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迷妄とアンブラッセ  作者: 犀島慧一
はじまり
17/25

17

週末に投稿、とは……。

(あまりにもスケ管ができていないせいで、予定日の意味がなくなりそうです、でもやめない)

調査対象が一人から三人に増え、調査内容も増えた。

それらを無事に済ませられるかは一向に分からないまま。

どれだけの不安を募らせようと、時間が止まる事はない。

いざお茶会が開かれる時間になっても、不安が拭われる事はない。


マリアンナ様との協力関係を結ぶ事により、安心より不安が増すだなんて誰が予想できただろう。客間に佇む振り子時計はついにその短針で開会時刻を示した。私とヴィルフリート様しかいない部屋に響き渡る鈍重な音は、私の心を鉛色に塗りつぶしていくようだ。

「そろそろ出ましょうか」と、

なんてことないように出撃を口にするヴィルフリート様のお顔は至って平静だ。

不安満点の私と対照的なこの様相。彼の事情を知らなければ、恨めしく思っただろう。

言わば彼のそれは感情を出さないのではなく、出せない程の恐怖心に囚われた故。

いつだって見えない心の内を、心配こそすれ、それに難癖を付ける趣味はない。

私が無言のまま時計を一瞥して立ち上がると、その姿を見ていた彼は小さく「大丈夫ですか?」と問いかけられた。

正直に答えれば大丈夫とは言い難い。けれどここまで来て無理だなんて言える口も持っていない私は、曖昧な表情を作り返答をぼかすことしかできなかった。


3時の音が鳴り止んでもそこから一切動かなければ奇妙な沈黙が流れてしまう。

赤い瞳は私を急かす事もなく、本当に気分を害していないか、体調は悪くないかと、ただ様子を窺っているようだった。

マリアンナ様は他の招待客を迎えに行っているから、参加のタイミングは自己判断に委ねられる。だからといって遅刻は印象が悪い。

もはや心にかかった靄を取り払った方が良いのかも知れない。そう思い立った私が「あの」と口を動かすと、そのまま続けてと促すように彼は首肯した。


「今回、私は同席するだけで大丈夫なんでしょうか」

「それが気がかりな事ですか?」

「い、今のところは……」

「なるほど……」


元々カイゼル家の子息殿の詮索が目的だった今回。腹の内を探る標的が一人から三人に増えるにあたり、お役目も増えるものではなかろうか。そう思う反面、心の色しか見えない私ではお母様ほど役に立てないだろう……とも思ったり。それが気がかりと称されるなら確かに気がかりである。

加えて、私の力について知っている彼は観察眼に優れており、

協力者たるマリアンナ様も、堂々としていて弁が立つように見受けられる。

今更な話だけど……正直、私がいてもいなくても得られる結果は変わらないのではなかろうか、とか思ってしまうのだ。

けれど、私の悩みや不安も介さないヴィルフリート様はまるで用意していたとばかりに淀みなく答える。

「問題ありません。アリィは本日名前が挙がった三名の反応を注視していてください」と。彼が思い描く計画書にはきちんと私にも役割がある。なら、それに倣って務めればよい。私が臨機応変に何かをする、という事ではない分失敗はないでしょう。


「……」

……そう思うのに、まだできることがあるんじゃないかなって考えてしまう、これは自惚れでしょうか。

そう、例えば殿下の一面を見たように、参加者の一面を見ることができたら……と。

「まだ他に何か気になる事があるのですか?」

「気になる事、というか……私が、獣のような彼女の力を借りる事ができたなら、もっと役に立てるかなと」

「獣? 彼女?」

ヴィルフリート様は言いながら首を傾げ、そのままじっと、恐らく考え込んでいるであろう素振りを見せた。

「その方は、今どこにいるのですか?」

「どこに……。えっと……」


あの海の中――ってあの海ってどこだ?

あの時触れた剣の中――な訳がないし。夢の中? は、それはそれで危なくない?


