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無知な勇者様  作者: 黒猫(ヤマト)
第十章:自由自在に操る謎の女
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「妖怪って?」「普段表に出ない生き物?よ」

時は流れ、クリス達は朝早く目覚め、旅に出る支度を済ましていた。そして、ミレルダ家を出るクリス達はベルサーチとケイトに別れを告げていた。




「ベルサーチさん、ケイトさん、色々とお世話になりました。それに、ボロボロになった服を綺麗にしてくれてありがとうございます!」




「いいのよカイルくん。あのままじゃ格好がつかないでしょうしね。またこれからも大変な旅になると思うけど頑張ってね」




ファンダルとの戦闘でボロボロになっていた服をケイトがたった一日で一つ一つ丁寧に縫って綺麗にしてくれたようだ。




「何か困った事があったらいつでも来いよ?出来る限り力を貸してやるからな」




「お父さんに頼ることなんて機械のことしかなさそうだけど。冗談冗談、その時が来たら遠慮なくお願いするね」




ベルサーチが機械の事しか知らないというのは断じてない。ユイの戦闘技術を教えたのは彼なのだから。




「あっ……ベルサーチさん!あの、俺の親父なんですが――」




「あぁ…ケイトから聞いたよ。だが、君は何も言わなくていい。実は君と初めて会った時から既に気づいていたんだ。アイツの顔とそっくりだったからすぐに分かったよ。すまん……またこっちに来た時にじっくり話そう。今はそういう気分になれん……大人の事情って奴だ」




