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聖水魔石と賢者の石

リカルドの説明に聞かされていなかった事情は大体理解できた。

それでもどこか不安は拭えない。

その不安を晴れない表情から読み取ったらしいリカルドがいつもの様に丁寧に寄り添う。


「他に何か不安に思うことはある?」

「王太子妃?王妃?って何をすれば良いのでしょう?」

「アンセルマは今まで通り好きな事をして過ごせば良い。貴族の義務として夜会やお茶会は増えるとは思うけど、最低限で構わないよ」

「そうなのですか?」

「その方が国益の為だと言えば誰も文句は言えないさ」


とは言え問題は強制力だ。

今のところリカルドとの結婚に障害はないように思えるが、何処かからまだ横槍が入るのだろうか。

王妃が捕まったのだからと安心するにはまだ早い気がする。


「エルナンド兄様とエドゥアルド兄様が護衛に付くのは何か危険がある可能性があるということですか」

「僕には普段ガスパルがついてくれているが、王位継承権を持つ僕を襲うことは多分ないだろう。心配なのはアンセルマの方だ」

「私ですか?」

「僕と結婚するのが1番王家への近道だからね。アンセルマの美貌も能力も今まで隠してきた分アンセルマを亡き者にしようという不届き者が出る可能性が高い」


婚約者を殺してしまえばその座が空いて椅子取りゲームやり直しということか。

とは言えまだ結婚もしていないアンセルマに騎士団を付ける訳にもいかず腕の立つ兄達を護衛に付けたと言うことなのだろう。

今までアンセルマに付き合わされていたエルナンド兄様にそんな理由があったなんて知りもせず、暇なのかなくらいに思っていたのが申し訳ない。

お婿に行ったエドゥアルド兄様も認識阻害メガネのせいで存在感がなく平凡以下の妹にも関わらず社交界デビューの為に無理を通して王都の成人式に参加した兄バカ扱いされる不名誉を被らせてしまった。


「アンセルマ、結婚するまでが1番危険だ。決して1人にならない様に気をつけてくれ。アンセルマは確かに強いけれど、万が一ということもある」

「普段通りに過ごしてはダメですか?」

「兄上達と一緒ならばいつも通りしてもらって構わないよ。1箇所に留まっているよりむしろ良いだろう」

「良かった。もう少しで上下水道が完成するのですよ」


列車や船を作る段階で森林保護の観点から木炭を使う事を禁止し、代わりに蒸気機関車の原理やオリーブ廃水から作ったバイオ燃料を活用した事から製鉄の技術も飛躍的に進化している。

試しに掘り始めたグロスター伯爵家の周辺の地下はアンセルマが魔法で掘ったが、街中や農村部の地下についてはTVで見たことのある掘削機をイメージして巨大な掘削機の原型を作ってもらい、アンセルマが錬金術で魔法付与した魔導掘削機を使って掘っている。

下水道は農村部のハズレの森の中に作った沈殿槽に流れ込み、沈殿物は隣の有機肥料の工場に送り込まれ、上澄の水は浄化魔石で濾過され綺麗な水になって川に流される設計だ。

川が汚染されない様にかなり気を使った。

上水道についても雨水を貯める浄水場や川からの水を取り込む場所を各地に作り、それを下水処理場と同じ原理で濾過して流している。

ただし各家に水道を作るのはまだ時間が足りないので、水道もどきがあるのはグロスター伯爵家と直営地の農地だけだ。

領民は上下水道があるどころか地下にトンネルを掘られている事すら気づいていないだろう。

トイレについては魔導トイレでそこらに捨てられる事はなくなったので変えていないが、それ以外の廃水は皆、路に作られていた溝に流していた。その行先が川だったのを下水道に変更しただけである。

