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21話






内容的に騎士が令嬢を連れて国外逃亡して、復讐の準備をするのだろうな、と予想していたが、俺の貧弱な想像力は遠く及ばないことは直ぐに明らかになった。



騎士が強引に令嬢の唇を奪い、その勢いのまま使われてない部屋に令嬢を連れ込んだ。暗い映画館に響くリップ音と吐息。俺は予期せぬ展開に硬直していた。



てっきりあるとしても軽いキスシーンぐらいだろうと高を括っていた。が、蓋を開ければ割とガッツリしたそういうシーン。今この瞬間も騎士は令嬢のドレスをご丁寧に脱がしていく。令嬢も一応抵抗する姿勢を見せつつも、すんなり受け入れていた。そりゃそうだ、自分を蔑ろにする相手に義理立てする必要がどこにある。正式に婚約破棄したわけではないのに他の人間と一線を越える、バレたらただでは済まないし下手したら死罪。が、後先考えず目の前の快楽に身を委ねる、そんな人間の生々しさは嫌いではなかった。


多少恥ずかしさを感じるものの、必要以上に意識するタイプではなかったため割と冷静に見れた。流石に此処から先は声と絡み合うシルエットで上手く演出していた。これも原作通りなのだろうか。覚えている限りだと俺より若い人が購入していたと思うのだが、最近の若い人は中々過激なものを嗜んでいる。図書館も最近の流行に乗り、こういう作品の入荷を進言すべきかと思うが、公共の施設なのであまり過激なものは購入できない。原作も映画と同じくらい過激なシーンが多いのなら難しいだろう。


と、つい仕事の事を考えていると場面は変わり、何やら緊迫している。どうやら王太子に騎士との関係がバレたらしい。わあ、泥沼。自分も浮気をしているくせにやはり主人公を罵倒し、責め立てる。罵倒の単語のレパートリーが凄まじい。王太子実は馬鹿ではないでは、とどうでいいことを考えていたが、状況はまさしく絶体絶命。けど不貞行為がバレたら婚約破棄、からの国外追放パターンか、なら自由じゃないか、と。だが、そう上手くいかないし王太子は想像をはるかに越える外道だった。



『お、お止めください殿下っ!!』


『何だよ、お前あの赤毛に身体許したんだろう。なら俺とでもいいだろっ…!』


人間の醜悪さを煮詰めて重ねたような男だ。散々邪険にしていたくせに、別の男と…と分かった途端実力行使に出た。この王太子、主人公を自分の所有物だと思い込んでいるタイプだ。その上プライドも高い。そんな男の取る行動は火を見るよりも明らかである。ああ大ピンチ、早く騎士来てくれ。来たら来たで修羅場間違いなしだが。


王太子役の俳優を見かけたらつい舌打ちをしてしまう。それほど俳優は「ヒールたる王太子」になりきっている。プロは凄いと尊敬の念を抱かずにはいられない。


と、ここでヒロインが王太子に平手打ちをかまして逃げ出し…そこからは息もつかせぬ怒涛の展開。余計なことを考える暇もなく気が付いたらエンドロールを迎えていた。





「私原作読まずに映画を見たんですけど、面白かったですね。特に終盤の騎士が指は20本あるだろう、って順番に折っていくシーンの顏、あれこの人ヒーローのはずでは?と困惑してしまいました」


「分かります、あのシーンだけバイオレンス映画並みに阿鼻叫喚の地獄絵図でしたね。恋愛映画を期待してきた人には刺激が強すぎたんじゃないかと心配してしまいます」


「ああ、確かに少し顔が青ざめている人見かけました。『私暴力的なシーン駄目って言ったでしょ!』と連れの男性に詰め寄ってました。もう予め暴力的なシーンがありますよ、と宣伝しておいた方が良いと思います」


「けど、終盤のアレコレってネタバレに繋がりますよね、『恋愛映画で暴力的なシーン…?』と不審に思われたら察しのいい人には展開が読めてしまうのでは?やはり伏せていた方が」


周囲に人がいたら「こいつら何の話をしているんだ?」と訝しげに見られること間違いなしの物騒な会話。だが、今いるのは以前館長に紹介してもらった個室のあるレストラン。映画終了時刻と映画館からの距離、その他諸々を逆算して予約を取っておいたのだ。たかが映画に出かけるだけで準備をし過ぎ、気合を入れ過ぎだと引かれることを懸念したが、イングリッドさんは「お洒落なお店、キールバルトさん色んなお店知ってますね」と目を輝かせて居たのでその心配は無さそうだ。


周囲に人の目が無いので食事中に相応しくないであろう内容の会話も心置きなく出来る。指を折る云々は人の目があれば憚られるからだ。正直終盤の「相応の報い」のシーンは俺でも思わず目を背けたくなるほどの暴力的なシーンが多かった。もしや彼女も彼女が見かけたという女性のように刺激が強すぎて気分を悪くしたら、と心配したのだが目の前の料理に舌鼓を打ちながら嬉々として映画の感想を語っている彼女の様子から、そういうシーンに耐性があったと見て心底ホッとしている。というかさっきから良かったシーンとして終盤の制裁の場面をチョイスしているので、「悪役が報いを受ける」所謂勧善微悪が好きなのかもしれない。俺も読んでいてスカッとするのでよく読むので気持ちはわかる。



が、「騎士と令嬢の恋愛事情」に関してはヒーローポジションたる騎士が純然たる「善」とは言えないのでその点は賛否両論かもしれない。真顔で指は折るわ、顔の原型が残らない程殴り倒すわ、もしやヒーローの皮を被った悪魔では?と彼女と同じことを思った。それと同時に最近の特殊メイクの進歩は著しいな、と関係ないことも考えていた。


騎士も中々に歪んでいたが、騎士の「一面」を知っても尚騎士のことを受け入れた主人公も同等かそれ以上に歪んでいると感じた。主人公も「ただ虐げられるヒロイン」ではなく、序盤に騎士と関係を持ったことからも強かで人間らしい生々しさを併せ持つことが分かる。この主人公も苦手な人は苦手だろうが、ただ泣くだけではなく普通に平手打ちもお見舞いしたり、どうにか現状を打破しようと藻掻く姿を描くことでバランスを取っているのかもしれない。





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