新しい家族へのご挨拶
薄紫色の髪の少女たちと、緋色の髪の少年である。
皆、アルベール様と同じような金色の瞳をしている。
アルベール様の上にいた私は慌てて立ち上がって、乱れたスカートを直した。
残念そうに溜息をついて立ちあがったアルベール様は、少年と少女たちの頭をぐりぐりと撫でる。
私たちの傍でぱたぱたと飛んでいたルーゼが、私の腕の中へとおさまった。
「リィテ、紹介しよう。弟のキルシュと、妹のルディ、フレアだ。俺の母は俺を産んですぐ亡くなってしまってな。父と新しい母との子供たちだが、そんなことは関係なく、皆可愛い俺の弟妹たちだ」
「はじめまして。リリステラと申します」
片手にルーゼを、もう片方の手でスカートを摘んで私は礼をする。
「はじめまして、姉上。キルシュ・フェデルタです。キルシュと呼んでください」
「ルディです、お姉様」
「フレアです、お姉様」
それぞれ丁寧にご挨拶をしてくれる。私は、エルデハイムにいる妹を思い出した。
私はフィーナのことをどうしても好きにはなれなかったけれど、アルベール様は腹違いの弟妹たちをとても可愛がっている様子だった。
かなり歳が離れているようだ。一番年上に見えるキルシュでさえ、十歳前後に見える。
「皆、幼いと思っただろう? 父が再婚をしたのは割と最近……といっても、十年前ぐらいか。だから、キルシュが十歳、ルディが五歳、フレアが四歳。まだ子供だ」
「兄上がエルデハイムから花嫁をさらってきたと聞いて、父上も母上もそわそわしていますよ」
「まずは私たち家族にご紹介してくださるのが筋なのではないでしょうか」
「お姉様。お兄様に恐いことをされていませんか? 攫うというのは、いけないことです」
キルシュを筆頭に、ルディとフレアもはきはきとそう言った。
アルベール様は眉を寄せて「花嫁との時間を楽しみたいと思ってもいいだろう? 二人きりで」と言った。
「それに攫うというのは人聞きが悪いな。俺はリィテを愛していて、リィテも俺を愛している。だから連れてきたのだ。攫ったが、無理矢理というわけではないぞ」
「それはともかく、父と母が待っていますよ。兄上、連れてきて家族に紹介もしないとは、姉上が不安になってしまうでしょう」
「そうですよ。ね、お姉様」
ルディが私を見上げて、軽く首を傾げる。
フレアは私のそばに来ると、小さな手で私の手を握った。
「お姉様、手を繋いでいいですか? お姉様、ルーゼを抱っこしているのですか? すごい。ルーゼは、兄上が必要だと感じた時しか姿を見せないのですよ。まぁ、可愛い」
「フレアも、皆も、ルーゼと会ったことがあまりないのですか?」
「ええ。そうなんです。ルーゼは幻獣の王。私たちの守護神様として皇帝の血に引き継がれていく、今はもう力だけが残った存在といわれています。皇帝にその血が混じり、ルーゼ自身は消えてしまったと」
私が尋ねると、キルシュが丁寧に答えてくれた。
「そのルーゼが、自ら進んで顔を出したのだ。よほどリィテが気に入ったのだろうな」
「兄上、家族に会わせずに姉上を独り占めしていた兄上は、ルーゼに嫉妬はしないのですか?」
「流石にそれはな。ルーゼは俺の分身のようなもの。それと同時にこの国の守護神でもある。ルーゼがリィテと俺を会わせてくれた。ルーゼがリィテを気に入ったというのなら、それは神の祝福を得られたということと同義だ」
「……そうなのですね。ありがとうございます、ルーゼ」
ルーゼは言葉を理解しているように、翼をぱたぱたさせた。
「きっと、リィテが幻獣とは神のような姿をしているのだろうと言っていたのが、嬉しかったのだろう。幻獣とは畏怖される存在だからな。神々しく、そして恐ろしい。だが君は、純粋に幻獣に会いたいと、憧れていた。俺は嬉しかった。俺が嬉しいのだから、ルーゼも嬉しかったのだろう」
「ルーゼも、アル様も、私の救いの神様です」
「あぁ、リィテ。俺は神のように、いつまでも君を守り、明るく照らそう」
アルベール様が、弟妹を撫でたように私の頭も撫でてくれる。
キルシュとルディは顔を見合わせると「こんなに幸せそうな兄上は初めて見た」「本当ですね」と言った。
フレアはにこにこしながら私を見上げて「お姉様は、フェデルタ語がとてもお上手です。私に、エルデハイムについて教えてくださいね」と言う。
もちろんだと微笑むと、フレアは嬉しそうに何度も頷いて、私の手を握りながらぴょんぴょん跳ねた。
フィーナとも、こんなふうに打ち解けられたらよかったのにと思う。
私が、あの子を愛してあげることができたら。
けれど──あの家のことを思い出すと、拒否感で頭が痛んだ。
「リィテ。大丈夫か? すまないな。うるさいだろう、小さい子供たちが」
「そんなことはありません。皆、とても可愛らしくて、賢くて、優しくて。私と話をしてくれて、ありがとうございます」
「姉上。兄上のことをよろしくお願いします」
「即位ぎりぎりまで結婚相手を決めずにいた女性に興味のないお兄様なのです。お姉様と出会うことができてよかったと思います」
「私たちも、お姉様ができて嬉しい」
私たちは、アルベール様のご両親へご挨拶に向かった。
後宮にある離宮の一つにベルクントお父様と、ソフィアお母様はいらっしゃった。
燃えるような赤毛のベルクントお父様はご高齢だけれど逞しく精悍な方で、ソフィアお母様は紫の髪をしたまだ若々しい方だった。きっとアルベール様の黒髪は、亡くなったお母様に似たのだろう。
私がご挨拶をすると、ベルクントお父様は私の頭を撫でて「息子をよろしくな、リリステラ」と言って、ソフィアお母様は「実の母のように、気兼ねなく話をしてくれると嬉しいわ」と微笑んでくれた。
それから二人とも、ルーゼが私に懐いているのを見て、奇跡だと言って喜んでいた。
ここにいる方々は、皆、私に優しくしてくださる。
本当に私などがアルベール様と結婚をしてよいのだろうかと、思うのはやめよう。
私は優しい方々の気持ちに応えたい。
アルベール様は頑張らなくていいとおっしゃったけれど、できる限りの努力をしよう。
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