川沿いでは川に直接捨てている様なところもあったから川に捨てるのを禁止し、捨てる場所を指定したに過ぎない。誰も変更されたことに気づかないはずだ。


「これが上手くいけば次はうちの領地と王都だね」

「はい。リカルド様が王太子になったら水道も設置しやすくなりますね」

「煮沸もしない水が飲めるなんて未だに信じられないけど、母上は聖水のお風呂に入れなくなるのを残念がってたよ」

「グロスター家もですけど、公爵家の水道は更に特殊な魔石で作った浄水器をつけますから今まで通り聖水が出る様になる予定ですよ?」

「アンセルマ、それ聞いてないよ?」

「言ってませんでしたっけ?」

「・・・特殊な魔石って何?」


そう聞かれてアンセルマはハッとする。

アンセルマはリカルドに何でも話してきた。

自分で考えるよりリカルドに判断を任せた方が手っ取り早いし、間違いがないからだ。

研究に関しても今どんな道具を作ってるとか、何が次にやりたいとかどんな下らない事でも話せばリカルドは嬉しそうに全部聞いてくれる。

その何気ない会話で頭が整理されて新しい発想のヒントになったりするのでどんな小さな事でも話してきたのだ。

ただ、アンセルマが聖水の作れる魔石を開発したのは本当に偶然だった。

それはアイダに聖女候補メラニアが王子と学校の裏庭で睦み合っている話を聞いて不安になった時の事だ。

いつもの様にリカルドに優しくされて布団に入り一度眠りに落ちたが、アンセルマは嫌な夢を見て夜中に目覚めた。

まだ夜中の2時くらいで、だけどアンセルマはもう一度眠る気にはどうしてもなれなかった。

仕方なく布団から出たアンセルマは昼間やりかけていた研究の続きをランプも点けずに月明かりの下でやり始めた。

何か手を動かしていれば集中して嫌な夢を見た事もメラニア嬢の事も少しは忘れられると思ったからだ。

アンセルマは聖水が出る魔石が作れないか、そもそも魔獣から取る以外に魔石を人工的に作る方法がないかを考えていた。

ビーカーの中に自分で出した聖水を入れその中に魔石を1日漬け込んでみたのだが、取り出した魔石を鑑定しても漬ける前と同じ「コボルトキングの魔石」と表示され、用途などにも変化が見られない。

浸けていた水の方を鑑定しても「アンセルマにより生成された聖水」といつも通りに表示され、やはり効能は変わっていない。

今度は魔石を削って溶かしてみようと思い、アンセルマはいつも腰に差している短剣で魔石を削ろうとして手を滑らせた。

掌がザックリと切れて血が溢れ始める。

アンセルマはその血が垂れない様に慌てて聖水の入ったビーカーの上にその切れた手を乗せた。

ポタリポタリと聖水に血が落ちて不思議な模様を描いて血液が聖水と混ざり合う。

それが月光に照らされる様子をアンセルマは何故か血を止めるのも忘れて眺めていた。

ズキズキとしている気はするが何故か痛みは感じない。

ただ、流れる血にこれは現実だと実感する事が出来た。

これは現実だ。ゲームやマンガなんかじゃない。そもそも私はこんなキャラクターが出てくるストーリーを知らない。

透明だった聖水が赤に変わる頃、視界の端に表示されていた鑑定画面の表示がピコンと変わった。

「聖水魔石の素」と。

アンセルマはハッとして血を流す自分の手を空のビーカーの上に移すと、魔石の素になった赤い液体の用途に「魔力を注ぐと聖水魔石と変化する」と記載されているのを確認した。

