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聞き逃した重大な日程

騙された。

いや、お義母様の話をちゃんと聞いていなかった自分が悪いのだ。

リカルドと分かれた後、結婚式で着る予定のドレスの試着が行われた。

1週間前くらいにもほぼ完成みたいな状態で試着したので、微調整が終えた後の確認だったようだが、ぴったりに仕上げてあってむしろ不安になる。

あと半年あるのにこんなにぴったりでどうするんだろうと。

ただお義母様が満足そうなので特にアンセルマはその疑問を口にしなかった。

背中を紐で縛る様なデザインだし、裾も無駄に長いから多少育っても大丈夫だろうと。

その後ランチにはアンセルマが前に結婚式で出したいと言った料理の試食をさせられた。

昨日に引き続き公爵家の料理人が連れてこられているらしくアンセルマの期待以上が出てきたので多少のアドバイスだけでOKを出した。


更に貴族の結婚式ともなると門外に訪れた一般人にも食事や飲み物が振る舞われるらしい。

そこでアンセルマはハンバーガーとポテトのセットを配る事にしている。

ハンバーガーはお魚とお肉の2種類である。

王都は海から遠いので新鮮な魚が流通していない。

食べられても塩漬けしかないのだが、公爵家を経由すれば可能なのでせっかくなので食べてもらおうと思ったのだ。

こちらの試食はお腹いっぱいなので晩御飯に回してもらった。

飲み物は葡萄酒が振る舞われるのが普通みたいだが、代わりに一家に一本聖水を配る予定だ。

どちらも食いはぐれがない様に先に引換券を配っての交換である。

万が一他人の交換券や現物の盗難などが行われた場合、厳罰に処す旨は事前に通達することにお願いしてある。


更に結婚式の晩餐会へ出席した人達には引出物を持って帰ってもらう。

もう皆持っていると思うのですけどと言ったのだけど、公爵様がアンセルマの代名詞だからと言って懐中時計。

懐中時計にはリカルドとアンセルマの名前が彫られていて、アラーム音が前世で有名な結婚式ソングになっているのだ。

ただし通信機能はまだ秘密なので付いていない。

あくまで普通の懐中時計である。

それからインク充填式の万年筆。

そしてアンセルマのたっての希望でバウムクーヘンである。

前世でBBQの時に何度か作った事があったので最初からそれなりの物は出来ていたが、結構前から試行錯誤してもらってきただけあって結構なクオリティだ。

結婚式が終わったらお母様ズはハンバーガーショップとバウムクーヘンのお店を出すつもりらしい。


一通り確認が終わったら王様と公爵家と晩御飯を食べて、今日はアンセルマとしてリカルドの隣の部屋に通された。

ララが王宮に来ていていつもの様に寝る準備をすると、ドアの鍵を渡される。

公爵家と同様に続き間になっていて、リカルドの寝室へ続くドアの鍵らしい。

通信機でリカルドに了解を取ってからドアを開けると、リカルドがいつもの様に迎え入れてくれた。

昨日と同じように今日あったことを報告する様にお互いの話をして、ベッドに入った。


「リカルド様、明日ですね」

「あぁ、やっとだ」


リカルドは子供の頃に王太子になる事を聞かされて、その為にずっと努力してきたのだからやっとだと思うのも当然だろう。

リカルドが王太子になってからでないと結婚出来ないという事みたいだから、アンセルマにとってもやっとなのかもしれない。

リカルドにとっても大人達にとっても立太子は大きな事だろうから、アンセルマはその先にある結婚の日程についてはそれが終わってから聞こうと思っていた。

アンセルマがこれ以上急かすのも悪いと思っての事だ。

しかしここまで準備の確認をさせられたのだから聞くべきだったとアンセルマは反省している。


朝、目覚まし代わりのアラームが鳴りいつもの様にリカルドと朝の挨拶をしてアンセルマは自分の部屋に戻った。

ララがスタンバイしていて着替えをするとリカルドと共に食堂に向かう。

立太子の儀式だと言うのに皆いつも通りなのは凄い。

ご飯を食べ終わるとそのまま連行され、化粧をされ、髪をセットされ、昨日試着したばかりのウエディングドレスを着させられた。


なんでこれ?


