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お義母様の心配

結局、これからする事になる立太子の儀式と今まで敢えて隠されていた王家周りについて教えてもらっていたら晩餐の時間になってしまったのだった。

晩餐の少し前に帰ってきた公爵と公爵夫人は昨日の事を恥ずかしそうに小さくなって謝るアンセルマに貴方の本音が聞けて良かったわ、と微笑んだだけだ。

ライムンダは今日はグロスター家にお泊まりだそうで帰っては来なかった。

どうやら王宮のゴタゴタが終わるまで王位継承者を一箇所に留めておきたくないという理由もあるようだ。

グロスター家は魔物が出る領地なのもあって腕が立つ騎士が他領に比べて格段に多い。

夜は騎士団長である伯爵も帰宅しているから警備としては抜群だろう。


「リカルド、貴方の立太子は3日後になったわ」

「よくそんな短期間で叶いましたね」

「王妃のやらかしも取り巻きのやらかしも全部証拠が揃い過ぎていて昨夜の内に概ね一網打尽よ。歯ごたえが無さすぎて本当につまらないわよね」


王妃が嫁いで17年。

その時からずっとずっと疑って行動を注視してきた王と側近達は王妃に従順なフリで王妃周辺を探ってきた。

ほぼ解明出来ていない部分はないらしいが、特に法律的に問題になる様な行為をしていない貴族やこの国に属していない商人や傭兵になると捕まえようが無いという問題は残っているらしい。

だから気をつけなさいと2人は言う。

そういう悪意を持った大人達から隔離されてきたアンセルマにはなんだか実感が湧かない事ばかりだ。

そもそもアンセルマの顔をちゃんと認識している人間なんて家族やグロスター伯爵家とカディネ公爵家の使用人達以外殆ど居ない。

先日王に挨拶した時に眼鏡を取ったが、アンセルマを認識出来たのは王以外にはオルシーニ侯爵と令嬢くらいだろう。

あとは距離が離れて居たから他のゲストからは見えなかった筈だ。

アイダにすら素顔を見せたのは公爵家に遊びにくる様になってからである。

顔も知らないのにどうやって襲いにくると言うのだろう?

そもそもアンセルマが公爵家にいる事を知っている人なんてアイダ以外に外部の人間は知らないのだ。

アンセルマへの認識なんて、リカルドの幻の婚約者、鉄壁のグロスター三兄弟の妹、髪の切れた女子武力大会入賞者、影の薄い万年主席、と悲しいものばかりである。


「アンセルマ」

「え?はい」

「貴方、私の話は聞いていて?」

「すみません、聞いてませんでした」

「一体何をぼーっとしていたのかしら」

「えーと・・・」


考え事をしていて3人の話を聞いていなかった。

しかし素直に答えると卑屈な事を考えて、と怒られそうでもある。

3人の顔を見て、アンセルマは咄嗟に思いついた事を口にする。


「私の血と王族の血を混ぜると賢者の石が出来ますよね?であれば、私とお義母様とか、私とライムンダ様でも出来るのかな?とか」

「アンセルマ、貴方・・・」

「いや、やらないですよ?やらないですけど、ナイフについていた私の血とリカルド様が手を切った時の血で賢者の石の素が出来たので、小さいのならば契約魔術に使うくらいの量で出来るんじゃないかなと思っただけで」

