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断罪でお約束の卒業パーティー

リカルドとガスパルの卒業式。

アンセルマは公爵夫婦と自分の家族に挟まれいつもの地味メガネでその様子を見守った。

上の兄2人の卒業式には他の兄弟は出た事がなかったのに、今日はエルナンド兄様もエドゥアルド兄様も一緒に出席している。

アンセルマが今年度学校に来たのは2年目の武力大会と今日だけだ。

リカルドとガスパルも同様である。


武力大会は無理に出る必要はないと言われたが、去年不戦勝となってしまったアンセルマに納得いかない人達が騒いだらしい。

バレンティンを3位に賭けていた人達だろう。

大穴狙いでアンセルマを3位に入れて賭けていた生徒も数人いたそうだが、その中にガスパルも含まれており大儲けしたせいで八百長と言われているのだとか。

ちなみにリカルドはアンセルマを2位に入れていたらしい。

そんな話をアイダから聞き、アンセルマは兄の名誉を守る為にも参加する事にした。

ただしリカルドとガスパルが学校に掛け合って去年の入賞者である3人は準々決勝からのシード扱いでの参加となったのだ。

3人で示し合わした縛りは魔法は風魔法の中級触りまで。それ以外の魔法は使わない、である。

結局今年も3位決定戦でバレンティンと戦う事になったアンセルマはバレンティンを瞬殺した。リカルドとガスパルからのリクエストはフルボッコだったのだが、一発目に剣に乗せて風魔法を使ったら去年のリカルドと同じ展開になってしまったのだ。

王子の側近弱すぎん?

今年もリカルドが優勝して、2位がガスパルという去年と同じ結果になったのである。

そんな訳でリカルドが主席、ガスパルが次席という事で卒業式には表彰された。

3位は王子の婚約者であるオルシーニ侯爵令嬢である。

王子や聖女候補の成績は中の下といった所らしく見る影もない。

側近候補達も上の下から中の中といった所らしく、この国の未来が心配になるところだ。

卒業式は何事もなく終わったものの、2階席に座っているアンセルマからは一階席に座る王子と聖女候補がずっと式次そっちのけでイチャイチャしていたのが目に入っていた。

きっと隣の国賓席から見ていた王様からもよく見えただろう。


その夜、王宮でパーティが開かれた。

既に相手がいる卒業生は婚約者を伴い、相手が居ない卒業生は家族や恋人ではないと間違いようのない相手を伴う。

アンセルマはリカルドの瞳の色である深い青のドレスを着てリカルドの腕に手を添えて会場に入った。

ガスパル兄様の相手は残念な事に母様だ。

そして王子の婚約者であるオルシーニ侯爵令嬢は父親を伴い、コルデーロ殿下は当たり前のようにメラニア嬢を伴って入場した。

メラニアはコルデーロ殿下に贈られたという殿下の瞳の色である赤いドレスを着ているのに、オルシーニ侯爵令嬢は王子の全く色のないエメラルド色のドレスを着て居るのが決定的な立場の違いを表している。

それを遠目で見るだけでアンセルマは胸を痛めた。

壇上の王と王妃、それからその傍には宰相であるカディネ公爵と騎士団長である父様が並ぶ。

会場にも警備としてエルナンド兄様や魔獣討伐で顔馴染みのメンバーが各配置についている。

騎士団を辞めたはずのエドゥアルド兄様まで護衛に加わっているのは自分だけアンセルマの社交界デビューを見逃すわけにはいかないという私的すぎる理由をカディネ公爵が許したかららしい。

だがアンセルマには会場のあちこちにいる味方の存在が勇気となる。

気を抜いてはいけないと背筋を伸ばすのには丁度良い。

王と王妃への挨拶は身分の順に行われる。

つまり王子であるコルデーロ殿下と隣に居るのが当たり前の様に腕を組むメラニア嬢からだ。


「父上、母上、本日成人を無事に迎えました」

「おめでとう、コルデーロ。貴方がもう成人だなんて月日が経つのは本当に早いものね」

「卒業おめでとう、コルデーロ。して、そちらの御令嬢は誰だね?」

「聖女候補であるメラニア・ドルー男爵令嬢です」

「陛下、王妃様、お初に御目に」

「お前の婚約者はオルシーニ侯爵令嬢であろう」


メラニアの挨拶を遮って王は王子にそう指摘した。

王子の次に挨拶する事になるリカルドとアンセルマのすぐ背後にオルシーニ侯爵令嬢は順番待ちの為、控えている。

もちろん王と王子の会話は聞こえているだろう。


「父上、オルシーニ侯爵令嬢は私の婚約者として相応しくありません。この聖女候補であるメラニアに数々の嫌がらせをし、排除しようと暗躍していたのです。私はオルシーニ侯爵令嬢との婚約を破棄し、聖女候補であるメラニア嬢との婚約させて頂きます!」


