「ふーん…伝説って?」「あぁ!」
「この階段を登れば出口だ。あっ…そうそう?この地下は俺の家に繋がっているんだぜ。どうだ!凄いだろ!」
階段の段が一段ずつ上がってきている。自慢話をしている場合じゃない。ベルサーチはゆっくりと階段を登り始めた。
「最初からユイの実家から行けば、あの迷路に迷わなくて済んだのか……」
「私は知らなかったわよ。それより早く登ってよ!お父さんが先頭だから先に行けないじゃない!」
ベルサーチは娘に教えていなかったようだ。立て細い道なので、先に行きたくても行けない。
「むっ…お前は俺が太っていると言いたいのか!?俺の体は若者に負けないぐらい素晴らしいボディだぞ!見ろ!!このたくましい……はうっ!?」
クルッと後ろを向いたベルサーチはユイに体を見せようとした瞬間、ユイに腹をパンチされた。ベルサーチは気を失ってしまう。
「ヒッ!?」
ビクッと震えるカイル……怖がるのも無理もない。
「ユイを怒らせないように気をつけなきゃな。じゃないと俺達もユイの親父さんみたいになるぞ」
用心するように心掛けるクリスであった。
「ハワード、この糞親父を担いで出口まで運びなさい……いいわね?」
ギロリとハワードを睨んでベルサーチを持つように言う。とても逆らえない目付きである。
「お…おう」
ハワードも少し驚いているようだ。ハワードはベルサーチを嫌そうに担いだ。
「ユイ、早く上がってくれよ。俺はまだ死にたくないぞ」
一番後ろにいるクリスはやや焦っているようだ。段が次々と上がってきている。のんびりと話をしている場合じゃない。
「ハッ!?そ、そうね…先に上がって待ってるわね!」
そう言って、ユイは先に出口へと向かって階段を駆け上がって行った。
「うわわっ!?は…早く進んで下さい!このままじゃ潰れちゃいますよ!?」
「無茶言うな!早く行きたくても、俺はこの変人を持ってんだぞ!?」
ハワードの言う通り。ベルサーチを担いでいるので早く行きたくても行けない。
「あ、そうだ!カイル、アレを使えばいいんじゃないか?えっと……マックルだ!」
クリス、マックルは防御力を上げる魔法だ。しかし、カイルはマックルと聞いてピンッときた。
「防御力を上げ……あっそうだ!マッスルを使えば力を上げる事が出来ます!!(ブツブツ)マッスル!」
カイルは“マッスル”という力を増幅させる魔法を唱え、ハワードに使った。
「おぉ……力が沸いてきた!よし、このまま出口まで突っ走るぞ!」
力がアップしたハワードはベルサーチを軽く抱えて出口まで走っていく。
「クリスさん、お陰で助かりました。さぁ…行きましょう!」
「へへへ、照れるなぁ~…って待ってくれよ!」
カイルはクリスの言葉を最後まで聞かずに急いで階段を上がっていく。クリスは慌てカイルを追いかけた。そして、漸くクリス達は出口まで辿り着いた…が何故かユイは出口の前で止まっていたのだ。
「お…お前、何やってんだ!?早く中に入れよ!!」
「ウフフ……アハハハ!ふっざけんじゃないわよ!?何で鍵が閉まってんのよぉぉ!!う、うわ~ん!こんな死に方なんて嫌ぁ~」
ユイはもう駄目だと思い、大声をあげて泣き出してしまう……嘘泣きだが。
「何ぃぃ!?くっ…カイル!ドアを開ける魔法はないのか!?」
「そんな便利な魔法があるわけないじゃないですか!…グスッ」
カイルは目から涙がポロリと流れる。泣くのを我慢しているようだ。因みにこっちはガチで泣いてるようだ。
「くそっ…あっ!おい、ユイ!家に誰かいないのか!?」
「えっ?家にはお母さん……あっ!そうよ!お母さんがいるかもしれないわ!」
まだ助かる希望があると言う事だ。ユイは両手に拳を作り、ドアを強く叩き始めた。因みに出口のドアは鉄で出来ているため抉じ開けるのは無理である。
「お~い!ユイのお袋さぁぁん!」
クリスはユイの母、ケイトに聞こえるように大声で呼び掛ける。
「あぁ……クリスの馬鹿デケェ声が耳に響くぜ。…ん?おい、階段が消えたぞ!?」
クリス達が必死に上ってきた階段が綺麗に埋まっていた。
「いえ、消えたのではなく埋まったのだと思います!よかったぁ…ここまで来れば大丈夫だったみたいですね」
ゴゴゴゴゴゴ……
「えっ?う…うわぁー!?詰めて!もっと詰めてくださぁーい!!」