アンセルマは魔石になれと念じながら魔力を込める。

少しずつ込めていくと色が鮮やかな光を発してルビーの様な赤く透き通った小さな石がコロンとビーカーの底に残った。

鑑定名は「聖水魔石」となっている。

用途は水に漬けるとその水を聖水に変えると書いてあった。

アンセルマは血を溜めていたビーカーと空になったビーカーを交換して聖水を注ぎ、と夜明けになるまでその実験を繰り返した。

結局、聖水とアンセルマの血、魔力を1対1対1で混ぜ合わせると魔石が出来ることが分かったのである。

最終的に怪我は自分でヒールで治して、栄養剤代わりに聖水を飲んでおいたけど、直後はまだ寝不足と貧血気味でフラフラしていて凄く心配された。

寝ずにそんな実験をしていたとは言えずにアンセルマは夢見が悪くてよく眠れなかったと誤魔化したのだ。

そもそも手を深く切ったのに処置もせずに眺めていたと言えば自傷行為を疑われかねない。


「うーん、ヒミツです。私にしか作れませんし」

「アンセルマ、何か危ない事をしてるんじゃないだろうね?」


うっかり目を逸らしたアンセルマにリカルドの鋭い目が光る。

初めて隠し事をされた怒りも混じっていたかもしれない。

握っていたアンセルマの手首を握ってグッと引っ張る様にしてアンセルマを自分の下へ引き倒した。


「リカルド様?」

「僕に隠し事をするの?」

「偶然出来ただけなんです。だから」

「だから?」

「一つくらい秘密があっても良いじゃないですか」

「そうだね。僕も王太子になる事を敢えて言わなかったものね。じゃあアンセルマ、2人だけの秘密を作ろうか。大人達には初夜まで手を出してはダメだと言われているけど」


リカルドの指がアンセルマの唇に触れ、そのままツツツと下に下りて鎖骨の間から胸の谷間に向かってなぞる。

襟ぐりを指で引っ掛ける様にぐっと下に引っ張られてアンセルマは目を見開いた。

アンセルマを見下ろすリカルドの表情は怒っている様な、でも悲しそうな、それを無表情に押し込めたようで感情が見えずに怖い。


「リカルドさま」

「僕と結婚したいと言うくせに僕を受け入れる気はないの?」

「・・あります。リカルド様のものになれるならすぐにでもなりたい。でも、お義父様やお義母様の信頼をリカルド様に裏切らせたくないのです」


素直に答えたアンセルマにリカルドはハッとしてアンセルマを抱き起こす様にしてぎゅっと抱きしめた。

ごめん、と肩口に触れた唇から言葉が溢れる。

アンセルマはそろそろと腕を伸ばしてぎゅっとリカルドを抱きしめ返した。

いつもリカルドはアンセルマを守ってくれるけど、リカルドだって今日成人したての男の子だ。ガスパル兄様がいたとは言え、大きな秘密を抱えていたのはきっと辛かったに違いない。

そこに秘密がないと思っていた婚約者に秘密だと言われて傷付かないはずがないのだ。


「じゃあ作り方教えますけど、皆には秘密にしてくれますか?」

「教えてくれるの?」

「怒らないって約束してくれるなら。」

「怒られる様な事したんだ?」

「・・・約束するのですかしないのですか!」

「そこまで言われるとちょっと今は自信がないな。僕も大概、アンセルマの事になると余裕がないんだ」

「じゃあやっぱり約束するまで秘密です」


締め切ろうとしたアンセルマにもぞりとリカルドが頭をもたげてアンセルマの顔を間近で見下ろす。

ぷぅと拗ねた顔のアンセルマの頬を指で突いて小さく笑った。


「分かった、約束する。怒らないよ。だから教えて?」

「絶対ですよ。あと皆にはナイショですよ?」

「僕からは言わないと約束するよ。でも君、皆に問い詰められて話してしまうんじゃない?」

「リカルド様との2人だけの秘密と言い張りますから大丈夫です!」


胸を張ってみせる。

きっとリカルドとの約束だから言えないと言えばリカルドに質問の矛先が変わるに違いない、と。

リカルドは苦笑しながら、分かったよと了承した。


「聖水と、魔力と、私の血を1対1対1で混ぜると出来るのですよ」

「聖水と魔力と何て言った?」

「血です。血液」

「アンセルマ・・・偶然と言ったけど、どんな偶然が?」

「魔石を削ろうとして掌をザックリ切ってしまいまして、その血が滴って聖水の入ったビーカーで混ざりあったら聖水魔石の素に変わったのです」


ばっとリカルドがアンセルマの手を握って両手を開かせる。

傷が残っていない事を確認してほっと胸を撫で下ろしたようだ。


「すぐにヒールで治しましたよ」

「出来上がった魔石を見せてくれる?」


アンセルマは立ち上がって机の引き出しから作った聖水魔石の詰まった瓶を取り出す。

瓶の中にはあの日以来、コツコツ作った聖水魔石が30個くらい詰まっている。

普段はあまり作らない。

メラニア嬢の話を聞いてやるせ無い気持ちの時はなんだか感覚が鈍感になるのでいつも夜中に起きて魔石を作っていたのだ。やっぱりある意味自傷行為かも。

その中から一粒を受け取って、手の上で転がしながらリカルドはアンセルマに問う。


「アンセルマ・・・これ一個作るのにどれくらいの聖水が必要なの?」

「ビーカーに指1本分くらいでしょうか」

「それと同量の血が必要って事だね?」

「そうなりますね」

「その瓶いっぱいの魔石、まさか1日で作ったんじゃないよね?」

「まさか。何日かに分けて作ってます」

「その度に掌を切ってるの?」

「そうですね」


大小あるが宝石にしたら70k()くらいの大きさがないと水道水を最大に捻った時に聖水に出来ない。なのでそれくらいの大きさを量産している最中だ。1番小さい1k()大のものではビーカーいっぱいの水を聖水に変えることしか出来ない。

