番外編:異世界へようこそ!
おぎゃー!
神様に転生か消滅を提示され転生を選んだ。
正直、消滅でも良かったのだが、神様にオススメされたら無碍に断るのも申し訳ないので受けたに過ぎない。
生まれ落ちた驚きはおぎゃーという言葉になったが、湯船で洗われ、柔らかい布に包まれて母親の腕の中に抱かれる頃には情報を得ようと口を噤んだ。
「異世界へようこそ、アンブロシオ。赤ん坊にとって泣く事は心肺機能を強くするのに大事らしいから面倒でも泣いてちょうだいね」
そう小さく囁かれ鼻の頭をちょんと指で押されて返事の代わりにアンブロシオは泣いてやる。
まだ視界がぼやけていてぼんやりと人影しか分からないが、母親がにこりと笑った気配がした。
それからというもの、母親は赤ん坊であるアンブロシオが転生者だと分かっているのか天然なのかまるで赤ん坊が理解していると信じている様に話しかけてくる。
それに倣って代わる代わるちょっかいを出しにやって来る兄弟達も赤ん坊相手に自分達が読める本をアンブロシオに読んで聞かせた。
それこそ歴史書から魔法の本、絵本まで。
お陰でこの世界の事を部屋から出ずとも知る事が出来ている。
10人兄弟の末っ子、8男というのが自分のポジションらしい。しかも王子である。
第8王子って何をすればいいんだっけ?
異世界転生モノが人気だったのは知っているが、前世の自分はそれを多く読み込んできたわけではない。
だがやはり魔法がある世界ならば魔法を使ってみたいと思うのは人の性というものだろう。
それを知ってか知らずか母親は魔法の本を赤ん坊のアンブロシオに読み聞かせ、手を握って魔力を巡回させて使い方を教える。
「アンセルマ、流石にアンブロシオにそれは早いのではないか?」
「魔力量を上げる為にも早いに越した事はないでしょう?もう上手に魔力巡回出来る様になったのよ」
「我が家の子供達は皆、アンセルマのお陰で魔法が得意で助かる」
「リカルドに似たのですよ。ほら、アンブロシオの目もリカルドに似た深い青で嬉しいわ」
オムツに魔石が付いていて、魔力を流せばオムツ内の汚物がどこかに転送されてクリーンがかかる仕様らしい。魔力操作を早々に覚えたお陰でオムツの不快感を自分で解決出来るのは有り難いところだ。
嬉しそうにアンブロシオの頬をふにふにする母親を父親が後ろから抱きしめてこめかみ辺りにキスをする。
「さぁ、そろそろ子供にばかりかまけていないでアンセルマは私をかまう時間だ」
「まぁ、赤ん坊に嫉妬ですか?ご自分の子供でしょうに」
「あうあー!」
「ほら、アンブロシオもそう思うでしょう?」
違う、リア充爆発しろと言ったのだ。
呆れて後ろにひっくり返る様に寝転ぶと、魔力循環で疲れたのもあってアンブロシオはそのまま眠りに落ちた。
我ながら実に空気を読める息子である。
そんなこんなで3歳を過ぎた。
母親の早過ぎる英才教育により、魔法については4歳上の五男と互角だ。
やり過ぎだろうと思うのだが、母様は4歳で、父様も6歳で魔法をカンストしていたらしいから、誰も不思議に思っていないらしい。
年嵩の兄弟達も多少のバラツキがあるものの、8歳までには魔法をカンストしたらしいからこれがこの世界の標準なのだろう。
歳の近い兄弟がいると特に成長が早いわねぇ、と父の妹であるライムンダがまだ学校に通っていない子供達を連れて遊びに来る。
同じ3歳の子供もいるが、前世の記憶を持つアンブロシオと通じ合える訳がない。
そんな時も母親は自然にアンブロシオに上級魔法の本を渡して、さり気なく匿ってくれる。
「さて、アンブロシオ。得意な事としたい事を教えてくれるかしら?」
「したい?」
「せっかく転生したのだからしたい事をすれば良いわ。ただ何か得意な事があればそれを活かして生活改善にも協力してくれないかしら。ニートはダメよ」
アンブロシオが言葉を話せる様になった頃から母親は2人きりになると子供のフリはしなくても大丈夫よ、と内情を少しずつ話してくれた。
まさかの母親まで転生者だとは思わなかったが、一応アンブロシオの事も含めて家族にも秘密らしい。
ただ父様は何か察しているっぽいし、周囲も散々母様がやらかしてきたせいで今更アンブロシオが何かした所で驚かないだろうとの事だ。
それでも小さい兄弟達は善悪付かずに話してしまうかもしれないから、2人だけの秘密にしておこうね、と約束した。
「作ってた、宇宙探査機、だから、得意、宇宙工学」
「宇宙工学!それでっ?何がしたいの?」
「やりたい、つくる、ガンダ●」
「何それ、新しい!!作ろう!作ろう!白い悪魔も赤い彗星も、足なんて飾りですのやつも作ろう!!」