安心かと思いきや、もっと恐れていた事が起こったのである。そう、奥の壁がゆっくりと迫ってきたのだ。
↓例:(上に)埋まった感じ↓
■ ■■■
■■→■■■
■■■ ■■■
↓例:迫って来る感じ↓
■■■■■■■■■■■
■→ |←出口
■■■■■■■■■■■
「マジかよ……誰がこんな仕掛け作ったんだ……」
「………俺だ!!」
気を失っていたベルサーチはパチッと目を開け、ハワードの耳元で急に叫んだ。
「うわっ!?」
驚いたハワードはベルサーチを手離す。ベルサーチは尻餅から地面に落ちた。
「うっ!イタタ……驚かして悪かったな?では、話を戻そうか。俺がこの地下全体を作った張本人だ。何故ッ!!ここを作ったのかと言うと――――」
「そんな事、後でじっくり聞いてあげるからこのドアを何とかして開けてよ!!」
また、長い話が続くと思ったユイは、すぐさまベルサーチの話を中断させた。
「せっかちだなぁ~。どれ、この俺のゴッドハンドでドアを開けてあげよう」
ベルサーチは出口のドアに近付く。そして、ポケットから鍵を取り出した。
「………………」
あえてなにも言わずに開けるのを待つクリス達だった。鍵を使い、ベルサーチはドアを開けた。
「男子諸君よ、ミレルダ家へようこそ!!」
もう少しで押し潰されるというのに呑気に我が家を紹介する。当然、クリス達は唖然とする。
「無視よ無視ッ!ほらっ!ボケッとしてないで早く中に入るわよ!」
クリス達はすぐさまミレルダ家の地下へ進みドアを抜けて駆け込んだ。何とか無事に全員助かったようだ。
「ふぅ……間一髪だったぞ……」
あともう少し遅れていたらクリス達はぺしゃんこになっていただろう。
「死ぬかと思ったぜ…。それにしても、お前の親父って変わった人だな……まるで死を恐れてないようだ」
ハワードの言葉を返したいがカイルは生きている事が嬉しくて声が出ない。とりあえず頷く。
「良い意味だと私の知る限りでは戦い方を教えてくれた頼れるお父さんよ?悪い意味では………まぁ馬鹿ね。…っていうか地下を作ってことが初耳だわ」
「おいおい、馬鹿はないだろ!まぁいいか。地下に関して隠していた事は謝る!許せ!」
こう見えてもベルサーチは頭の良い奴だ。頭が良くなかったらあんな広い地下を作れるわけがない。
「仕方ないわね、今回は特別に許してあげるわ。か、勘違いしないでよね!私達をあの場所から助けてくれたからよ!」
「おっ?これはツンデレってや……ぐぉっ!かはっ!……うぎぎ、今の発言は俺が悪かった……」
キックにパンチ、ベルサーチは殴り蹴飛ばされる。これだけふざけているのだから、やられて当然である。
「ベルサーチさん、ふと思ったのですが、この地下には明かりはないのですか?暗くて何も見えませんよ」
落ち着いたカイルはベルサーチに明かりはあるか聞いてみた。あまりにも暗すぎてほぼなにも見えない。
「「うんうん」」
同時に頷くクリスとハワード。ベルサーチはニヤリと口を開き、聞いてくることを待っていたかのようにカイルにこう言った。
「ムフフ……よくぞ気付いてくれた少年!そう……あれは今から16年前、私は―――だったのだ。さぁ~見るがいい!長年苦労して作ったこの素晴らしい地下室を!!」
長い話だったので省略しました。5~10分間の長い説明を聞いたクリス達は欠伸をしていた。
「オープン!!」
ベルサーチは明かりをつけるレバーの所に歩いていき、レバーを下げた。
「うくっ…眩しい」
ピカッ!と明かりついた。暗いところにいたので、急な明かりにクリス達は目を瞑って手で隠した。
「もうそろそろ見えるはずだ」
クリス達は目を開けても大丈夫だと思い、ゆっくりと瞼を開けた。
「おぉー!狭い所だと思ってたけど結構広いな!」
クリスは辺り見回して、始めてみる光景に驚いているようだ。しかし、驚くのは広さだけではなかった。
「広い所なんざ見慣れてるぜ。て、それより何だあれは!?」
「一つだけ分かる事があります。すごく……大きいです」
「ちょ、ちょっと……あんなの作ってたの……お父さん、あれってもしかして……」
ユイは察したようだ。またベルサーチの長い説明になるが、どうしても父親の言葉から聞きたいらしい。
「ふふふ……そうとも。お前達が見ているのは“空飛ぶ飛空挺”…その名も“ザ・バード”だ!!」
ベルサーチはキメ顔でビシッ!とザ・バードという空飛ぶ飛空挺を指差した。