この言い方だとクリスが何を言おうとしたのか分かっていたのだろう。ベルサーチはどうやらクリスの父親が亡くなっていた事を知っていたようだ。




「……親父が何で手紙を書いていた理由がやっと分かった。ベルサーチさん、また来たときは親父の事を色々聞かせてください。よし皆、行くぞー!」




「何だか話についていけなかったが……まぁいいか。それじゃ、俺達は行きますね。あ、コラ!お前が先に行っても分からないだろ!」




先に先導したクリスをハワードはミレルダ父母に頭を下げてから、急いで追いかけた。




「そんなに焦らなくても!あ、ベルサーチさん、ケイトさん、お世話になりました!失礼します!」




「ち、ちょっと!私を置いてかないでよ!あっ…その…お父さん、お母さん……行ってくるね」




少し寂しそうだ。彼女もまた初めて旅に出るので、親と離れ離れになるのは慣れないものだろう。




「そんな顔するな。また近いうちに会える。ユイ、体には気を付けてな。それとこれだけは言っておく…無茶だけはするなよ?」




「私達はいつまでも帰りを待っているからね。クリスくん達の足手まといになっちゃダメよ」




娘の心配をする父と母…なんていい親なんだうか。ユイは元気よく不安を打ち消すかのように笑顔でこう答えた。




「それは絶対にない!逆に私の実力をドーンと見せてあげるわ!それじゃ…行ってきます!」




親に別れを告げ、ユイはスタタタタと素早い速さでクリス達を追いかけて行った。




「行ったか……。さて、仕事に戻るとするか」




「あの子ったら無理しちゃって…。あら?例の飛空艇の作業?完成までまだまだ掛かりそうみたいだけど、頑張ってね」




「おうよ!!」




ベルサーチは地下行き、ケイトは家の中に入っていた。合流したクリス達は最初の目的地であるニーマスへと向かっていた。




「なぁユイ、この道であってるんだよな?なんか木の影でモンスターが俺達を見てるんだけど?」




「何度もこの道でニーマスに行っていたから確実にあってるよ。それと、あのモンスターだけど、前に私が痛めつけたからきっと帯びているのよ」





ユイはあえて倒さずに、モンスター達に痛みを覚えさせて恐怖を感じさせていたようだ。恐ろしい……。




「モンスターを倒さないのかよ……お前ってホント変わった奴だな」





「分かってないわねー!痛めつけたら怖くて襲ってこないでしょ?一々相手にするのが面倒なのよ」




「なるほど、そのやり方も一理あると思います。でも、少しでも強くなる為にはモンスターを倒す事をオススメします」




カイルの言う通りである。モンスターは倒すために出てきているのだから……多分。




「むっ……確かにそうだね!フフフ、じゃあ倒そっか!」




ユイは殺しを楽しむような表情で言い、装備している投げナイフを取り出した。





「俺達があの隠れているモンスターに向かっていったら逃げると思うな。……ほら、ユイが武器を取り出すから逃げていったじゃないか」




案の定、ユイがナイフを取り出した瞬間にモンスター達は怯えるように遠くへと逃げていった。




「結局こうなるんだな……ユイ、痛めつけるより倒すのが一番だと言うことが分かっただろ?それより、こんな所でグズグズしてないで早くニーマスに行こうぜ」





「今度からはあんた達と旅をするんだからちゃんと倒すわよ!!それと、ハワードに言われなくても分かってるわ!!」




「あっ…待ってください!クリスさん、ハワードさん、あまりユイさんを怒らせないようにしませんか?ユイさん追いかけますね!」





ユイはプンスカと怒りながら先にニーマスへ向かって走っていった。カイルは慌てて呼び止めるが速すぎて聞こえなかったようだ。




「そんな事言っても……なぁ~?」




「あぁ…アイツがすぐに怒るんだからどうしようもないぜ」




クリスとハワードはブツブツと文句を言いながら遅れてユイとカイルについていく。そして、数時間後、ようやくニーマスの街までやって来た。





「ふぅ~結構時間が掛かったわ…。あれ?おかしいなぁ~出入口の門が閉まってる」




「まだ昼の筈だろ?本来なら門番がいて開いてるはずなんだが……」




「なんだろう……街の中からへんな気配が感じるぞ?」





クリスはニーマスの街から何かの気配が感じたらしい。最近クリスの気配スキルが上がってきているような……。




「う~んどうしますか?このまま中に入らずルーダ城に行きますか?それとも……侵入します?」




カイルは二つの選択権を言い出した。それにしても侵入とは……思い切った事を言い出すな…。




「クリスの言った通りだな…。街の中から人とは違う気配が感じる。よし、俺が中に入って確かめてくる」




ハワードは門を飛び越え、ニーマスの街の中に入っていった。高さ3mもあるのに軽々と飛び越えるなんて……これがファンタジーの世界である。





「あっ…待てよハワード!俺も行くから二人は門が開くまでここで待っててくれ」




ハワードに続き、クリスも門を飛び越えて中に入っていった。普通の人では絶対に飛び越えるなんて無理である。




「何か嫌な予感がしますね」




「私もそんな感じがする。あっ…門が開いたよ?」




ギギギとゆっくり門が開いた。しかし、開いたのはいいがユイ達の前にはハワードとクリスがいなかった。





「あれ?クリスさんとハワードさんがいませんね?とりあえず開いたので中に入りましょうか」




「了解~!カイルくんが先に行くと危ないから私が先導するね」




ユイはニーマスの街へ入っていく。すると、左右から何かが襲ってきた!!




