「城って?」「難しいな…偉い人がいる所だ」
「ふぅ……なんとかモンスターに見つからずにいけたぞ。ここが城っていうところか……」
クリスはなるべく姿を隠しながら城の前まで無事に到着した。しかし、門の前に二人の“門番の兵士”がいた。
「むっ……止まれ!貴公は何者だ。この“ルーダ城”に何のようだ」
「おいおい、そう熱くなるなよ“兄弟”。よく見ろよ、足がいっちゃってるぜ?」
突如現れたクリスに対して止まるように言ってきた。顔がそっくりなところを見ると、どうやら“双子”みたいである。彼等の名は"ベイジ"と"ペイジ"。ベイジがチャラい方で真面目な方がベイジである。
「あんた、よく分かったな?…って、感心してる場合じゃない!仲間のカイルが…えっと…誰か知らないけど…この城に運ばれた筈なんだ!」
パッと見で足が怪我している事に気付いたベイジに感心するが、そんなことよりカイルが来ているかどうか聞いてみた。
「運ばれた?そうか、貴公は“王子”の事を言っているのだな?そのカイルと言う少年なら、このルーダ城の中で手当て中だろう」
「あいつ、久しぶり帰ってきたもんだからビックリしたぜ。お前も怪我してるし、中に入って手当てしてもらえよ。ペイジ、案内してやれ」
双子でも口調が全く違うようだ。ベイジは自分で行くのが面倒くさいのでペイジに頼んだ。
「承知した。では、私についてきてください」
「お…おう【内心:よかったぁ……この場所であってたみたいだな。にしても……王子ってなんのことだ?】」
王子と言う意味すら分からないようだ。よっぽど村での暮らしで世間の事について知らないのだろう。ペイジの案内により、クリスはルーダ城の中へ入っていった。
「へぇ~頑丈な所だな!木じゃなくて石の塊で出来るんだな。それに広いぞ!」
クリスは初めて城の中を拝見したので、辺りをキョロキョロと見回している。
「城ですから当然です。失礼、少し聞きたいことがあるのだが……よろしいですか?」
「聞きたいこと?いいけど何だ?」
どこの田舎から来た?と失礼な事は聞きません。ペイジは先程から気になってたことを聞いてみた。
「ありがとう。では聞くが……貴公はどうやって此処に来たのですか?」
「どうやってって…ナルム洞窟っていう所から来たけど?」
クリスはありのままの事を話し、嘘をつかずにペイジに素直に教えてあげた。
「なんと、ナルム洞窟ですか!?あの岩石のロックベルを倒したのですか……なるほど、だから王子が戻ってきたのですね」
ペイジは納得したように頷く。恐らく、今まで誰も抜けてきた者はいなかったのだろう。
「俺もちょっと聞きたいことがあるんだけどさ…王子って何かな?」
「えっ……貴公は王子の意味がわからないのですか?可哀想に余程疲れているんですね……。ゆっくり休むといいでしょう。さぁ、着きましたよ」
クリスが疲れのせいでわからないと思い込むペイジであった。二人はカイルが手当てされている部屋の前に着いた。
「い、いや……確かに疲れてるけど……まぁいいか。えーと……案内ありがとな!」
「いえ。では、私は失礼しますね」
名前が分からないので、とりあえずお礼を言った。そう言って、ペイジは持ち場である城の門へと戻っていった。
「よし、中に入るぞ」
クリスはそっとドアを開けた。すると、そこにはベットに横になっているカイルとカイルの隣に座っている謎の青年と“回復専門”の老…いや…名前をつけよう…“ジャンゴ”がいた。
「やっときたか。安心しろ、お前のお友達は無事だぜ。ジャンゴが回復させているところだ」
「無事なんだな!よかった……王子だっけ?本当にありがとな!……っ!!」
クリスは怪我をした足を押さえる。流石に折れている足でここまで来るのは無理があったようだ。
「その足で置いていって悪かったな。お友達が重傷だったから分かってくれ。ジャンゴ、彼の足の怪我を」
「御意。"ヒアキール"」
ジャンゴは回復呪文の中でももっとも強力な回復魔法を唱えた。すると、驚くことにクリスの怪我があっという間に治ったのである。
「あ、あれ!?痛みがなくなったぞ!!回復魔法ってすげぇーな!じいさん、ありがとな!」
