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魔術契約の証

「はぁ・・・10人かぁ・・・」


目を覚ました瞬間、つい口から言葉がこぼれ落ちた。

無意識に自分の臍の下あたりをさすりながらアンセルマはぼんやりと神様と話した事を反芻する。

医療が発達していないこの異世界で10人も子供を産む人なんているのだろうか。

そもそもまだ若いとは言え、10人も産んだら骨盤がガタガタになりそうだ。

それもヒールや聖水でどうにかなるものだろうか?

目覚めたままの格好でアンセルマはうーんと唸りながらそんな事に考えを巡らせていた。


「アンセルマ、お腹痛いの?」

「えっ?」


背後からリカルドの手がお腹を摩るアンセルマの手に重ねられ、つい止まったアンセルマの手の代わりにアンセルマの腹を摩る。

温かいリカルドの手がじんわりとお腹の違和感を和らげた。

そこでアンセルマは自分がリカルドに裸のまま背後から抱きしめられる様に抱えられ、無意識にお腹を摩っていた事に気がつく。


「あ、いえ、痛いわけではないんですけど」

「けど?」

「なんとなく」


そこまで言って自分を抱き込むリカルドの方に振り向いて、リカルドと視線が合った瞬間その顔の近さに昨夜何をしたのかとやっと思い出した。

つい神様と会った事ばかり考えていたが、そこに至る前にリカルドと初夜を迎えたのだということに。

細かい内容はやはり翻弄された事ばかりで思い出せないが、急に自分がいかに恥ずかしい格好をしてるのかに気がついてアンセルマは慌てて両手で顔を覆う。

布団の中に潜ろうとしたが、リカルドに腰を抱かれる様に下腹部を摩られていて叶わない。


「アンセルマ?」

「わっ、わわっ!!」


前世も合わせて初めての経験だ。

今世はめでたく結婚も初体験もすることが出来たが、その分安心と嬉しさは倍だった様に思う。

ただやはり恥ずかしいのは恥ずかしい。


「アンセルマ、本当に大丈夫?」

「だっ、大丈夫ではないです」

「お腹?どこが痛い?」


慌て始めたリカルドがアンセルマに覆い被さるように半身を起こす。

顔を覗き込もうとするので、アンセルマはそれを避ける様にしてシーツの方へ顔を背ける。


「アンセルマ、こっちを向いて」

「やだ」

「ヤダじゃないでしょ、どこが痛いの?癒しをかけるから」


肩をぐいと引かれるが、アンセルマは一生懸命リカルドに背中を向けたまま丸まった。

しかしリカルドに丸まったままひっくり返されて脚の上に抱き抱えられてしまう。


「ひゃっ!」

「アンセルマ!お願いだから」

「恥ずかしいだけですから、そっとしておいて下さいませ!」


そうアンセルマが訴えると、リカルドの動きがピタリと止まる。心底安心したような大きなため息と共にリカルドの体がアンセルマの上に覆いかぶさってきた。


「びっくりさせないでくれ、アンセルマ。何かアンセルマを害したのではないかと本当に焦ったのだぞ」

「だってだって裸だしっ」

「昨夜散々抱き合ったじゃないか」

「それはそうですけど、昨日は翻弄されてそれどころじゃなかったですもの!」


ふぅ、と息を吐いて上半身を起こしたリカルドの手が再びアンセルマの腹を摩る。


「じゃあ、本当にどこも痛くないね?」

「・・違和感はありますけど痛くないです」

「うん。アンセルマ、僕を受け入れてくれてありがとう」


優しい声にアンセルマは顔を覆っていた手を少しずらして自分を横抱きにしているリカルドの顔を覗き見た。

朝日を背に浴びて自分を愛おしそうに覗き込むリカルドの姿にアンセルマは息を飲む。

なんて美しいのだろう、と。


「あの、昨日は自分がどんなだったか全然覚えていないのですけど、幻滅とかしませんでしたか?」

「する訳ないだろう。僕こそ抑えられずに無理矢理な部分があったけど、君は幻滅しなかったかい?」

「本当に翻弄された記憶しかないんですけど、あの、嬉しかったのは嬉しかったと思います。何回かすれば上手に出来る様になると思いますので、長い目で見て頂ければ嬉しいのですけど」

