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王様への種明かし

広い王宮で自分が何処にいるのかいまいちよく分からない。

騎士が立つ部屋の前に着くとドアが開けられる。

中に入ると公爵夫婦と騎士団長であるグロスター伯爵、そして正面に王が座って2人を迎え入れた。

アンセルマは一瞬女性としての挨拶をしようとしたが、すぐに自分はアレハンドロである事に思い至り慌てて騎士の挨拶をする。

しかし王は手を払うようにしてすぐにアンセルマを止めた。


「よいよい、今日は非公式ゆえ作法など気にすることはない」

「アレハンドロ、倒れたそうだけどもう大丈夫なの?」

「ご心配をおかけしました、大丈夫です」


目配せされて今日は公爵家とは対面の父様の隣に座る。

これが本来の形のはずなのになんだか不思議な感じだ。

横を向けば父様が嬉しそうに頷いた。


「それでお説教は済んだのかい?」

「それはあの、許して頂けるのは明後日で」

「明後日?」


大人達の視線がリカルドに向く。

リカルドはにっこり笑ってやり過ごした。


「リカルド」

「父上、アレハンドロは何故自分が此処にいるか理解してないのですよ」

「えっ?今日の事情を聞く為ですよね?先程そう仰ったじゃないですか」

「建前はね」


それ以外って何?