「ふぉっふぉ、なんのなんの。さて、ワシはこれで失礼しますぞ。“ハワード”様、また後程」
用が済んだようなので、ジャンゴは部屋から出ていった。すると、青年が忘れていたかのように自己紹介をしてきた。
「まだ名乗ってなかったな。俺は“ジャック・ハワード”、このルーダ城の王子だ」
王子だからか、しっかりとした顔つきをしている。クリスと比べて頭も良さそうに見えるが……はたして。彼の歳は21歳である。
「ジャック・ハワードだな?俺はバット・クリス、大魔王を倒すために旅に出た男だ!で、寝ているのがディア・カイル、宜しくなジャック!」
「大魔王を倒すだって?ハハハ……冗談はよせ。それと、俺の事はハワードでいい」
ハワードはクリスが冗談を言っているようにしか思えなかった。当然の反応である。
「冗談なんかじゃないぞ!絶対に倒すって俺は“神”に誓ったんだ!」
クリスは冗談ではなく、本気で倒すことを強く言い張った。あと、流石に神については知っているそうです。
「お、おいおい……お前、本気で言ってんのかよ!?大魔王か……まぁ、とりあえず今日はもう寝ろ。明日には元気になっているはずだ。じゃあな」
そう言って、ハワードは部屋から出ていった。何か考えているように見えたが……。
「むぅ……大魔王を倒すことがおかしなことなのか?まぁいいや、今日は一日中ずっと歩きっぱなしだったし疲れたぞ……。"日記"書いてから寝よう」
クリスはポケットから“日記手帳”を取りだし、今日あったことを日記に書いた。うとうとと今にも寝落ちしそうだ。なんとか書き終えたクリスはぐったりと睡眠に落ちた。……日記書くことが予想外です。
時は流れ、夜が明けた。クリスは目が覚めるとカイルが先に起きていた。重傷だったが、今ではすっかり元気になっていた。
「あっ?クリスさん、おはようございます!」
「うっ……うぐぐぐ………ふぁ~あ……おはようカイル……。もう体の方は大丈夫なのか?」
クリスはグッと大きく両手を上げ、大きなあくびをしながらベットから降りた。
「はい、お陰様でよくなりました。それよりクリスさん……ご迷惑を掛けてしまって申し訳ありませんでした」
クリスに迷惑をかけたと思い込むカイルは頭を下げた。決してそんなことはない。
「なんでカイルが謝るんだよ。謝るなら俺の方だよ。カイルを一人にしてしまったしな……ごめんなカイル」
「そんなクリスさんが……と、とにかく僕達は無事でしたし、よかったですよ!」
「それもそうだな。あっ……俺達はこれからどうすればいいんだ?」
ナルム洞窟を抜けたので、行ける所は増えたはず。クリス達は次なる目的地を決めなければいけない。
「そういえば、ここはルーダ城の中ですよね?う~ん……一度“王様”に面会の許可いただいて、話が出来たら聞いてみてどうするか考えましょうか」
「すまん……その……」
カイルに何か聞きそうだが、カイルはクリスがなにを言いたいかすぐにわかった。
「王様について教えますね?王様とは城の中で一番偉いという事を表しています。王様といってもお歳よりという訳ではありません。若い王様の場合もありますね?因みに王子とは簡単に言えば王様の息子かあるいは孫ですね?なので偉い方です。クリスさん、わかりましたか?」
カイルは王様について話し、ついでに王子について詳しく話してあげた。クリスはなんとなく納得したようだ。
「なるほど!って事は、ハワードは偉い奴なのか!それにしてもよく俺が言おうとした事がわかったな?」
「ハワード……確か僕を運んでくれた方ですよね?なんとなくですよ。それにーー(コンコン)誰か来たみたいです。誰でしょう?」
ドアをノックし、部屋の中に入ってきたのはクリスとカイルの怪我を一瞬にして治してくれたジャンゴだった。
「ふぉっふぉ、お二人方、もう起きていらっしゃいましたか。元気になられたようでよかったですぞ」
「この通りピンピンだぞ!じいさん、昨日はありがとな!」
クリスは先日もじいさんと言っていたが、失礼極まりない奴である。そこはせめておじいさんと言ってあげよう。
