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【コミカライズ配信中】傷だらけの公爵令嬢は、隣国の皇太子に溺愛される  作者: 束原ミヤコ
二章

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記憶の意味



 男性――初代フェデルタ王に力を渡しルーゼが消えたところで、私たちの見ていた景色は再び元の、柱が倒れ、誰もいない美しいけれど朽ちたような神殿の姿へと戻った。

 台座の上にちょこんと座っている小さなルーゼは、私の肩に飛び乗ると、額を私の頬へと擦り付けて、それから消えていった。


「……ルーゼが、記憶を見せてくれたのははじめてだな」


 アルベール様は私を抱き上げると、先程までルーゼが座っていた台座へと私を座らせる。

 台座に座ると、アルベール様と視線が近くなる。

 アルベール様は背が高く、私はいつも見上げている。


 だから、こうして視線が近づくと、いつもよりも少し恥ずかしい。

 輝く太陽のような瞳に、私の姿が映っている。真っ直ぐ見つめられて、私も視線を逸らさずにアルベール様を見返した。


 ――悲しい記憶だった。

 ルーゼの悲しみが伝わってくるようで――けれど少し、戸惑ってもいた。

 あの少女は、私に似ていた。


「ルーゼについての言い伝えは、フェデルタ王家に残っている。だが、ここまで詳しい記録はない。ルーゼは人を哀れみ、人を愛し、愛を乞う。初代フェデルタ王に力を与えた。俺たちが知っているのは、それぐらいのことだ」

「とても、悲しいことがあったのですね」

「あぁ。幻獣がああして、人のように言葉を交わすことさえ知らなかった。……俺の命令には従うが、言葉を交わしたことはない。あんなことがあったのだな。もし俺がルーゼだったら、とても耐えられない」


 アルベール様は私の背中に手を回して、きつく抱きしめた。

 ルーゼの記憶が心を軋ませて、無性にぬくもりが欲しかった。

 抱きしめてもらうと、安心する。

 低く掠れた声が鼓膜を震わせて、私は眉を寄せた。潤んだ瞳から、涙がこぼれる。

 

 どれほど悲しかっただろうと思う。

 ――大切だった人を失うのは。

 大切だった人を、大切だった存在が手にかけるというのは。

 ルーゼにとってネクロムは友人のような存在だった。

 どれほど意見が合わなくても、産まれたときからずっと一緒にいたのに。


「リィテは、あの少女に似ていた。だからルーゼは俺を、リィテの元へと導いたのかもしれない」

「ルーゼが、アル様を……?」

「俺がエルデハイムに向かったのは、そうしなくてはいけないという予感や、衝動のようなものを感じたからだ。それは恐らくルーゼの導きだったのだろう。君に会えと、君を救えと」

「……私は、ただ、少し似ているだけです。似ているというだけで、あの少女では……」

「俺にとっては、リィテがリィテであればそれでいい。俺は、アルベールとして、リィテに恋をした」


 アルベール様は私がここにいることを、確認するように髪を撫でて、背中を撫でる。

 大きくて無骨な手の感触が、気持ちいい。

 アルベール様の声を聞くだけで、触れて頂くだけで、安心できる。

 過去の幻影の世界から、ここに戻ってきたのだと。

 私にはアルベール様がいて、不安なんて何もないのだと、思うことができる。


「ルーゼはもしかしたら君を、あの少女の生まれ変わりだと思っているのかもしれないが、俺の気持ちは俺のものだ」

「アル様……アル様がいて、よかったです。私を、みつけてくださって」

「……リィテがいてくれて、よかった。俺も同じだ」


 あぁ――でも。

 どれほど無念だっただろう。

 死んでしまった少女も、ルーゼも。

 それから、ネクロムも。

 ネクロムはルーゼのことを憎んでいたわけではなかったのに。

 ただ、人間を愛するルーゼが理解できずに、怒っていた。

 わかり合うことは、できなかったのかしら。


 もう、終わってしまったことだから、考えてもしかたないのかもしれないけれど。


「君を失うことなど、考えたくもないが……あの少女が君と似ていたせいで、震えがとまらない」

「アル様……」


 確かに、アルベール様の手のひらは微かに震えているようだった。

 私が死んでしまったように、感じたのかもしれない。


「アル様、私はここにいます。アル様のそばに」

「リィテ。……ルーゼが記憶を見せたことに、意味があるのかは、わからない。リィテを離すなということなのか、それともリィテと俺が結ばれて嬉しいと言っているのか。わからないが――俺は君を離さない」

「はい、アル様。嬉しいです……」

「帰ろう。ここでは、これ以上のことはできない。近くの街の宿に泊まろうか。君を抱きたい。君がここにいることを、感じたい」


 私はこくんと頷いた。

 悲しいけれど愛しくて、アルベール様に強く激しく求められることは、嬉しかった。



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