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男達の奮闘

公爵家に戻るまでエルナンド兄様とエドゥアルド兄様は馬で馬車の横を一緒について来ていたらしい。

リカルドにお姫様だっこされて馬車を降りるまでアンセルマは全然気付いていなかったのだ。

リカルドは特に気にする様子もなくアンセルマを抱いたまま屋敷に入った。


「リカルド様、わたし、歩けます」

「部屋まで大人しくしていて?」


2階に上がり部屋の長椅子に降ろされる。

リカルドは侍女にアンセルマを風呂に入れるように指示してからアンセルマに後でまたと言って部屋を出て行った。

いくらアンセルマが小さいとは言え、今日のドレスは重い。

抱えさせて申し訳なかったと思いながら、侍女に促されるまま重たいドレスを脱いで湯浴みする。

着ている時はそんなに気になっていなかったが、脱いでみると開放感がすごい。


寝具のネグリジェの上にガウンを羽織り一息つく頃にはリカルドも身軽な格好で再び現れた。

いつもの夜の様に2人分のお茶を入れると侍女達は部屋を辞する。

隣同士に座るとリカルドがアンセルマの手を握った。


「アンセルマ、今日の舞踏会はどうだった?」

「反省しています」

「反省する事なんてなかったよ。とても上手に社交が出来ていたじゃないか」

「だって、私の我儘のせいであんなに早く帰る事になってしまったんですよ?!」

「アンの我儘なら幾らでも聞いてあげたいけど、元々長居するつもりがなかっただけだよ」

「嘘」

「嘘じゃないさ。後で父上でも兄君にでも聞いてみれば良い」

「何故兄様達に?」

「彼らは仕事で私達に付いていると言ったろ?」

「え?会場の警備ではないのですか?」


本当に仕事をしていたとは驚きだ。

まだパーティーも終えていないのに公爵家まで付いて来たのも仕事だというならその行動も理解が出来る。

だが何故自分達に付いている必要があるのかはアンセルマにはまるきり理由が分からない。


「彼らは僕達の護衛だよ」

「護衛?何故、私達が守られる必要があるのですか?」


アンセルマと話している間指を絡ませて戯れていた手をリカルドがぎゅっと握った。


「アンセルマ。今日王子が廃嫡されたのは見たね?」

「はい。見ました」

「では万が一陛下が亡くなられた場合、王位継承権第一位は誰か分かるかい?」

「コルデーロ殿下にはご兄弟が居ませんから、王様の妹という方でしょうか」

「そうだ。しかし王妹は既に降嫁している。その場合はどうなると思う?」

「王妹にお子様が居ればその方でしょうか?」

「その通り。王妹には2人の子供がいる。それが私とライムンダだ」

「え??」

「母上は王妹なんだよ」

「えっっ?!?!バジリナ御義母様がですかっ!?」


言われてみればカディネ公爵夫人の実家の話題が出たことがない。

堂々とした気品も王族だと言われれば納得してしまう。

顔も今日会った王様と似ていたかもしれない。

だけど、こんなに近くに王位継承権を持つ人間がいるとは思ってもみなかったのだ。

しかも結論としてはリカルドが王位継承権を持つ人間だと言うことになる。

しかも今の話ぶりからすると次の王太子はリカルドと言うことになるではないか。


「り、リカルド様、え、ではリカルド様が?!」

「僕が王太子になる予定だ。数日後にね」

「え、でもじゃあ公爵家はどうなるのですか?!」

「ライムンダが婿を取って継ぐことになる」

「じゃあ私は?!私はリカルド様と結婚出来ないのですか?!」


だって公爵令息と結婚したいと願ったのだ。

リカルドが王族になってしまったら、王妃教育を回避したいと神様に願ってしまった自分が結婚する公爵家長男はリカルドではなかったという事になる。

ここまできて、こんなにリカルドを好きになってしまったのにリカルドが相手じゃありませんでしたなんて酷い。

こんなギャフンはあんまりだ。無慈悲すぎる。

残酷な現実にアンセルマの瞳からぼたぼたと涙腺が壊れたみたいに涙が落ち始めた。

リカルドはびっくりした顔をしてポケットから出したハンカチでアンセルマの涙を拭う。


「アンセルマは僕のお嫁さんになるに決まってるだろう?」

「だって、リカルド様は王太子になるんですよね?公爵ではなくて。それなら私では無理でしょう?!」

「なんで無理だと思うの。アンセルマは名門伯爵家の娘で、学業も魔法も武術も全て学年一位で主席の才女だよ?聖水が出せる聖女なのに僕の結婚相手として認められない訳がないじゃないか」


