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 ビリルさんに連れられてやってきたのは、大通りから少し歩いた路地裏にある、小さな二階建てのぼろい店。入口の上にある看板には、盾の後ろで剣と弓がクロスしている絵が描かれている。ぱっと見これでは武具屋というのは分からないが、ドアを開けるから漂う独特の金属臭が、ここを武具屋だという主張を強烈に放っていた。


「なんかぼろい店だとおもったか?坊主」


「いえ、そんなことはないんですけど、ただこの裏路地ちょっとガラ悪い人が多いなあって思って…」


 と、ビリルさんの言葉に少し動揺しながらこたえる、が、僕の言ったことは間違いではない。建物と建物の間にできているこの狭い道は暗く、昼だというのに暗い雰囲気を醸し出しており、道の横には食べ終わったご飯のごみであろうトレーなどが放置され、かすかに異臭を放っている。奥のほうを見ればいかにもって感じの悪そうなお兄さんたちが、興味深そうな目でこちらをジロジロと観察ししていた。ビリルさんと一緒でほんとに良かった~!!


「確かにここは治安が悪いが、あいつらも話してみれば案外悪い奴らじゃねえし、意外と肝っ玉が小せえもんだぜ。ちょっと脅したらすんなり道通してくれるしよ」


 それは相手がビリルさんだからではないだろうか。身長2メートル超えの筋肉だるまに喧嘩を売れる奴なんて、そうそう居てたまるもんか。

 疑わし気な目でビリルさんを睨め上げると、苦笑しながら店の中に入っていくので俺もそれに続いた。


 店の扉を開くと、先ほどよりもより強烈な金属臭が鼻を襲った。薄暗い店内には壁や天井にまで所狭しと物が置かれていて、大分騒がしい印象を受ける。だが、逆にそれが秘密基地みたいというか、少年の宝箱の中のような感じがして、僕の目には魅力的に映った。

 商品は剣が多く、次点で弓、槍などがあったが他の武器や革でできた鎧?のような物もたくさん置かれていた。生き物を殺すための道具を初めて身近に見た僕には、どれもが怪しい輝きを持って、自分を買ってくれ、俺を使ってくれ──と話しかけてきている様な幻聴さえ覚えた。


「おいビリル、子供連れとは珍しいじゃねえか。今日は何の用で来たんだ?」


 と、店の武器たちに目を奪われていた僕の耳に、酒焼けしたようなしわがれた声が店の奥のほうから聞こえてきた。

 声のする方に目を向けると、そこには大量の髭をもじゃもじゃに生やした、身の丈1メートルくらいの小さな小太りのおっさんがいた。俺は町を歩いているとき、ビリルさんにこの種族について教えてもらった。身長が小さいがとても力持ち、酒に目がなく、物づくりに非常に精通している種族──ドワーフという種族だ。

 ビリルさんにはドワーフだけでなく、町で見かけた人間ではない種族について一通り教えてもらっていた。色白で耳の先がとがっていて、魔法を得意とする種族、エルフ。体のどこかに獣の特徴を持ち、身体能力が高い獣人。人型のトカゲのような見た目をし、集団で生きるリザードマン。獣人については、大きなくくりで「獣人」と言われているが、実際にはもっと細かい区分けがあって内情は複雑らしい。


