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あっけない制圧

玄関前にカディネ公爵と文官らしき男、そして4人の騎士がアンセルマ達の合流を待っていた。

この家の家令らしき男が公爵に敬意を表して丁寧に対応するもののその表情は堅い。

騎竜に近寄った男が拘束されたのも見えていただろうに何も言わずに公爵に対応する。


「カディネ公爵閣下、本日お約束はなかったと思いますが如何致しましたか」

「あぁ、約束はなかったのはこちらも同じこと。我が家にそちらから大勢来られたので、理由を伺いに参ったのだ。侯爵はご在宅かな?」

「主人はあいにく出ておりまして」

「では戻って来られるまで待たせて頂こう」

「いつ戻ってくるかも分かりませんので、お待たせする訳にも参りません。主人が帰り次第、ご連絡させて頂きますので」

「入れぬと言うなら庭でも拝見して待たせて頂くが?」


入れまいと愛想笑いを浮かべていた家令が、チラリと騎竜に視線を向けた公爵に慌ててドアを開ける。

すぐに主人に使いを出します、と言って公爵一行を客間に通した。

公爵と文官、それに母様は席に通されるが、アンセルマは少年の格好をしている為、エルナンドの隣に立つ。

そもそも自分を殺そうとしていた人の家で自分がアンセルマだと名乗る訳にもいかないだろう。

侯爵家の侍女がそそくさとお茶を用意する。

アンセルマは公爵の背後から鑑定を使うが特に毒などはなさそうだ。


親戚以外の他人の家に来るのは初めてだなと思い、アンセルマは侍女が入り口付近に立っているだけなのを良い事にキョロキョロとする。

鑑定しまくるが、趣味の悪い美術品ばかりだ。

しかも騙されて高額で買わされたとかいう備考が書かれている。

3つだけ本物が紛れているが、アンセルマには嫌な感じがした。

目を凝らしてじっと見ていると、壺の中身に何かあるらしい。


「兄様、あちらの壺の中身が気になるのですが」

「どの壺だ?」

「壺の中で唯一の本物の碧のやつです。もう少し近づいても良いですか?」

「ダメに決まってる」


コソコソと話していると公爵が急に席を立つ。

対面の背後に飾ってある美術品をゆっくりと眺める様に歩を進めながら、アンセルマが指摘した壺を掴んだ。

壺を眺めるフリをして斜めに傾ける。

アンセルマの位置から中身についても鑑定出来た。

公爵が座っていた位置に攻撃を仕掛ける魔法が込められている魔道具らしい。

ドアの前の侍女がハラハラとした感じで公爵の挙動を見ているが、公爵に逆らえるはずもなく動くことが出来ない。

公爵は向きを侯爵が座るであろう位置に向け直して壺から離れる。


「エルナンド、其方も本物を知っておいた方が良い」

「はっ、美術品にはどうも疎くてお恥ずかしい限りです」

「アレハンドロ、お前はどうだ?」

「そちらの紅い香炉とそちらの黄色いガラスのランプが素敵だと思います」

「どれ、確認してみよう」


そう言ってアンセルマが指差した2品を同じ様に改め、ガラスのランプについては手が滑ったと言って床に落とす。

割れたランプの中からやはり殺傷力のある魔術具が転げ落ちた。


「すまない、危ないから片付けてもらえるか。壊したものについては弁済すると侯爵に伝えてくれたまえ」


侍女は慌てて壊れたランプと魔道具をエプロンに拾い、掃除道具を持って参りますと部屋を出て行った。

それを見送って公爵はさて、と庭に面する大きな明りとりの窓に向かう。

騎士の1人が先行して公爵が向かう先の窓を開けた。

騎竜の前はまずいと判断したのか、騎竜がいる左翼とは反対の右翼部分である。

騎士1人と母様を残して一向は外に出た。


「アレハンドロ、馬はまだ生きているか?」

「馬は大丈夫なようですけど、人間は揉めているみたいですね」

「賊が入ったとでも言い張るつもりであろう」


アンセルマがあっちだこっちだと指示して向かった先には馬小屋がある。

その陰で逃げ込んだ襲撃者と如何にも金持ちの脂ぎった男が怒鳴り合っていた。


「何故、ここへ逃げ込んだのだ!私とお前達の関係がバレてしまうではないか!」

「お前達の杜撰な計画で俺達は壊滅状態だ!どうしてくれる?!言われた事はやったんだ、死にたくなければ仲間の分も金を出せ!」

「失敗した者に金など払うわけがなかろう!」

「狼煙は上がった。仲間がやってくれたはずだ!」

「ならば何故、宰相がこの家にやってきたのだ?!」

「俺が行ったのはグロスター伯爵家だ。宰相の家を襲撃したのは別の人間だろうが。俺達のせいにされても困るな」

「俺はお前達に纏めて依頼を出したんだ!両方成功しなければ金は払わん!」