「じ…じいさんって失礼ですよクリスさん!すみません、えっと……ジャンゴさん?」
「ふぉっふぉ、なになに構いませんぞ。おや、あまり意識がなかったのにワシの名を覚えてましたか。さて…クリス様、カイル様、王がお呼びですので来てくれませんかの」
なんと、ルーダ城の王に呼ばれるクリス達。カイルは驚き、まさか王様から直々に呼ばれると思いもしなかったようだ。
「えっ!?王様から呼ばれるなんて……分かりました。行きましょうクリスさん」
「王って王様の事だよな。うっし、なに言われるか分かんないけど、どんな人か楽しみだぞ」
どんな人物なのか興味津々のようだ。クリス達はすぐに着替えを済ませ、武器の剣と杖を手に取った。準備万端である。
「何やら大事なお話のようですぞ。ではでは、ワシについてきてくだされ」
そう言って、ジャンゴは再度部屋の扉を開けて部屋を出た。クリス達を王がいる王座へと案内をする。
「ハワードもいるのかな?」
「きっといますよ。そういえば、まだハワード王子にお礼を言っていませんでした。王様の話が終わったら言わなきゃ……」
暫くして、クリス達は王がいる王座へ着いた。王様の隣には先日助けてくれたジャック・ハワードがいた。
「では、ワシはこれで」
ジャンゴはクリス達から離れ、王様とハワードの側に並んだ。どうやらジャンゴは大臣的な人物だったらしい。
「ふむ、よくぞ来てくれた若き冒険者達よ。まぁ、楽にしなさい」
王様は見た感じだと若くはなさそうだ。恐らく、ハワードの父ではなく“お爺”であろう。クリス達はその場に腰を下げた。
「なんだ?あの○○○みたいなのは?」
クリスは王が被っている“冠”の事を言っているようだ。すると、カイルは慌ててクリスに注意しだした。
「ク、クリスさん!下品な事を言わないでください!アレは冠といって王様が被るものです!」
クリスがなにを思ったのかご想像にお任せします。何故かカイルの顔が赤くなっている。
「冠?」
クリスが言った事は“ルーダ王”には聞こえてなかったらしい。ハワードは騒がしい二人を見て、注意してきた。
「静かにしろ!これからお前達に大事な話をする。ほら、話すタイミングを作ってやったぜ“ジジイ”」
王にたいしてジジイとは……。ハワードは案外口の悪い生意気な青年……かも知れない。
「ぬぐぐ、相変わらずだなハワード。ゴホン、では本題に移ろうか」
何度もジジイと言われているのか、慣れているようだ。ルーダ王の目付きが変わる。
「君達はナルム洞窟から来たと聞いたが、あのロックベルをたった二人で倒したのかね?」
ルーダ王はロックベルについて興味があるのだろうか。カイルはありのままの事を話した。
「は、はい!信じられないかも知れませんが、確かに僕とクリスさんの二人で倒しました。ロックベルには弱点があったんです!!」
カイルは弱点の事を口にすると周りの兵達が驚いていた。どうやら知らなかったようだ。
「彼の言う通り、弱点は確かにあった。だが、一人では絶対に攻撃が出来ないところにある。俺は一人だったからロックベルを倒すことは出来なかったんだ」
ハワードはサマータウンに用があり、ルーダ城から飛び出して用が済んだら帰る予定だったが、ロックベルが出口を塞いでいたので帰れなかったのである。
「なるほどな。だから帰りが遅かったのか……全く、心配させおって!」
「フンッ……俺がそう簡単にくたばるかよ」
お爺に反抗する孫のハワード。すると、クリスが弱点について話し出した。
「弱点はロックベルの頭にあったんだ。光っているのが見えたのをカイルが見つけてくれたんだ」
「正直、ロックベルに弱点がなかった場合勝ち目はありませんでした。どこを攻撃してもびくともしませんでしたので……。クリスさんがいて本当によかったと思います」
初共同プレイだったのにも関わらず、クリスとカイルの連携は完璧だった。
「ふむ、ロックベルの頭に弱点があったとはな……ヤツは出口を防いでいたので、我々は困っていたのだ。道を開いた事を誠に感謝する」
ルーダ王は自ら頭を下げ、クリスとカイルに礼を言った。王が頭を下げることは滅多にないことである。
【内心:王様に礼を言われるなんて夢みたいだ……】