「あぁもう、可愛いがすぎる」


背中で何かがむくりと動いた気がするが、アンセルマは気づかなかったフリをする。

多分クリーンの魔法と共に聖水をかけられたのだろうけど、痛くないとはいえこのままもう一回と言うのは初心者のアンセルマにはハードルが高い。

すっかり上機嫌らしいリカルドが再び身を丸める様にしてアンセルマの額にキスをする。

再び何かが始まっては困るとアンセルマは慌てて別の話題を捻り出す。


「リカルド様は今日から通常業務に戻られるのですか?」

「今日は休みだよ。一緒に街に出ようと約束したろ?城内は昨日の片付けもあるし、街の祭りはまだ続くから皆にも休みも与えないといけないしね」

「お祭り!何か美味しいものもあるかもしれませんね!早く行きましょう、リカルド様!」


バルコニーでの約束をちゃんと覚えていてくれたリカルドにアンセルマは恥ずかしかったのも忘れて満面の笑みで起き上がろうとする。

しかしリカルドが肩を押さえてアンセルマを元の位置に押し戻した。


「アンセルマ、私達は昨日夫婦になったんだよ」

「そうですね?」

「妻である君が私を様付けで呼ぶのはおかしいと思わないかい?昨夜の最中はちゃんと呼べていたのに戻ってしまっているね」


人差し指でちょんと鼻の頭を突きながらリカルドが意地悪な笑みを浮かべる。

ぼっと顔が赤くなるのを感じながら、アンセルマは呼ばない限り腕から逃れられない事を感じ取って若干目を逸らしながら言う。


「り、りかるど、早くお祭りに行きましょう」

「そうだね。朝ご飯も屋台で何か見繕おうか」

「えっ良いのですか?それはいい案ですね!早く早く!」


らんらんと目を輝かせるアンセルマにリカルドはやれやれとアンセルマを抱き起こしてから侍女を呼ぶベルを鳴らした。

アンセルマは慌てて羽織るものを探して体を隠したが、リカルドは堂々としたものだ。

アンセルマには見たことのない年嵩の侍女達ばかりだが、テキパキと動いてアンセルマを湯殿に案内してくれる。

王家ともなれば侍女に体を洗って貰うのが普通だが、アンセルマはいつも髪と背中以外は自分で洗っていた。それを見知らぬ侍女達も知っているらしく、その手順で良いかと確認してくれたのは有り難い。