高らかに宣言した王子にどこか冷ややかな視線を向ける王がにこりと微笑んだ。

王妃は最初から知っていたのか焦る様子もなくにこにことその様子を見守っている。


「そうか。コルデーロの言い分は分かった。オルシーニ侯爵令嬢の回答を聞こう」


王が宙をかくように手招きをすると王子が勝ち誇ったように後ろを振り向いた。

リカルドは自分の腕を掴むアンセルマの手に自分の手を重ね、王とオルシーニ侯爵令嬢が対峙できるように傍に一歩下がって道を譲る。

静かに会釈してオルシーニ侯爵と令嬢が王の前に進み出た。


「コルデーロの申したこと、聞こえていたであろう。どうだ、オルシーニ侯爵令嬢」

「ご挨拶の前に発言させて頂くことお許しください。婚約破棄の件、お受け致します。ただしドルー男爵令嬢への嫌がらせについては全く身に覚えが御座いませんので冤罪で御座います」

「コルデーロとオルシーニ侯爵令嬢との婚約破棄を認めよう。又、オルシーニ侯爵令嬢からの申し出により以前より監視をつけていた。オルシーニ侯爵令嬢がコルデーロの言う嫌がらせに加担していない事は国が保証する。コルデーロ、冤罪をかけたこと、謝罪せよ」

「父上!私は間違った事など言っておりません!」

「コルデーロ、謝罪を」

「父上!」

「あなた、コルデーロは王太子ですのよ?!」


今まで王妃や王子を言いなりで甘やかしてきた王が王子に謝罪を求めた事で王妃は怒りの抗議をあげる。

それを最前列で見ながら何事もないようなリカルドの隣でアンセルマも必死に無表情を装うものの、内心は目が飛び出しそうな展開にリカルドの腕に捕まる手に力が入る。

その手をリカルドは大丈夫だよと言うように上から反対の手で撫でてくれた。

まさかの断罪返しの展開。


「コルデーロを廃嫡とする」


一瞬、会場中が静まり返った。

これはかなりの大スキャンダルだ。

王子とオルシーニ侯爵令嬢との婚約は王命である。

それを王子であるコルデーロの独断で婚約破棄など出来るはずもない。

優良貴族との絆を強めるために結婚するのに、それを一方的に断罪して破棄するなど治世を乱す要因でしかないのだ。

それを理解していない王子など国の障害でしかない。


「あなた?!何を血迷ったことをおっしゃるの!!」

「父上、謝らなかったくらいで冗談が過ぎます!!」

「私達の子はコルデーロしかおりませんのよ!?」


親子でぎゃーぎゃー騒ぎ始めた2人に王は立ち上がった。


「コルデーロは私の子ではない」

「何をおっしゃるの?!」

「コルデーロには最初から王位継承権はないのだ。クストディオ、姦通、国を欺いた罪で王妃を拘束せよ。上級貴族に冤罪を掛け、王命に背いた罪でコルデーロもだ」

「はっ!」


えぇっ!?王子が王様の子供じゃないってどういうこと!?王位継承権がないって?!

王様のびっくり発言に内心驚いていると、王妃の隣に立っていた父様がそう短く返事をし、それを合図に騎士団が動き出す。

咄嗟に駆け出そうとする王妃は父様が投げつけた昔アンセルマが小作人達の為に作った防犯用の捕縛魔術具で拘束されその場に膝をついた。

コルデーロも同様にしてエルナンド兄様に捕縛される。

卒業に浮かれていた雰囲気が一気に深刻な雰囲気になっているものの、上級貴族達が全く表情を変えずに黙って見守っているので中級貴族達もそれに倣って押し黙っており、騒いでいるのは下級貴族だけだ。