アンセルマはリカルドの隣に座る公爵夫婦に目を向ける。

公爵夫人はハァと呆れたように額に手を当てた。


「気づいているなら貴方がちゃんとフォローなさい」

「それはもうシッカリとさせて頂きますよ。黙っているのはお仕置きの一環ですので口出しは無用です」

「本当に貴方は悪趣味ね」


なんとなく大人達の生温かい視線がアンセルマに集中する。

どうやらアンセルマが聞いていなかったバジリナお義母様の話は何としてでも聞いておかなければならなかった重要な話だったようだ。

だがリカルドが教えないのがお仕置きと言い切るのなら誰も教えてくれることはないだろう。

ご飯が運び込まれ食事が始まる。

一口食べてアンセルマは首を捻った。


「どうかしたか、アレハンドロ?」

「あ、いえ。とても美味しいのですけど、公爵家と同じ味がしたので」

「うちの料理人が来ているのよ」

「あぁ、なるほど」

「一口食べて言い当てるなんて流石だな」


正直、期待してなかったのだ。

先日の王宮でのパーティーで食べたご飯が大した事なかったから。

理由も聞いていたから王妃が居なくなったとは言えこんなに早く改善されるとは思っていなかった。

今日は公爵夫婦がいるから公爵家から料理人を呼ぶことも出来たろうが、明日からはきっとあの微妙なご飯に戻ってしまうのかもしれない。

王族も大変だなぁ。

あ、リカルド様も明日から美味しいもの食べられないなら可哀想だ。


「ほら、言ったでしょう。うちの一番の食いしん坊はアレハンドロなんですから」

「あぁ、これだけ差があれば王宮の飯がイマイチだと言うのも頷ける」


どうやら先日のパーティーでアンセルマの酷評が大人達にも届いていたらしい。

アンセルマは食いしん坊と言われ顔を赤らめた。

確かにご飯の為に野菜を増やし、流通を改善し、料理法も教えるアンセルマは大人からすれば食に貪欲にしか見えないだろう。

だってしょうがないじゃん。

元日本人だもの。

日本人の食への執着は異常なのだ。

毎日同じ豆と肉ばかりなんて食べていられない。


「毎日違うメニューじゃなきゃダメなのよ。卵を生で食べるし」

「それは死ぬだろう?!」

「我が領地の卵は大丈夫な様に育てているそうよ。魚も生で食べるし。王宮でもすぐに改善させなくてはね」

「我が領地では井戸で水を汲まなくても蛇口というものを捻ると飲める水が出てくるようになったしな」

「私達もすっかりそんな生活に慣れてしまったからもう元の生活には戻れないわよ」


ディスられているのか、褒められているのか分からない状況だが王様がこれからの生活にワクワクしているのは分かる。

なにせ17年も我慢を強いられてきて、ここにきてやっと大逆転で解放されたのだ。

話だけ聞いて我慢してきた新しい料理や乗り物、公共事業などアンセルマがこれまでグロスター領とカディネ領だけで密かにやってきた事を全部王宮に取り入れるつもりらしい。

良いものは国全体に実施する腹積りもあるようだ。

インフラ整備や環境問題に関してはアンセルマも是非ともお願いしたいと思う。


「アレハンドロは最近また新しい事を始めたのよね」

「電気ですか?」

「そう、電気」

「電気とは?」

「魔力を使わなくても部屋を明るくしたり、何かを動かしたりするものです」

「魔力を使わなくても?」

「はい。雷を集めて力に替えるって感じでしょうか」

「アレハンドロの考えることは毎回面白い発想ばかりだな」


王様の驚きにアンセルマ以外の人間がうちの子はすごいだろうと言わんばかりに頷く。

しかし残念ながら電気は詳しくないんだよね。

本当に教科書に書いてあったレベルしか覚えていない。

ただ毎回家族がアンセルマの要望に合致した協力者を探してきてくれるから皆で意見を出し合っている間に今まで色々作る事が出来てきたのだ。

発電自体は出来るけど、それを送電したり蓄電したり、はたまた家電を作ろうとすると難しいのが現状なのである。


「ただ電気は使えるようになるまでかなり時間がかかるかもしれません」

「レイナルド、予算をつけて人も手配しろ」

「もう考えている。ただ電気についてはアンセルマの資産でやらせているから特許が取れるくらいになるまではそのままだ。手柄を国に取られても困るからな」

「手厳しい」

「これ以上望むと痛い目を見るぞ。もっと凄い隠し球があるからな」


食事が終わって解放されるのかと思いきや全員で誰かの執務室の応接セットに移動する。

お茶とお菓子が並べられると王は自分達以外の人間を下げさせた。

カディネ公爵が遮音の結界を張り、父様が防御の結界を張る。

何気に2人が魔法を使っているのを見るのは初めてかもしれない。

今度の席順は公爵の前にリカルドが座り、その隣にアンセルマ、反対隣が父様だ。

話し始める前にリカルドがアンセルマのメガネを取って自分の胸ポケットにしまってしまう。

なんだかメガネをしてるのがデフォルトになっているので恥ずかしい。

王はやっとアンセルマだなと笑った。


「それで隠し球とはなんだ?」

「今回公爵家が襲撃を受けなかったのはリカルドが張った結界があったからだと説明したな」

「あぁ。グロスターも同じ様に張っておけば良かったものを」

「そんな強力な結界をずっと維持していられるなら王宮に警備は要らんと気づけ」

「確かに。どうやって維持してたんだ、レイナルド?リカルドはここに居ただろう?」


一度張れば半刻は維持できるが魔力を込め直さなければ結界は消滅する。

魔力を電池の様に魔石に封じ込めておくことはできるが、せいぜいそれも半刻だ。

そもそも一部屋ならまだしも屋敷全体を一日中覆うとなると1人の人間に賄える魔力量でもなくなる。

実際やろうとすると大量に高価な魔石が何個も必要になるし、交換する人間が必要になるから現実的ではないのだ。

公爵はポケットから布に包んだ黄色の魔石を取り出し、王の前の机に置く。


「美しい宝石・・・いや魔石か。初めて見る。・・・賢者の、石?永久魔力供給!」

「リカルドとアンセルマが作ったものだ。それから」


そう言って公爵は同様にして赤い石も出す。


「聖水魔石?聖水が作れるだと?!」

「お陰でうちの水道水は聖水だ」

「お前たち、私に内緒で何をやっておるのだ!?まて、先程この石を作ったと言ったか?!」


どうやらこの2つについてはまだ王に報告していなかったらしい。

王の驚きは公爵に話した時以上だ。

アンセルマのやらかしにそこまで耐性がないからかもしれない。


「賢者の石はリカルドとアンセルマ、聖水魔石はアンセルマの血液から作られたものだ。これ以上の量産はさせぬ」

「血液だと?!どの様にして」

「その話は後でするわ。兎に角、これで我が家の結界を維持し続けられた理由は分かったでしょう」

「この叡智の結晶やら平和の祈りはなんだ?」


そう問われて視線がアンセルマに向く。

賢者の石は完成した日に公爵に渡してしまったから実験は出来ていないことになっているはずで、うかつな事は言えない。

しかしバジリナの笑顔が深まった。


「貴方、もう一個隠し持って使っていたのはバレていてよ」

「今日、エルナンドの前で使っただろう」

「エルナンドを消しはしないから話しなさい」


エルナンド兄様の裏切り者!

