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幻獣と国同士の関係のこと



 ベルクントお父様とソフィアお母様に挨拶をすませた後、アルベール様は王宮を案内してくださった。

 離宮にはお父様とお母様、それからキルシュやルディ、フレアが住んでいる。

 アルベール様はもう成人なさっているし皇帝としての引き継ぎも済んでいるので、後宮の中心である王の居城に住まわれているそうだ。

 家族なのに一緒にいないのかと尋ねたら「俺は母上とは血がつながっていないし、俺がいると気を遣わせるからな。母上が来た時、俺が十歳の時から別に暮らしている」とおっしゃっていた。

 昔は、アルベール様が離宮にいらっしゃって、ルーゼの力を継いでからはご両親が離宮に移ったのだという。


 それは寂しいことではないのかと聞くと「気を遣って暮らすよりはいい。母上は若かったしな。俺にとっては、あまり母という感じがしなかった」と言う。

 母親のように振る舞うソフィア様と共に暮らすのは少し息苦しく、だから、別々の方が気が楽だったのだと。


 後宮から出て、アルベール様が普段お仕事をされている王宮へと向かった。

 アルベール様がよくいらっしゃるという騎士の訓練場や、謁見の間、お祝い事に使用される大広間を案内していただく。

 城のいたるところに、燭台が並んでいるけれど、やはり蝋燭はなくて、青い炎だけがゆらめいていた。


「アル様、お聞きしてもいいでしょうか」


「なんでも聞いてくれ」


「王宮の燭台には、蝋燭がないのですが、どうして炎が灯っているのでしょう。炎は、青いです」


「あぁ、それはな。この国の炎は、ルーゼの力でできているんだ。もちろん、原始的な方法で炎を起こす場合もあるのだが、炎を起こすことができるルーゼの力で起こした炎を、一年に一度、火分けという形で皆に分け与えるのだな」


「火分け?」


「あぁ。消えない炎だな。街や村の代表が、炎をとりにくる。その炎が、人々に届き、家の明かりや料理に使われるというわけだ。ルーゼの炎は、ルーゼの力を持つ俺が生きている限りは消えたりはしない。これは、水も同じだ」


「炎も水も、ルーゼから……アル様から、分け与えられているのですか?」


「あぁ。それがフェデルタの皇帝の役割だ。この国の人々の暮らしを守る。火分けや水分けを行い、国中にルーゼの炎や水が広がる。分けられた炎や水は、魔石の形となる」


「魔石……」


「ルーゼの魔力の塊だな。それが、街や村を、幻獣の体からこぼれ落ちて形となった、魔獣たちから守るのだ」


「魔獣?」


「あぁ、これは知らなかったか。知らなくて当然だ。これはフェデルタだけの問題だからな、今のところは。他国に影響を与えないように、ルーゼの力で俺がエルデハイムを守護しているのだから」


「アル様が、エルデハイムを?」


「あぁ。まぁ、この話はいい。そんなことよりも、ここが俺の執務室だ。皇帝の仕事というのは結構地味なんだ。謁見の間で貴族たちと会って報告を受けたり、話をしたり。文官たちが寄越してくる書簡に目を通したり。争いが起これば戦いに行くこともあるのだがな、今はそれもほとんどない」


 アルベール様は立派な扉の前で足を止めた。

 扉番の方々が、扉を開いてくれる。

 広い部屋には立派な机と、質の良い調度品の数々。机の上には、書簡が並んでいる。

 アルベール様は「少し休憩しようか」と、私と並んで、応接用に見えるソファに座った。

 すぐに侍女の方々がやってきて、お茶や菓子を用意してくれる。

 私は勧められるままにカップを手に取って、紅茶を一口飲んだ。

 爽やかな柑橘類の香りが、鼻から抜けていく。


「先ほどの話ですが、ヒルドバランが、フェデルタに侵攻する足がかりにしようと、エルデハイムを狙っているでしょう? フェデルタの軍が今までエルデハイムを守ってくれていました。アル様も……?」


 一息ついたところで、不安に思っていたことを尋ねると、アルベール様は軽く首を振った。


「国境の諍いには、滅多なことがない限りは顔を出したりはしないな。行きたいというと、皆に止められる。ルーゼの力を使えば、多くの敵兵を屠ることは容易い。だが、それをするとフェデルタを脅威に思い、侵攻しようとする国が増えるのだ」


「圧倒的な力であれば、他国は畏怖して、手を引くのでは?」


「そう思うだろう? だが、フェデルタの歴史書によれば、フェデルタの神秘を曝け出すことにより、神秘を欲しがる国が増えたのだそうだ。可能なら、争いなどは少ない方がいい。ルーゼは幻覚を見せることができるが、人の心までを変えることはできないからな」


 そう言うと、アルベール様は微笑んだ。


「君と話をしていると、楽しいな、リィテ。国や、戦に興味が?」


「……他国からの脅威を知るのは、大切なことだと考えていました。不快にさせてはいませんでしょうか」


 こういった話を口にすると、王妃教育の先生には「小賢しい女は嫌われます」と怒られたものだ。

 知識として他国のことを知るのは大切だが、知識を口にするなと。


「不快になるわけがない。リィテには、仕事中も俺のそばにいてもらう予定だから、思ったことはなんでも口にしてほしい。俺一人では思いつかない考えも、君と二人なら浮かぶはずだから」


「ありがとうございます……アル様の身に、危険なことが起こらないことを、祈っています」


「ふふ、ありがとうリィテ。だが、俺は強いからな。大丈夫だ。ルーゼもいる」


 自信満ちた言葉と表情でそう言うアルベール様を見ていると、不安などどこかに消えていくみたいに感じられた。




お読みくださりありがとうございました!

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