我関せずを一番貫いているのはアンセルマの隣に立っているリカルドである。

この状況が見えていないのかと思う程、アンセルマの手に重ねた手が宥めるように擦ったり、悪戯するように指を絡めたりしている。

お陰でアンセルマも気が逸れて、どこかドラマを見ている様な他人事にも思えた。

その目の端でメラニアがじりじりと後退りし始める。

しかしその動きを止めたのも王だった。


「ドルー男爵令嬢、オルシーニ侯爵令嬢に対して其方から何か言い分はあるか」

「わっ、私は何も申し上げておりません!コルデーロ殿下が勝手に言い出した事ですわ!」

「其方がオルシーニ侯爵令嬢に嫌がらせを受けていると公言している証拠は複数押さえておる」


カディネ公爵がアンセルマが議事録音用に作った録音機の魔道具を複数、王の手に受け渡す。

王はその一つに魔力を加えて録音を再生してみせた。

メラニアがコルデーロに涙ながらに被害を訴えている様子がしっかり録音されている。


「そんなの偽造ですわ!」

「私を侮辱するか」

「ぶ、侮辱などしておりません!冤罪と申し上げております!私の声では御座いません!」


宰相が1人の騎士を呼び寄せて魔石を渡す。

受け取った騎士が用意されていた映写機の魔道具にその魔石を載せて魔力を流し込むと、用意された白い幕にコルデーロに泣きながらしがみ付いてオルシーニ侯爵令嬢からの被害を訴える映像が映し出された。

この魔道具もアンセルマがカディネ公爵の為に作った会議用プロジェクターと、畑用に作った防犯カメラの組み合わせである。

なんだか色々と想定外の使い方をされていた様だが、オルシーニ侯爵令嬢の冤罪を確かにする証拠となるなら何よりだ。


「ドルー男爵令嬢、其方の罪は他にもある。カディネ宰相」

「1つ、王妃と通じ禁止されている魔術具を使用し聖女候補と偽りの情報を周囲に誤認させた。1つ、同一の魔術具及び魔法薬を含む食品を使い学園内で王子以下上級貴族である側近達を誑かした。1つ、それに伴いその婚約者達の名誉を著しく害した。1つ、コルデーロを通じ国庫の金品を略奪した」

「クストディオ、ドルー男爵令嬢を捕らえよ」

「はっ!」


今度はコルデーロ殿下と同様にメラニア嬢が捕縛される。

あれ、王妃悪い人?

王妃がギャフン??

ぎゃーぎゃーと騒ぐ3人が会場から引き摺り出され、ついでにオルシーニ侯爵令嬢の友人を騙って虐めをしていた令嬢達も騎士達に促されて会場を出された。

会場の雰囲気がふっと元通りになったような軽さに変わる。


「其方らの成人の儀を前に騒がせた事を詫びる。だが悪が滅び其方らの前途を阻む厚き雲は晴れた事を祝おう」


王の言葉に会場はわっと沸き立った。

リカルドがアンセルマににこりと笑顔を向けて重ねた手をポンポンと叩き、アンセルマがかけていた眼鏡をそっと外して自分の胸ポケットに片してしまう。

オルシーニ侯爵と令嬢が下がり敬意を示すように腰を落として道を譲る。

リカルドが歩き出したのに合わせてアンセルマも王の前に進み出た。


「陛下、リカルド・カディネ本日成人となりましたのでご挨拶させて頂きに参りました」

「リカルド、成人おめでとう。祝いの時に騒がせてしまったが、其方の協力もあり万事恙なくカタをつけられるであろう」

「滅相もございません。ただ、先程お見せ頂いた証拠の数々を取得する為に使用された魔道具は全て我が婚約者が開発した物で御座います。未成年ではありますが陛下に直接ご挨拶する栄誉を賜れれば幸いです」

「あぁ、願ってもない事だ。グロスター伯爵令嬢、その可愛い顔をよく見せておくれ」


急にお鉢が回ってきて、リカルドの隣でずっと跪いて頭を垂れていた姿勢からアンセルマはすっと立ち上がってお辞儀をする。


「王国の太陽、国王陛下に挨拶申し上げます。グロスター伯爵が娘、アンセルマと申します」

「おぉ、アンセルマ。其方と会える日を心待ちにしておったぞ。時計に始まり数々の魔道具の開発、実に見事である。その手腕を活かし、王太子妃としてリカルドを存分に支えて欲しい」

「王太子妃、でございますか?」


思い掛けない一言にチラリとリカルドを仰ぎ見る。

リカルドはただにこりと笑い返すだけで困惑するアンセルマに答えを返してはくれない。王の両脇に立つ父親達も微妙な顔でただ承知しろと頷きを返すだけだ。

アンセルマは仕方なく、礼を述べる。


「陛下の仰せの通りに。リカルド様の未来の伴侶として精進して参ります」

「ずっとアンセルマと会ってみたいと思っていたのだ。これほど愛らしければ皆がひた隠しにするのも仕方のない事だな」


機嫌が良さそうに笑う王に宰相であるカディネ公爵がそろそろと終わりを促す。

挨拶を交わし、アンセルマは再びリカルドにエスコートされて御前を辞した。

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