表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

節分だっちゃ♡

瘟鬼、村を訪問す。

作者: 秋の桜子

節分にはこのお話なのです。

 師走の頃のことです。鬼ッコ嫁はイヤな風邪が都で流行っていると、どこかホクホク顔でボヤく行商の薬売りから、


『へぇぇ。あの手この手で薬食いをさせているのにも関わらず、手を出してこない旦那さんをソノ気にさせる妙薬がほしいとぉ(笑)んなことより、コレをやるから試してみんしゃい』


 そう笑われて手渡されたのは、鮮やかな濡絵。そう、大人の草紙なのでした。人間界には便利な物があることと手渡されてから鬼ッコ嫁は、興味津々でお勉強中。


 ……、今年こそ!愛しの桃様と図解されている四十八手♡の秘技の網羅を……。ああん♡どうやって、こんな絡みの体勢を取るのかしら……♡うーん、奥が深いですの。まあ!人間の殿方には、オットセイやらタツノオトシゴが殊更、効果ありとは……。ひとっ走りしてきて獲って来ようかしらん。


 その草紙には魅惑的なお肌の為の薬液の作り方、使用方法まで記されております。


 ……、ふむふむ。イノシシの蹄を米の研ぎ汁でコトコト静かに煮込み、一晩寝かしたものを肌に塗りしばし置いてからぬるま湯で洗い流せば、たちまちにしてぷるんぷるんの美肌になる。おほほほ!イノシシなど容易いですわ!指パッチンでヤれますもの。お肉は桃様の滋養強壮のためのシシ汁にして……、剥いだ皮は金子に替えましょう。


 こうして鬼ッコ嫁はその日のためにせっせと、夜空を駆け遠方にタツノオトシゴやらオットセイを獲りに行き、指パッチンでイノシシを狩り、コトコトとコラーゲンたっぷりな美容液を煮込み、自慢の玉の肌にたっぷりと塗り込みました。何時も薄物の寝巻き姿の折、愛しの桃太郎の視線を感じる、ふたつの膨らみには、お風呂に入る度により丁寧に。


 ぬりぬり、ぬりぬり……♡ぷるんぷるん♡と渓谷を成す白き柔肌は日々、艷やかに熟成♡



 ……、早く寝よう……。


 節分の前夜、見慣れた薄桃色の夜着姿の笑顔。ぽっちりと星の光を宿す様な八重歯をちらりとみせる、鬼ッコ嫁を見た夫の桃太郎。嫌でも目に入る胸の膨らみは、桃太郎を誘うのには充分な魅力。それを知ってか知らずか無邪気な鬼ッコ嫁は胸をぐん!とはる。袷が割れ艷やかに色めいた柔肌の渓谷がちらり……。


「桃様♡つんつん♡してみます?」

「いや、いい……」

「この辺りは、その……鬼の時でも人間の夜も、変わりませんわよ?」

「……はうぅ!た、楽しみにとっとく……」


 魅惑的な嫁の言葉に本音がぽろりの桃太郎。その言葉に鬼ッコ嫁の頭の中は、お寺の鐘の音と鑼の音が寿ぎのように、賑やかに鳴り響きます!  


「ももさまぁぁぁ!♡」

「ふあっひぃいぃぃ!」


 感極まった鬼ッコ嫁は背を向けていた夫に、ぎゅぅぅ♡と、抱きついてしまいました。夫の意識は、もちろん己の背中に全集中。 


 ……、ああ。幸せ……


 その後、すやすやと眠る鬼ッコ嫁。

 その後、もんもん血が猛る桃太郎。


 やがて……、いよいよ夫婦にとって大切な節分の夜が、やってきました。のですが。


「異なる気配がする……」


 日が落ち星が煌めく刻限、愛しの嫁が人間の姿に変った頃………、二人して庭先で寝る前のひととき、星空を見ようと夫婦して庭先に出たその時、村の入口の方向をじっと睨みつける桃太郎。


「異なる……。それはどのような?わたくしは今、人ですゆえ近くでなければ、視えませぬ、臭いませぬ」

「都の香り、それと濃い穢れと災と悪い風の気配だ。村に近づいている……」


 夫の言葉にはっとする鬼ッコ嫁。師走に来た薬売りの言葉を思い出します。


「はっ!桃様、ソレを村に入れてはなりませぬ。ソレは恐らく『瘟鬼(おんき)』」

「瘟鬼とな!流行り病をふりまく疫病神ではないか!」

「はい。恐らく村にくる者は、都で流行っている悪い風邪を流行らすソレかと」


 硬い顔で話し合うふたり。


「鬼と名を持っていますがわたくし達、鬼族とはまるで違う存在。本来、姿を持たぬの力の塊ですが、喰らう人の穢れと魂が多ければ肉体を持ち某かの姿を型どると……、鬼ヶ島にいた頃、大婆婆様からお聞きしたことがございます」


「行かねばならぬ!ソレを滅する為に!」


 桃太郎の正義の心がメラメラと燃え上がり、脱兎のごとく部屋へ向かいます。その後を追う手弱女の姿に変化をした鬼ッコ嫁!


「お待ちくださいませ!一度でいいから、やりたい事がありましてよ!」


 鬼ッコ嫁は普段ならば、夫が気付く前に自身がひとっ飛びで向かい、手刀にてバッサリとヤッて来るのですか、今宵はとてもながら出来ない状態。


 ……、くぅぅ!ぬかったわ!夕刻から臭いがしてた気がしていましたのに……鼻が効かなくなっていたから、気のせいかと思ってました。心配ですが我が愛しの桃様は、邪気祓いのプロですから大丈夫ですわね。そうそう、この機会を逃しては。活劇草紙にて憧れていた、アレが出来るチャンスでしてよ!


