ライムンダからの緊急連絡
次の日はいつもの様にガスパルが迎えにきて、リカルドと一緒に出掛けて行った。
もちろん公爵はそれより早く屋敷をでたが、公爵夫人も2人を追う様にして出掛けてしまったのでアンセルマは屋敷に1人だ。
とは言え、昨日の夕方に一旦グロスター伯爵領出身の顔馴染みの騎士に交代した兄様2人が今日は一日相手をしてくれるらしい。
お義母様も貴方が考え事をすると碌なことをしないからいつも通りに遊んでらっしゃい、と外出推奨して行ったので今日は昨日やれなかった事を全部するのだ。
久しぶりに朝の鍛錬に付き合わされたエドゥアルドはコボルトキングもオークキングもリザードマンキングも倒したところで嫁入り前なのにと遠い目をしていた。
その後気になっていた上下水道も完成させて、グロスター領の水道から蛇口を捻ると『浄化された水(飲料水)』が出る様になり、数個お義母様から返してもらった聖水魔石をセットしたら想定した通りに聖水が出る様になった。
台所と風呂場と訓練場脇にあるグロスター領の騎士の詰め場に設置で計3つである。
見学していたお母様もライムンダも父様から聞いていた様でこれでいつでも聖水が使えると喜んでいたが、エドゥアルドだけが知らなかったらしく更に顔を引き攣らせていた。
次に多くの畑を回り農家と新しい野菜の経過を確認して、次は最近始めた発電の実験をして・・・最近ずっと付いていたエルナンドでさえ最後は少し疲れた顔をしていたが、久しぶりに全力のアンセルマに付き合ったエドゥアルドは完全に最後は死んだ目になった。
しかしやっと辿り着いた公爵家で満面の笑みのアンセルマに「兄様達ありがとうございます!」と聖水を差し出しながら言われ、身も心も完全に浄化され満足気に帰って行く。
これで明日も付き合ってくれるだろう。
何故か報告する前から晩餐前に帰ってきた公爵夫人もリカルドも公爵もアンセルマの今日一日の動向を知っており、やっぱりアンセルマは自由にさせておくのが1番だと褒めてくれるが釈然としない。
エニオと少し話しただけで帰って行ったはずなのに兄様達はどうやって報告したのだろうか?
次の日もアンセルマは兄達と各地を回っていつも通り過ごしていた。
しかしそこにアンセルマの通信機が緊急の事態を告げる。
聞こえてきたのはライムンダが誰かに叫んでいる声だ。
『貴方達なんですの!ここをグロスター家と知っての狼藉ですか!!』
『アンセルマ嬢、貴方に罪はないが国のため死んで頂く』
隣にいる兄たちも実家に何かが起きたことを察知した。
ライムンダの後ろから剣がぶつかる金属音が響き、何かが壊れたり悲鳴がする。
助けに入りたいが今は遠く離れたアルギルダス領の海辺だ。
アンセルマはすぐに踵を返して走り出す。
一拍遅れて兄達もアンセルマを追いかけてくる。
「アン、待て!どこに行くつもりだ!?」
「まずは公爵家に戻ります!エルナンド兄様、カディネ公爵に連絡を!エドゥアルド兄様は父様に!」
「公爵家に戻ってどうする?!」
「あそこが全ての起点なのですよ!何をするにも公爵家に戻らなくては!」
「アン、お前は護られる立場だぞ!ダメだダメだ!何もするな!お前はアルギルダスの城でエドと待機だ!」
「自分の家が私のせいで襲撃されているのですよ?!兄様は跡取りでしょう!?撃退しなくてどうするのですか!!」
「俺の仕事はアンの護衛だ!」
「ライムンダ様が私に間違われて襲われているのに家でじっとしているなんて出来るわけないでしょう!大体、グロスター家の護衛は何をしているのですか!?」
エルナンドと揉めている間にも通信機からはグロスター家の緊迫した状況が伝わってきていたが、ライムンダも戦っているのか音が途切れ途切れになってくる。
通信機は使用中魔力を込めていないといけない。
同年代に比べ魔力操作が上手いとは言え、ライムンダはまだ11歳だ。
戦っているのか、逃げているのか、どちらにせよ他の事をしながら通信機に魔力を込めるのは難しいのだろう。