分からない、分からないけれど、でも彼女はすぐ傍にいる。そんな確信めいたものがあるから、どこと問われればここと答えそうになる。

どう答えようか戸惑う間、ヴィルフリート様が、ちらと時計目配せした。

分かっています。もう会場は開いている、ここで問答する余裕まではないのでしょう。

「私の事は気にしないでください。お互い頑張りましょう?」

「え、ええ……」

ヴィルフリート様に微笑みかけて、扉に手をかける。

そうだ、どうせ、彼女をどうやって呼べば良いのか分からないのだ。


そう思っていたのに、

お茶会会場へ足を踏み入れた私を出迎えたのは激しい耳鳴りだった。


平衡感覚が狂い、その場に倒れ込みそうになったところを、ヴィルフリート様に支えられる。


この感覚、知っている。

あの日、城の牢屋に足を踏み入れた時と同様の感覚。

私は、この場所を識っている。

この運命から逃れられないことも識っていると。


途端に頭の隅がばちんと爆ぜるような、痛みが各所で頻発して、たまらず顔を顰めた。

彼の胸に頭を置いたまま動けず呻いていると、後頭部を優しく撫でられる。

この間から彼には借りを作ってばかりで、ひたすらに申し訳なさが募っていくのですがどうしたらいいですかね……。

痛みが少し薄れた頃合いで顔を上げ、更に彼の背中越しに周囲を見やると、こちらを痛いほどの視線を向ける参加者の方々がいらっしゃった。

「ごめんなさい、ヴィル……」

「何がですか?」

「この間からあらぬ誤解を生むような振る舞いばかりしてしまって、その――」

「今回はマリーの案もありますから、お気になさらず」

「そ……」


――そういう事ではないんですけどね!


心の中で声にならない叫びを上げていた私を置いて、ふと彼が視線を向けたのは、大きな丸テーブル。そこには、マリアンナ様を中心として幾人かの子息令嬢が並び、既に座っていた。

マリアンナ様の目の前には空席が二つある。どう考えても私達の席がそこにある。

その事実を認知した時、耳鳴りが少女の言葉を取り内部で反響した。


――ああ、これからお茶会なのね。と。今回はやけにはっきりと聞こえる。

私が、知っているの? と問うと、鈴の音のようにかわいらしい笑い声が脳内に響いた。

――識っているわ。言ったでしょう? この世界は繰り返しているんだって。

もしかして、繰り返す悲劇……という奴?

――その内の一つと言ったら、あなたはどうする?

「――っ!」


彼女の答えに思わず息を呑む。

人一倍人の挙動に敏感なヴィルフリート様が「アリィ?」と小さく私の名前を呼んだ。それに上手く言葉を返せないでいると、何故か頭を撫でられる。私、そんなに酷い顔だったのだろうか。見上げれば、上からこちらをのぞき込む端正な顔があって、私がちょっと笑って見せると彼は安堵の息を吐いた。

「また、何か見えたのですか?」

「そ、そういう感じです……」

……いえ、違います、ごめんなさい。事実は微妙に違うのです。

脳内で懺悔を繰り返すと同時、いつか時間がある時に彼女についても話した方が良いかもしれない。と思うに至る。

周囲の婦人方を覗き見ると彼らの視線は先程よりも鋭くなり、同時に甘い雰囲気を醸し出していた。変化の理由はあまり考えたくない。


奥方がこれなら向かって奥のテーブルはどんな反応になってしまっただろうかと、恐る恐る窺い見ると、そこに並んでいた参加者方の姿には、少し奇妙な変化が現われていた。

これはどういうことだろう。

辺りを見回してみても、その変化があるのは目の前のテーブルのみ。


――あなたの目に映るものは、あなたが私の中から必要な分だけ掬い取った知識の欠片の姿。私の持っていた情報をあなたの脳を介して具現化させたもの。


あの不思議な海の中でもないのに、彼女の声はすぐ傍で鳴り響いている。だからこそ、彼女の難解な回答が正確に聞き取れるようだった。


――もっと簡単に言うと、私の識っている事を元に、あなたの脳が導き出したものが、今見ているものという事。

これらは間違っている可能性だってあるわ。あなたが目で見て捉えた動作、言葉選び、繰り返す世界で私が得た知見。それらから導き出した推測でしかないの。


「推測……推測ねぇ……」

「?」


彼女の言葉を頭の片隅で反芻しながらちらとテーブルに規則正しく並んだ顔ぶれを見やる。

少し遠目だからこそ、彼らの顔は共通して見えない。見えなくなってしまった。

推測なら、可視化するべきじゃないのかな。

全員が仮面を被って並んでいるだなんて…………仮面舞踏会じゃあるまいに。


とても眠くて短くなってしまった

参加者さん一人でいいから出したかったです。。


bkmありがとうございます!

次回は1/1~1/2目標です。

という訳なので、皆様よいお年を!

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