 なんだ!問返しながら白の単姿の桃太郎はその上に、衣桁に掛けてある陣羽織を羽織ります。桃印が刺繍されている鉢巻をキリリと締め出立の準備を整えます。鬼ッコ嫁は息を弾ませ追いつくと、床の間の刀掛けから桃太郎愛用、銘刀、みちよくさ丸を練絹の敷布ごと取り上げると、刀を取りに来る夫を麗しく見上げ捧げました。


「ご武運を、桃様」

「うむ!」


 鬼ッコ嫁、憧れていた事が出来、大満足。

 桃太郎、視線が顔より嫁の胸元に向かう。


 ★


 行ってくる!と桃太郎は色気たっぷりな嫁に見送られ、屋敷から外に出ました。どこからか聞きつけた、過去の討伐仲間の犬と猿と雉が駆けつけました。


「鬼退治って!久しぶりだよー。ポチ太とフランソワーズがパパ頑張ってって、マーガレットと見送ってくれたワン」


「いきなりだから猿江巻いた恵方巻、慌てて食って来たよ。あーあ、猿江とかわいい猿香と食おうと楽しみにしてたのにな。雉男のとこは雉乃さんが、またまた(赤ちゃん)産んだばかりだろ、大丈夫だったか?」


「ああ、5回目だからヘーキヘーキ、さっさと行って仕事を済ませてこいってさ。自分は温めてる。家の事は雉子雉実と雉乃助達がやってるからだいじょうぶ」


 鬼ヶ島から帰還すると、早々に結婚をしたお供達は賑やかにパパ会話を繰り広げながら、桃太郎と共に瘟鬼の気配のする方向へと向かいます。交わされるパパ会話を小耳に挟み、少々羨ましい気持ちの桃太郎ですが、気持ちを引き締め想いは心の奥に封印。


「そういや、瘟鬼ってさ知ってるか?桃太郎」


 雉が先頭に立つ桃太郎に、ツィと近づき声をかけます。


「瘟鬼のことはあまり知らぬが。なんだ?」

「都の雀に聞いたんだけどさ、瘟鬼は人間に取り憑くんだが、取り憑く為に目についた人間の、一番弱い部分を形を取るんだってよ」


「はあ?どういう意味だ」


 走る桃太郎の問いかけに、ニマニマ笑いを含んだ声で雉が答えます。


「あ~ん。かわいい子どもの姿とか、美人な女なんか?そんなの?おおー!見えたぞ!桃太郎!黒いモヤがかかるが、なあに俺っちが吹き飛ばしてやる!ポチと猿助はこの辺りで結界をはれや!」


 よし!頼む!と桃太郎!

 ゴゥゥゥゥと雉は、羽ばたき神風を起こす

 ワンワン!とポチは、空に響く声でほえに吠える!

 キッキっと猿は、真っ赤扇子を開いてクルクル舞う。


「はうう⁉い!いかん!」


 モヤが晴れ瘟鬼が人間である桃太郎に目を付けそれまでの姿形を解き、スゥゥゥと新しい身体を作り変え……


「ワンワン(笑)」

「キシシシ(笑)」

「ケンケン(笑)」


「工エエェェ(´д`)ェェエエ工!見るなぁぁ!喰らえぇ!煩悩・退散!」


 桃太郎は深く膝をかがめ、身体の力を最高潮に高めます。血潮をたぎらせ自らの体内に備え待つ、破邪の力を刀を握る手に集めると、スラリと抜刀すると同時に桃太郎の最大の弱点へと姿を変えた瘟鬼に向かい、弧を描く大ジャンプ。


 上段から袈裟斬りに桃色に光る、みちよくさ丸をふりおろしました!


「はいいい?」

 犬が唖然。

「なんでやねん」

 猿かツッコミ。

「スゲぇ、病魔退散じゃねぇ」

 雉が冷静に分析。


 息を切らせる桃太郎。着地同時に瘟鬼は砂のようにザラリと崩れ消えて無に戻ります。


「……、………。見たな」


 立ち上がりざまに振り向き、静かな声で仲間に問う桃太郎。


「見てない。奥さんなんか見てない(ニヤニヤ)」

「見てない。はて着物きてたっけな(ニマニマ)」

「見てない。ナーンも見てないよな(ニタニタ)」


 犬と猿と雉は、そうかそうか、そうなのかと言葉を足しました。


「そうだよねぇ。僕もマーガレット大好きだもん」

「うんうん。猿江に逢いたくなったなぁ、帰ろ帰ろ」

「はいはい。雉乃になんかうまいもん買ってかえろ」


 ほのぼのと東の空が明けて行きます。淡墨色の空に金色の雲がひと刷毛。名残の金星がぽっちり光っています。


「見たなぁぁ!くうぅぅ。不覚。一生の不覚ぅぅ……」


 鞘に刀を収めつつ、声を上げ泣きたい桃太郎。


「うぷぷぷ、桃太郎、昔より随分、強くなったね」

「くししし。桃太郎、煩悩退散で祓えたんだぜ!」

「あははは。桃太郎、病魔退散じゃあねぇんだな」


 仕事を終えたお供達の笑い声が、澄みゆく空高く響きます。夜が明け立春を迎えた、桃太郎が住む村。


 流行り病を粉砕し、村の平和を立派に守った桃太郎達は、愛する家族の元へと帰ったとさ。


 終・わ・り♡

今年も続きましたよ。

お読みいただきありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 怖い話か、重い話かなぁ……と思っていましたが、そうだ!今日は節分だった!! (*´Д`*)あざますっ! 脳内映像はラムちゃんでしたけども!(笑)
[良い点] 年に一度のお楽しみ♪ 桃さんとお嫁さんの間にも、早く赤ちゃんが出来るといいですね♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