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【コミカライズ配信中】傷だらけの公爵令嬢は、隣国の皇太子に溺愛される  作者: 束原ミヤコ
一章

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ふわふわクラプフェン



 体から力が抜けてしまって、体が熱くて、目眩がするようだった。

 髪に唇が落ちると、アルベール様のさらりとした黒髪が触れる。

 それが恥ずかしくてたまらなくて、けれど――幸せ。


 私は、アルベール様のお気持ちを受け入れさせていただいていいのだろうか。

 何もない、私だけれど。

 あぁ、でも。


 私は、アルベール様が好き。

 恐ろしいばかりだった世界の中で、ただ一つの優しさをくださった。

 二人きりで過ごした図書室は私にとって特別で、アルベール様が話しかけてくださらなかったら、私の心は――とっくに折れてしまっていたかもしれない。

 

 あの、穏やかな時間が愛しい。

 そして今の、熱に浮かされたような、私の全てを包み込んでくれるような燃えるような感情が、愛しい。


「……アル様」


「リィテ、大丈夫か? ……すまない、君が愛らしい反応をしてくれるから、つい。こんな風に女性に触れるのははじめてだが、抑えがきかなくなってしまう」


「私も、はじめて、で、……恥ずかしい、です。……でも、嬉しい」


「あまり、煽らないで欲しい。……君に食事をさせようと思い準備したのに、俺が君を食べたくなってしまう」


 私は困ったように眉を寄せるアルベール様の頬に、そっと手で触れる。


「アル様。私、頑張ります。至らないところばかりだと思いますが、……アル様と共にいられるように、頑張りますね」


「リィテ……! ありがとう、リィテ。俺が君を、全てから守る。だから安心して、俺の傍にいるといい」


「はい。……ありがとうございます、アル様」


「それから、頑張らなくていい。気負う必要はない。リィテは今まで十分、頑張ってきたのだから」


「……アル様、……ありがとうございます。私、……っ」


 今までの苦しさが、体から抜けていく。

 褒められることなど、なかった。懲罰を、恐れるばかりだった。

 まるでお母様が生きていたときのように、穏やかで、心があたたかい。

 流れる涙をアルベール様がぬぐってくださる。指先が頬を撫でて、髪を撫でる。

 私が落ち着くまで辛抱強く、アルベール様は黙ったまま私を抱きしめて、撫でてくださる。


 目を閉じていた私は、ふと頬を舐められる感覚に、驚いて顔をあげた。

 アルベール様なのかと思ったけれど、私の頬を舐めているのは両手に抱えられるぐらいの大きさの、狐に似た顔立ちと、ふさふさの長く純白の美しい毛並みと翼を持った、獣だった。


「幻獣様……」


「ルーゼだ。……ルーゼが、俺の中から勝手に出てきたのははじめてだな。リィテが気に入ったのか?」


 アルベール様も驚いているみたいだ。


「ルーゼ様」


「ルーゼでいい。幻獣ルーゼは、フェデルタの王に受け継がれる力の源。遠く昔に、ルーゼの血を受けて王となった我らを守る守護神のようなものだな」


「……もっと、大きな姿でした」


「あぁ。本来は、大きい。だが、ルーゼも君を慰めたかったのかもしれない。……不思議だな。普段は、意志を持つことなどないのだが。君が俺の妻になることを、きっとルーゼも歓迎しているのだろう」


 驚いたせいか、涙がとまった。

 おそるおそる手を伸ばして可愛らしい顔立ちをしているルーゼを撫でる。

 ルーゼは耳や小さな額を私の手のひらに擦り付けるようにして目を細めた。

 それから、テーブルの上にぴょんと跳ねて移動すると、ちょこんと座った。


「あぁ、そうだったな、ルーゼ。リィテ、クラプフェンを食べるかという話をしていたのだった。食べてみるか?」


「はい。くらく、えん……食べてみたいです」


「ふふ……何味がいいだろう。中にクリームが入っているんだ。アーモンドがいいだろうか、それとも、ラズベリー? レモンも悪くない。爽やかな味がする」


「じゃあ、レモン味が……」


「ああ。それでは、口を開けて」


「……は、はい」


 アルベール様は粉砂糖のかかっているクラプフェンを一つ手にすると、私の口元に持ってくる。

 これは手で食べるものなのだろう。

 私が小さく口を開くと、唇にふわりとした感触があたる。

 軽く囓ると、優しい甘さが口の中に広がった。

 ふわふわしていて、甘い。口の中でとけていくようで、美味しい。


「美味しいです……! アル様、美味しい」


「そうか、よかった。リィテ、笑顔の君は愛らしいな。どんな君でも愛らしいが、笑ってくれると嬉しい。たくさん食べてくれ、リィテ」


「はい……本当に、美味しいです、アル様。……食事が美味しいと思ったのは、お母様が生きていた時、以来です。美味しい。……嬉しいです」


「そうか。……君の母上の話を、聞きたいな。だが、今はまずは食べよう。ルーゼも食べている。ルーゼもクラプフェンを食べるのだな。知らなかった」


 アルベール様に言われて視線を向けると、ルーゼが小さな体で丸い大きなクラプフェンを両手に抱えて食べていた。

 愛らしいその姿に、思わず口元が綻ぶ。

 アルベール様はもう一度私の口にクラプフェンを運んだ。

 もう一口囓ると、爽やかなレモンクリームの味が口に広がった。



お読みくださりありがとうございました!

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