表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/25

13話




「それでまあ、クラウス。そのチケット使ってアリシア嬢を誘え」


落ち着いたのは錯覚だったらしい。再び思いっきり咽る。「館長わざとやってますよね」と横から非難の声を上げるフレーズが俺の背中を擦る。あー、やはりフレーズは親切な後輩だ。多少ハッキリものを言いすぎるきらいがあるが、そんなこと些末なことだとたった今再認識した。


と、咳を繰り返しながら現実逃避していた俺の意識はすぐに引き戻された。


「…今何て?」


「アリシア嬢を誘って映画でも行け、ついでに告白でもしろ」


キョトンとした顔で再度訊ねた俺に対し館長は丁寧にもう一度答えてくれた。…物凄い笑顔で。その上一度目の時にはなかった聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


映画…異性…遊ぶ…恋愛映画…告白…告白!!!!


「先輩、そんなに首振るともげちゃいますよ、あまりに早すぎて残像が見えてきました」


「おお、こんなに慌ててるクラウス初めて見たな~」


(他人事だと思って簡単に言うな)


呑気に笑う館長を睨みつけるが、本人は全く気にしていないのが妙にムカつく。流石に首が疲れてきたので無理だ、という意思表示で左右に振っていた首の動きを止める。


「映画に誘うのもこきゅ、告白も無理に決まっているじゃないですか。そんな分不相応な真似したら通報されますよ」


真面目な顔で情けないことを言う(しかも噛んだ)俺を2人は笑うでもなく、


「異性の友人を遊びに誘っただけで通報されたらナンパする奴は全員牢屋行きだな」


「そうですよ、告白はまあ難しいかもしれませんけど休日に映画行くくらい大丈夫ですよ、さっきも良いましたが脈ありだと思いますし。それに」


言葉の途中で口を閉じたフレーズは…満面の笑みで言い放つ。


「今の関係に胡坐掻いてると館長みたいな美形に横からかっさらわれますよ、冗談抜きで」


呆れたり、そして…的確に煽ってきた。再び館長、そしてそれに準する美丈夫が彼女の隣に並び、腕を組みあまつさえ顔と顔を近づける様を想像してしまい…


「だーかーらー!お前はこいつを慰めたいのか煽りたいのはどっちなんだよ。見ろ、クラウスの目、見たことないくらいどす黒く染まってるんだが!落ち着け本当に。フレーズが言っているのはもしも、の仮定の話だし俺が部下の友人に手を出すわけないだろ、2年の付き合いで分からないか?」


再び闇堕ちの気配を醸し出す俺をどうにか踏みとどまらせようと、矢継ぎ早に言葉を重ねる館長。…館長は時々上司としてどうなのかと思う場面がないわけではない。だが人間性は至極まともだと言うのは2年の付き合いで分かってきている。兄(長兄)が「あいつは信用出来る」と言っていたのを思い出す。兄の人を見る目は俺より確かだ。兄の言葉を信用するのならモテない部下の初めて出来た異性の友人に対し、ちょっかいをかけ弄ぶような腐れ外道にも等しい真似をするわけがない。


「…色々すみません、取り乱しました」


2度も疑いの目で見てしまったことも言外に謝る。対して館長は「分かってくれればいい」とあっさり流してくれた。


「そうですよ、先輩の目沼の底みたいに真っ黒でこっちもビビりまし」


「もとはと言えば誰のせいだっけ?」


「調子に乗りましたごめんなさい」


俺に便乗し、再び余計なことを言おうとしたフレーズは、館長に妙に優しい声で話しかけられ、さっきの様子が嘘のようにすぐ謝った。…そうだった、館長は怒った時ほど声が優しくなるんだった。面白がり、悪戯に俺を煽る真似をしたフレーズに対して流石に思うところがあったのだろう。フレーズは肩を落としシュン、と縮こまっている。少しやりすぎた、と自分でも思ったのか。まあ何事も程々が大事ということだ。



「…そうですね、こ…は無理にしろ遊びに誘うくらいなら」


「何事もなかったかのように話し始めましたね」


「ちょっと静かにしようか」


目の前で耳打ちし合っている2人を無視し俺は考え込む。そう、彼女の出会ってからの自分の行動についてだ。酔っ払いに絡まれているところを助け、そのお礼にと馴染みの店に連れていき、零した酒を拭いたタオルを洗って返すと言われ次に会う約束をし、再び会った際友人になりたいと言われ月に数度酒を飲むようになり、それが今に至るまで続く。



…薄々気づいていたが今改めて思い返すと、それは明らかだった。俺は彼女との交流の中で何一つ自分から行動を起こしていないことに。食事に誘ったのも、タオルを洗って返すからまた会えないかと聞いたのも、友人になりたいと切り出したのも全て彼女からだ、俺が自発的に行ったことは酔っ払いから助けたことだけ、それすらも相手が自滅した結果で果たして「助けた」と言っていいのか怪しい。



思い返しても俺はとことん流されやすい人間だ。まるで自分を持っていない。彼女が自分から提案してくれて、話を引っ張ってくれる人だからと甘えていた。多分、俺は彼女が言い出さなければ酔っ払いに絡まれた彼女を助け、そのまま何もせずあの場を去っていた。その時ならば一ミリ程度「あの時何か行動を起こせば良かった」と後で後悔するに留まっていただろう。が、今は違う。月に数回、数ヶ月彼女との交流を重ねたことで「それ」を失うことを恐れている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