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この世界にも聖女が居る様です

あれから3年。

アンセルマは週に3日、数時間公爵家に転移陣で向かいライムンダの家庭教師をし、週末はどちらかの家でリカルドと過ごす日々をおくってきた。

カディネ公爵領もグロスター伯爵領も他領に比べ劇的な進化を遂げている。

ここ1年は兄達の婚約者を紹介され、タウンハウスの方に各地から転移陣を設置し婚約者達や母の実家の領地開発にも携わってきた。

リカルドとガスパルは一年程は王子の相手をしていたようだが、2年目からは王都開発を担うのを理由に適当な同級生に側近の座を任せて自分達は退いてしまったらしい。

もはや優秀な2人は学校で学ぶ事もないので仕事を理由に学校を欠席する事も多い様だ。

全ては王の許可を得てのことだが、宰相であるカディネ公爵が指揮している事もありあまり知られていない。

その為ガスパルの評価は揺れている。

爵位を得られない三男でありながら学校をサボり王子の側近からも外された。

いくらグロスター伯爵家が劇的な進化をしているとはいえ、なんの権限もないガスパルなど阿るに値しないという評価だ。

一方、学校にほとんど居ないというのに期末テストでは常にリカルドに次ぐ2位の座を譲らず、進撃を続ける名門伯爵家の息子なのだから騎士団で兄の様に役職を得るか、宮廷伯の地位は間違い無いだろうと期待をかける貴族もいる。

その為ガスパルが成人するまでは見守るだけという高位貴族と青田買いとわかっていてもグロスター伯爵と今の内から縁を繋ぎたい下位貴族で対応は異なっている状況だ。

あまり学校には現れないリカルドとガスパルが試験期間学校に現れると下位貴族の娘達がガスパルに群がった。

しかしそういう令嬢達の匂いはやはり打算に塗れていて、アンセルマに嫌がられる。

エルナンドがされた仕打ちを恐れるガスパルは学校に居る時は逃げ回っているそうだ。


「兄様は結婚に興味がないのですか?」


もう四年生になるガスパルの同級生達は少しでも良い条件の伴侶を得る為早くから動き出している。

その為高位貴族になるほどその年になれば婚約者が居てもおかしくない。

三男とは言え名門伯爵家なのに父様ですら動く気がない様なのが気になっていた。


「僕はアンが嫁に行くまではそういうのは良いかなと思っているよ」

「まぁ。私が結婚する頃には兄様は19歳でしょう?それからお相手を探すなんて悠長過ぎませんか?」

「気になってる子はいるよ。まぁ最悪結婚出来なくても僕は構わないと思っているんだけどね」

「兄様がそれで良いのでしたら良いのですけど、私のせいなのでしたら・・・私で出来ることがあったら言ってくださいね」

「アンのせいなんてある訳ないだろう?これほ僕のタイミングの問題だ。心配してくれてありがとう、アン」


いつも通り優しいガスパルはアンセルマとお茶をしながらそう笑った。

家族は変わらずアンセルマに甘い。

長男の結婚も、次男の結婚も、アンセルマが世に出るタイミングまで待たせた結果なのだと今なら分かる。

溺愛を願ったのは自分だけれども、ここまで自分中心に事が回るとなんだか申し訳ない気持ちになってきた。

前世で異世界モノの漫画や小説は結構読んだと思うけれど、リカルドやガスパルが出てくる話を読んだ覚えはなかったと思う。

これは物語ではないのだ。

チートは有難いが、周りの人間にも幸せになって貰いたい。

アンセルマは自分のチートの力で可能な限り皆を幸せにしようと心に誓った。



アンセルマは入学するにあたって両親と共に本拠地をガスパルと同じタウンハウスに移した。

代わりに今までタウンハウスに住んでいた長男エルナンド兄様が結婚し、騎士団所属のままだがカントリーハウスに居を移して領地の経営を任される事になっている。

大体時期を同じくして次男のエドゥアルド兄様も結婚し、属していた騎士団を辞めて婿入りしたアルギルダス辺境に居を移した。

アンセルマは居を移したと言っても毎朝学校に行く前に転移して森で鍛錬は今まで通りこなしているし、放課後にカディネ公爵家に行ってライムンダの家庭教師も続けている。

朝はリカルドが馬車で迎えに来るのでガスパル兄様と3人で学校に通っているが、どうやら2人はアンセルマを教室までエスコートすると、試験でない限りそのまままた馬車に乗って仕事に行ってしまうらしい。

