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2人を繋ぐもの

今日泊まる部屋へ案内されたがアンセルマの部屋は兄と違い一階の客間ではなく家族用の部屋が並ぶ2階に用意されている。

調度品もアンセルマの趣味に合わせたシンプルだけど女の子らしい部屋だ。

グロスター伯爵家のアンセルマの部屋の様に魔石や紙など研究に必要なものが並べて置いてある。

ララがリカルドに街で買ってもらった着替えなどの荷物を解いてクローゼットへ片付けに向かうのと入れ違いでリカルドが道中アンセルマが口にしたであろうやりたい事リストを完璧に記録して持ってきた。


「どう、部屋に不都合はない?」

「リカルド様、これは元々どなたかのお部屋ですか?」

「アンセルマの為に用意していた部屋だよ。予定より早くお披露目出来たのは嬉しい限りだね」

「え、私の?」

「これからは度々泊まりに来てくれるだろう?」

「普通婚約者はお相手の屋敷にお部屋を賜るものなのですか?」

「さて、どうだろう?あった方が便利だと思うけど、嫌なら僕の部屋に泊まるかい?」


ぶるぶると顔を振るとリカルドは残念そうに笑ってアンセルマの手を取って顔を近付ける。


「相変わらずつれないね」

「釣れないとか釣れるとかそういう問題じゃありませんっ」

「アンセルマ、将来君は僕のお嫁さんになってこの家に住むんだよ?自覚してる?」

「・・・してます」

「僕のことが嫌になったかい?」

「なってません。でも揶揄われるのは嫌いです」

「ごめん。アンセルマが可愛い反応ばかりするからつい構いたくなってしまう。揶揄ってるつもりはないんだ、許しておくれ」


握っていたアンセルマの指先にキスをしてリカルドはその手を離した。

確かにこれからライムンダの家庭教師をしたり、王都の学園に居るリカルドと会うのなら外出解禁となったアンセルマの方が今後は公爵家に来ることも多いだろう。

リカルドは長男だ。

この家を継ぐのだからアンセルマも結婚すればこの家に住む事になる。

どうせ将来この家に部屋を賜るのなら、利便性の為に今から賜って損をする事もない。


「素敵なお部屋をありがとうございます」

「アンセルマ、この扉を開けると僕の部屋に繋がっている。結婚するまでアンセルマがいる時に勝手に開ける気はないけど、この部屋にグロスター伯爵家への転移陣を設置して僕がグロスター家に行く時は使わせて貰いたいんだ。良いかな?」