襲撃者には武器がある。

脂ぎった男が侯爵ならば、金も権力も平民よりは高い魔力もあるだろう。

侯爵の周りには多少の護衛もいるようだ。

だからお互いやれるもんならやってみろと怒鳴りあえるのだろう。

本来ならば侯爵に対して不敬も良いところだ。

歪みあっていてこんなに近くに敵がいるのに気づかないというのもお粗末な話である。

公爵は片手を上げひょいひょいと指を動かし騎士達に捕まえろと合図を送った。

前に出た騎士3人が一斉に飛び出し拘束魔術具を投げつける。

動きの遅い侯爵はもちろんのこと、すぐに走り出した襲撃者の頭領もアンセルマが過去に作った平民の為の防犯グッズで脚を撃たれ捕まった。

散り散りに逃げ出した襲撃者の仲間も、この屋敷の家令や騎士達も次々に捕まえられていく。


「私が何をしたと言うのだ!」

「先程自分で罪を告白なさっていたではないですか。もうお忘れか?」

「私は何も知らぬ!証拠もなくこの様な蛮行を行うとは宰相殿の方が問題があるではないか!」

「証拠はありますよ。いくつも」

「嘘をつけ!あるはずが無い!」

「先日そう同じ様なことをのたまう王妃と王子が揃って廃妃廃嫡されたのをご存じないのか」

「あれは敵国との内通や実子ではなかった為であろう!私は代々この国に仕える由緒正しい侯爵家の当主であるぞ!」

「いつ貴公が国の為に働いたと申すか。第三王位継承者である我が娘を襲わせた罪は償って頂く」

「何を言っているのだ!私が襲わせたのはリカルド殿の婚約者であるグロスター伯爵家の娘だ!」


馬鹿なのか。

やっていないと言った舌の根が乾かぬうちに自分の罪を堂々と宣言する侯爵にこちらの方が閉口してしまう。

だがその発言に公爵は笑みを深めた。

公爵家のこの笑顔がアンセルマは1番怖い。


「リカルドの婚約者も私の娘の様なものだが、グロスター伯爵家にて本日襲撃を受けた娘は我がカディネ公爵家の娘ライムンダである」

「なんだと?!おい、お前っ!間違った娘を襲ってどうする!やはり無効ではないか!」

「俺達が請け負ったのはグロスター伯爵家に居る若い令嬢だ。誰かなんて依頼書に書いてねぇよ!」


侯爵が襲撃者と再び喧嘩を始める。

公爵はそんな2人を侮蔑して罪人達を騎士に任せて馬小屋に進んだ。

アンセルマに、犯罪に使われた馬が全て揃っているかを確認させる。

混ぜてしまえば分からないと思ったのだろうが、アンセルマには印を付けているからどの馬か選別出来る。全部の馬が揃っている事を確認すると、公爵は連れて来た文官に記録する様に言った。


「アレハンドロ、何か他に気になる事はあるか?」


そう問われてアンセルマは周りに気を巡らす。

武器があるであろう場所、戦意をまだ持っているだろう人、証拠になりそうな証書類の場所、そして嫌な気が溜まっている場所・・・。

それは庭と言うより森に少し入った所にある1番大きな木の根元だ。

何か嫌なものが埋められている場所を教える事は出来るがアンセルマには掘り返す勇気はない。

お義父様の後ろに隠れたまま指をさして場所を教えたので、公爵もアンセルマの肩を抱いて文官に位置を記録し後で文官立会のもと掘り起こさせる様にだけ指示をしてすぐに離れる。

震えるアンセルマの肩を抱いたまま、公爵はいくつか指示を与えると帰るぞと言ってエルナンドだけ伴って部屋に戻った。

部屋では母様が隅で震える侍女に目もくれず優雅にお茶を飲んでいる。

何があったのかは知れないが、戻った自分達にお疲れ様とにっこり笑う母様が怖い。

王家で自分はこういう大人達を相手にやっていけるのだろうか。

先日バジリナお義母様が2人で王家にやるのは心配だと言っていた意味をアンセルマはなんとなく理解した。

王宮こそ魑魅魍魎の集まる場所だろう。


「母様、そういえばグロスター領の方は大丈夫でしょうか?」

「あちらはこちら程の被害はないわ。貴方の護りが効果的に効いたそうよ」

「ソフィアお姉様は?」

「特に巻き込まれても居ないわ。差配はしている様だけど」


出来て当然です、と言わんばかりの母様にそれでも安心したのはアンセルマだけではない。

愛する嫁を1人屋敷に残しているエルナンドも母様の態度に安堵の息を吐く。

おっとりしている様だけど、ソフィア姉様は人を動かすのが上手らしい。

商会の方も既に色々任されている様だ。

嫁いびりされているのではないかと気を揉むエルナンドに、信頼を得て任せて頂ける様になったのに邪魔をしては嫌よ?と笑顔でお願いされたと兄様は喜んでいたけど違うと思う。

その笑顔は母様と同じ部類に違いない。

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