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艦隊、西へ  作者: ひびき
7/7

そしてヨーロッパへ

地中海艦隊は母港ジェリド湖の壊滅の報をきき、黒海への撤退を始めた。ところが一航戦と思しき艦隊が我が潜水艦の包囲を突破してきたのだ。

艦隊旗艦スターリンではちょっとした事件が起こっていた。彼らはスターリンに忠誠を誓っているが。アリオール隊に関してはそうではなかった。彼らは旧王党派……。ロマノフ王朝の忘れ形見であった。スターリンは彼らに死か戦争を選ばせた。生きるために殺しをしなければならない……。そうした二者択一が彼らをエリート部隊にしたのである。

本来なら彼らが裏切ってもいいように、旧式の空母が割り当てられていたが、それが触雷してしまい沈没してしまったのだ。そのため臨時で空母スターリンに載せられていた。

「閣下……もはや我々は。」

「ああ、我らの地下組織の本部チュニジアは壊滅した……。これでロマノフ王朝の復興は不可能になったな。」

「しかしこのままでは死ぬまでモスクワ防衛です。」

「我らの意地を見せるときです。」

「よし……まずはこの忌々しい空母とおさらばだ。」


「アリオール隊が発艦許可を求めてきております。」

「駄目だ。黒海に撤退する。」

「しかし、彼らは我がチュニジア基地の敵討ちをしたいと申しております。」

「むむむ…………。駄目だ。」

「提督!このまま負けてよろしいのですか?」

「それを言ったものが全てやられておるのだぞ。」

「くっ……。」

「提督!勝手にクルーがアリオール隊を発進させました。」

「馬鹿者め!呼び戻せ!」


「よし……日本海軍へ連絡せよ。」

『コチラろまのふノイキノコリ。亡命求ム』


「提督、我が艦隊と地中海艦隊の中央あたりで不審な電波を傍受しました。」

「なんだと?それはどんなものだ。」

「ロマノフのいきのこりを称するものが亡命を求めてきております。」

「怪しいな。」

「どうしますか。」

「亡命を受け入れる。駆逐艦を向かわせろ。彼らには着水してもらう。」

「うまく行きすぎな気もします……。」

「戦争とはうまく行き過ぎるときは本当にうまく行き過ぎるのさ。勝てないときはその逆。亡命が真実なら我々に取って都合がいい。」


「日本海軍から電報……。着水せよとのこと。」

「だろうな、降りるぞ。」

危なげなく彼らは降りる。そして機体から飛び降りた。すぐに駆逐艦が駆けつけて彼らを回収、さらに機体も回収した。


「で、貴方方は?」

ロシア人らしい茶色の髪の毛を持つ彼らはハッキリとした声で話し始めた。

「我々はロマノフ朝最後の部隊。アリオール隊であります。ローマ帝国から受け継いだ鷲の名を頂いた名誉ある部隊です。」

「アリオール隊はよく知っている。しかしなぜ亡命を……?」

「貴国の破壊したチュニジア基地に我々の再起のための基地がありましたが、壊滅したので、もはや貴国の協力なしにロマノフ朝の復活は不可能と考えたからです。お互い過去の禍根はあります。仲良くしようとは思っていません。」

事情は直ちに西園寺に伝えられ。そして彼らを受け入れることとなった。

「ふむ……。我が国は貴方方を亡命政府として受け入れましょう。」

「迅速な判断に感謝します。」

「うむ……。上条くん。彼らを赤城に迎えようと思うがいいかね。」

「私は構いません。ですが、部下は……。」

「上条さん、構いませんよ。俺達も彼らの同胞をたくさん殺した。お互い仲良しこよしとは行かない。だが、同じ空で戦ったんだ。他の艦でリンチまがいの扱いをさせるよりはずっといいだろうし……。」