本当だろうか。

だってオルシーニ侯爵令嬢がいる。

そうだ。

断罪されずに、国外追放にもならず、王妃教育も受けていただろうオルシーニ侯爵令嬢がいるのだ。

オルシーニ侯爵令嬢とコルデーロ殿下の婚約は破棄されたとは言え、コルデーロに非があったのだから賠償問題になるだろう。

今から王太子並みの相手を再度探すのも難しいに違いない。

オルシーニ侯爵令嬢と王子の婚約者の座を争ったトゥールーズ侯爵令嬢は結局、丁度良い相手がいなくてかなり年上の辺境に近い伯爵家に嫁いだと聞いた。


「オルシーニ侯爵令嬢がいるじゃないですか!」

「オルシーニ侯爵令嬢は隣国の王子に嫁ぐことが決まっているから問題にはならないよ」

「今日コルデーロ様と婚約破棄したのになんで隣国の王子に嫁ぐ事が決まっているのですか?!」

「そういう密約があったんだ。コルデーロ殿下が廃嫡されると同時に切り替わる密約が」


今回背信で捕らえられた王妃は別の国から和平協定の証として嫁いできた王女だった。

その頃は我が国の方が立場が低く、王は王妃を尊重するしかなかったのだそうだ。

しかしここ数年のアンセルマの農業改革や魔術具のお陰で立場は逆転し大分差がついたらしい。

周りの国ではペストが流行ってかなり人口が減り、古典荘園のせいで穀物生産が落ちて穀物価格も上がる一方なのだそうだ。

そして輸入しようにも近くの領地は同じような有様で、遠くに行くにも船は風任せで時間もかかる。

それに比べて我が国ではアンセルマの聖水や浄化、風呂文化の推進、トイレ普及による衛生向上のお陰でペストの封じ込めに成功している。

更に一部の領地とは言え有力貴族が農業を推奨支援し純粋荘園へ移行した事で穀物生産量がアップし安定した価格を維持していた。

更にこれもアンセルマの親戚筋だけではあるが鉄道、車、高速船により物流のスピードが馬鹿みたいに速い。

軍部も魔術具や聖水のお陰で負け知らずだ。

国力が雲泥の差となっている。


和平協定の証とは言うが、王妃の出身国は我が国を内側から乗っ取るつもりだったのだろう。

輿入れに伴って何人かの側近を連れて来た王妃は自分の臣下に爵位を与えさせた。

その内の末端の1人が聖女候補の義父であるドルー男爵だ。

王妃は未だに自身の方が優位だと思い込んでいる。

それは王や宰相が王妃の我儘に従うフリをし続けてきたからだ。

野菜料理や時計、トイレが王都にだけいち早くもたらされたのは王家並びにカディネ公爵家やグロスター伯爵家が王妃に従順であると思わせる為でもある。

ただしカディネ公爵が存在を公にしてこなかったビデオカメラや録音機、アンセルマの価値については知らされていない。

その為、色々な証拠を取られている事など気づいていなかったのだろう。

王妃は息子であるコルデーロが即位出来る成人になるのを機会にこの国を乗っ取るつもりだったらしい。

その為に聖女をでっち上げ、歴史あるオルシーニ侯爵家を排して上層部を牛耳るつもりだったのだ。

側近候補であったリカルドやガスパルが自爆する様に側近を降りたのは王妃には都合が良かったに違いない。

それでも次々に流行を生み出す領地の子供として何かと無茶も言われたし、試されたりもした。しかし2人は勉強が出来るだけで領地経営には無知な息子を演じ続けてきたらしい。

