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兄たちの婚約事情

よく聞けば公爵家ではなく、グロスター伯爵家の都合で急遽アンセルマを公爵家で預かる話になったようだ。

そう言えば公爵家の侍従がいつの間にか1人増えている。

伝言を持って来たらしい。


「アンセルマの次兄エドゥアルド様とアルギルダス辺境伯の御長女カルラ嬢の婚約が正式に決まったそうだよ」

「まぁ、エドゥアルド兄様の?お付き合いされているとは聞いてましたけど」

「カルラ嬢は今年卒業だからね。成人を前にご婚約をという話はあったのだけど、アルギルダス領は防衛の要所だからね。お子様が女性ばかりで御長女の婿が実質領地を治める事になるからちょっと揉めていたのは知ってるかな」


エドゥアルド兄様は学園の四年生だ。

カルラ嬢の1つ下である。

どちらかと言うとカルラ嬢の方から兄様に猛烈なアタックがあったらしいのだが、少し年上の息子を持つ侯爵家から色々な妨害があったらしい。

辺境伯は娘の希望を叶えたいと元より思っていた様だが、アンセルマの縁組やガスパルの王子側近入りが濃厚な中、グロスター伯爵家が力を持ちすぎると不安視される部分もあり婚約に踏み切れずにいたようだ。

だが今回学園内で行われた武力大会でエドゥアルド兄様が2年連続の優勝を果たし、逆に侯爵家の次男が2回戦早々に敗退となった事で武力あってこその辺境伯にエドゥアルド兄様こそ相応しいという風潮が高まった。

ちなみに1、2年次に優勝出来なかったのはグロスター伯爵家の長男であるエルナンド兄様がまだ在籍されていたからだ。

我が家の三兄弟は元々魔物が出る領地なのもあり幼い頃から剣も魔法も学び実地訓練をしているだけあって強い。

そこにここ数年はアンセルマがチートな知識で魔力強化の方法などをしれっと吹き込んだ為に他の追随を許さない圧倒的な強さとなっているのだ。

普段ふわふわの可愛い系なのにその圧倒的な強さとのギャップが女子達には大人気らしい。

カルラ嬢としては長男で伯爵家を継ぐエルナンド兄様は武人としての憧れはあれど恋愛としては対象外だったそうだ。

そこに一年生ながら決勝まで残ったエドゥアルド兄様の勇姿に一目惚れして周りの令嬢を蹴散らし彼女の座をゲットしたのだとか。

エドゥアルド兄様はカルラ嬢の事を甘えん坊の可愛い人だよと称するが、他の人からはあれを可愛いと言うのはエドゥアルド様だけです、美人ではありますが男装の麗人ですよ、と言われている。

アンセルマはまだ会ったことがないがかなり会うのを楽しみにしているのだ。


「辺境伯が隣国からの進撃をグロスター伯爵の援助を得て防衛を果たされた事への褒美として国王の許しを賜ったそうだよ」

「父様も何か貢献なさったのですね」

「資金や物資の援助と智略の供与らしいけど、どちらもアンセルマの尽力あってこそだよね」

「私ですか?私は何もしてないですよ?」


まるで覚えのない買い被りだ。

しかし1つ1つ挙げてもらえば思い当たるところはあった。

父様に頼まれて聖水を結構な数の樽に詰めた事があるのだが、それを前線で飲料水にした事でポーション要らずだったとか。

王宮のトイレ事業の売上をそのまま提供したとか。

堆肥を作る作業員が万が一襲われた時用に作った防衛グッズが前線に投入されて凄い威力を発揮したとかとか・・・。

知らぬ間にお役に立てていたのなら何よりである。

家事魔道具も家事などやっている間のない忙しい戦地を衛生的に保つ事ができ、グロスター領から運び込まれるレーションの美味さも兵士達の志気をいつもより高く保つのに役立ったそうだ。