「一緒に契約魔術を使う機会があった時についでならいいわ。でも実験の為に体を傷付けるのはダメ。分かってくれないかしら?」

「分かってます」

「いい子ね、アンセルマ」


目の笑っていない笑顔でそう念を押されてアンセルマは小さくなる。

流石のアンセルマだって昨日の今日でダメなのは理解しているつもりだ。

どうせ相手が協力してくれないと出来ない実験だから血をくれとも言えないし、そもそも賢者の石に聞けば答えを教えくれるだろう。


「貴方達2人だけで王宮にやるのは本当に心配だわ」

「王宮に行くのですか?」


ハァと公爵夫人がため息を吐く。

慌てて隣のリカルドに助けを求めようと視線を向けるが、リカルドもどこか生温かい笑みを浮かべた。


「貴方リカルドと一緒にいたいのよね?」

「いたいです」

「リカルドは3日後に立太子するのよ?王家の人間になるの。生活するのは王宮になるわ」

「あ!」

「リカルドと一緒にいたいなら結婚するしかないの。そうしないとリカルドの側には居られないのよ?結婚したらもちろん貴方も王宮に住まう事になるわ」

「すみません、なんとなく王宮はお父様方の職場というイメージしかなくて。考えてみたら当たり前の事なんですけど、このお家を離れるのはなんだか寂しいですね」


しゅんとしたら何故か公爵夫人にまた盛大にため息を吐かれる。

リカルドはよしよしと頭を撫でてくれた。

3日後に立太子して王宮に移るとなると、自分が結婚して王宮に住む様になるまで離れ離れということだ。

今でさえ昼間一緒に居られなくて不安になるのに何日も会えなくなったりしたら自分は耐えられるだろうか。

王宮だと毎日会うことすら簡単ではないのかもしれない。

リカルドが成人してから半年以内に結婚とは裏を返せば最大半年離れ離れと同意義だ。

なんとか取り繕って食事を終えたが、部屋に戻ってリカルドと2人きりになるとアンセルマの痩せ我慢は崩壊した。

ドアが閉まったのと同時にリカルドの腰に抱きつく。


「アンセルマ?」

「リカルド様は寂しくないのですか?」

「この家を離れるのが?」

「わ、私と離れるのがです」

「離れるつもりはないけど?」

「だってリカルド様は明後日から王宮で過ごすのでしょう?そうしたら離れ離れじゃないですか」


急に抱きつかれてアンセルマの肩を掴んでいた手が背中に回り、ぎゅっと覆いかぶさるように抱きしめてくれる。


「1日も我慢出来ない程僕と離れたくないんだね、アンセルマは。可愛いな」

「王宮に行っても毎日会えますか?」

「当たり前じゃないか。毎日会えるよ」

「本当に?」

「あぁ。アンセルマが嫌だと言っても離さないから安心して」


暫くそうして抱きしめあっていたが、リカルドがクツクツと笑い出す。


「何がおかしいのですか?」

「アンセルマの言った通りだなと思って」

「え?」

「身長差があるとキスがしづらいって。またおかしな事を言い出したと思ったけど、アンセルマが言うことはいつも可愛い真理だ」


そう耳元で笑いながら言うリカルドの体が少し離れて、リカルドの顔を見ようと顔を傾けたアンセルマの唇を奪う。

甘い口づけにアンセルマは必死にリカルドの腕にしがみつきながら応えた。

離れていく唇を名残惜しそうにみつめるアンセルマの額から頭に向けてリカルドの大きな手が髪を撫で付ける様に触れる。

その温もりにアンセルマはどこか安心してしまうのだ。


「アンセルマ、今はまだそんな可愛い顔しないで。食べてしまいたくなる」

「食べたら無くなってしまいますよ」

「言い得て妙だな。初めては一回きりと言うのが厳しすぎる」


苦笑してリカルドはアンセルマの足を浚って抱き上げ、椅子に移動する。

いつもの様にアンセルマを膝に乗せたまま席についた。


「こうして座るには丁度良いサイズとも思うんだけどね」

「そうするとお膝に乗ってる時しか私から出来ませんね」


悪戯にそう言って頬にキスをする。

リカルドが驚いてバッと少し身をひく様に距離を取った。

リカルドをびっくりさせられた事に機嫌を良くしてアンセルマはくすくすと笑う。

リカルドもそんなアンセルマに相好を崩した。


「じゃあアンセルマにはもう少し身長を伸ばしてもらうしかないな」

「牛乳飲んでいっぱい寝る様にします」

「結婚式には間に合わないのが残念だ。あぁ、アンセルマのウェディングドレス姿が待ち遠しいな」

「それは私のセリフです」


先日王宮に成人の儀で行った時のリカルドもカッコよかったが、立太子となったらもっとカッコいい姿に違いない。

そんな隣に立つのもおこがましいが、ついいつも忘れがちだがメガネなしであればアンセルマも超絶美少女だ。

2人が正装で並んだら、それはそれは美しいに違いない。


「王宮に魔法陣を設置しても良いでしょうか」

「アンセルマが抜け出す用?」

「逢引用です。この部屋と繋いで」

「それなら大丈夫じゃないかな」


ただ問題はアンセルマがリカルドの部屋に行くまでアンセルマ自身で転移陣を仕掛けられないという事だ。

転移陣は行き先をイメージ出来なければ仕掛けられないのだから。

リカルドに繋げてもらう事も検討しよう、と心に決めてアンセルマはリカルドと眠りについた。

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