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【コミカライズ配信中】傷だらけの公爵令嬢は、隣国の皇太子に溺愛される  作者: 束原ミヤコ
一章

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終章:はじめての夜



 祝賀の熱気が、まだ体に残って火照りを感じている。

 今日は大切な日だからと、レベッカさんたちに体を隅々まで綺麗にしていただいた私は、薄いドレスを着てベッドに座ってアルベール様の訪れを待っていた。


 一緒に眠るのははじめてではないけれど、やはり少し、緊張する。


 アルベール様はずっと優しくて、私を抱きしめたり、手を繋いだりして眠ってくれた。

 キスはするけれど、それ以上はしていない。

 覚悟はとっくにできているけれど――いざ、その日を迎えると、私は上手くできるだろうかと、心配になってしまう。


「リィテ!」


 私の不安を吹き飛ばすように、元気いっぱいな声が部屋に響いて、アルベール様が部屋に足早に入ってくる。

 もしかして少しお酒を飲まれているのだろうか。

 皇帝陛下として即位したアルベール様は、沢山の貴族の方々とお話をしていたようだから。


 アルベール様も湯浴みを済ませたのだろう。

 寝衣の腰紐を解き、脱いだ服をばさばさと床に落としながら私の元までやってくると、思い切り私を抱きしめながらベッドにごろんと倒れ込んだ。


「リィテ、やっと二人きりになれた。あぁ、長かった。儀式というのは必要なことだが、なんせ長いな。貴族たちがリィテと話したいというので、必死にリィテは俺のものだと牽制していたら、遅くなってしまった」


「そんなことをしていたのですか?」


「あぁ。だって、リィテは俺のものだ。俺とリィテを祝福するのはいいが、必要以上にリィテに興味を持つのはいけない」


「ふふ……アル様は、いつも私を安心させてくれます」


「そうか?」


「はい。……少し、緊張していました。でも、アル様の顔を見ると安心してしまって、緊張がどこかにいってしまうみたいです」


「その緊張は、よくない緊張だろうか」


「いいえ、いい緊張です。……恥ずかしいのと、それから少し不安で、でも……期待も、しています」


「期待?」


 先を促すように尋ねてくるアルベール様の頬に触れて、私は私を見下ろすその顔を見つめた。

 整えられた前髪が、額に落ちている。

 形のいい耳に触れて、首筋に触れると、アルベール様の眉が切なげに寄った。


「アル様が私を愛してくださるのが、嬉しいです。……もっと、たくさん、愛されたい」


「リィテ」


「わがままに、なってしまいます。アル様が、優しいから」


「もっと、我儘を言ってくれ。我慢されるよりもずっといい。たとえば、他にも妻を娶っていいと言われるよりも、私以外を愛さないで欲しいと言われる方が、俺は嬉しい」


「それは、ごめんなさい。もう言いません、気を付けます。……私だって本当は、嫌です。アル様が私以外の女性を妻にするのは」


「絶対に、しない。この命に誓って。愛しているよ、リィテ。俺の全てで君を、愛させてくれ」


 アルベール様は私の髪に口づける。

 目尻に、額に。

 それから、唇に。軽く触れて離れると、艶やかに微笑んだ。


「俺の妻になってくれて、ありがとう。俺のすべては君のものだ。苦しいことの方が、今までは多かっただろうが、これからは沢山、楽しいことをしよう、リィテ。俺と、二人で」


「はい。アル様……大好きです」


 服の上から優しく体を撫でられると、それだけで体の奥に炎が灯るようだった。

 愛されることの幸せを体の奥で感じながら、私は今までの記憶が、ルーゼの炎で焼かれるように消えていくのを感じていた。

 悲しいことも。苦しいことも。辛いことも。

 今はもう、遠い。


「アル様、アル様……好きです、好き、あなたが、好き」


「あぁ、リィテ。可愛いな。俺のリィテ。ずっとこうしていよう、夜が明けて、朝が来ても」


 柔らかい雨が、体に降り注ぐように

 それは時に嵐のような激しさに変って、翻弄されて、ひたすらに泣きじゃくったり、幼い子供をあやすように優しく触れられて、ゆっくりと体を重ねながら。

 深く繋がることの愛しさで、いっぱいになる。

 何度もささやかれる愛の言葉が、気遣いの言葉が全部優しくて。

 覚悟の底にあった――もしかしたら、アルベール様を怖がってしまうかもしれないという不安なんて、消えてしまって。

 もう怖いことなんてなにもないのだと、思うことができた。


「そうだ。リィテ」


 朝になって、昨日の熱を体に残して微睡む私の髪を撫でながら、アルベール様が微笑んだ。


「君に、渡したい物があるんだ」


 寝衣を羽織ってベッドから降りたアルベール様が、美しい箱を持って戻ってくる。

 

「アル様……?」


 ぼんやりしながら体を起こした私の前に差し出されたのは、箱の中に入った髪飾りだった。


「これ……」


 その髪飾りは、見覚えがある。

 私には少し子供っぽいデザインで、桃色の可愛い花を模したそれは――。


「アル様……どうして」


「学園で、君とはじめて話した日。君は大切な物を失くしたのだろうなと思った。学園の中を探して、焼却炉の中から燃えた髪飾りをみつけた。……拾って持って帰ってきて、職人たちに頼んで修復してもらっていた」


「……っ」


「元と同じではないかもしれないが、似せて作ることができたのではないかと。……君と結ばれた日に、渡そうと思っていた。だが、昨夜は夢中になってしまって……それどころではなくて。すまなかった」


「アル様……っ」


 それは、お母様が私にくださった髪飾りと同じ形をしている。

 髪飾りが私の手に戻ってきたことよりも、アルベール様のお気持ちが嬉しくて、私はアルベール様に抱きつくと、声をあげて泣いた。


「ありがとうございます、アル様、私、髪飾りのこと、言っていなかったのに」


「君と話して、気付いたんだ。君は誰よりも強い。君の心は、エルデハイムの愚か者どもによって濁らされたわけではなく、何か大切なものを失くしたから泣いていたのだろうと」


「でも、どうして……」


「多分、あの時から。俺は君に、恋をしていたのだろう」


 泣いてはいけないとずっと気を付けていたのに、我慢できなかった。

 アルベール様は私を抱きとめて、優しく髪を撫でてくれていた。


 あなたと出会えて、よかった。

 私は――ありったけの愛情を、あなたに捧げよう。

 私の全てを、あなたに。


 朝の光が、優しく宝石箱の中の髪飾りを照らしている。

 繋がる手と絡まる指先に、涙をこぼしながら私は微笑む。

 アルベール様の胸の上で、黒い翼の紋様が光を受けて神々しく輝いていた。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みでした♪ 最初は鬱展開で、いつ報われるんだ?!ってなったけどどんどん溺愛されて幸せになっていって良かった〜(o^^o) [気になる点] 妹どうなった?!
[良い点] 一気読みしてしまうくらい、おもしろかったです! 前半はとにかくリリステラが可哀想で読み進めるのが辛かったですが、ざまぁ開始あたりからのアルの溺愛ぶりが素晴らしかったです。 途中、横恋慕する…
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