婚礼の儀式
皇都は戦勝の祝いで賑やかだった。
戦勝と、アルベール様の即位と婚礼の儀が重なって、一日中お祭り騒ぎらしい。
その熱気がどことなく王宮にも伝わってくるようで、レベッカさんや侍女の方々が、「お祝いの、新製品のお菓子が色々発売されているのです」と言って、色とりどりのマカロンや、ハート形にピンクや水色のデコレーションをしてある大きなクッキーなどを買ってきてくれた。
アルベール様は戦後の処理でしばらく忙しそうにされていて、戴冠式と婚礼の儀式は、予定よりもさらに数日のびた。
何度も謝ってくださるアルベール様に「大丈夫です」と答えると、「俺は辛い。早く、婚礼のドレスを着た君が見たい」と、苦しそうに言っていた。
けれど、その日がくるのはあっという間だった。
朝から忙しなく皆が準備のために動き回っている中で、私は戴冠と婚礼の儀を行う王宮の大広間の控室で、レベッカさんや侍女たちによって、ドレスに着替えさせてもらい、熱心に最後の手入れをされていた。
真っ白なドレスは、花弁のように裾が床に広がっている。
結われた髪には、アルベール様の瞳と同じ色の、金の髪飾りが飾られている。
薄い化粧をして貰って、手首と首筋にほのかに甘く香る塗香を塗ってもらう。
長いヴェールがかけられると、全ての準備が整った。
「お姉様、とても綺麗です」
「お姉様、すごく綺麗!」
桃色と水色のドレスを着て、髪を花で飾られたルディとフレアが、私の手を両方から引いた。
「二人とも、とても可愛らしいです。まるで、花の妖精のようです」
「今日は一番、綺麗にしてもらったのですよ」
「私たちには、お姉様をエスコートする役割がありますから。侍女のみんなに、一番可愛くしてと、頼んだのです」
二人は胸を張って、どこか得意気に言った。
あんまり可愛い様子に、私はくすくす笑った。
大広間の奥にある窓からは、明るい陽射しが入り込んでいる。
美しい天井画と壁画のある大広間には、長椅子が準備されていて、整然と並んだ長椅子にそれぞれ美しく着飾った貴族の方々が座っている。
お父様とお母様、それから台座に置かれた王冠を持ったキルシュの姿。
その前で私を待っているアルベール様は、婚礼の白い衣装に身を包んで、黒髪をきっちりと整えている、絵画から出てきたような美しく精悍な姿だ。
こんなに――優しくて、私を愛してくださる素敵な方と結婚をすることができるなんて。
ルディとフレアに手を引かれてアルベール様の元まで歩く間に、過去の記憶が脳裏を過っていく。
私を撫でて、宝物だと言ってくれたお母様の優しい声と、柔らかい手のひら。
私を殴る、お父様の冷たい声と、痛み。
学園での苦しい記憶は――アルベール様との静かで優しい時間に、上書きされて、消えていく。
お母様が大切にしてくれた私を、誰にも貶められたりしないと。死も、覚悟したのに。
――夢みたいだ。
「今、この場で、我が息子アルベールに皇位を与えよう。皆、どうか若い皇帝を支えてやってくれ」
お父様の言葉と共に、細く繊細な金冠が、膝をつくアルベール様の頭に乗せられる。
湧き上がる拍手と共にアルベール様は立ち上がると、お父様や皆に向かい、礼をした。
「そして、喜ばしいことがもうひとつ。アルベールとリリステラ、二人の婚姻をルーゼの名のもとに見届けよう」
お父様が言うと、アルベール様は私の手を優しく取った。
「リリステラ。どうか俺と、ともに歩んで欲しい。俺の妻として。どんな困難からも、苦痛からも、俺は君を守ると約束する」
アルベール様の真剣な金の瞳は、いつも太陽みたいに輝いている。
私はその手をきゅっと握り返すと、微笑んだ。
「はい。私もあなたを、支えます。どんなことがあっても、お傍にいます」
頷く私のヴェールがあげられる。
そっと重なる唇に、体が僅かに緊張した。
大きな拍手と歓声が、更に大広間に広がっていく。
フェデルタの貴族の方々が、敗国――エルデハイムの女である私をどう思っているのかは分からない。
けれど今は、祝福されていることを素直に喜ぼう。
それにアルベール様がいてくださるのだから、この先どんなことが起こっても、私は大丈夫。
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