「えっ…空を飛ぶ?鳥みたいに飛ぶのか!?」
「フッ…正にその通り!」
クリスは興味津々で聞いてきた。ベルサーチは胸を張って偉そうな態度で言う。
「おいおい、お前の親父さん凄い技術脳だな。この飛空挺を使えば何処にでも行けるぜ」
あのハワードが珍しく人を褒めた。ベルサーチはニコニコとしている。どうやら褒められた事が嬉しいようだ。
「す、すごい……ベルサーチさん、この飛空挺は一人で作ったのですか?」
「ウヒヒ…あっ!?ゴホン……それは流石に無理だな。この飛空挺を作っている作業人数は30人ぐらいだ。ここにいないとすると…地下五階の寝室で寝ているだろう」
それを聞いたカイルは驚いていた。それもそうだ、たった30人でこのザ・バード(飛空挺)を作っているなんてありえない。
「お父さんがこんなに凄い人だなんて思ってもいなかったわ……天才ね」
「いやぁ~娘に言われるとメチャクチャ嬉しいなぁ~!因みにこの階は地下10階だ」
デレデレ&クネクネして気持ち悪い動きをする。この親父は地下がよっぽど大好きなんだね………深く作りすぎである。
【内心:やっぱ……気持ち悪い】
いい歳して、みっともない動きをするベルサーチを見て、ハワードは声を出さずに内心で【気持ち悪い】と思った。
「10階!?深く掘りすぎでしょ!はぁ……呆れた」
ユイは深い溜め息をする。それを見たベルサーチは真剣な表情でユイにこう言ってきた。
「ユイよ…大人になればわかる。お前はまだ子供だから俺の気持ちがわからんのだ」
「いや、僕から見れば充分大人だと思います……よ」
カイルは小声でボソボソと誰にも聞こえないように言う。確かに大人のボディ……
「なぁなぁ、話はそれぐらいにして早く寝かしてくほしいぞ。もうクタクタで……」
「そうだな。俺からも是非そうしてもらいたい。流石に疲労が溜まりすぎた……」
御守りの効果で傷は回復したが、やはり疲れがだいぶ来ているようだ。
「悪いな。お前達が来なかったらどうなっていたやら。よし、地上の家まで案内するから俺についてこい」
そう言ってベルサーチは上に上がる階段の所まで行き、階段を上がっていく。
「あ、やっぱり階段だよな。うぅ……階段のトラウマになりそうだぞ……」
クリス達はベルサーチについて行き、また長い階段を上るハメになった。そして10分後、クリス達は漸く地上に出る出入口までやってきた。
「むぅ……階段はやはりキツすぎたな。後で簡単に上がれる“機械の設計”を考えとくか」
ベルサーチはブツブツと“エレベーター”っぽい事を考えているようだ。
「あぁ~足が痛ぃぃ~…早く中に入ろうよぉ~」
「まぁ~待て待て。え~と……ん?……あれれ?……見えん」
近くに扉を開ける“スイッチ”があるみたいだが暗すぎて見えないらしい。
「そういえば、階段を上がっていたら、明かりがだんだん小さくなっていますね?いつの間にか見えなくなっていました。なら僕が…あっ!杖がないから魔法が使えないのでした……多分」
カイルの杖はファンダルの太刀裁きによって、粉々にされてしまったので、今は手元に持っていない。
「何だ?カイルは杖なしで魔法を使った事がないのか。安心しろ、杖がなくても魔法は使える。けど、威力は弱まってしまうけどな?やってみろよ」
「えっ?わ、わかりました。行きますよ………ガルス!」
ポゥ……と人差し指に可愛らしい小さい火の玉が出た。これは便利である。
「小っさ!!まぁ…初めてだから仕方ないか」
ハワードは頬を人差し指でポリポリと擦る。
「アハハ……もっと頑張ります。ハワードさん、とても勉強になりました。ありがとうございます。ベルサーチさん、見えますか?」
「おうよ。お陰様でよぉ~く見える。礼を言う、ありがとう少年!!」
ベルサーチは元気よくカイルにお礼を言った後に扉を開けるために“番号ボタン”の“パスワード”を押し始めた。
「やっとゆっくり寝れる……こんなに嬉しい事はないぞ」
限界なのか、とても眠たそうにクリスは目を擦る。
「眠くはないが腹が減ったな。ユイ、寝る前になんか食わせろよ」
ハワードはユイに食い物を要求するが、態度がでかすぎたせいか、ユイはイラつきながら面倒くさそうにこう言ってきた。
「なによ偉そうに!あんたに食べさせる食べ物なんてないわよ。森に入って“猪”でも狩ってくればいいじゃん」