自分で腕や胸を洗ってお腹を洗おうとして、アンセルマは朝摩っていたあたりが何か色が付いているのに気がつく。

泡を払い、少し下腹部の肌を引っ張ってみると臍の下あたりに王家の剣と竜の絵の紋章とリカルドの名前が刺青の様に刻まれているのが分かる。

なんじゃこりゃ?!と思うが、魔術の気配を感じてアンセルマはハァとため息をついた。

リカルドしか受け入れないという魔術契約の証だろう。

よくよく思い返してみればリカルドが昨夜そんな事を最中に言っていた気がする。

王様、又は王太子×処女じゃないと発動しない術式なのだとか。

だから今までリカルドもアンセルマに無理強いせずに我慢してきたけど、これで解禁だと喜んでいたと思う。

年頃の男子を暴走させない為の王家の嘘なのでは?と考えないでもないが、それが原因で前王妃に発動しなかったと言うのなら王家に托卵されない為の判別なのかもしれない。

結構な印が付いてしまったが、別に見るのも喜ぶのもリカルドだけなのだから構わないだろう。

そんな事を考えながら体を洗い流し湯船に浸ると、リカルドが入ってきた。


「リカルド様?!」

「さ・ま!」

「リカルド」

「なんだい、アンセルマ?」

「リカルドも入るなら私はあとで構いませんでしたのに」

「一緒に入りたいからに決まっているだろう?体を洗い終わるのを待ってあげたのを褒めて欲しいくらいだね」


さっさと体を洗わせアンセルマの浸かる湯船にリカルドが入ってくる。

リカルドの股の間に座る形になった。

朝と同じ様にリカルドの手がアンセルマの腹に回され紋章あたりを摩られる。

アンセルマは羞恥心に身を固くしたが、リカルドはお構いなしにアンセルマの背中に自分の体をピタリとくっつけた。

腹を抱くのと反対の手でリカルドが手を払う様に振ると少し離れて待機している侍女達が浴室から退出していく。


「アンセルマの綺麗な体に印がついてしまうのは残念な気もするけれど、それ以上に自分の名前がちゃんと刻まれた事がとても嬉しいと思ってしまう。アンセルマは?嫌だった?」

「リカルドが嬉しいならそれで良いです」

「アンセルマは私に甘すぎるね」

「ビックリはしましたけど、リカルドのモノって証ですから私も嬉しいのです」

「アンセルマ・・」


腹をさすっていた手が更に下に下がる。

アンセルマはビクリと身を丸め、慌ててリカルドの手首を掴んだ。


「リカルドさまっ!」

「アンセルマ、様は付けてはいけないと言ったろう?今度から付けるたびにお仕置きをするからね?」

「2人裸で居るところを見られた時点で十分な罰ゲームですよ」


むぅと頬を膨らませて抗議をするが、リカルドはアンセルマの首元に唇を寄せながら上機嫌に鼻を鳴らす。成長が早く、歳の割に柔らかく丸みを帯びてきた体を堪能する様にアンセルマの体を抱き込む。


「今日だけだ。アンセルマにちゃんと印が刻まれた事を確認させなくてはならないからね」


王侯貴族において初夜性交の成立というのは大きな意味を持つらしい。

王家でない場合はこんな契約魔術が成されないので、政略結婚の場合は第三者が立ち会う事もあるそうだ。監視されながらなんてゾッとするが、ちゃんと成立していないと婚姻の無効を申し立てられる事もあるのでそれを防ぐ為らしい。

汚れたシーツも無ければ印もなかっただろう捕まった王妃はどうしたんだろうね?と思ったけど、王妃側が正式な婚姻と認めさせる為に立会人をベッド脇に置いて成立を証言させたそうだ。

王妃側の国の宰相が立ち会うと言うので、こちら側からも襲撃を警戒して父様が立ち会う羽目になったらしい。


「この魔術は正当な血筋を持った子孫を残す為のものだ。行為をしなければ子孫は残せないからね。行為が負担にならない様に初めてでも快楽を得やすくするんだ。勿論、契約を結んだ後に他の男と行為をしようとすれば逆に激痛を味わう事になるからね。僕以外の男と試してみようなんて考えてはダメだよ」

「リカルド様以外なんかとしたいと思いません!」

「うん、僕もアンセルマ以外としないよ」


そう言ってリカルドはアンセルマのこめかみ辺りにキスをした。本当に珍しくリカルドが浮かれているのが微笑ましくもある。

そんな雰囲気に絆されてついアンセルマも後ろから顔を出すリカルドに頬を擦り寄せた。


「アンセルマ」

「ダメですよ、お腹が空いたのでもう出ましょう」

「そうだね、お祭りに行こう」


置いてあった布で体を拭き、下着も着けるとリカルドはベルを鳴らす。

再び入ってきた侍女達にアンセルマは居た堪れず浴室を出る。

隣の部屋で服を着せて貰いながら、王宮に慣れる気がしないアンセルマだった。

マリーアントワネットの母ちゃん16人産んどるからな

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