グロスター家防衛戦
グロスター家に着いた瞬間、目の前に見知らぬ大きな背中が見えたので、アンセルマは手に持っていた拘束具を投げつける。
男が振り返るより早く魔道具がぐるぐると男を拘束し、男がその場に倒れた。
その音にそこに居た数人の男達が振り向くが、アンセルマとエルナンドに投げられた拘束具で2人は同じ用に倒れる。
免れた3人がアンセルマ達に襲い掛かりながら他の仲間に注意を促す。
「おい、また2人増えたぞ!」
「この家はどうなってるんだ?!」
武力大会よりは歯応えがあるが、こちらは最速で騎士団副団長となった騎士とチート女子だ。
そこらのゴロツキに負けるはずがない。
アッサリと残りの3人を打ち倒し、エントランスの敵は居なくなった。
「兄様、とりあえず彼らの退路を無くしましょう」
「あ、あぁ」
玄関を出ると騎竜が2匹停まっている。あとは馬らしい。
30頭近くいる馬を拘束するには拘束具が足りないし、殺してしまうのも勿体無い。
特に騎竜は貴重だから、本当の持ち主を追い詰める為にも確保しておきたいところだ。
「兄様、普通動物ってどうしますか?」
「殺すか、逃すかかな。ただ軍馬は合図を送ると戻ってくる様に訓練されているから、良い馬ほど殺すしかない」
「それは可哀想ですし、勿体無いからやめましょう。畑に入られても厄介ですし。そもそも馬なら逃げられたとしても騎竜で追いつけると思うのですよね」
「しかし関係ないとシラを切られると証拠がないぞ」
「では印を付けておきましょう。兄様は騎竜だけ拘束具お願いします」
「分かった」
アンセルマは一頭一頭のお尻にチョークで忘れ物の魔法をかけておく。
忘れ物の魔法は学校でも習う初級の魔法だ。
自分の物に魔法を掛けておくといざ見つからない時に在り方が分かるというものである。
普通はペンで書いたり、掘ったりするので魔法が掛かっているのが他人からも分かるが、アンセルマの場合は特殊なチョークでもう少し複雑な魔法陣を描くので発動してしまえば魔法がかけられている事を誰も気づかないだろう。
30頭の馬と2頭の騎竜に忘れ物の魔法を掛けて再び屋敷に戻った。
先ほどと変わらず家のあちこちから物が壊れる音と怒鳴り声が聞こえてくる。
アンセルマは玄関から出られない様に施錠の魔法を掛ける。
「ア、アレハンドロ。そんなに魔法を使って魔力は大丈夫なのか?」
「全然大丈夫ですけど、聖水飲んでおきますか?」
「あぁ、そうしてくれ」
アンセルマは腰に刺していた聖水の入れ物を2本取り出して1本をエルナンドに渡す。
一本を自分で飲み干してから洗浄して再び聖水を詰めておく。
エルナンドからも飲み干して洗浄された入れ物が戻ってきたので再び詰めておいた。
「兄様、自分で1本持っておいて下さい」
「ありがとう」
「では2階の方が音が凄いので2階から行きますかね」
「分かった」
そろそろと階段を登って行くと廊下には数人のゴロツキが血を流して倒れている。
アンセルマの部屋の前で騎士が2人、数人と交戦しているが、今にも倒れてしまいそうだ。
エルナンドとひとつ頷き合うと戦場目掛けて飛び込んでいく。
敵襲を知らせる叫び声に振り返った数人がグロスターの騎士から離れてこちらに向かってくる。
「1階の奴らは何してやがるんだ!」
「1人はチビだ、さっさと殺せ!」
チビじゃないもん。普通だもん。
敵の言葉にイラッとして、アンセルマは魔法を使うのを止めて剣を振りかぶった。
人間相手に剣で直接切り付けるのはしたくないが、小さいとリーチが短いのを指摘された様で悔しかったのだ。
確かに小さいのは不利だし、リカルドやガスパルには敵わないが、こんな盗賊もどきに負けるアンセルマではない。
風の様に脇をすり抜けると男が剣を取り落とした。
殺す必要なんてない。
実践では相手を動けなくすれば良いだけだ。
アンセルマが斬ったのは剣を持つ腕の腱である。
ぐあっと叫ぶ男の後ろに回り込み今度はアキレス腱を斬る。
「気をつけろ!このチビすばしっこいぞ!」
「こっちの騎士は攻撃が通らねぇ!」
エルナンドは豪快に斬りつけているところに多少の攻撃を受けた様だが結界が効いていて弾いたのだろう。
アンセルマは次々に襲い掛かってくる男達を剣と魔法で蹂躙する。
思いの外簡単に廊下の敵のカタはついた。
「エルナンド様!それにア」
「アレハンドロ!ですよ?」
「アレハンドロさま、何故ここに」
「話は後です。残りは中ですか?」
「ライムンダ様の姿が見えなくなったことでどこか隠し通路があるのではないかと壊して回っているようで」
アンセルマは2人に屋敷に来た使用人達同様にヒールと聖水とクリーンを掛ける。
2人は急に水をぶっかけられて目を丸くしたが、自分達の傷が癒えているのを見てありがとうございますと頭を下げた。
腰にぶら下げていた聖水も飲ませる。