王妃は無害だが有益な子供達として最近はあまり敵対対象として重要視はされていなかったようだ。


「何故コルデーロ殿下には王位継承権がないのですか?」

「それは陛下の子供ではないからだ」

「陛下の子供じゃない?」


王と王妃の初めての交わりで破瓜が見られなかったそうだ。

つまり王侯貴族の初婚であれば処女である事が求められる世界なのに王妃は処女ではなかった可能性が高い。

王とほんの数回の交わりですぐ子を成し、コルデーロ殿下が生まれるとその後はボツ交渉となったそうだ。

あまりにすぐ子供が出来たと判明した為、王はコルデーロ殿下が産まれる前から自分の子ではない可能性が高いと考えていた。

そしてやはり生まれた子供には王に似ているところは1つとしてなかった。

髪の色も、瞳の色も。

それでも王は国の繋がりを考え王妃を丁重に扱い続けてきた。


「何故、閣下はコルデーロ殿下を自分の子供ではないと断定出来るのですか?」

「瞳の色が金色を持っていないからだ」

「あぁ、なるほど」

「なるほど?不思議には思わないのか?」

「え?だってリカルド様も金色じゃないですか」


そのアンセルマの発言にリカルドは怪訝な顔をする。

リカルドの瞳は普段夜空の様な深い青だ。金色などどこにもない。

だけど、アンセルマが魔力を流すと月が浮かぶ様にその青が金色に光る。

最初の頃はリカルドがアンセルマの背後から手を伸ばして手を重ねていたので気づいていなかったのだが、魔法陣を作ったり大きな機械を作る様になって正面から見る事が増えて気づいたのだ。

そういえば本人にも「リカルド様の瞳は夜空みたいで綺麗ですね」としか言った事がなかったからリカルドは気づいていなかったのかもしれない。


「リカルド様に私の魔力を流すと金色に光りますよ」

「なんだって?」

「やってみせましょうか?」


一度席を立って手鏡を持って戻るとその手鏡をリカルドに持たせる。

反対側の手を両手で包む様に握ってアンセルマは魔力を流した。

すぐに月が浮かぶ様にリカルドの瞳が金色に変わる。

手鏡を見ていたリカルドも信じられぬものを見るように鏡に映る自分を見つめていたが、すぐに相合を崩す。


「流石だな、アンセルマは」

「リカルド様の瞳は夜空の様に綺麗で好きだと言ったでしょう」

「あぁ、アンセルマ。これが王位継承権を持つ為に必要な条件なんだ」


王家の血を色濃く継ぐ者には証がある。

礼拝堂で洗礼に準じる行為をすると目が金色に光るのだ。

王妹であるカディネ公爵夫人の息子であるリカルドは洗礼の際に浸水され金色に光った。もちろんライムンダも。

だがそれを知るのもまた王家の者だけで、隣国の姫であった王妃はそれを知らなかったらしい。王は洗礼を理由に一度コルデーロ殿下を王妃を排して教会に連れて行ったそうだ。

そして洗礼を行ったがコルデーロの瞳は母親とも少し違う赤い瞳のままだった。

証明の為に陛下が抱いてコルデーロを水に浸けたが、コルデーロと違い手が濡れただけの陛下の瞳は金色に光ったからその儀式が悪かったわけではない事は間違いがない。

目が金色に光らない王子の瞳に王はやはりかとは思うものの、むしろ決意を固めたそうだ。

そしてその事実を知るのは王と宰相と騎士団長と儀式を執り行った教皇だけであり、4人はただ口を閉ざして深く頷き合っただけだった。


同じ年に生まれたリカルドが優秀なのは幼い頃から明らかだった事もその王の決意を後押しした。

リカルドに比べコルデーロ殿下は王妃に似て我儘で、愚かな子供だった。

王はコルデーロがもっと賢くて思慮深い人間であったのなら王位は継がせないまでも臣籍降下させ爵位を与えて重用するのも吝かではないと思った時もあったそうだ。

しかし王妃に似て醜い心根しか持たぬコルデーロに王は王妃が甘やかしてロクに勉強させないのも特に咎めてこなかった。

将来排する事を前提にしていたからだ。


慣例に従い5歳でコルデーロ王子の遊び相手を選ぶことになった時、同じ様に王の同級生で側近のカディネ公爵とグロスター伯爵、そして妹であるカディネ公爵夫人だけに王位はリカルドに決めた事を告げ、密かにそれに向け動きだした。

