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王様との公式な初謁見

朝、リカルドに起こされアンセルマはそのまま公爵家に帰された。

アレハンドロが忽然と消える事になるが大丈夫なのか?と心配したが、リカルドはどうとでもなるよと笑って頬にキスをする。

リカルドはいつも通りで、また後でね、と手を振ってアンセルマを見送った。

アンセルマが部屋に戻ると昨夜と同様にララが待ち構えていて支度を手伝ってくれる。

朝ご飯を食べ終えると、また着替えだと急かされ他所行きの服を着せられ公爵夫人と共に馬車に押し込まれた。

どうやら今日はアンセルマとして王城に行く必要があるらしい。


「お義母様、私、眼鏡をしていないのですけど」

「今日はしなくていいわ。ただし注目されるのだからお行儀良くしていないと覚えられるわよ」

「そんなぁ・・・」


だったら眼鏡でコソコソしていたい。

しかし今日は公式に初めて王とリカルドの婚約者であるアンセルマが謁見するのだそうだ。なので堂々としていなさいと公爵夫人は言う。

もう2回も会っているのに今更感があるが、それが面倒臭い貴族の作法ならば仕方ない。

控えの間で式典に出る時のキチンとした格好の父様と合流して、しっかりおやりなさいと公爵夫人に圧を加えられ引き渡された。

いつもと違ってキチンとした格好をしているのはアンセルマもだ。

そんな姿を目の前にして父様は肩を落とす。


「なんだかアンセルマはすっかり大人になってしまったんだな」

「どうしたのですか、父様?私まだ大人じゃないですよ?」

「だったらそんなに急いで嫁に行く事もないだろうに」

「それは・・・でも結婚しても私が父様の子供という事に変わりはないですよ?」

「決意は変わらないのだね?」

「すみません」


父様はアンセルマに歩み寄り娘を抱きしめる。

一緒に暮らし居ていた時は一緒に鍛錬をしたり、褒めてもらう時にはこうして抱きしめて貰ったりしていたけれど、公爵家に住む様になってからは父様との交流は減ってしまったなと今更ながらに気がついた。

グロスター家はトゥールーズ侯爵家と違って子供を道具だなんて思っていない。

乳母に子供を任せきりにする貴族がほとんどの中、母様だけでなく父様もよく構ってくれた。

先日公爵もクストディオは手放したくなかった筈だと言っていたが、確かにあれだけ溺愛していた11歳の娘を手放すのは辛かったろう。

アンセルマは応える様に父親の背に手を伸ばした。


「父様、私、父様の子供で本当に良かったです」

「私の手をどんどん離れて行くくせに」

「グロスター家の皆が大好きですよ。でもリカルド様が誰よりも大好きなので離れたくないのです」

「それがアンセルマに課せられた使命ならば受け入れるしかあるまい」


使命じゃなくて本人希望なところが大変申し訳ない。

だが王城に住むのだったら、王城で働く父様にはむしろ今よりも会えるのではないかと思う。

結婚しても今まで通り生活して良いと言われているから、各領地にだって行けるはずだ。

なんなら結婚まであと最大半年あるのにリカルドとは離れ離れなのだからそれまで伯爵家に戻るのも良いかもしれない。

正直、あまり自重する気がないのである。

あとでリカルドと相談しようと思っているとドアがノックされ、謁見の間に移動するよう促された。


父様に腕を差し出され、アンセルマはその腕に軽く手を添えるようにして寄り添う。

初めて父親にエスコートされながらアンセルマは開かれた謁見の間のドアをくぐった。

王座に続く赤い絨毯の脇に公爵家だけでなく、何人かの男性が立って2人を迎え入れる。

良い身なりで公爵様や父様に似た威厳を感じさせ国の重鎮であろうことの想像はつく。

厳しい目を向けていた男たちがアンセルマが近付くにつれ驚きの表情になっていく。


「グロスター、仰せに従い参上いたしました」

「よく参ったグロスター。明日王太子となる我が甥リカルドの婚約者は近く私の娘となるも同然。リカルドの卒業式で非公式には顔を合わせたがあまり時間がなくてゆっくり話せなかったからな」