「二千ベル以内で、こいつの武器と防具をお前に見繕って欲しいんだ。」


 え?ちょっと待ってくれ?僕はそんな話全く聞いていないんだが?なぜそんな物を買う必要があるんだよ、僕は誰かとケンカしたこともないんだよ。

 そんな気持ちを込めてビリルさんを下から睨むと、ちゃんと彼は答えてくれた。


「護身用に持っておかないと、いざという時に死ぬぞ?」


 短い言葉を一言だけ。ぞっとするような冷たい声だった。

 場に一瞬冷たい空気が流れるが、すぐビリルさんのおちゃらけた声が場に響く。


「俺んちの周りには野犬が出るんだ。家畜を守るためにも、マサタカには最低限戦えるようになってもらわねえとな!」


「そ、それなら、仕方がないですね!働かざる者食うべからず、ですしね!」


 僕もとっさにわざと明るい声で返事を返す。どうやら、それで完全に重い空気は霧散したようだった。

 そのやり取りのわずかの沈黙の後に、ドワーフのおっさんが口を開いた。


「待ってな。それだけの予算があれば結構いいもんが買えるぜ。よかったな坊主、この貧乏筋肉だるまにそんだけ金出してもらってよ」


「ビリルさんってそんなに貧乏なんですか?」


 でかい図体してる癖に貧乏とは、ちょっとそれは男らしくないんじゃないんだろうか。まあ本当のことは分からないけど。


「ああ、そりゃもうけちんぼの卑しんぼだぜ。こいつはな、200ベルしかしない剣でも無理やり値切って持ってっちまうんだ。終いには俺が折れちまって、もうこいつに対してはいつも限界ギリギリの値段で売ってるよ」


 このドワーフのおっさん曰く、どんな安物の剣でもよほどの問題が無い限り、200ベルはするらしい。そこからさらに値切りしようとするとは…なんて金にがめついんだこの筋肉だるまは。


「そのケチな筋肉だるまの事をよく知ってるお前ならわかると思うが、今回ももちろん妥協は一切しないからな?」


「へいへい、分かってるよ。おい坊主こっち来な。お前さんはどんな武器を使うんだ?」


「生憎、武器は持ったこともないんですよ。なにぶん、平和なところに暮らしていたので…」


「ふん。そうか。じゃあ試しに何個か使ってみるか。裏に来な」


 そう言ってドワーフのおっさんは店の奥に向かって進んで行くので、僕とビリルさんはそれについて行くと、彼が古めかしい扉を開けた───。


「は…?ここは、いったい、なんですか…!?」


 驚きが抑えきれずに、思わず声が口から漏れる。

 そこは小学校の校庭くらいの広さはありそうな、でかい訓練場のような部屋だった。周りを見渡してみると壁際には使い古された薄汚れ、刃こぼれした剣や、大きな木製の盾等が乱雑に置かれ、奥の方には藁でできたかかしが設置されている。

 後から入ってきたビリルさんの顔を見てみたが、全く驚いている様子は無かった。さっきの会話からして、ドワーフのおっさんとは大分仲がいい見たいだし、この部屋にも来たことがあるんだろう。


「この部屋は、新しい武器とかを試し使いする場所だな。武器初心者には、扱い方をある程度レクチャーしたりしている」


 当然、有料だがな。と彼は笑顔で付け足した。

 聞きたいのはそこじゃないんだけど…。まあ、いいか。今は自分にあった武器を選ぶことが最優先だし。


「そんじゃまー、最初は剣からだな。とりあえずこれ適当に振ってみろ」


 言うなり、そこらへんにあったロングソードをブンッと軽く投げてきた。

 こちらヒュンヒュンと縦回転しながら迫ってくるロングソードは、僕のすぐ横の石畳の隙間に突き刺さった。こわっ!


「危ないですよ!当たったらどうするんですか!?」


「死にやしねえだろ、大袈裟な」


 正気かよこのおっさん。命をもっと大切にしろよ。僕はこの世に1人しかいないんだぞ?なんなら絶滅危惧種と言ってもいい。

 しかし、ぶつぶつ言ってても何も始まらないので、言われた通りに大人しく従うことにした。

 とりあえず床に突き刺さった剣を引っこ抜いて、両手で柄をギュッと握りこみ、正面に構える。すると気が付いたのだが、剣を正面に構えた状態にするには意外と力を使う。気を抜くと剣先がフラフラしてまっすぐ持つことが出来ない。

 ビリルさんがこちらを不安そうな目でこちらを見ている。そりゃこんなヒョロガリが剣もってフラフラしてたら心配にもなるか…。


「…まあ、やってみないと、分からないけどっ」


 そうぼやきながら俺は全身に力を込め、全力で踏み込みながら上から下へ思い切り剣を振り抜いた。

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