隣のリカルドに助けを求めるが肩をすくめただけで仕方ないねという顔をする。

アンセルマは諦めて話すことにした。


「効果は4つです。永久魔力供給、聖なる光、叡智の結晶、平和への祈り。永久魔力供給は魔力を供給したい場所に置くと勝手に供給し続けます」

「公爵家にある小さい賢者の石はそれしか出来ないのね?」

「そうです。本当に永久に出来るのか実験する為にアンセルマの部屋で結界を張る魔法陣の上に置いて実験していたのです」

「聖なる光は心臓が止まった10分以内に削って服用すると蘇生する、というものみたいです。しかし削られると魔石が小さくなりますから削りすぎると魔力供給しか出来なくなるということだと思います。これは試しようがないので試してませんが」


大人たちはただアンセルマの言葉に頷いて次の話題を待っている様なのでアンセルマは次に進む。


「平和への祈りは浄化したい場所に置いて祈ると最大で国全部を浄化出来るみたいです。これも試してません。最後に叡智の結晶ですけど、これは実際にお見せした方が早いのでやってみせますね。紙とペンを頂けますか?」


言うと公爵が立ち上がり紙とペンを持ってきてくれた。

ここは公爵の執務室なのかもしれない。

ペンはもちろんつけペンではなくアンセルマが考案した充填インク式のペンだ。

ありがとうございます、と礼を言ってアンセルマが少し身を乗り出すとリカルドが王の前にあった石をアンセルマの前に置き直してくれた。

リカルドにも礼を言う。

しかし皆の前で起動するのが恥ずかしい。


「ヘイ、賢者の石!この城の見取り図と人の配置、王族に仇なす者のいる位置を示す魔法陣の作り方を教えて」

『紙の上に私を置いて下サイ』


公爵に用意してもらった紙の上に賢者の石を置き直すと紙に魔法陣が焼き付けられる。

この城の見取り図が欲しいと思っていたのでそこに大人達が喜びそうな付加価値を付けてみた。

出来た魔法陣を見てアンセルマもリカルドもなるほどなるほどと感心してしまうのだけど、大人たちは困惑したような表情を浮かべているだけだ。

アンセルマは作られた魔法陣を転写の魔法を使ってもう一枚の紙にコピーしてからそのコピーで魔法を起動させてみる。

ホログラムの様に皆の目前に城の模型が浮かび上がった。

その中に青い点が散らばっている。

赤い点も少量混じっている様だ。


「私たちが今いるのがここね。丁度青い点の数が合ってるわ」

「と言うことは赤い点が仇なす者か。結構いるではないか」

「ここは地下牢ですから、数から除いて問題ないでしょう。問題はリカルドの部屋を徘徊しているこの赤い点ではないか?」


そう言って王が見取り図の赤い点を指で触れるとピコンとズームする様に赤い点に注意書きが表示される。

名前と性別など簡単なプロフィールだ。

どうやら王妃側の間者がまだ王宮内に残っていた様だ。


「捕まえに行かなくてよいのですか?」

「この城は王妃を捕まえる為に監視カメラだらけだからな。後でも問題あるまい」


えぇとドン引きしているのはどうやらアンセルマだけだ。


『スミマセン、よく聞こえまセン』

「あ、起動したままでしたけど、何か聞きたい事があれば聞いてみて下さい」

『もう一度仰って下サイ』

「アンセルマは聖女か?」

「聖女ではありまセン。創造神の御使いデス」


王の質問にもその答えにもドン引くしかない。

転生者とバラされなかったのは助かったが、ギラリと皆の目が輝いた。


「神の御使いの使命はなんだ?」

『役目はほぼ終わりマシタ。あとはリカルドと結婚して溺愛されることデス』


ふふ、とリカルドが堪えきれず笑う。

アンセルマはその隣で小さくなった。

確かに神様には結婚して溺愛されたいとまでしか言ってない。

どうやらアンセルマの役目は自分が願った事を叶えることだったらしい。

疑心暗鬼にならずにただ神様を信じて家族やリカルドに溺愛されておけば良かったと言うことだ。

ここ数年、聖女候補が現れてから無駄に卑屈な人生を送ってしまった事を悔やむ。

まぁ別に学校なんてあまり興味がないから良いんだけどさ。

友達だっていない訳じゃないし!