リカルドが手に持っているのは70k()大の魔石である。

リカルドは立ち上がるとアンセルマの机に向かい、置いてあるビーカーを手前に寄せた。

それからアンセルマが置いていたナイフを鞘から抜いていつもアンセルマがやる様に自分の掌を躊躇いなく斬りつける。


「リカルド様!」

「近付くな」


何をするのか分からず座って見ていたアンセルマは慌ててリカルドに飛びつこうとしたがリカルドの静止に動けなくなる。

リカルドの手から滴る血がビーカーに溜まっていく。


「リカルド様、止めて下さい!」

「騒ぐな、アンセルマ。人が来る」

「だって!早くヒールを!」

「アンセルマはそれを作るのにこんな事をしたんだよね?」

「そうですけど、それは偶然で・・」

「ひとつ目はそうかもしれないが、2個目からは違うよね?大体何故、聖水と同量まで血が流れるのを黙って見ていたの?」

「それは・・・なんだか神秘的だったから」

「いつ?いつこんなもの作っていたの?夜中だよね?昼間は1人になる事なんてなかった筈だ」

「夜中です。寝つけなかった日に」

「僕じゃアンセルマの不安を取り除く事が出来ていなかったという事だね?」

「違います。リカルド様は悪く無いっ!」


怒らないでと約束するんじゃなかった。

まさかこんな方法で罰を与えるなんてアンセルマには予想すらなかった。

リカルドの手から血が滴り落ちるのをただ見ているだけという現実に眩暈がする。

自分が切るのより痛い。

アンセルマは震えながら、冷ややかな目で自分を牽制するリカルドから目を離せずにいる。

リカルドの血がビーカーに指2本分溜まったのを見て、アンセルマはリカルドの手に飛びついた。


「ヒール!」


血は止まったが手は血に汚れたままだ。

寝間着でハンカチを持っていないアンセルマはすぐにその完治を確かめたくてリカルドの掌を舐め上げた。

血の味が口の中に広がるが、なぜかその味も嫌なものでは無い。


「アンセルマ!」


舐められたのに驚いてリカルドが手を引こうとするが、アンセルマは懐に入り込む様にしてリカルドの腕を脇に挟んで離さない。

諦めたリカルドの手が綺麗に治ってるのを確認して、その掌に自分の顔を押し付けた。


「リカルド様のバカっ」

「バカはアンセルマだろう。こんな事を何回もしたなんて」

「だからって自分もやるなんて大馬鹿ですっ!リカルド様の血で何を作るって言うんですかっ!」

「アンセルマのバカが治る薬だろう」


背後でため息をつくリカルドを振り向こうと身を反転させた視界に短剣が目に入る。

その表示にアンセルマは一瞬動きを止めた。


「アンセルマ?」

「リカルド様、ごめんなさい。これはダメだ」

「何がダメだって?」


リカルドの腕の中でアンセルマは短剣を握り、リカルドが理解するよりも早く自らの掌を切りつけた。

もう一つの空のビーカーに血を落としていく。


「アンセルマ!言った側から何をやってるんだ!?」

「リカルド様、その短剣についた血を鑑定してみて下さい」


リカルドも精度は落ちるが鑑定をする事ができるのだ。

ビーカーを掴むようにして血を溜めていくアンセルマの手を掴もうとするが、いつにない圧で鑑定しろと言われ、リカルドは言われた通りに短剣の先に付いた血を鑑定する。

リカルドとアンセルマの血が混じったであろう部分が「賢者の石の素」と表示されていた。


「賢者の石の素?」

「リカルド様の血だけ鑑定すると王族の血です。それが私の血と交わると賢者の石の素になる」


そこまで言ったところで、ドアがノックされる。

声を掛けてきたのは公爵夫人だ。

どうやらドアの前に立っていた執事が中の騒ぎに踏み込む事ができずに公爵夫人を呼んだらしい。


「貴方達、何を揉めているの?開けるわよ」

「母上、少し時間を下さい。今、錬成中なので後で必ずご説明に伺います」

「本当ね?アンセルマもそれで良いのね?」

「はい、お義母様、お騒がせして申し訳ありません!」

「分かりました。錬成が終わったら必ず私の部屋に2人で来なさい」


足音が遠去かる頃にはリカルドと同じくらいの血が溜まっている。

リカルドに手を引き剥がされてヒールを掛けられた。