その年生まれたライムンダは公爵家を継ぐ事になる。

その為嫁に出される令嬢としてではなく公爵家を継ぐ者として厳しく育てられる事が生まれながらに決まってしまったのだ。

その頃アンセルマはまだ2歳なので特に計画の中に名前は挙がっていなかったらしい。

遊び相手として選ばれたリカルドもガスパルもコルデーロとのお茶会が始まった頃はまだ事実を知らされていなかったそうだが、賢い2人は初めてのお茶会が終わる頃には既にあの王子とは友達になりたくないと軽蔑していたそうだ。

リカルドとガスパルはすぐに意気投合して王子を誉めておだてて従順なフリで何かと誘導してくだらないお茶会の回数を減らしたり、すぐに終わる様に仕向けて2人で遊んでいたらしい。

それから3年が経ち、そろそろ婚約者の選定の段になってリカルドは自分が王位を継ぐことになる事を聞かされたそうだ。

リカルドは特に驚かなかったらしい。むしろ納得と安堵しかなかったと言う。

そしてガスパルもまたその事実を聞かされ、自分の役割を知ったそうだ。

リカルドの側近。そしてライムンダと結婚して公爵となること。


しかしグロスター伯爵にはその頃別の悩みがあった。

あまりにも可憐で優秀すぎる一人娘の事だ。

アンセルマは親の欲目がなくとも赤ん坊の時から美しい子供だった。

それが年を重ねるにつれ色々な才能を開花させていく。

今はまだ子供だからと外に出さなければ良いが、外に出せばたちまち噂になってしまうだろう。そうすれば碌に働かない名ばかり侯爵家や最悪廃嫡される予定のコルデーロに見初められてしまう可能性が高い。