その間にエルナンドはアンセルマが無力化しただけの敵を縛り上げていく。
「台所に使用人がまだいるのでしたね」
「その筈です。裏から逃げたかもしれませんが」
「皆、無事なら良いのですけど」
アンセルマは通信機を取り出してエドゥアルドをコールする。
その返事を聞くより早く1番奥の部屋のドアがバンッと大きな音を立てて開いた。
「エドゥアルド兄様!カルラ姉様!」
「え?!ア」
「アレハンドロです!」
「なんでこんなところに?!」
「2階は終わりですか?」
「終わりだ!2人外に飛び降りた!」
「では一階の制圧に向かいましょう。兄様達は休息が必要なら少し休んで頂いても結構ですよ」
「まだまだ問題ない!」
アンセルマは再び階段に向かって走り出す。
6人が階段を下りようとするとドアが開かない!と振り向いた男2人と目が合った。
アンセルマは間髪入れずにエアカッターを繰り出して腕と脚の腱を切る。
横に立っていたエドゥアルドが嫌な顔をした。
「護衛対象が優秀過ぎて辛い」
「兄様も優秀ですよ。兄様が来なかったらライムンダ様を逃すのも難しかったようですから」
「そう言って貰えると幾分救われるが、それ以上にアンがここに居るのが1番の問題だな」
「私が悪いのですから私だけ怒られますよ」
「無理かなぁ」
「無理だな」
台所に向かって走るが床に血を引き摺った様な跡が続いている。
残る母様やキケの血ではない事を願って先を急ぐ。
男達がドアを叩き割ろうと鈍器を振り回しているが、台所に続くドアは凍っていて弾け飛ぶのは氷ばかりだ。
「母様の魔法でしょうか?」
「その可能性は高いな」
「中は寒くないんでしょうか」
「今心配するところはそこじゃない気がするよ、アン」
「そうですね。台所なら火も炊けますしね」
エアカッターで攻撃するが取りこぼした敵をエルナンドとエドゥアルドが両脇から打ち倒していく。
ふと馬の鳴き声が聞こえて外を見ると、何人かの男が馬に向かって走っているのが見えた。
前方の敵を兄達に任せ、アンセルマは窓を開けてエアカッターを飛ばす。
窓側の2人が足を取られて転ぶが、奥の人間はそのまま窓の前を走り去った。
「アレハンドロ様、追いかけますか?!」
「外は放っておきましょう。騎竜は使えない様にしてありますから」
台所前も片付いたが、ドアが凍っていて入れないのは自分達も同じだ。
通信機を使って母様に連絡をすると氷はみるみるうちに溶けてドアを開けることができた。
その代わり水浸しである。
中には数人の使用人とキケも居るが、母様もキケも服が血で染まっていて駆けつけた皆を青褪めさせた。
「母様、キケ、怪我を?!」
「大丈夫よ、聖水を飲んだから」
台所には大量の聖水が料理の為に樽で置かれている。その為、使用人も母様もキケも無事だったらしい。
それでもアンセルマは皆にした様にヒールを掛け、クリーンの魔法を掛けた。
とは言えボロボロになった服はどうしようも無い。クリーンで血痕などは綺麗になっても、破れた部分は綺麗になる訳ではないのだ。
アンセルマはサーチを使って屋敷内を確認するが、まだ食堂に3人程残っている様な熱源を確認した。
「まだ3人程食堂に居ますね」
「エドゥアルド、カルラ行ってきて貰えるかしら」
「承知しました、母上」
「それでは母様、私とエルナンド兄様は少し失礼しますね」
「貴方、まだどこに行くつもりなの?」
「馬を追います」
「もう間に合わないでしょう」
「騎竜を確保してますから間に合うと思います」
「馬がどこに走って行ったか分からないじゃない」
「いえ、忘れ物の魔法をかけておきましたから分かりますよ」
「貴方って子は・・分かりました、私も行きます」
まさか母様まで行くと言うとは思わなかったが、アンセルマは拒否するのも面倒なので承諾した。普段のワンピース姿で戦っていたらしい母上の着替えを待って出発となる。
母上の着替えの間にアンセルマは転がっている襲撃者の記憶を魔法を使って読んだ。
軍事関係の本を読んだ時に載っていた魔法である。
昔は事情聴取の代わりに軍でもよく使われていた魔法らしいが、結構面倒臭い複雑な魔法なので最近は宮廷魔道士の仕事となっているそうだ。
断片的に過去の出来事が映像で視える。
隣に転がっている男に全て上手くいったら魔道具を使って狼煙の合図を送るようにと言われていた事が知れた。
隣の男の記憶を読むと、上の人から命令を受け取っている記憶は読めたが、アンセルマには相手の顔や声からは誰なのか分からない。
ただそれなりに良い服を着ていて貴族なのだと知れた。
男の記憶通りに騎竜に括り付けられていた狼煙を上げる魔道具を起動させると、パンッと音がして花火の様に黄色い煙が打ち上がる。
これで相手は襲撃が上手くいったと勘違いするに違いない。
結局、キケと母様、エルナンドとアンセルマが相乗りして奪った騎竜で犯人を追いかける事になった。