アンセルマがしたのと同じ様に舐められそうになったので、アンセルマは咄嗟にクリーンの魔法を使う。

さっきもそうすれば良かったのにと我ながら思うが、さっきは思いつかなかったのだから仕方ない。


「僕のは舐めたくせに」

「さっきは気が動転して魔法が思い付かなかっただけです!」

「じゃあ僕もお返しに」


そう言ってリカルドはアンセルマの掌にキスをする。

そんな事より、だ。


「リカルド様、どれくらいの大きさの石にしますか?」

「アンセルマ、思ったんだけど、これを錬成すれば良かっただけでは?」


そう指差されたのはアンセルマが最初に気づいたナイフだ。

昨日の夜も卒業パーティーのギャフンが不安で手を切るのに使ったが、錬成中に誰かが近付く気配がしたので慌てて鞘に収めたから血が残っていたのだろう。

ちなみに入ってきたのはお義母様で、アンセルマの寝たふりの寝顔を確認すると頭をひとつ撫でて出て行ったのだ。

そんな事初めてだったけど、心配かけて申し訳ないなと思ってそのまま寝てしまったのだった。


「じゃあ、まずはこれで試してみましょう。リカルド様の手を通してほんの少しずつ魔力を流していきますね」


血液はほんの少ししかない筈なのに70k()の聖水魔石を作るのと同じくらいの魔力を消費した後、金色の光を放って本当に小さな石がコロリと机の上に転がった。

鑑定すれば「小賢者の石」となっている。

効果は「永久魔力供給」だ。


「魔力供給できるみたいですね」

「結界魔法陣の真ん中に置いておけばずっと発動しておけるということじゃないかな」

「なるほどなるほど。結構魔力使いますけど、残り大きな1個にしますか?それとも中くらいのを2個?」

「アンセルマの希望は?」

「うーん、何が出来るか気になるので大きいのを1個でしょうか」

「じゃあ、大きなのを1個にしようか」


リカルドの血にアンセルマの血をそっと注いでいく。

同量になったところで鑑定の表示が賢者の石の素に変わった。

アンセルマの血が1センチ程余ったがそこは気にせず2人で手を重ねて魔力を注いでいく。

大きな魔法陣を起動する時よりもかなりの勢いで魔力を吸われていく。


「結構取られますね。リカルド様まだ大丈夫ですか?」

「まだまだ大丈夫。アンセルマは?」

「まだまだ大丈夫です。どこまで吸われるのかワクワクしますね」

「そんな事で喜ぶのアンセルマだけだよ」


片手で引き出しを漁り魔力特化型のポーションを取り出し蓋を開けてリカルドに差し出すと、リカルドは受け取ったポーションをアンセルマの口に突っ込んだ。

そうじゃないっ!

仕方なくもう一本開けて今度はリカルドの口に突っ込み返す。

リカルドは嬉しそうにありがとうと微笑んだ。

そうじゃない・・・。

聖水魔石の10倍くらい魔力を吸われたところで眩い金色の光を発し、ビーカーギチギチの大きさのイエローダイヤモンドみたいなキラキラした賢者の石が出来上がった。


「わぁ、すっごく綺麗ですね!」

「聖水魔石も綺麗だけどね」


賢者の石を鑑定するのに気を取られていて振り向くと、リカルドが再び掌をナイフで切っている。

アンセルマは驚き過ぎて賢者の石をとり落としそうになった。


「なっ、なにしてるんですか、リカルド様っ!?」

「アンセルマの血が残ってて勿体無いから。アンセルマ、良い所まできたらストップって言って」

「私の血なんて聖水魔石にすれば良いだけじゃないですか?!」

「どうせその石は父上に取り上げられるよ。アンセルマはアンセルマで欲しいでしょ、賢者の石?」

「それはそうですけど・・・」

「僕が手を切るのが嫌だと思うならもうこれ以上自分の血を使う魔術は禁止だからね。分かった?」


それでも頷けないアンセルマにリカルドはハァとため息を吐く。

だって聖水魔石は便利だと思うのだ。

今はアンセルマが各地に直接行って大量に聖水を樽に詰めている。

と言ってもカディネ侯爵家とグロスター伯爵家のタウンハウスとカントリーハウス、それからアルギルダス辺境伯の戦闘用備蓄倉庫だけだ。

どうせ各地にはしょっちゅう行ってるし、別に大した労力ではないのだけど、樽に入れてしまうと倉庫から樽ごと運ぶのが面倒になる。水道だったら好きな時に好きなだけ出せるから楽だと思うのだ。