「勿体ないお言葉で御座います。これが我が娘アンセルマで御座います」

「再びご挨拶の機会を戴き光栄で御座います、陛下。アンセルマ・グロスターがご挨拶させて頂きます」


一応なかった事にはされなかった初対面の暴露で想定と違う問答になったものの、その後も恙無く謁見を終える。

最後には両脇に立つ重鎮達も自分の可愛い娘を見るような温かい目でアンセルマを見送った。

よく分からないがどうやら上手くいったようだ。

控えの間に戻ると父様がよく出来ていたと褒めて頭を撫でてくれた。

そのあとリカルドが現れたので父様は仕事に戻って行く。


「アンセルマ、今日も上手に挨拶出来たね」

「リカルド様、おはようございます」

「おはよう。朝も挨拶したろ?」

「それもそうですね」


それでもリカルドは別の部屋で寝ていた時の様にアンセルマを引き寄せておでこにキスをしてくれた。

なんだかちょっと日常に帰ってこれた気がする。


「この後私はどうすれば良いのでしょう?」

「結婚式のドレスと引出物と料理の最終確認をしてもらう予定かな」

「ドレスなら先日も試着しましたけど?」

「結婚したら社交も増えるし何着か必要だろう?」

「毎回違うドレスを着てたら勿体ないですよね。今日もこんなに素敵な服を着せて貰ったんですけど、卒業パーティーと同じのじゃダメだったのかな」

「今日もすごぉーく可愛いよ。僕は色んなアンセルマが見れて嬉しいけどな」


リカルドにそう微笑みかけられてアンセルマはとっさに目を両手で塞ぐ。

めちゃめちゃカッコいいのはリカルドの方だ。

そんな笑顔を間近で浴びたら目が潰れちゃうよ。


「アンセルマ?目が痛い?」

「大丈夫です、ちょっとリカルド様の笑顔にあてられただけですから」

「なにそれ。それ僕のセリフだよ」


笑われて手を剥がされる。

リカルドの精悍な顔が鼻が触れ合う程の距離まで近づいてアンセルマは顔が赤くなるのを感じた。

しかしリカルドはお構いなしにアンセルマのおでこにキスをする。


「あーもう早く結婚したいな」


ただでさえ格好良くて、公爵家嫡男というだけでもモテてたけど、王子になったらもっとモテるに決まっている。

昨日みたいな襲撃もまたあるかもしれない。

王様も公爵様もお父様も昨日賢者の石から神の御使いであるアンセルマの使命がリカルドと結婚する事だと聞いている。

もはや御神託みたいな結婚を破談にする事はないだろう。

しかしアンセルマが殺されれば話はそこまでだ。

アンセルマの血が貴重な魔石を生み出す特別なものだとも、神の御使いであることも、もちろん前世の記憶がある事なんて暗殺者が知っているはずがない。

結婚式まで自分に結界張っておこうかな。

殺されてなるものか。


リカルド様は私のものなんだから、他の女になんか絶対渡さないんだからっ!


勝手に決意してリカルドを見上げると何故かリカルドの顔が少し赤い。

アンセルマは不思議に思ってリカルドのおでこに手を伸ばす。

しかしその手はすぐにリカルドに捕らえられてしまった。


「なに?」

「リカルド様、顔が赤いですよ。熱はないですよね?」

「ないよ、ない。アンセルマが急に可愛いこと言うから」

「私なんか変な事言いましたか?」

「アンセルマはたまに考えてる事口から出てるから気をつけてね」

「えっ!?」


アンセルマは慌てて両手で口を塞ぐ。

確かにリカルドに話した記憶がないことまでやる事リストに書かれて出てくる事がたまにあって、いつの間にいったっけ?って思う事は多々あった。

それがまさか口からポロリしていたからだとは思っていなかったのだ。

恥ずかしい事を言っていない事を祈るばかりである。


「そう言えば、さっき思ったのですけど、結婚式まで伯爵家の方に戻るというのは可能でしょうか?」

「何故?」

「リカルド様がいないなら公爵家にいる理由も特にないですし、たまには親孝行でもしようかなぁと」

「それはちょっともう難しいかな。どうしても帰りたい?」

「あ、いえ。別に今まで通り行っても良いのですよね?であればそんなに変わらないので無理なら無理で全然。まだ家も片付いてないでしょうし」


結局、騎竜で出てから伯爵家には行けていない。

カントリーハウスも気になるところだ。

畑や町の人達にも被害がないか直接確認したい。

だがリカルドが何か言うよりも早くドアがノックされ、公爵夫人とガスパル兄様が現れた。

リカルドとの逢瀬は今日はこれで終わりなのかもしれない。


「アンセルマ、行くわよ」

「リカルド様、お時間で御座います」


夫々に連行される雰囲気に終わりを感じ少し寂しくなると、リカルドがアンセルマの頭をポンポンとたたく。


「そんな顔しないで、アンセルマ。ランチは難しいかもしれないけど、夜ご飯は一緒に食べられると思うから」

「はい」

「明日の午後はほぼ一緒に居られるから、ね?」

「そうなのですか?わかりました!」


いざとなれば公爵家から夜這いを掛ければ良いのだ、と思い直し、アンセルマは公爵夫人と部屋を出たのだった。

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