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魔女の家

 魔女の家は至って簡素なものだった。家というより小屋と言ったほうが近いかもしれない。

 

「ごめんねーお茶しかないんだけど」


 と言って魔女が僕の前にお茶を差し出す。


「ありがとうございます」


 喉が乾いていたので受け取ると一気に飲み干した。それを見た魔女がいい飲みっぷりだねと、もう一度お茶を注いでくれた。


 魔女は机を挟んで僕の正面に腰掛けた。


「まだ名前聞いてなかったよね。君、名前は?」


十也とうやです」


「十也君ね。私はリン。よろしくね」


 それから色々な話をした。僕がどうして魔女を探していたのか、ばあちゃんの昔の話。リンは明るい人で話は弾み僕はどんどん惹かれていった。


「リンは何歳なの?」


 よく考えると当然の疑問だった。ばあちゃんが子供の頃会っている魔女がこんなに若いわけがない。


「歳を取らないの?」


「えっとねえ」


 なんで説明すればいいんだろうなあ、と呟きながら眉間にシワを寄せている。


「厳密には歳をとってない訳じゃないんだよ。丁度今年で490歳。魔法で体は若くしてるんだよね、この方が動きやすいしさ」


「へーじゃあ、ばあちゃんよりおばあちゃんだね」


「ちょっとおばあちゃんは勘弁してよ!お姉さんとかリンとか他の呼び方にして!」


 と身を乗り出して抗議してくる。


「わかった。じゃあリン」


「うん、よろしい」


 そう言うとリンは満足げな顔で深く座り直した。


「じゃあ、そろそろ空の飛び方教えてよ」


「あのねーそんな簡単に飛べるもんじゃないの。今日はもう遅いしまた明日おいで」


「えー」


 魔女はニヤリと笑い


「今日はもう帰りな。ホウキで送ってあげるから」


「帰る帰る!乗せて乗せて!」


「はいはい、じゃあもう遅いからすぐ行くよ」


 そうリンに背中を押されて外へと出た。


「じゃあ乗って、落ちないようにしっかり掴まってね」


 ホウキに跨りリンの腰に手を回した。


「じゃあ行くよー」


 ゆっくりと体が浮き上がる。足が地面から浮いて足をパタパタと振ってみる。


「すげーすげー」


「ちょっと耳元で叫ばないでよー」


 数十メートルくらいの高さまできただろうか。見下ろすとリンの家が見える。


 周りを見渡すと夕焼けで草原が茜色に染まっていた。


 快適な空の旅もリンの着陸しまーすというアナウンスによって終わりを迎えた。ゆっくりとここにきたトンネルの横に着陸した。


「あいたた!」


 ホウキから降りて立ち上がると股に痛みが走り思わず手で押さえつけた。


「あはは、最初は誰でもそうなるよ。まあ慣れだね慣れ」


 リンは笑いながら僕に手を差し出した。


「明日は空の飛び方教えてね!」


「わかったわかった」


 少し呆れて笑いながらリンが答える。


 じゃあねと言い残しホウキであっという間に空へと浮き上がる。


 僕は茜色に染まる、空飛ぶ魔女が見えなくなるまで眺めていた。






 


 






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