アンブロシオより大興奮だった母親だが、それからの動きは思ったより慎重だった。
まずは人型のブリキの玩具を作らせ、魔石を付けてどうすれば可動域がスムーズに動かせるようになるかをアンブロシオに尋ねてくる。
アニメに出てくる核融合炉を動力にするのは危ないからダメという事で、クリーンエネルギーと魔石で実現するらしい。
そんな訳でアンブロシオは魔法をカンストした後は錬金術を早々に習得する様にと母親のスパルタ教育を受けている。
「アンセルマはアンブロシオに甘いのか厳しいのか分からないな」
「末っ子ですもの。それに一番リカルドに似ていてよ」
「似ている息子より本人をもっと構いなさいと言っているのだ」
「リカルドだって昼間は私を構う暇なんてないでしょうに。子供達が寝静まった後が夫婦の時間と相場が決まっているわ」
「それもそうだな。それでは夜に期待しよう」
顔を合わせればイチャイチャしている両親は慣れてくると存外微笑ましい光景に思えてくる。
両親も兄弟も親戚も皆、仲が良いのは良い事だ。
前世でも家族に恵まれなかった訳ではないが、この両親の元に生まれる事が出来たのは神様に感謝したい。
異世界転生が自分が知るモノより平和で不自由ない生活をおくれているのはこの母親の影響が強いのは間違いないのだから。
それは兄弟達の言葉からも推測される。
「いいか、アンブロシオ。この世で1番してはいけない事は母様を悲しませる事だ」
「父様は良い?」
「良くはないが、母様を悲しませるよりはマシだ。ただ父様が悲しんだ事に母様が悲しんだら本末転倒だ」
6歳上の三男と四男が号泣しながら子供部屋に戻ってきたのを見て、学校から帰ってきて兄弟の世話をしていた長男が深刻な顔でそうアンブロシオに諭した。
それに同調して次男も頷く。
「命が惜しければしてはいけない」
「かかさま悲しませる、何起こる?」
「騎竜から逆さ吊りで吊るされたまま叔父上の領地まで飛んだり…」
「え?」
「新しい魔道具を作り出すまで小部屋に監禁されたり」
「ご飯が一週間豆だけになったりする」
「誰する?かかさまする?」
「父様に決まっているではないか!」
どうやら妻を愛する父様は母様を悲しませる奴は子供であろうと容赦しないらしい。
そんな虐待じみたお仕置きも母様をこれ以上悲しませてはならないとして苛烈な内容までは伝わっていないのだそうだ。
「ににさまたち、何した?」
「母様の大事になさっているレモンの木を爆裂魔法で折ったのだ。畑の近くでは魔法を使ってはならないと言われていたというのに」
「畑は母様が一番力を入れておられるものだからアンブロシオも気をつけるのだよ」
「あい!」
異世界転生なのに最初からご飯が美味しいのも母親からの恩恵である。
レモンは正直どうでも良いが、田んぼだったら自分もブチギレるわ、とアンブロシオは思った。
母親が念願のジャポニカ種の米を手に入れたのは結構最近の事なのだそうだ。
母親特製の味噌もある。
お陰でアンブロシオは前世より頻繁にちゃんとした日本食を食べているかもしれない。
母親の憂いは自分の憂いでもある。
宇宙工学の知識を活用して母親の要望に応える形で農業機械の開発を手伝い、エンジンの小型化、省エネに貢献したり、農薬散布用のドローンやら運搬用の航空機を作った。
お陰で育児に協力的とまではいかないが、それなりに子供達に愛情を向けてくれる父親に褒められる事はあれ怒りをかわずに済んでいる。
そして、学校入学前に無事完成させた白い悪魔と赤い彗星はすっかり三男と四男の専用機体にされてしまった。
お陰でアンブロシオは2人の機体を運ぶ強襲揚陸艦のメカニッククルー扱いである。
普段は国有地の山中で機動実験やら性能テストと称した2人の魔獣討伐と壮大なチャンバラごっこにしか使われない。
しかし一度だけ連合国に敵が強襲してきた際に成人して騎士団に入った2人の申し出により実戦投入された。
母親は心配して結界やら賢者の石なる魔石を2人に持たせたが、後方の戦艦から見ていたアンブロシオも呆れるほど圧倒的だったのは言うまでもない。
何せ歩兵vs有人操縦式の人型機動兵器である。
ビームサーベルの一払いで瞬殺だ。
応援部隊が遠く離れたローゼンベルク王国からほんの数時間で駆けつけたのも敵国にとっては想定外だったに違いない。
その後はキャタピラーのついた長距離支援砲撃機での参戦はあったが、人型機動兵器は投入していないというのに兄達が自分達で噂を流した事により”連合の白い悪魔”は周辺国でもその名を知られる事となった。
それ以来、連合国を相手に戦争を仕掛けようなどという愚かな国が現れていない。
兄達は不満そうだ。
「なぁ、アンブロシオ。俺の機体飛べるようにしてよ」