カイルはあまりのことに驚きを隠せないようだ。ルーダ王は立ち上がり、クリス達に別れを告げた。
「ワシからの話は以上じゃ。若き冒険者達よ、くれぐれも気をつけてな」
「心配してくれてるのか?ありがとな王様!」
クリスは王様相手でも普通に喋るようだ。……なんて無礼者なのだろうか。
「ありがとうございます!それでは王様、僕達はこれで失礼します。あっ……ハワード王子、助けていただきありがとうございました!行きますよクリスさん!」
カイルはクリスに注意しようと考えたが、周りから笑われると思いあえてしなかった。そのかわり、クリスを強く引っ張る。
「うわわ!な、なんだよカイル!」
クリス達は王座から出ていった。ジャンゴはクリス達を見て懐かしく感じていた。
「元気な子達でしたな」
「うむ。むっ……どうしたハワード」
「………………いや、別に」
王は孫であるハワードを見て、様子がおかしいと思っているようだ。確かに昨日からなにか考えているように見える。
クリスとカイルはルーダ城の門の前まで来ていた。門の前にはペイジとベイジがいた。
「おっ?あんたは昨日案内してくれた人だな!」
クリスは門番であるペイジの事を言っていた。ペイジは返事をした。
「あぁ、昨日の少年ですか。そういえば、まだ名乗ってませんでしたね。申し遅れました私は“フリール・ペイジ”です」
「お前等、王と話したんだな?因みに俺は“フリール・ベイジ”だ。見ての通りこいつとは血の繋がった双子だぜ」
ペイジとベイジは自己紹介をしてくれた。因みに彼等の歳は25歳。クリスは二人に言ってはいけないことを言ってしまう。
「ペイジにベイジ……ププッ!“濁点”がなかったら“兵士”じゃんか!」
確かにそうだが、それより田舎者であるクリスが濁点について知っていることに驚きである。
「「それは言うな!!」」
同時に言い出した。流石は双子、息ピッタリだ。カイルはクスクスと軽く笑っていた。
「アハハ!……おや?誰かが走ってきますよ?」
カイルは誰かが走ってくる音に気づく。クリス達の前に現れたのは――
「っと…間に合ったみたいだな」
なんと、そこにやってきたのは王子のハワードだった。別れを言いにきたのだろうか?
「王子、そんなに慌ててどうかしたのですか?」
「また用があるとか言って出ていくなよ」
双子に聞かれる。ハワードはハッキリと言ってやった。
「俺はこいつらと一緒に旅をすることに決めた!」
双子の二人は突然の事で【何ィィ!?】と驚いている。旅をするのは予想外だったのだろう。
「おぉー!ハワードが一緒に来てくれるのか!!俺は大歓迎だぞ!」
クリスからしたら旅仲間が増えることは余程嬉しい事なのである。
「僕も構いませんが……ルーダ城の事はどうするんですか!?それに何故、僕達と一緒に行くと決めたんですか?」
カイルはどうしても気になるようだ。ハワードは平然とこう答えた。
「ジジイには許可をとったから問題はない。お前達と行く理由は……特にない」
本当はあるんだがあえて言わないハワード……カイルは唖然とする。
「本気でついていくつもりか!?もしお前の身に何かあったら……」
何気に心配するベイジ。ハワードとは小さい頃からの仲のいいダチである。
「ベイジ、王子は王から許可をもらったんだ。私達が止める権利はない」
ペイジはポンッとベイジの肩を掴み、ベイジを説得した。
「そういうことだ。ルーダ城の事は頼んだぜベイジ、ペイジ?さぁ、新たな冒険の始まりだ。行くぞ!」
ハワードは先頭に歩き、すぐにルーダ城を後にした。なんだか誰かから逃げているように見える。
「ハワードのヤツ、なんか張り切ってるな!まぁいいか、行こうぜカイル!」
クリスはハワードについて行く。カイルは戸惑いつつ、双子に出来るだけの事を伝えた。
「え、えっと……こんなことになって驚いてますが、出来る限りハワード王子を守ります!ベイジさん、ペイジさん行ってきます!」
カイルは二人の後に続き、クリス達はルーダ城から去っていった。城を離れる王子の背中を見て、二人は少し寂しそうに見送ったのであった
第三章:ルーダ城の王子、終