王やカディネ公爵にうちの娘は最高に可愛いと言ったところでただの親バカだと思われるだけだ。だからグロスター伯爵はガスパルとひとつ賭けに出た。

アンセルマの能力を活かし、保護をしてもらうには公爵であるカディネ公爵に守らせるのが手っ取り早い。

アンセルマの資質がカディネ公爵好みである事は旧知の間柄であるグロスター伯爵には確信があった。

カディネ公爵にアンセルマを護らせるには王となる予定のリカルドに見初められれば良い。

ただ問題はグロスター家からガスパルとアンセルマの2人も王家の中枢に入れる事になってしまうという事だ。

グロスター伯爵家が権力を持ち過ぎると周りから目をつけられるのは間違いがなく、それを王とカディネ公爵が良いとするかはグロスター伯爵にも確信が持てなかった。

ガスパルの立場が不安になるが、それは本当にそうなった時に考えれば良いと割り切ってリカルドとアンセルマを引き合わせたのである。

見事、策はハマってリカルドは両親に未来の王妃はアンセルマしかいないと初めて見せる熱心さで説得したらしい。

アンセルマと結婚できないならば王にならないと宣言してまで。

だがそこまでせずともカディネ公爵にはリカルドが持ち帰った時計だけでアンセルマの価値が分かったらしい。

次代の公爵については後で考えるにしても、リカルドの相手はアンセルマと決められたのである。

ガスパルについては一旦保留の現状維持となった。


ガスパル自身、アンセルマがリカルドの婚約者になれば自分の立場が危うくなることは理解していた。

それでもガスパル自身も愛する妹を優先したいと迷う父親の背を押したのだ。

自分は元々三男で本来ならば爵位など望めない立場にある。

最悪、騎士団に入ってリカルドの護衛でもすれば良いのだと。

しかしアンセルマに一番近く、アンセルマを一番理解し、影響を受けたのもガスパルだった。

他の兄達もアンセルマの影響を受けたが、アンセルマが考案する魔力訓練や勉強を一番最初に試すのはいつもガスパルだ。

お陰でガスパルは年齢を考慮すれば三兄弟の中で一番強くて賢く育った。

その為リカルドの親友の座をずっと他の誰にも譲ることなくここまできたのだ。


一方、オルシーニ侯爵家は歴史ある王族派の家柄である。

コルデーロがまだ幼い頃にはそのヤンチャさをまだ幼いのだから教育していけば何とかなるだろうと考えていたらしい。

自分の娘をコルデーロに嫁がせ、コルデーロの不足を補わせれば良いと考えていた。

その為にも享楽にふけるトゥールーズ侯爵家の令嬢をコルデーロの婚約者にするわけにはいかない。

その想いは王の周辺でも同じだった様でコルデーロの婚約者はオルシーニ侯爵令嬢となったのである。


オルシーニ侯爵令嬢はコルデーロを支える為に努力を惜しまなかった。

厳しい王妃教育にも熱心に取り組み、やんちゃで勉強嫌いなコルデーロをどうにかしようと試みる。

だがそれは焼け石に水だった。

王妃も王も誰も王子はそれで良いのだと協力的ではなかったからだ。

学園に入る頃にはオルシーニ侯爵令嬢自身もコルデーロを諦めていたし、とてもコルデーロを愛する気にはなれずに我が身の不幸を嘆いていた。

そこにたまたまお忍びで来ていた隣国の第一王子が街で出会ったオルシーニ侯爵令嬢に惚れ込みコルデーロの婚約者と知らず求婚してきたのだ。

それを機にそれまで何度も王に苦言を呈してきたオルシーニ侯爵は最後通牒として王にコルデーロの廃嫡を進言したのである。


王が本来頭を下げることはない。

だがカディネ公爵とグロスター伯爵以外の人間を排した部屋で、王はオルシーニ侯爵に頭を下げた。

コルデーロは元々廃嫡する予定であると。

今まで娘を無碍にされた怒りよりも国を思う侯爵の立場から安堵の方が大きかっただろう。

王妃周辺を欺く為には娘の犠牲は仕方ない事だったとオルシーニ侯爵も理解出来たのも大きい。我が国の王家の誰にも似ないコルデーロを不審に思っていたのは間違いではなかったのだから。

王は続けて次期王太子であるリカルドの婚約者にはアンセルマが決まっている為、オルシーニ侯爵令嬢が我が国の王妃になる事は出来ないと告げた。

今までグロスター領やカディネ領の力によって相手国に勝る国力をつける事が出来たのはアンセルマの能力があってこそで、国として手放す事が出来ないのだと。

その為、オルシーニ侯爵令嬢が望むのであれば隣国の王子との婚約を秘密裏に結ぶ方向で王家が調整すると約束した。コルデーロとの婚約は表立っては継続のままで。


コルデーロは何かと勉強しろと言うオルシーニ侯爵令嬢を疎ましく思っており、2人の間には大きな溝が既に出来ている。

万が一、コルデーロがオルシーニ侯爵令嬢に危害を加えない様、国が陰ながら護衛を付ける事となった。

オルシーニ侯爵令嬢がこの国に留まることを望むのであればガスパルを婿とし、爵位を与えることも検討されていた様だ。

しかしオルシーニ侯爵令嬢はリカルドもガスパルも何を考えているのか底が知れなさ過ぎて御免らしい。

隣国の王子は最近の我が国の好調ぶりを見る為、お忍びで王都に来ていたのだとか。

街で出会った隣国の王子との間にどんなドラマがあったのかは知らないが、オルシーニ侯爵令嬢も相手に好意を抱いており、隣国へ嫁ぐ事が決まったのだ。

オルシーニ侯爵令嬢が既に王妃教育が進んでいるのも王子の婚約者を奪う形になったのも密約となる婚約を有利に進めるのに良い方向で作用した。

隣国の方が大国であるものの、国の現状はペストにより壊滅的であり、多くの支援を約束する事で優位な立場として和平協定が結ばれたのである。

お互いの国では支援を元に和平協定が結ばれた事だけが発表された。

支援はオルシーニ侯爵家、カディネ公爵家、グロスター伯爵家が担う事も同時に発表された事により内情を知らない王妃は出る杭は打たれるのね、とご機嫌だったそうだ。


「だから僕のお嫁さんはアンセルマだけだし、心配することはないよ」

「でも王妃教育なにもしてません」

「アンセルマは王妃教育したくないんでしょう?僕は約束は守るよ。しなくて良い約束だからね」

「しなくても良いものなのですか?」

「アンセルマは既にそれに準じるだけの勉強は終わってるから問題ないよ。陛下にも父上にも了承は得ている」


言っておいて良かったと思う反面それで良いのかと不安になる。

涙はやっと止まったが、アンセルマの顔は既にぐしゃくしゃのボロボロだ。

リカルドは片手でアンセルマの手を握り、もう片方の手で包み込む様にして触れた頬に残る涙の跡を親指を動かしてかき消した。

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