「じゃあエドゥアルド兄様の結婚式は来年でしょうか」

「エルナンド様の結婚式が3年後なのだからその次の年あたりになるんじゃないかな」

「お相手の方をお待たせすぎじゃありませんか?」


長男の結婚はアンセルマが学園に入学したら、という話になっている。

現在17歳の長男の相手は16歳だからもう結婚しても良いのだが、王宮騎士団の騎士としてある程度実績を積むまでは待って欲しいと言って3年後結婚をする事でお相手と合意しているのだ。

エルナンド兄様のお相手は同じ伯爵家の御令嬢だが、グロスター家よりもだいぶ家格が下がる為グロスター家を継ぐエルナンド兄様との縁談をとても喜んでいる。

エルナンド兄様を急かして機嫌を損ね破談になる事を恐れて特に結婚時期については意義を申し立てることはなかった。

兄様は約束を守るがごとく異例の早さで出世し、近々支団長になる事が確定している。

ただ最近のグロスター家の快進撃続きにエルナンド兄様に婚約者が居るにも関わらず縁談が引きも切らない。


エルナンド兄様のお相手は一応兄様からのアタックで恋仲となった令嬢である。

一応、と付くのはお相手探しが一般とは大きく異なるからだ。

これにもアンセルマが大きく関わっている。

なんならエドゥアルド兄様のお相手もだ。

エルナンド兄様が一年生初めての長期の休暇に家に帰ってきた時、迎えに出たアンセルマはエルナンド兄様に抱きしめられて嫌な顔をした。

「にいたま、くちゃい。や。」と拒否をし、次の日まで近づかなかったのだ。

そしてそれは3年生になるまで毎回の恒例だった。

妹大好きなエルナンド兄様は毎回かなりのショックを受けていたが、3年目にして迎えに出たアンセルマに

「兄様、良い匂いがします。今日は素敵な方と一緒にいらしたのですね」

と拒否されなかったのだ。

つまりその日一緒に居た人間の魔力の移り香でアンセルマは兄を近づけなかったと分かり、エルナンドはその日を反芻した。

その日エルナンドは学校の授業で1学年下の令嬢と行動を共にしており、それまでの2年間はエルナンドの彼女の座を狙う令嬢達に囲まれていたと思い至ったのだ。

それからの兄様の行動は早かった。

すぐさま令嬢に授業の際に感じた改善点などをしたためて送り、その手紙への返信をアンセルマに嗅がせたのだ。

アンセルマがこの方ですと認めると、令嬢の素性や婚約者の有無などを調べ上げた。

伯爵と言えど心優しいばかりにあまり裕福でもないお相手には持参金も望めない為、婚約者の類は居なかったのは幸いだ。

ちなみに他のラブレターも全部嗅がされたが酷い臭いのものばかりだったのは、エルナンドを優良物件としか見ていない自分本位なせいだろう。

次男のエドゥアルド兄様も臭いと言われるのに怯えながら帰宅したが、人気はあるものの次男である為にそこまで女性が集る事がなく拒否されるには至らなかった。

二年生の終わり頃アンセルマに「エドゥアルド兄様も良い匂いのお手紙をお持ちですね」と言われ、ファンレターを嗅ぎ分けた結果カルラ嬢の手紙が匂いの元だと分かりお付き合いするに至ったのである。

そんな訳で兄2人ともアンセルマが更に良い匂いでも嗅ぎ分けない限り破談にするつもりがない。

我ながら麻薬犬か?と思う。

ちなみにアンセルマにとってリカルドはこの上なく良い匂いがする相手である。


「兄様の婚約と私が家に帰れないのと繋がりが見えないのですが」

「式典の為に辺境伯が王都に来られているから、明後日両家の顔合わせを王都でする事になったそうだよ。それで伯爵夫人も王都に行く事になって留守になるからうちの母がアンセルマを預かりたいと申し出たんだ」

