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ルディ・フェデルタ



 ◇


 アルベール兄様のことを、私は最初──お父様の弟か、それともどこかの親戚の方なのかと思ってた。

 

 お父様の弟というのは少し言い過ぎかしら。

 でも、私にとってアルベール兄様は、キルシュ兄様とは違って年齢が上すぎて、私の兄だという実感がまるでなかったもの。


 一緒にも、住んでいないし。

 後宮の中にある別邸にいらっしゃって、時々顔を合わせる程度。

 

 お散歩中に出会うと「ルディ、元気そうだな」と言って、頭を撫でてくれる。

 すごく大人で、いつも一人で、でもあまり寂しそうな顔もしていなくて。


「あの。あなたは一体誰なんですか?」


 ある日、思わずそう尋ねた私に、アルベール兄様はお腹を抱えて笑い出した。

 それから、「俺は君の兄だよ」と教えてくれた。


「お兄様? どうして一緒に暮らしていないのですか? お兄様というよりも、お父様の弟のようにも思えます」

「そうだな。だが、兄だ。母親が違うが、兄だよ」

「お兄様のお母様はどこに行ってしまったのですか?」

「亡くなったんだ。俺を産んですぐに」

「なくなった……?」

「あぁ。だから、君とは母が違うが、俺は兄だし、ルディは俺の可愛い妹だよ」


 ではなぜ一緒にいないのか、なぜ一緒にご飯を食べないのか。

 その時の私は、アルベール兄様を質問攻めにした。

 だって、家族って一緒にいるものでしょう?

 アルベール兄様だけ、離宮にいるなんて変だもの。


「説明は難しいのだけどね。ルディはまだ小さいから両親が必要だろう? 俺はもう大きいから一人でも問題ない。そういうことだ」

「そういうことですか」

「わかった?」

「わかりません」


 アルベール兄様の説明に、私はむくれた。

 大きいから一人でもいいなんて、これっぽっちもわからない!

 だってアルベール兄様は大きいっていってもまだ子供だもの。私たちと一緒。

 大人びているけれど子供だ。まだご結婚だってしていない。


 私たちはお城に住んでいて、アルベール兄様だけが離宮にいるなんて、まるで私たちがアルベール兄様を追い出したみたい。


「兄様も一緒にいてください。お食事も一緒に食べましょう?」

「ありがとう、ルディ」

「兄様は、私たちがお嫌いですか?」

「そんなことはないよ。俺は君たちが好きだ。家族だと思っている」

「むぅ……」

「そう怒った顔をするな。可愛い顔が台無しだぞ」


 アルベール兄様はそう言って笑いながら、私の頬をつついた。

 そんなふうに、アルベール兄様はいつだって明るくて、私たちに優しかった。


 けれど、私たちとの間には見えない壁があるみたいで、あと一歩のところで立ち止まって、それ以上踏み出してこようとはしなかった。


 その兄様が、最愛の女性と結婚をした。

 リリステラ姉様は綺麗で、優しくて物知りで、お勉強の教え方がとても上手。


 私やフレアの家庭教師と違って間違えても怒らないし、理解できないところは何回でもわかりやすく言い直して教えてくれる。

 ご本を読むのもとても上手で、フェデルタ語をとても丁寧に話してくれる。


 家庭教師の先生に教わるよりも、リリステラ姉様に勉強を教わったほうがずっとわかりやすいし、楽しい。

 涼し気な透明感のある声で褒められるのも、ほっそりとした指で撫でられるのも好き。


「アルベールお兄様も雰囲気が変わりましたね」

「ルディもそう思う?」

「キルシュ兄様も気付きましたか?」

「ふんいき」


 戴冠式も結婚式も終わって、次は舞踏会がある。

 キルシュ兄様はアンジェラ様と婚約した。皆でおめでとうを言ったあと、私がアルベール兄様の話をすると、すぐにキルシュ兄様も頷いてくれた。


 離宮にある談話室にはお茶とお茶菓子が並んでいて、フレアがクッキーをぱくぱくと口に入れている。


「今までのアルベール兄様の笑顔って、本当のものじゃなかったんだなって思います」

「そうだね。兄上はずっと寂しかったのかもしれない」

「さびしい?」

「そう。寂しい。でも、リリステラ姉上が来てくれて、心の穴みたいなものが、埋まったんじゃないかな」

「お兄様、心に、あながあるの?」


 フレアが不思議そうに言って、それから瞳を潤ませた。


「穴があったら痛いから、かわいそう」

「でも、その穴はリリステラ姉様が埋めてくれたのですよ」

「よかった!」

「そうだ、フレア。いつも私たち、舞踏会でアルベール兄様と一緒に踊っていたでしょう」

「うん」

「今回は、二人で踊りましょう? アルベール兄様と、リリステラ姉様を祝福するために」

「おいわい、したい!」


 そういうわけで、私とフレアは二人でお祝いのダンスを踊るため、ダンスの先生にお願いして特訓をすることになった。


 いつもはアルベール兄様が私たちと手を繋いでくるくる回したり、抱き上げたりしてくれた。

 でも、アルベール兄様には大切な人ができた。

 私たちもいつまでも甘えているわけにはいかない。


 心からのおめでとうという思いを込めて大広間の真ん中で踊り終わると、アルベール兄様もリリステラ姉様も、とても嬉しそうに微笑んでくれる。


 その笑顔は、心からの笑顔で──二人がずっと、幸せでいられるようにと、アルベール兄様の中にいるルーゼに、二人を守ってくださいとお祈りをした。





お読みくださりありがとうございました!

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