「何故私の部屋なのです?」

「アンセルマが許可した人以外は入れないから。悪用されない様にだね」

「それはルール上の話ですか?それともそういう結界を張っておいた方が良いという事ですか?」

「基本はルール上だけれど、結界を張っておいてくれるのならその方が良いね。大切な研究結果もこれから増えていくだろうから」

「転移陣の起動は私かリカルド様にしか出来ない様にしてしまって良いですか?」

「そうしてくれると助かる」


アンセルマはポケットの中にいつも忍ばせているチョークの様なものを取り出し、床の空いている所に魔法陣を描いていく。

先程のハンカチは魔力だけで構築する事ができたが、流石に人を何人も運ぶ事になる複雑な術式は頭の中だけで構築するのは難しい。

描かなくても出来ない事もないがアンセルマは安全を期して大きいものの時は視覚化する様にしている。

何より構築式をリカルドにも見える様にすればWチェックも出来るし、リカルドも安心して使えるだろう。


専用のチョークは魔石を加工したもので、描くときに手に粉もつかないし、術を発動させてしまえば消えるので重宝している。

アンセルマが考えて自分で錬成しているもので、出回ると悪巧みに使われる可能性が高いので父様とリカルドにしか渡していない。

肉の流通なんかに使う魔法陣は円が見えないと使いづらいので一般的に魔法陣を描く際に使われるらしいペンキの様ななかなか消えないもので基本部分は描いた。

中身の細かい術式は悪用されると困るのでこのチョークで描いて消したので、魔法陣を書き写した所で発動しない様にしてある。


「うん、いつも通り綺麗な魔法陣だね」

「リカルド様、すみませんが血を少し頂いても?」

「発動者を縛るにはそれがいいね」


机の上にあった小さなナイフで指先を切る。

溢れ出した血を2人はその魔法陣に塗り込めた。


「リカルド様、魔力も宜しいですか?」

「厳重だね。もちろん構わないよ」


リカルドが先に魔法陣に手をつき、アンセルマがその上に手を重ねる。

手のひらに温かく優しいリカルドの魔力を感じながら、アンセルマもリカルドを通して魔力を流し込んでいく。


「カスペール!」


更にずいっと魔力が吸われる感じがしていつも通りリフレクションが掛かった合図に光が部屋を満たした。

アンセルマが描いた魔法陣も消えている。


「上手くいったと思いますけど試してみますか?あちら側にも魔法陣を描きたいですし」

「アンセルマが疲れていないならそうしようか」

「私は大丈夫ですよ」


2人は手を繋いで魔法陣を描いた真ん中らへんに立つ。

もちろん魔法陣は消えてしまったので、目印は天井に掘られた飾り彫だ。


「僕が起動してもいいかな?」

「お願いします」

「トラン!」


一瞬視界が歪んですぐに見慣れた風景に変わる。

グロスター伯爵家の玄関ホールだ。

突如現れたアンセルマとリカルドにたまたまその場に居たらしい侍女が声を上げて腰を抜かしたせいで何人かの侍従が集まってきてしまった。


「あっ、アンセルマ様!?」

「あ、驚かせてごめんなさい。ヒール!」


尻餅をついた侍女の手をひき癒しをかける。

飛んできた家令のキケが集まってきていた使用人達を抜けて一歩前に出た。


「アンセルマお嬢様、リカルド様いったいどうしてこちらに?本日は公爵家にお泊まりと伺っておりましたが」

「あ、キケ。転移陣を作ってるだけだから直ぐに戻るよ。私達の事は気にせずお仕事に戻ってください」

「話は旦那様から伺っております。公爵家からは必ずこちらに転移されてくる事になりますか?」

「そのつもりですけど、何か希望がありますか?あとは私のお部屋に繋ごうと思ってますけど」

「リカルド様がアンセルマお嬢様の部屋に直接入る事になるのは如何な事かと存じますが」


確かにアンセルマの部屋に繋がる様にしてしまうと、夜這い上等という話になってしまう。

自分が使うには部屋to部屋が便利だと思ったが、リカルドが使う事を考えるとキケが言う事は尤もである。


「入口は転移陣の管理があるからアンセルマの部屋で、出口はどちらも玄関ホールでどうかな?」

「キケ、それなら宜しいかしら?」

「それであれば構わないと存じますが、急にこちらに転移されますと今日の様に騒ぎになりますから先触れなしの転移は緊急時のみとして頂ければと存じます」

「ちょっと荷物を取りに戻りたい時とかも使いたいのですけど、これはやはり早急に通信機が必要ですね」


考え込んだアンセルマの隣でキケが手を振ると他の使用人達はそそくさと自分の仕事に戻っていく。


「つうしんき、とは何で御座いましょう?」

「遠く離れた2人がお話し出来るようにする魔術具のことです」

「それは叶えば便利で御座いますね」

「アンセルマ、通信機が出来るまではとりあえずはハンカチで良いのではないかな?」

「ハンカチ、で御座いますか?」

「ハンカチに転移陣を組み込んで載せたものを転送出来る様にしたのだけど、ポケットに入ったハンカチに手紙が転送されたところですぐに気づかれないでしょうから意味がないですよね」

「少し重さを付けて頂ければ気付けるかと存じますが」

「どれくらいの重さなら気付くかしら?少し実験しても宜しくて、リカルド様?」

「夕食に間に合う時間までなら」


懐中時計を開いてみると時間はまだ一刻程ある。時間は問題がないだろう。


「キケ、時間を少し頂いても良くて?」

「勿論で御座います」


3人はアンセルマ部屋で実験すべく2階へと上がった。


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