夢の狭間で
夜、子供が眠るのを嫌がるのは何故なのか。ふと考えることがある。体力が有り余っているから?眠たくないから?子供は眠るとなにか自分に損があるかのように眠りを嫌がる。洋平もそうだった。多くの子供と同じように眠るのが嫌だった。だがその理由は他の子供たちとは違っただろう。彼が眠るのを嫌がったのは、そうすることによって向こう側にダイブしてしまうことがあったからだ。
2023年9月、まだ暑い日が続く。洋平は高校を中退する。彼曰く「上履きに履き替える時の虚無感に耐えられなくなったから」らしい。
登校最後の日、
同じクラスの千春が声をかける。
「藤村くん、学校やめてどうするの?」
夏っぽい柑橘系の香水の香りが鬱陶しい。
「とりあえず毎日昼まで寝れる仕事を探すわ。」
洋平は千春が好きな方だったが香水は嫌いだった。
眉間に皺が寄る。
「藤村くんならなんでもできるから頑張ってね」
そう言って彼女は去った。
"なんでもできる"彼女の言葉通り、洋平に苦手なことはなかった。その日初めて見たもの、習うものも、次の日にはマスターしてしまっている。
授業で聞くことはその時何も理解していなくても、次の日に全て説明できた。体育でサッカー部やバスケ部が派手な技を見せると洋平にも次の日にはできた。
"寝たら治る"ではなく"寝たらできる"が洋平を表す言葉だった。
睡眠の間に洋平の頭の中で何かが起きていた。