敵が逃げた先
エルナンドが操る騎竜である程度の高さまで上がり、その片腕に抱えられているアンセルマは忘れ物の魔法を発動させる。
他の誰にわからなくてもアンセルマには場所を感じることが出来るのだ。
「兄様、あそこです!どこまで行くつもりなのか見届けましょう」
「あっちかぁ•・・もう犯人分かった様なものだけどな」
アンセルマに王都の地理はよく分かっていないが、副団長であるエルナンドにはもう見当がついてしまったらしい。
「アン、カディネ公爵に連絡をとってくれ」
「えっ?!嫌ですよ!!」
「そうだよなぁ、私もまだ怒られたくない。そもそも今アンの通信機が鳴らない方が不気味だ」
「怖い事言わないで下さいませ。ここは母様にお願い致しましょう」
「そうだな。それが良い」
兄妹2人で結託して隣を飛ぶ母様に依頼する。
仕方ない子達ね、と言いつつも母様がカディネ公爵に今から向かう方向について報告してくれた。
見つからない様に追尾して上空で待機せよとの回答である。
二頭の騎竜は公爵家までとはいかないが、グロスター伯爵家よりも大きな屋敷の上で待機する事になった。
「兄様、あそこはどなたのお屋敷ですか?」
「トゥールーズ侯爵家だ」
「トゥールーズって昔ガスパル兄様に付き纏っていた方のお家ですか?」
「あぁ、それだ」
「でもガスパル兄様のお相手の令嬢は結婚されたと聞きましたけど?」
「次期侯爵の長男に長女がおられる。まだ2歳らしいがな」
「リカルド様は16歳ですよ?!」
「珍しい事でもないさ」
14歳差など可愛いものだとエルナンドは肩をすくめる。
そもそもガスパルの相手として推された侯爵令嬢も20歳以上歳の離れた男性に嫁いだそうだから娘の事を政治の道具としてしか思わない家系なのだろう。
そもそもトゥールーズ侯爵家は金に汚い貴族で王妃寄りだったそうだ。
2日前捕まえられなかったのは決定的な証拠がなかっただけで、今回も証拠がないと突っぱねるつもりなのだろう。
ただ頭が良い部類ではないので計画自体は誰かに唆されたに違いない。
「そう言えば騎竜って所有は許可制でしたよね?」
「あぁ。あまり持たれて襲撃に使われては困るからな。孵化した時点で国に登録されるし、登録された騎竜しか所有する事は出来ない」
「じゃあこの子達も登録されているわけですよね?誰が飼い主かも含めて」
「そうなる。もしも登録されていないとなると所有者は罰せられる」
「登録されているかってどうやったら分かるんです?」
「確認する為の専用の魔道具があるが、アンなら鑑定で見ることが出来るのではないか?」
「あぁ、なるほど」
アンセルマは自分の乗った騎竜を鑑定してみる。
だが知らない名前が表示された。
「ダランベール?ダランベールってだれ?」
「ダランベールだと?!また厄介な名前が出てきたものだ」
「この騎竜の持主という事は味方ではないという事ですよね?」
「中立と思われていた家だ。アン、公爵に連絡しなさい」
「えぇっ兄様がすれば良いではないですか。私はあちらの騎竜の鑑定もしなくてはいけませんから」
言い訳をするとエルナンドはハァと重いため息をついて通信機を取り出した。
流石に押し付け合っている場合でもない事態らしい。
公爵にはすぐに繋がって、エルナンドが公爵と話し始めるのを聞きながらアンセルマは隣を飛ぶ騎竜に目を向ける。言った手前、キケと母様が乗る騎竜も鑑定する必要があるだろう。
だが結果、あちらはちゃんとトゥールーズ侯爵家の持ち物のようだ。
「アン、あちらの騎竜はどこの所有だった?」
「あちらはトゥールーズ侯爵家です。盗まれたとでも言うつもりでしょうか?」
「管理も問われるからその可能性は低い。貸借ならあり得るかもしれないが」
「あぁ、撹乱の為ですね」
『面白がっているだけかもしれぬ。自分は安全な所から愉しんでおられるのだろう。そういう方だ』
「どこが中立なんですか、それ」
話しながら下の様子を眺めていると中心部からかなり速いスピードで馬車がトゥールーズ侯爵家へ向かっているのが見えた。
馬車の前後を守る様に4頭の馬も並走している。
「兄様、あの馬車はなんでしょう?」
『私が乗っている馬車であろう』
「お義父様がトゥールーズ侯爵家へ向かっておられるのですか?」
『我が家には聞き分けの無い無鉄砲な娘がいるので致し方あるまい』
「申し訳ありません・・・」
どうやらアンセルマの無鉄砲にライムンダだけでなくカディネ公爵まで動く羽目になってしまった様だ。
申し訳ないとは思うが、公爵家だって攻撃されたのだから当事者である。
後で怒られるのは確定として、ここは思う存分協力してもらおう。
『もうすぐトゥールーズ侯爵家に着く。君達も合流しなさい』
「承知致しました」
キケに合図を送り降下する。
馬車が門を通過したのを確認して、騎竜は敷地内の庭に降り立った。
しかし家の従者が慌てて飛んで来て手を振りながら叫ぶ。
「おい、騎竜を此処に停めるな!裏に停めろ!」
「何か問題が?」
「今、客が来てるんだ!そもそも裏に停める約束だったろう!早く移動しろ!」
「そんな約束私は知らぬな」
騎竜が羽根を閉じるとエルナンドの姿が従者からもやっと見える様になったらしい。
エルナンドが騎士団のマントを付けているのを見てハッとし、慌てて屋敷へ取って帰そうとする。しかし行動はエルナンドの方が早かった。
騎竜から飛び降り、従者の元へ走るとあっという間に従者を引き倒し背中にのしかかる様にして取り押さえてしまう。
「誰と約束したのだ?裏に停めると」
「私は何も知りません、騎士様!庭を荒らされるのは困るだけです!」
「お前のところの騎竜は庭を荒らすのか?確かに我が家に無断侵入していたが、少々躾がなっていないのではないかな」
「なっ!?まさか、グロスター?!」
「ちゃんと侵入させた家も理解しているではないか」
エルナンドが従者に拘束具を付けている間にアンセルマもキケと協力して騎竜を拘束する。
可哀想だが、物的証拠なので奪い返される訳にはいかないのだ。
騎竜と従者も繋ぎ、庭に放置したまま4人は玄関に向かった。




