだわ」と怒っています。


「もちろん、一途な男性のほうがいいに決まっています。アルベール様はガウェインとはまるで違いますから、安心してくださいね、リリステラ様」

「はい、ありがとうございます、シフォニア様。あの……何かあったら、相談に乗らせてくださいね」

「まぁ……! ありがとうございます、リリステラ様。今でこそ落ち着きましたけれど、もしガウェイン様が浮気をしたときは、泣きつきにいきますね」

「そういう時は皆で懲らしめるわ、シフォニア」

「こらしめます。野うさぎ探検隊は、シフォニアの味方です!」


 私はルディお姉様の言葉に強く頷きました。

 隊長として、シフォニアを傷つけるような悪い男をほうってはおけません。


 そんな話をしていると、馬車がとまりました。目的地についたのです。

 星見の丘には、星見の塔があります。

 この塔には、星見たちが住んでいて、毎日星を見て未来を占っているのです。


 星に名前をつけたり、星の意味を考えたりもするそうです。


 星見の塔は森の中にあって、私たちはその手前の、湖の傍にピクニックの準備をしました。

 湖はとても綺麗で、お日様の光がふりそそいで、輝いています。

 ボート乗り場もあるのですが、私はボートには乗ったことがありません。


「野うさぎ探検隊、ピクニックの準備が終わりました。これからピクニックをはじめます!」

「はい、隊長」

「わかったわ、隊長」

「ふふ……可愛いわね、隊長」


 私の号令に、リリステラお姉様がぴしっと敬礼をしてくれます。

 ルディお姉様は呆れたように肩をすくめて、シフォニアは優しい顔で笑っています。


 ランチバスケットにたくさん入った焼き菓子を、リリステラお姉様がお皿にとってくれます。

 隊長の役目に少し疲れた私は、焼き菓子で栄養補給をしたのでした。



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