通信は走っている間に切れてしまった。
そこに父様と通信していたらしいエドゥアルドが情報をもたらす。
「王都周辺のあちこちで暴動が起きているらしい。それで騎士団が対処に追われているそうだ」
「陽動に引っかかったという事ですか?!」
「陽動だろうが騒ぎが起きれば騎士団は動かざるを得ない。その時点で何も起きていなかった伯爵家に何人も置いておくわけにはいかないだろう」
「じゃあうちは手薄なままなのですね?」
「少人数で戦っているのは間違いないだろうな。グロスター領から騎士を出すらしいが騎竜では時間がかかるから間に合うかどうか」
「騎士団に魔法陣があるではないですか」
「何人も移動させるだけの魔力なんてあるわけないだろう。それに領地は領地で他の領地の農民が雪崩れ込もうとしてきているらしい」
アルギルダスの城のエントランスに駆け込むと、たまたまそこを通りかかったらしいエドゥアルドの妻であるカルラが3人の慌てた様子に眉を顰めた。
「エド?何があったのです?」
「カルラ姉様!少し手を貸して頂けませんか!?」
「アン!」
エルナンドが静止したがアンセルマは構わずカルラの手を掴む。
丁度討伐をした帰りなのかカルラは甲冑を着た戦闘スタイルである。
辺境伯の長女で跡取りであるカルラは子供の時から父親の魔物討伐に同行させられていた為にグロスター三兄弟には勝てないまでも、同年代の女子の中では最強と言われた女だ。
アンセルマ自身も一緒に討伐に何度も出たことがあるのでその強さをよく理解している。
「手を貸す?」
「グロスター家が襲撃されているのです!」
「なんですって?!」
「王都のあちこちで暴動が起きていて、うちまで騎士団も手が回らないようなんだ」
「グロスター領の騎士は?」
「領地は領地で他の暴動が起きているらしい」
「ではうちから人を、」
「カルラ様だけで十分です!アルギルダスもこれから何が起きるか分かりませんから」
「行こう」
「トラン!」
カルラが頷いた次の瞬間にはアンセルマが魔法陣を起動する。
魔法陣に載っていた4人は次の瞬間、公爵家の玄関に移動した。
公爵家では特に問題は起きていない様で、普段通りの静寂を保っている。
自分の部屋がある2階に駆け上ろうとすると、エニオが下から追いかけてくる。
「アンセルマ様!お待ちください!」
「なんですか、エニオ?今急いでいます!」
「公爵様からアンセルマ様がお戻りになったら、家から出さない様に仰せつかっております!」
「私は出ません。兄様と姉様をグロスター家に送るだけです!」
アンセルマの答えにエドゥアルドとカルラが頷く。
エニオは安心したように息を吐いた。
それからこの屋敷も襲われそうになったが、何故か誰も屋敷に入る事が出来ないまま弾き飛ばされた事を教えてくれた。
忘れていたが小賢者の石の検証の為に結界が張られたままである事を思い出す。
「この屋敷は結界が張られているので安全です。エドゥアルド兄様、グロスター家の玄関に送りますから、皆を私の部屋の転移陣の上に誘導して下さい」
「転移陣の場所が分からないぞ?それにこの転移陣、アンかリカルド様にしか起動出来ないのだろう?」
「場所はキケが知ってます。起動はこちらでしますから連絡だけ下さい。カルラ姉様も宜しいですか?」
「分かったわ」
アンセルマは部屋に入ると机の上に置いてある紙にサラサラと魔法陣を2枚書きつけた。
それをエドゥアルドとカルラに持たせて魔法を発動する。
2人が移動した後敵陣の真ん中に放り込まれたら大変なので守護の魔法を付与したのだ。
「守護の魔法は30分しか持ちませんので気をつけて下さい」
「十分だ、ありがとう。」
「転移陣に全員が乗ったら私に連絡を」
「分かっている」
「では、お願いします。トラン!」
2人を乗せた魔法陣の端に膝をついて魔力を込める。
魔法陣に乗ったエドゥアルドとカルラだけが転送された。