だったら1人で行けると言ったのだが、僕達の唯一の癒しの時間を奪わないでくれと請われてアンセルマが折れたのだ。

そういうリカルドの牽制もあってアンセルマの学園生活は平和だった。

皆の助言によりかなり実技では手を抜いているけれど、試験では一位をキープしている。

認識阻害の錬金術を掛けた眼鏡をし、かなり猫を被っているものの普通の友達も出来た。

我が家に取り入りたい方達は大勢いる様だが、そこはいつもの匂い判断で友達を選んでいるので害のない人達ばかりだ。


「四年生に聖女候補の方が転入していらしたそうよ。ガスパル様から何か聞いていらして?」

「いいえ。兄様はほとんど学校にいらっしゃらないですもの。聖女候補って何を基準に選ばれたんですか?」

「なんでも礼拝堂でお祈りされていたらその御令嬢に金色の光が降り注いだそうですわ」

「へぇ、金色の光が・・」


男爵令嬢なのに高位貴族ほどの魔力量で、浄化や回復などの光魔法が得意らしい。

うーん、確かにテンプレっぽい設定ではある。

この世界聖女とかいるんだ、というのがアンセルマの率直な感想だった。

そもそも宗教があるのは知っていたが、あまりアンセルマには馴染みがない。

騎士たる者、神頼みとは何事か、という家系なので教会に行った事も神に祈ったこともなかった。

カディネ公爵家も欲しいものは自らの知識と能力で勝ち取るべし、という御家柄なので我が家同様ほぼ無宗教と思われる。

だからアンセルマは教会にある神様の顔さえ知らない。

だが貴族の一部には教会派と呼ばれる宗教を盲信する人たちもいる。

その人達は神の教えに従って生きるべきとあまり教会を重視しすぎない国王派と対立しているらしい。


「なんでも聖女候補の方が住んでいらした西側では最近その方の力で浄化されて魔物が減ったんですって」

「西側ですか?アルギルダス領の方でしょうか?」

「えぇ、その隣の領地に聖女様のご自宅があるそうですからそうなりますわね」


西側と言えばエドゥアルド兄様が婿入りしたアルギルダス辺境地の方角である。

兄夫婦やアンセルマがここ一年魔物を狩まくったから大分魔物は減っているのは間違いない。

しかしそれを聖女候補のお陰になっているのはなんだか兄夫婦の手柄を横取りされた様で面白くないと思えた。


「魔物が減ったのはエドゥアルド兄様とカルラ姉様がここ一年頑張って数を減らしていましたからそのせいだと思うのですけど」

「まぁ、そうなんですの?そう言えばグロスター領もここ数年めっきり魔獣被害が減ったって聞きますものね。

では何か他に功績があるのでしょう。根拠がないのに聖女候補だなんて堂々と編入されてきませんものね」

「そもそもその御令嬢は今までどちらの学園に通われていたのですか?」

「なんでもドルー男爵の遠縁の御令嬢らしいですけど、聖女候補になったので男爵が正式に養子に迎え入れたそうですわ。その前はパン屋で働いていたそうですから、学校には通われていなかったのはないかしら」


そこからは王都のパンがふわふわで美味しいという話になってしまったので聖女の話は終わりになった。

男爵とかパン屋とか本当テンプレだな、と思いながらアンセルマはふわふわパンはグロスター領が発祥である事を説明する。

まだ王都には売っていないパンのレシピは沢山あるのだ。

エルナンド兄様の為にもここは宣伝しておかなくては、である。

元はアンセルマがチートで開発したものばかりだが、それを上手く商売にしているのは家族やカディネ公爵家の力あってこそだ。

その為アンセルマは自分が作ったという想いがあまりない。

料理に関して言えばアンセルマの実験的な料理に付き合って、大体上手くいけば後はそれに更に磨きを掛けるのは我が家の料理人達だし、魔道具に関しては最初に1つの魔石に錬金術を施せばアンセルマ開発の魔石転写機で大量生産出来る様になった今、あとは職人達の仕事となっているからだ。