「ガスパル兄様は?一人でお屋敷に残っているのですか?」

「ガスパルも我が家に来るから心配は要らないよ」


1人じゃないと分かり胸を撫で下ろす。

公爵夫人は1ヶ月に一度くらいリカルドと一緒にグロスター家にやって来てはアンセルマとお茶をする。

リカルドと勉強している間は母様と何かしているとは思っていたが、まさかポテトフライ屋をやっているとは想定外だった。

公爵夫人はなかなか凛々しい性格の方でたまに美容系の無茶振りをしてくる事はあるものの人としては好きだ。


「お土産何もないのですがどうしましょう?」

「アンセルマが遊びに来てくれるだけで母上は凄く喜ぶと思うけど、さっき言ってたポテトフライ以外の料理の作り方を教えたら良いんじゃないかな」

「それお土産になりますか?」

「なるよ。とても喜ぶと思う」


他に代替案も浮かばず、ジャガイモ以外の材料を買って行くことに決める。

そう悶々としている間にアンセルマが試着した服がどんどん箱詰めされ馬車に運ばれて行く。


「ララ、父様に頂いたお金で足りたの?」

「お嬢様、お支払いは全てリカルド様がなさいましたから問題御座いませんわ」

「えっ!?リカルド様が??」


いくら義母様のリクエストとは言え、泊めて頂く立場として服まで買ってもらう理由はない。

リカルドに自分で払います、と詰め寄ったが、アンセルマは僕に恥をかかせたいの?と公爵様に似た意味深な笑みを浮かべられてひゅっと息を呑んだ。


「でもリカルド様、こんなに買っていただくなんて多過ぎます」

「僕は自分が贈った服を着たアンセルマとデートがしたいのだけど叶えてはくれないの?」

「それにしたって」

「これは僕が自分で稼いだ金だから父上のお金は一切使ってないよ。僕にだって既製服を何枚か買うぐらいの甲斐性くらいある」

「甲斐性なんて疑ってません。無駄遣いせずに将来の私達の為に貯めておいて下さいませ」

「アンセルマに服を買うのは無駄遣いじゃないよ。次はオーダーメイドのドレスをプレゼントさせてね?」


そう薄く笑うリカルドにアンセルマは白旗を揚げた。

リカルドに口で勝てる気がしない。

このまま受け入れてしまった方が楽に決まっている。


「リカルド様、ありがとうございます。でもこれきりにして下さいね」

「約束は出来ないかな。服を贈るのは僕の独占欲の現れみたいなものだからね」


そう笑ってアンセルマの頬をするりと撫でる。

一体人生何周目なのかと思わせるその色気にアンセルマは固まるしかない。

男性が女性に服贈るのさその服脱がせたいって意味?!いや、まだ10歳と7歳だよ!?ないない!!


「リカルド様、揶揄うのはやめて下さいませ」

「揶揄ってなどいないよ?僕は至って本気だ。なんならもう結婚してしまいたいんだけどね」


リカルドは肩をすくめてから、真っ赤になったアンセルマの手を引いて店を出る。

リカルド自身もこれ以上言ってアンセルマの機嫌を損ねたくないらしくこの話題を終わりにするつもりらしい。


「さて、他に見たい場所はある?」

「じゃがいもを薄くスライスする為に工具屋に行っても良いですか?」

「道具屋ではなく?」

「多分道具屋にはそんなものないと思うのですよね。なので木を削るカンナで代用しようと思います」

「同じ並びに両方あるから両方覗いてみようか」


結果やはりスライサーなどある訳がなく、大工道具が売っている工具屋で日本の鉋とはちょっと違うブロックプレーンなる小さな鉋を教えてもらって購入した。

野菜と肉はあるだろうと言われたのでパン屋で食パンだけ買おうと思ったが、さすがに街中ではまだカチカチパンしか売っていない。

パンも買わなくて良いと言われ、結局西洋鉋だけ握って初の婚約者のお宅訪問という羽目になったのである。

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