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エルデハイムの滅亡/西フェデルタへの改名



 エルデハイムで起こったことを、少しだけ聞いた。

 後悔していたイグノア様のこと。フェデルタに従った貴族たちのこと。

 それから、ラウル様とお父様の最期のこと。

 王都の街は、暗澹たる状況だったようだ。ラウル様は心を病んでしまったのか、それとも元々そういった凶暴性を持った方だったのかは分からない。

 国王陛下は殺されて、ラウル様に意見をした者たちを全て処刑にして――遺体も片付けずに、城の中に転がしているような有様だったのだそうだ。

 

 ルーゼや炎の鳥フェニスの炎で遺体を灰にして、街を清めた。

 人々はいつ乱心した王に殺されるだろう――影の獣、魔獣に殺されるだろうと、家の中で身を寄せ合い、不安な夜が明けない日々を過ごしていたようだ。


 アルベール様の軍は、熱狂と共に受け入れられた。

 乱心した王を打倒し、エルデハイムを救ってくれた救世主である。

 フェデルタの兵士たちの指揮のもと、魔獣たちは討伐されて、あの土地にルーゼの加護が戻った。


 今や、フェデルタの領土となったエルデハイムは、イグノア様や他の方々との話し合いで『西フェデルタ』という仮の名称がつけられたようだ。

 エルデハイムの名を、民や貴族たちが口にするのを嫌がったので、早々に名称が変えられたのだという。


「多くの貴族たちがフェデルタに帰順した。その中には、君を貶めていた者の姿もあった。直接手を下さずとも、手を差し伸べず、陰で嘲笑い、侮蔑の視線を送っていた者たちは、ラウルと同罪だろう」


 長い口付けと、重なる皮膚から飢えを癒やしたせいか、体に力が入らない。

 くたりと力の抜けた私を、アルベール様は優しく抱きしめながら言う。


「だが、フェデルタ側についてからは、全てラウルが悪いというようなことを言う。俺はああいった連中が、好きではない」


 そう言って、深い溜息をついた。


「だが、嫌悪の感情だけで、人を殺したりはできない。……俺に阿りラウルを罵る貴族たちを見ていると虫唾が走ったが、今は落ち着いた。リィテを抱きしめるとあの連中のことも苛立ちも、全てがどうでもよくなる」


「……はい。アル様、私はここにいます。だから、疲れたときはいつでも抱きしめてくださいね」


「あぁ。ありがとう、リィテ」


 口付けが、首筋に落ちる。

 ぞくりと甘い痺れが体に走って、私は体を震わせた。


「イグノアは、そうではなかったな。……西フェデルタを、イグノアに任せることができればな」


「イグノア・グレース様と、グレース辺境伯家は、他者にも己にも厳しい方々だと評判でした。学園では、あまり人と関わることをしないで、一人でいることが多かったようです」


「よく知っているな」


「はい。……一応、そういったことを学ぶ立場にありましたから。……今は、フェデルタの方々のことを知りたいと、思っています」


「あまり、俺以外の者たちと交流しなくていい。リィテは愛らしいのだから、リィテと話をしたら、男は皆リィテを好きになってしまうかもしれない」


「そんなことはないですよ。……国のことを話している時のアル様は凛々しくて素敵なのに、私のことを話すアル様は、少し可愛らしいと、感じます」


「悋気が強いのだな、俺は」


「嬉しいです」


「嫌では?」


「嬉しく、思います。アル様。……翼が、光りますね。これは、どうして?」


 私はアルベール様の胸の紋様に、そっと指先を這わせる。

 神秘的な赤色に、紋様が輝いている。とても綺麗だけれど、不思議だった。

 アルベール様はのぼせたように少し頬を染めて、困ったように眉を寄せた。


「これは、失った魔力が、戻ってきた証だな。君に満たされて嬉しいと、ルーゼもきっと感じているのだろう」


「アル様も?」


「あぁ。だがもっと、満たされたいな」


「はい、私も」


「西フェデルタについては、もう心配することはない。君の憂いは、消えただろうか」


「……アル様。妹は、どうなりましたか?」


 私は最後に、気になっていたことを尋ねることにした。

 お父様は亡くなり、義理のお母様とミリアさんは、お父様によって処罰されたのだという。

 私は、お父様はミリアと義理のお母様を愛していると思っていたから――許すと、思っていた。

 お父様が何を考えていたのか、私にはわからないけれど。

 まだ幼いフィーナまで、その手にかけたりはしないだろう。そう、思いたい。


「ルーファン公爵は、ラウルに従っていた。というよりは、ラウルがルーファン公爵に操られていたのだろうが。……君の妹の姿は、どこにもなかった。城にも。公爵家にもな。公爵家の者たちの話では、公爵はフィーナを王都に連れて行ったのだというが」


「フィーナは、逃げ出したのでしょうか」


「分からない。甘やかされて育った貴族の娘が、一人で逃げて生きることができるとは思えないが。……捜索は続ける。だが、みつからない可能性もある」


「はい。分かっています。大丈夫です。……アル様、お気遣い、感謝します」


 私はアルベール様の体に甘えるように、頬を寄せた。

 フィーナはどうなったのだろう。

 私が、許すことができていれば。

 アルベール様に早々に救出をお願いしていれば。

 僅かに、苦い後悔が胸の奥に残った。



お読みくださりありがとうございました!

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