料理レシピも家事魔道具もグロスター伯爵領とカディネ侯爵領の門外不出技術としている為、製造はその2領だけとなっているが、今年から販売自体は王都の他では母様の実家と、兄様達の嫁の実家である3領地でも買えるようになっている。

アルギルダス領が西側なのに対して長男の嫁であるソフィアの実家ヴィート伯爵領は東側、母様の実家であるツェーリング伯爵が南側だから結構広い範囲をカバー出来ているはずだ。


「王都は昔に比べて臭いも街も綺麗になりましたし、ご飯も格段に美味しくなりましたわよね」

「私、学校に通うまで王都には来た事がなかったんです。だから違いが分からなくて」

「グロスター伯爵様は警備のお仕事がおありですから、確かにあまり社交にはいらっしゃらないですものね。私は領地だけだとつまらないのでよく王都に行く際に同行をせがんだものですわ」


アンセルマはいつも友達と学食でご飯を食べるが、王子が入学して以降カディネ公爵が王宮にもたらした我が家のレシピが学食にも反映されて美味しいのは有難い限りだ。

お陰でアンセルマはもはや小さい頃に食べていた肉肉しい料理を最近食べた事がない。

中心部では野菜を食べる習慣はかなり広まったものの、王都から離れた他領に行けばまだ昔のままの硬くて不味い豆だらけの料理が主流なのだろう。

そんな話をして昼食の時間が終わる。

午後の授業は算術だ。

前世では10歳の壁とか言われる少数の計算や分数の計算など急に算数が難しくなると言われる歳頃だ。

しかしここは異世界。

一年生の算術は2桁の足し算引き算のみである。

前世で理系の大学を出て就職までしていたアンセルマが解けないはずがない。

算術に限らずリカルドと一緒に勉強してきたアンセルマはどの教科も既に5年生までの学習を終えている。

自分もリカルドやガスパルの様にサボりたいが、目立ちたくないので仕方なく学校に通っているだけだ。

その為、どの授業も次の魔術具の構想を練る時間と化している。

皆が一生懸命板書を書き写す中、アンセルマは広げた紙にメモ用に持ち歩いている小さく切られた紙を乗せてリカルド宛の手紙を書く事にした。

話題はアルギルダス領の成果が聖女候補に横取りされているという話だ。

友達の勘違いだとしてもそう思っている時点で既に手柄は奪われているのだから、噂の元を調べ否定しなければならないだろう。

手紙を書き終えて四つ折りにするとポケットの中にいつも入れているリカルドから貰った転移用のハンカチに挟み込む。

端っこを摘んで小さく「トラン」と唱えるとリカルドに向けて送る。

それからハンカチと一緒にポケットに入れている懐中時計に埋め込まれた小さな飾り石を2度撫でた。

相手も仕事中のはずだが、以前どうしても浮かんでしまった魔術具案について相談したくなり手紙を送ったらとても喜ばれて以来催促が来ることもあって毎日1通は送るのが習慣になっている。

少ししてポケットの中で懐中時計が2度震えた。

懐中時計は今では通信機の機能も有していて、手紙を送った後に2度相手の懐中時計に着信を伝える為の振動を伝えるのがアンセルマとリカルドの合図にしている。

再び転移ハンカチに手を突っ込むと指先がかさりと紙に触れた。

送ったのより少し大きい紙に相変わらず綺麗なリカルドの字が並んでいる。

手紙をありがとうから始まり、聖女候補については承知しているがまだ調査中なのでアンセルマは決して関わらない様に、という様なことが書かれていた。

そして最後は甘い言葉で締めくくられているのはいつもの事だ。

チクってしまえばアンセルマに出来ることはないし、他学年の生徒に関わる気もない。

聖女に関わって悪役令嬢にでもなったら大変だ。

王子の側近から外れ学校にもほとんど来ないからリカルドとガスパルが攻略対象という事もないだろうが何となく心配になってアンセルマはもう一度手紙を書く。

リカルド様もガスパル兄様にも聖女候補には関わってほしくないです、と。

すぐに戻ってきた手紙には短く、心配しなくても僕らは君のものだよ、と返ってきた。

安心とまではいかないが、今はとりあえずそれで納得する事にした。


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