上条にそっと耳打ちをした。

「最悪、赤城なら沈められても今後の戦況には影響がありません。」

「と、いうことで我々は歓迎します。」

「すまんな。ということで赤城へどうぞ。それから、この一連の作業で地中海艦隊を取り逃がした。帰投する。」

彼らが赤城へ移動する。甲板には上条らが待機していた。

「お、おい……。これが、アリオール隊なのか。」

隊長は可愛らしい中性的な青年であった。その他パイロットは女性である。

「アリオール隊はこれよりロマノフ朝亡命政府として日本へ亡命しました。よろしくお願いします。」

隊長は上条と握手をした。

「驚かれましたかな。我々は元々皇室のお気に入りの集まりだったのです。それが、ソ連軍によって無理矢理にパイロットにされたのです。」

「そうですか……。」

上条は年の近いこの隊長と何か親近感を感じた。

上条も真珠湾のときは新兵だった。

それはこの隊長も同じだった。

「私の名はアレクサンドル・ロマノフ。皇帝のお気に入りでした。彼は死の間際私にこの名を与えてくれたのです。王位を私に託して。」

「上条です。空でお会いしましたね。」

「ええ……。空でのことはお互いに戦争でしたから。」

「もちろんです。戦争でなければ……。いえ。」

二人には奇妙な空気が流れた。先程まで殺し合っていた者同士なのだから無理もない。だがそれ以上に妙に惹かれるような、そんな感じがしたのだった。

数日後、日本に到着し諸々の処理が完了。臨時政府に当てられた建物で彼らはまた会った。

「日本はどうですか?」

「いい国です。戦争中というのに平和です。」

「そうですか。」

「とにかく暑いですがね。それに世間の目は暖かくはない。当然ですがね。あなたくらいなものですよ。そんな目で見てくるのは。」

そんな目とはどんな目なのだろうか。上条は自問したが答えはわからなかった。

「それについては……。すみません。日本人はそこまで優しくはないのです。」

「いいえ、これが普通ですよ。いや、ロシアならもっとひどい。ロシアに住んでた日本人の末路は我々より悲惨です。あるものは前線で銃もなしに盾として使われ。またあるものは欲望のはけ口にされた挙句に射殺されたそうです。スターリンはそうやって国を支配しているのです。反対勢力をストレスのはけ口として提供する。それを容認したほうが人々は都合がいい。」

「恐ろしい話です。」

「日本も一人の支配者が支配しているように思えます。まるでロマノフ朝のように。皇族のあり方や政治との関わり方は学ぶべきものも多いです。それに西園寺さんもかなりのやり手ですね。一人ではない。何人もの意見を加味しつつ決断なさっている。」

「……。」

「ですが、それがこの国の脆さでもあります。強権的なリーダーが支配するスターリンの数に、これでは限界もありえるでしょう。」

「たしかにそうです。俺はまだ徴兵制で徴兵されましたが、それ以降は志願制です。そうすることで経済の安定化を目指しているのです。しかしこれのせいで軍人の絶対数が足りてないのは事実。」

「はは、それを自覚してるならよろしいのです。

それを何とかするのが政治です。そして私がその駒である。いまは駒ですが、いずれは私もプレイヤーになりますから。」

「あなたにも、甘さがあるようです。」

「認めてほしいですね。そんな甘さがある事を。」

口論のような口調になり始めた。

このまま怒らすとマズイので話題を切り替えることにした。

「文化はどうですか。」

「興味深いです。とくに風呂。ロシアでは湯船の中で洗うんですが、こっちではそうではないそうですね。」

「よくご存知で。」

「皇帝陛下は日本をよく研究しておりました。その中にそんな話があったのです。」

風呂……。そういえば帰港してから一連の作業に追われて入れてないな……。

「どうしました?」

「いえ……。風呂に入りたいなと思ってただけです。長く入れてないので。」

「あ、ならここの風呂をつかってください。あなたの宿舎よりは大きいですから。」

妙に気を使われてしまった。だがありがたかった。

言われるがままに風呂に入る。






次の日、布団の上で目が覚めた。






第日本帝国はついに黒海以外のすべての海を支配した。これをきっかけに英米独の大作戦がいよいよ決行されることとなったのである。

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