特にアンセルマがいる公爵家はアンセルマが直接お風呂に注ぐけれど、アンセルマが居なくなったグロスター家ではお風呂に水を入れるのも重労働だと思う。

兄様は普通の水魔法で溜めてるって言ってたけど、母様としては美容の為に1週間に1回は聖水風呂に入りたいらしい。今はアンセルマが魔法陣で行って溜めてあげている。だけど王家にお嫁に行けばそんな自由があるかも分からない。そんな母様達の為にも必要だと思うのだ。結婚して王家に嫁ぐのであれば公爵家でも必要になるわけだし。

そうこうしてる内に賢者の石の素が出来上がり、リカルドの血を止めて今度は魔法で綺麗にしてから再び賢者の石を作る。

リカルドの血が1、アンセルマの血が1、魔力が10といった割合で必要の様だ。

大きな賢者の石の1/3くらいのサイズだが、名称としてはちゃんと「賢者の石」となっている。


「大賢者の石でも中賢者の石でもないですね」

「じゃあ今出来た賢者の石はアンセルマが持っていてね。2人だけの秘密だよ?」

「小さいのは?」

「小さいのは僕が貰ってもいいかな?」

「もちろんです。なんなら大きいのももう一個作りましょうか?」


リカルドが薄い笑みを浮かべて顔を近づける。

リカルドの手がアンセルマの頬を撫でたと思ったら癒しとクリーンを掛けられた。

涙でボロボロになっていた顔がスッキリした感じがする。

しかしそのまま顔が近づいてきてゴッと額を打ちつけられた。

まさかの癒した後の頭突きだ。

ただ、リカルド自身も結構痛かったらしく額を手で押さえている。


「痛いっ」

「血液を使うのは禁止と今言ったばかりだよ。アンセルマはいつからそんなに記憶力が悪くなったのかな」

「約束してないもんっ」

「アンセルマぁ」

「じゃあ聖水魔石の1番大きいのあげますね。それなら良いでしょう?」

「あぁ」


リカルドの了承にアンセルマは引き出しの中からハンカチに包まれた聖水魔石を取り出した。

瓶に入っていた70k()よりも大きい120k()くらいの大きさの聖水魔石だ。

それを見たリカルドの眉間に皺がよる。


「アンセルマ、あの瓶が全部じゃないの?」

「これは1番大きいからリカルド様にあげようと思って避けておいたのです。だからほら、リカルド様の名前を刺繍したハンカチに包んでおいたのですよ」

「分かった。もう分かった。母上の所に行こうか。アンは1番大きな賢者の石を持って。僕は聖水魔石の瓶を持つから」


リカルドに手を引かれ部屋を出るとエドゥアルド兄様とエニオがほっとした顔をした。

どうやら兄様は護衛としてドアの前に立っていたらしい。

エニオも連絡係として2人を心配して様子を伺っていたのだろう。

あれ、もしかして今までも2人きりにされた後はエニオがこうやってドアの前で様子を伺っていたんだろうか。

それはそれでかなり恥ずかしい。


「もしかして兄様はずっとドアの前に立っていらしたのですか?」

「まぁそういう事になるかな。護衛だからね」

「いつお休みになるのです?」

「エルナンド兄さんと交代するから心配要らないよ。これは仕事なのだし」

「お仕事なのは理解したのですけど、私なんかの為になんだか申し訳ないです」

「何言ってるの。たった今、自分の価値を爆上げしたばかりだって言うのに・・・」

「爆上げ、ですか?」

「兄様、リカルド様が大袈裟に言ってるだけですから」


ハハハと笑ってみせるが、どう考えてもリカルドの方が信頼度が高い。アンセルマの誤魔化し笑いに背後を歩くエドゥアルドはため息を吐いた。


「アンセルマ、あまりリカルド様にご迷惑をかける様な事をしてはいけないよ」

「それは常々気をつけたいとは思っているところなのですけど」

「もっと言ってくれ、エドゥアルド殿。貴殿の妹はどうかしている」

「リカルド様が甘やかすからでしょう。お望みでしたら連れて帰りますが」

「望む訳がなかろう」


そうこうしている内に公爵夫人の部屋の前に着き、エニオがドアをノックする。

入りなさい、と中から声がしてエニオがドアを開けてくれた。

中には公爵夫人だけではなく、いつの間にか帰宅したらしい公爵もラフめな格好で同席している。

上座に公爵、その横の長椅子に公爵夫人が座っており、リカルドと並んでアンセルマは公爵夫人の対面の長椅子に座った。

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