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男達の裁き

いつの間にか呼ばれたらしい応援の騎士が完全に侯爵邸を制圧したのを見届けると、公爵は帰るぞと言ってアンセルマを馬車に詰め込んだ。

乗ってきた竜は押収物なので使えないらしい。母様とエルナンド兄様はエドゥアルド兄様とカルラ姉様らがグロスター家の騎竜で迎えに来たのでさっさと飛び立ってしまった。

兄様は私の護衛ですよね?!と道連れにしようとしたが、公爵によって自領の事もあるだろうからもう良いと追い払われてしまったのだ。


帰りの馬車の中、対面に座る公爵にアンセルマは顔を上げられない。

家に留まる様にという言いつけを破ったのは一目瞭然だ。

呆れられるのならば良い。

だけどいい加減見捨てられるのではないかとアンセルマは身を固くした。

頭上でハァと重いため息が聞こえる。


「アレハンドロ」

「はい」

「こちらを向きなさい」


そこまでハッキリ言われるとアンセルマは顔を上げるしかない。

2人きりなのに本当の名を呼ばれなかった事を不思議に思いながらアンセルマはおずおずと顔を上げた。

いつもの無表情の公爵がアンセルマを真っ直ぐに見つめている。


「アレハンドロ、我が娘ライムンダを助けてくれた事感謝する」


そう言って頭を下げられアンセルマは驚きに目を見張った。

怒られる予想はしていたが、感謝される事は全く考えていなかったからだ。

アンセルマは慌てて両手を振る。


「とんでもございません。そもそも私と間違われて襲われた訳ですから私の方がライムンダ様にお詫びせねばなりません」

「アンセルマを襲おうとしたのも、本人の顔も知らずに間違った人間を襲撃したのも侯爵側の責任だ。君にその点で咎はなかろう」

「でも気をつける様に言われていたのに何も手を打っていなかったのは私の落ち度です」

「否、ライムンダを伯爵家に行かせたのは私達だ。アンセルマに間違われるリスクについては認識していた。これだけの規模でやられるとは思っていなかった我々の落ち度だ。だから私からアレハンドロの独断専行を咎めるのは止めておこう。ただ、リカルドには叱られると思うから覚悟しておきなさい」

「はい、お義父さま・・・」


ですよね。

そうガクリと首を垂れると公爵がアンセルマの頭をポンポンと優しく叩く。


「あれは出たくても出られなかったのだ。相当アンセルマを心配していた。だから分かってあげなさい」

「はい。舌の根も乾かぬ間に言いつけを聞かない私が悪いのです」


それから公爵は各地で起こっていた騒動の鎮圧とそれに加担した貴族達を全て捕らえた事を教えてくれた。

カディネ公爵家は実質被害を受けていない為、トゥールーズ侯爵の証拠が取れずに丁度困っていたところだったらしい。

失敗した場合1番罪の重くなるであろうカディネ公爵家とグロスター伯爵家の襲撃を何かとトゥールーズ侯爵を持ち上げて押し付けたのだろう。

両方をトゥールーズ家が担ったお陰で証言1つで両方を襲った証拠を取れたのはラッキーだったと公爵は教えてくれた。


そうこうしている間に馬車は王宮の門をくぐる。

城がどんどん近くなるのにアンセルマは震える手を自分でぐっと握りしめた。

飛び出した事を後悔してはいない。

ただ、リカルドとの約束を守れなかった事は申し訳なく思っている。

もっと良い方法があったのではないか。

一番の目的であるライムンダの救出が終わった時点で公爵やリカルドに連絡すべきだったのではないか。

馬車を降り、公爵の少し後ろを歩いている間もアンセルマは自問自答し続けた。

王宮の廊下が何故だか以前より大きく、自分が小さくなった様に感じる。

前を歩く公爵の背中さえ遠い。

いつもより汗をかいている感じがするがアンセルマは何も言わずにただ公爵の後ろを歩く。

死刑台に向かう囚人の気分だ。

アンセルマはまだ王宮のパーティーをした広間しか知らない。

それでも今歩いている所がより王族のプライベートに近い空間である事は分かる。


騎士が2人立っているドアの前に立つと騎士が代わりにドアをノックして中に公爵が訪れた事を伝えてくれる。

中からどうぞ、とガスパルの声がしてドアが開かれた。

公爵がズカズカと入っていくのにアンセルマが躊躇しているとガスパルが穏やかな笑みでおいでと手を差し伸べる。

いつも通りの兄様だ。

恐る恐る手を重ねると引き寄せる様にぐっと中に引き入れられた。

アンセルマの後ろでドアが閉まる。


部屋の1番奥、窓の前に彼は立っていた。

ガスパルとは違い今まで一度も見たこともない様な無表情である。


「アレハンドロ、私は行くが大丈夫か?」

「は、い」

「リカルド、あまり厳しくしすぎるものではないよ」


公爵がそう嗜めて部屋を出て行ったが、リカルドは決してはいとは言わなかった。

きっと今度こそ本当にリカルドはアンセルマを許すつもりはないのだろう。

ゆっくりとリカルドがドアの前に立つアンセルマの方へ歩を向ける。

アンセルマの前に対峙するリカルドは遠目では無表情だと思ったが瞳が怒りに満ちていた。


「リカルド様、ご心配をお掛けして申し訳御座いませんでした」


アンセルマが震える声でそう謝罪するとスッとリカルドの片手が挙がる。

ガスパルが止める間も無くその掌はアンセルマの頬に目掛けて振り下ろされた。

しかし寸での所でバチッと何かに弾き飛ばされる。


「リカルド様!」

「弾かれただけだ。大事ない。アレハンドロ、何だこれは」


アンセルマはハッとしてポシェットの中の結界の魔法陣を探り出すとその紙を開いて石を取り出した。

それから魔法陣を真ん中から破る。

これで結界の魔法は解けた。


「すみません、結界をはったままでした」

「なるほど、結界で自分を守ってはいた訳だな」


そう言ってリカルドは今度はそっとアンセルマの頬に手を伸ばす。

リカルドの顔は嫌悪に満ちた苦虫を噛み潰した様な顔に変わっている。

殴られても構わないと思っていた。

だがそれを期せずして結界で弾いてしまったのは申し訳ない気持ちだ。

やり直して下さいと言うのもおかしいのでアンセルマはただリカルドの裁きを待っている。

そんな思いとは異なりリカルドの手はいつもの様に優しくアンセルマの頬を撫でた。

リカルドの動きひとつひとつが怖くてビクビクしてしまう。

緊張しすぎて頭の芯がジンと冷える様な感じがして唇がチクチクと痛みを訴える。

それでもリカルドのする事を全て受け止めようとアンセルマは真っ直ぐに彼を見て身じろぐ事もしない。

なのになんだか暗くてリカルドの表情がよく見えずにアンセルマは少し眉間に皺を寄せる。

さっきまで外は良い天気だったのに何故こんなにこの部屋は暗くて寒いんだろう。

そう思った瞬間、視界がぐるりと回って暗転した。


「アンセルマ!」


さっきまで皆アレハンドロと呼んでたのに良いんですか?と遠のく意識の中、アンセルマはリカルドの叫び声を聞いてそんな事を思った。

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