「質問を終わるときはさようならです。さようなら!」

『また、会いましょう、サヨウナラ!』

「あぁ、まだ聞いてみたい事があったのに!」

「あとで一人でやって下さいませ」

「私にも使えるのか?」

「王族か聖女にしか使えません。どうして私が使えるのかは謎ですけどまぁ私は作成者ですから」

「神の御使いはそれを超える存在という事だろう」

「あとは僕と結婚して溺愛されるだけらしいけどね」


リカルドは相当ツボったのかまたふふと笑う。

そこからは今日の大体のあらましを話して、リカルドが聖水に違いがある事を伝えたが神御使いと分かったアンセルマだからでもはや誰も驚かない。

公爵夫妻が家に戻ると言うが外は既に真っ暗だ。

王は泊まっていけと言うがライムンダが心配だから帰りたいらしい。


「母上、先程アンセルマが私の部屋に屋敷への転移陣を作りましたからそれを使ってください」

「貴方達・・」

「今日はアンセルマの侍女が居ませんから身支度させる為に作っただけです。アンセルマは逢引に使うつもりだった様ですが」

「リカルド様っ!」

「アンセルマ、お風呂に入って寝る準備が出来たら戻ってきてね」


反対隣で父様が盛大なため息を吐く。

嫁入り前の娘が婚約者とは言え閨を一緒にしているというのは思うところがあるのだろう。

アンセルマはそんな父親を気遣うように話しかける。


「父様もお屋敷にお送りしましょうか?お屋敷結構酷い惨状ですから眠るところないかもしれませんけど」

「ありがとう、アンセルマ。だが私も今晩はここに泊まるから問題ないよ」

「そうですか。明日、お片付けするならお手伝いに行きますから言ってくださいね」

「アンセルマ、貴方は明日色々やる事がありますから出掛けてる場合じゃなくてよ」

「あ、そうなのですか。分かりました」


事情聴取とか?

でもまぁ仕方ないと思いつつ、アンセルマは了承した。

逆らわないのが1番だ。

その場はそのままお開きとなり、エニオに連絡してからアンセルマは公爵夫妻を連れて公爵家へ転移する。

ライムンダとガスパル兄様と少し話をしてからお風呂に入って寝間着に着替えて再び王城へ戻った。

リカルドは寝る準備を終えてソファに座って何やら書類を読んでいたらしい。

声を掛けると書類をひっくり返して机の上に置く。


「ただいま戻りました、リカルド様」

「おかえり、アンセルマ。思ったより早かったね」

「疲れているだろうから早く戻って休みなさいとお義母様が」


隣を示されリカルドの横に座るといつもの様にリカルドがアンセルマの腰を抱き寄せる。

アンセルマはいつものポジションに落ち着いてリカルドの肩にコテリと頭を乗せた。

場所は違うが落ち着けるのはやはりリカルドの隣なのだ。


「今日は色々あったから流石のアンセルマも疲れたか」

「肉体的には全然大丈夫なのですけど、精神的には疲れました」

「残念ながら明日も暇ではなさそうだから今日は早めに眠る?」

「我儘を言うともう少しリカルド様とお話ししていたいです」

「いいよ。何か話したいことでも?」


リカルドも折り重なる様にアンセルマの頭の上に自分の頬を添える。


「特に話したい事がある訳じゃないのですけど、リカルド様の声を聞いていたくて」

「可愛い事を言う」

「リカルド様は今日はどんな事をなさってたんですか?」

「立太子する儀式の再確認とかかな」

「立太子の儀式は私は見られないんでしょうか?」

「見られるよ。最前列で」

「それは楽しみです!」


取るに足りない話をつらつらとして2人は布団に入った。

家と変わらずリカルドの腕に収まって眠る。

布団に入ってからもくだらない話をしていたはずだが、どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。

今日一日あった事が嘘の様にアンセルマは安心して夢も見ずにぐっすり眠れた夜だった。

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