よく分からないままされるがままにしていたら、ガスパルを先頭に部屋に入ってきたリカルドが息を飲んだ。


「アンセルマ・・・」

「あっ、リカルド様に見られてしまった。結婚式までのお楽しみだったのに!」

「凄く綺麗だ、アンセルマ。清楚で可愛らしい白がよく似合う。でもどうして白に?」

「それは・・・結婚式が終わったら教えますね」

「じゃあさっさと終わらせようか」


そう言ってリカルドがアンセルマに手を差し出す。

条件反射で差し出された手に自分の手を重ねたが、アンセルマはへっ?!と間抜けな声を出した。


「今日がその結婚式だからね」

「立太子では?!」

「同時に行うよ」

「えぇっ!?」

「アンセルマはこれに懲りたら人の話はちゃんと聞こうね」


ウインクされ、アンセルマはええええええっ!!!と驚く事しか出来ない。

その声に呆れる様に肩をすくめるガスパルとニコニコと最大級の機嫌の良さを見せるリカルドが対照的だ。

後ろに控えていたララも苦笑してアンセルマに頷いた。

確かにウエディングドレス着せられた時点でまさかねとは思っていたけれど、実際にそうだと言われるとどうして良いのか分からない。

リカルドはアンセルマの指先にキスをして、じゃあまた後でねと言って部屋を出て行ってしまう。

一人でオロオロしていると大人達も集まり始めた。


「まぁっ!アンセルマ。とても綺麗よ!」

「お義母様・・・」

「はぁ、その様子だとやっと今日だと気づいたのね。貴方本当に自分の事に興味がなさ過ぎるわよ。王太子妃になるんだからもう少ししっかりなさい」

「申し訳ございません・・・」


口では叱るが公爵夫人はアンセルマに代わってテキパキと侍女達に指示をしていく。

そんな張り切ってる妻がアンセルマから離れると一緒に現れた公爵がアンセルマの前に立つ。


「そんな不安な顔をするな」

「私、段取りとか何も分かっていないのですけど」

「リカルドと並んでいればどうにかなるからあまり難しく考える事はない。君の望み通り最速の結婚式だ。もっとポジティブに考えなさい」


そう言われてアンセルマは自分の望みを皆が一生懸命叶えてくれようとした結果なのだと思い至る。

しかも今朝までリカルドの立太子も自分の結婚式も楽しみにしていたではないか。

そう気づくとなんだか少しずつジワジワと心が疼き始めた。

前世と併せてもこれが初めての結婚式だ。

どんな式になるのか確かにワクワクしてくる。


「あの、私、楽しみになってきました。ただ家族の皆へのお礼のお手紙とか用意してないのですけど、何かしらスピーチはしなくてはいけませんよね?!」

「お礼の手紙とは?」

「今まで育ててくれてありがとうございます、とか。リカルド様と2人で頑張っていきます、ですとか」

「なるほど。どのタイミングで話すのを想定していたのかな?」

「披露宴最後の退場の時でしょうか」

「確かに挨拶は必要だな。では文面を考えておきなさい」


満足そうに頷いて公爵は後ろに控えていた事務官に指示をしながら部屋を出て行ってしまった。

墓穴を掘った気もするが、やはりお世話になった人へのお礼は必要だと思うので前世で出た他人の披露宴を思い返す。

父様と母様との一番の思い出ってなんだろう?

この場合、王様に向かっても何か言う必要があるのだろうか?