「な、なんだと!」
ユイの言ってることは分からなくもないが、今から狩りに行かせるのはあまりにも鬼畜である。
「ちょちょ、ちょっと!二人とも口喧嘩はやめてください!ユイさん、僕もお腹が減りましたので何か食べさせて下さい」
喧嘩を止める為にカイルはお腹が減ったと嘘をつく。それにしてもベルサーチはいつまでパスワードを入力しているんだ。
「んぅ~カイルくんが食べたいって言ってるから食べさせてあげる!ハワード、カイルくんに感謝しなさいよね!」
【内心:カイル、お前がいなかったら俺はコイツ(ユイ)を半殺しにしているところだ】
怒りを堪えるハワードはシワを寄せてカイルをジーッと見る。
【内心:うぅ…ハワードさんの心の声が分かる気がします】
ピピッ!(ドアが開きます)
「やっと終わった。やはり百桁は多すぎたな?開けるぞ」
流石は天才頭脳の持ち主……しかし、百桁は多すぎる。ベルサーチは扉を開けて外に出た。
「んぅ~まだ1日も経ってないと思うけど、久しぶりの外の空気って感じね」
外に出たユイは両手を高く上げてクルクルと回る。
「あれ?地下とユイの家って繋がっているんじゃなかったっけ?」
「あぁ~さっき俺が言った事は言い間違いだ。家じゃなくて地下が地下に繋がってるんだ。言い方が悪かったな…許せ!」
地下が地下に繋がっていたと言われても、クリスだと分かりにくいと思われる。
「細かい事は気にしませんよ。あそこに見えるのがユイさんの家ですね?」
「ふんっ…普通の家だな」
ハワードはニヤッと苦笑い。ユイを挑発するように言った。イラついている時は性格が特に悪い王子様である。
【内心:こ、このぉ……何も言い返せない……王子だからってぇぇ……ムカつくぅぅー!!】
相手はルーダ城の王子であるため、ユイは何も言い返せなかった。
「地上には久しぶりに出てきたな。ケイトに会うのが楽しみだ。んじゃ、後は案内しなくても分かるだろうし、俺は先に行ってるからな?アディオス~」
そう言って、ベルサーチはものすごい勢いで家にいる愛しの妻ケイトに会うため、すぐさま走っていった。
「早っ!?ファンダルと同じぐらい早かったぞ!?」
「どうかしらね。そうそう、お父さんは私に戦術を教えてくれた人なんだよ。因みにお父さんは“伝説の勇者”と知り合い…と言う“嘘話”を聞いた事があるわ」
この言い方だと全く信じていないようだ。すると、ハワードは過去の勇者や魔王についてクリス達に話してあげた。
「伝説の勇者…か。今から“20年前”に何代目か知らんが“デラーズ”という魔王を倒して姿を消したらしい。懐かしいな、俺が1歳の時だぜ。もちろん、その時の事は全く記憶にない」
カイルとユイは【えっ!?】ってみたいな表情で驚きだした。恐らく年齢を聞いて驚いたのだろう。
「なんだ?あぁ~お前達はその時代に生まれなかったんだな。けど、有名な話だぜ?親から聞いてなかったのかよ」
「伝説の勇者についてはお父さんからよく聞きましたよ。ただぁ~……ちょっと驚きました」
カイルはジーッとハワードの顔や体を見た。何を考えているのか分かる。
「ハワードって21歳なの!?信じられない……私と同じ歳だと思ったわ」
ユイはハワードが歳上だと思っていなかったようだ。王子様、若く見られて良かったじゃないか。
「なんだ…この感じ…凄く気になるぞ。な、なぁ……その勇者の名前って分かるか?」
クリスはハワードの歳を気にせず、伝説の勇者の事が気になっていた。
「お前達は俺が若く見えた…と言いたいのか?人が気にしている事を言いやがって……まぁいいか、早く行こうぜ」
普通なら嬉しいはずだが、逆だったようだ。そう言って、ハワードは先にユイの家に向かった。
「良いことを言ったつもりでしたが……ハワードさん怒ってませんでしたか?とりあえず行きましょうか」
「ほへぇ~変わったやつね?大人に見えてほしかったんだよきっと。あっ?待ってよカイルくん!」
2人はハワードに続きユイの家に向かって歩いていった。………無視された&置いてかれたクリスはブツブツと愚痴を言っていた。
「畜生…また無視された。しかも置いてかれたし……あんまりだぞ!」
クリスはトボトボと歩き、一人寂しくユイの家に向かうのだった。
第八章:出口の先に大きな翼、終