「白いのは飛べない設定だから無理」
「設定って何だよ」
「違う機体になってもいいなら作るけど」
「えー。せっかく白い悪魔広めたのに?」
「あれ、元はと言えば俺の機体だからね」
「ブロシュ全然乗らないじゃん」
「いいの。あれは”こいつ…動くぞ!”って言う為に作ったんだから」
「なんだそれ?」
ちなみに母様のリクエストで起動は埋め込まれた魔石を握って“シャイニングフィンガー!”と叫ぶ恥ずかしい仕様である。
母様の知識が適当過ぎて理解し合えない部分だ。
設定に忠実でいたいアンブロシオだったが、母親の望みを叶えないと万死に値するので叶えたに過ぎない。
他にも何機か人型機動兵器を作ったが、平和な我が国では残念な事にと言うべきか、有難い事にと言うべきか活躍の場がないのが現状だ。
半分くらいの大きさの警備任務用の歩行式作業機械は街中や畑でも使用されているが、これはどちらかというとパワードスーツに近いもっと単純な構造である。
そもそも違うアニメだが、これも母親のリクエストで作られたものだ。
人型機動兵器は機密情報が多過ぎる為、一部の王族と母様の親兄弟にしか起動出来ない仕様にしてある。
父様にはアンブロシオは防衛機密を知り過ぎていて国から出せないので結婚相手は国内で見つける様にと言われる始末だ。
長男は王太子の為、8歳にはオルシーニ侯爵令嬢(隣国に嫁いだ元オルシーニ侯爵令嬢の姪)との婚約が決まっていたらしいが、第三子である長女からは本人の希望優先でまだ婚約者のいない兄弟もいる。
経済大国であり先進国であるローゼンベルク王国との繋がりを強固なものにしようと連合国からの縁談も多い。
長女は隣国の王太子に嫁いだ元オルシーニ侯爵令嬢である王太子妃の3歳年上の長男にパーティーで一目惚れされ、その求婚を受けた。
その時父様は「親子揃って・・」と母様にそっくりな長女を国外に出すことを渋ったそうだが、長女の希望と母様が援護した事により婚約が成立したらしい。
その際父様は「私の娘など得体が知れなくてお嫌なのでは?」と嫌味を言ったそうだが、隣国の王太子妃には「アンセルマ様に似た令嬢を手放すのは男親としてはお辛い気持ちも分かります」と応酬されたそうだ。
長女はアンブロシオの7歳上の為、アンブロシオが学校に入る直前に既に隣国へ嫁いでいる。
三男と四男は人型機動兵器に乗れなくなるのは嫌だと言って学校で見つけてきた御令嬢と夫々結婚した。
アンブロシオは在学中ではあるが、正直ほとんど学校に行っていないので、出会いがない。
前世で研究三昧の独身だった自分が自力で見つけられる気もせず、鼻が効くらしい母様に適当に見繕って下さいとアンブロシオはお願いしている。
果たして第8王子なんて国内で需要があるのだろうか?
一応、父様似で顔は良いし、魔力量も凄いし、既に宮廷魔術師として名を連ねており、学校卒業と共に防衛装備庁長官の座に就く事が決まっているので条件としては悪くないはずだ。
同級生であり、もはや兄弟同然に育ったカディネ次期公爵の三男であるバルドゥイノにも婚約者が居ない。
本人曰く「父上も卒業まで処遇が決まっていなかったそうだからなんとかなるのではないか」だそうだ。
ガスパル叔父上は超内々でライムンダ伯母上との結婚が決まっていたらしいから全然話が違うのではないか?と思わないでもないが、その意見に乗っておく事にする。
「母様、次は気象観測、海洋観測、位置測定、偵察衛星の打ち上げを考えてるんですけど」
「良いわね!農業に天気は大事だから。ただ異世界の宇宙も私達が思う宇宙なのかしら?」
「それは打ち上げてみないと分からないですね・・・」
「アンブロシオがやってみようと思うなら何でもやってみれば良いわ」
「投げやりですね。母様がこの物語の主人公でしょう」
アンブロシオが常々思っていた事を口にしながら呆れてみせると、母親は目をきょろりとさせて首を傾げた。
「まぁ、アンブロシオ。あなたの人生の主人公は貴方に決まっているじゃないの」
「俺、ですか?第8王子ですよ?」
「むしろ第8王子だからよ。末っ子王子はチート無双するものよ」
そう言って母様はウインクしてみせる。
今まで母様の物語の脇役として異世界転生したと思っていたアンブロシオは急に突きつけられた事実に自分の転生後の人生を反芻した。
え、どうなの?
このストーリーのジャンル異世界〔恋愛〕じゃなくない?
ここから〔恋愛〕にも力を入れるべきか悩むアンブロシオであった。
ちなみに半分くらいのサイズのやつはパト●イバーです。
なんだかとても多くの人に本編読んで頂いて驚いてます。
ありがとうございます。