公爵家に嫁入りじゃなくなってしまったし、ずっと一緒に暮らしていたからこれから公爵家に宜しくお願いしますと言うのも違う気がする。となると王家だが、王妃や王子が廃された今、王城で一緒に暮らすことになるのは王様だけだ。

そうこうしている間にグロスター伯爵家一行が様子を見に来た。

男達はアンセルマのウエディングドレス姿に固まってしまう。


「アンセルマ・・・」

「綺麗ねぇ、アン」

「母様、お屋敷の方は大丈夫ですか?」

「大丈夫よぉ。こうして今日着てくるドレスも無事だったもの」

「片付けのお手伝い行けずにすみません」

「アンの部屋は防衛用の魔道具が作動したから荒らされていないわよ。ガスパルも王宮やら公爵家に荷物を分けていたのもあってそんなに被害もなかったし。クストディオも礼服は王宮に置いていたしね」


今日の服の話だけではないのだが、母様なりの気遣いだと思ってアンセルマはそれ以上家の事を聞くのは止めておく。

夜にリカルド様に聞いた感じでも、概ね復旧しているし、アンセルマが仕掛けておいた防衛機能が働いて領地の方も被害はかなり少ないらしい。

気にはなるが今考えるべきは今日を乗り切ることだろう。


「アン、本当にお嫁に行くのかい?」

「エルナンド兄様、この期に及んでそれを言うのですか」

「まだ間に合う。立太子だけにすれば良いのだから」

「でも結婚してしまった方が命を狙われるのも減ると思いますし」

「今回の件でアンセルマの防衛策が有用だと証明されたのだからアンセルマは家に居れば安全だろ?!」

「エルナンド兄様、私、リカルド様と離れたくないのです」


ズバリ言われてエルナンドはガクリと肩を落とす。先日1番アンセルマに振り回されたと言うのに、まだ懲りていないらしい。

長男の愛の深さに感謝だ。

隣で苦笑するエドゥアルドも一瞬手を伸ばしかけて手を引っ込める。

どうやら皆、抱き締めたり頭を撫でたりしたいのに、髪のセットや化粧が落ちるのを心配して触れないのだと気がついた。

アンセルマは兄様2人の手を夫々取ってぎゅっと握る。


「兄様達が守ってくれたお陰で無事に今日が迎えられたのです。ありがとうございます」

「アン〜」

「お嫁に行っても今まで通りして良いと言われてますから、何も変わらないですよ」

「このままお転婆なのも困るんだけどね。まぁ、アンはそのままが良いと思うよ。当分は兄さんが護衛に付くだろうし」


振り回せばいいさ、とエドゥアルドが隣に立つエルナンドに視線を向ける。

エルナンドは男泣きしながら、2人の言葉に頷く。

騎士団の礼服を着てビシッときまっているのに台無しだ。


「エルナンド兄様、まだ泣くのは早いですよ」

「我が家が伯爵位なばっかりにまだ子供であったアンを公爵家に託す事になったのが今でも悔やまれる」

「エルナンド兄様」

「あーその事なのだが、今回の件で我が家は侯爵に陞爵される」

「なんですって?!」


家族全員がえぇっ!?と父様を振り返った。

どうやら母様すら聞いていなかったらしく、聞いてませんわよ、と父様に詰め寄った。


「私もさっき聞いたのだ。侯爵家の席がひとつ空くからな。それにこれからアンセルマが進める公共事業を担う為でもあるのでそのつもりでな、エルナンド」

「全力で務めます!」


グロスター家を継ぐのはエルナンドだ。

父様は騎士団団長だから、公共事業の方はエルナンドに任せるつもりなのだろう。

兄様も副団長なはずなのにそれで良いのかとも思うが、これは妹として防衛についてもお手伝いせねばとアンセルマは決意する。

ガスパルも次期公爵として一緒に働く事になるのだそうだ。そして指揮を取るのは勿論リカルドである。

確かに今までとあまり変わらないね。

今までだってアンセルマが勝手にやらかした事を後からいい感じに調整してきたのがリカルドとガスパルの仕事だったのだから。


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