「むっ…あま~い!そんな攻撃が私に当たると……ちょ、え!?ちょっと、どういうつもりよ!!」






ユイは後ろに下がって左右から攻撃してきた二人の攻撃を躱した。だが、その攻撃をしてきた二人は先に行ったクリスとハワードであった。




「知るかよ!!とにかく俺達から離れろ!!くそ…思うように体が動かせない」





「うぎぎ…体が勝手に動いてしまう。た、多分…街に入った瞬間に何かやられたんだと思う……うわわ!?」





クリスとハワードは何者かによって操られているようだ。クリスはユイに向かっていき、手に持っている剣で攻撃してきた。




「あぶなっ!?ていうか冗談じゃないわ!なんとかして止める方法はない…のっ!」





「ぐぇ!!あがが………マジで蹴りやがって……」





ユイはクリスの攻撃を余裕で躱し、遠慮なくクリスの腹を蹴飛ばした。




「ユ、ユイさん!!クリスさんとハワードさんはきっと操られているんですよ!!」





可哀想に……腹を蹴られたクリスに何か言ってやってくれ。ユイは一旦下がってカイルの側に行く。





「いきなりこんな展開になるなんて思いもしなかったわね。カイルくん、何か良い案ないかな!?」




「案ですか…クリスさんとハワードさんを操っている本体を見つけないとどうしようもありませんね。ニーマスの街中にいると思いますが……ん?」




カイルは門の先から見えるところを目を細めて見た。




「やっぱそうだよね。……あぁ~もうっ!!邪魔しないでよね!!」




操られているハワードがユイに襲ってきた。




「俺にそんな事言われても仕方ないだろ!!うがっ……す、少しは加減しやがれ」




クリスと同じようにハワードはユイに腹を蹴飛ばされる。




「宿屋の天井に何か……あれは!?ユイさん、急いで宿屋の屋根に行ってください!!何かいました!!」




カイルは目の視力がかなりいいのご存知だろうか?詳しくは第二章のロックベル戦で明らかになっている。




「で、でもカイルくんはどうするの!?一人じゃ危ないよ!」




確かにその通りである。カイルはファンダルに杖を壊されたので、今は杖を持っていない。




「うっ…自分の事を全く考えてなかった。ぼ、僕なら多分……大丈夫です!!ですから、ユイさんは行ってください!」




カイルは無理をして言っている。多分という言葉を使った時点でアウトだ。




「た、多分って……でもクリスや街の人を助けるには私が行くしかないよね。よぉ~し、行ってくるわ!!」




……ハワードの名を言ってない。ユイは民の家の屋根に飛び乗り、そこから次々と屋根を飛び越えて宿屋の屋根へ急ぎで向かった。




「スピード!!……よかったぁ~なんとか魔法が使えた。でも、効果がすぐに切れそう」





カイルは少しでも早く動けるようにしておかないと逃げ切れないので、自分自身にスピードをかけた。




「お、おいカイル!!ボケーッとしてないで逃げる準備をしろ!!あっ…クリスがお前に向かっていったぞ!!」




クリスは何も言わずにカイルに向かっていく。




「へぅぇ?わぁぁー!?クリスさん!向かってきた時は声を掛けてくださいよ!!」




襲ってくるクリスからカイルはクルッと回って急いで逃げる。




「ご、ごめんカイル。楽な気分だったからつい……あっ!!前からハワードが来たぞ!!」





操られていると何もしなくても体が勝手に動くので、確かに楽かもしれない。カイルの真正面からハワードが襲ってきた。




「うわっ!挟み撃ちは勘弁してくださいよ!!このまま逃げていたらいずれ体力が消耗しそう……あっ?そうだ!!街中に入って隠れれば良いんだ!!」




カイルは迷いなくニーマスの街の中に駆け込んでいった。操られているクリスとハワードはカイルを追いかけていく。その頃、ユイは操っている本体のところまで来ていた。




「見つけたわよ!!あんたが街の人達やクリスを操っている奴ね!!痛い目にあいたくなかったらすぐにこんな事は辞めなさい!!」




「フン、女が来たところで騒ぐ私ではない。だが、私の罠を分かっていて屋根から渡ってくるとは……やるな」




罠?どうやらこの方は街に罠を仕掛けたらしい。屋根からなら大丈夫と言うことは地上は……カイルは罠にかかったかもしれない。




「あんた…今、罠って言ったよね?どういう事か説明しなさい!!」





「よく喋る女だ……まぁいいだろ。地上からこの街に入った場合、私が仕掛けた糸の罠を仕掛けたのだ。簡単に言えば侵入者を知らせてくれる…という罠だと言っておこう。フフ……どうやらまたネズミが罠にかかったらしい……ちょうどいい貴様に私の能力を見せてやろう」




女は何やら人差し指から赤い糸を出し、ニーマスの街中に入ったカイルの方へと延びていった。




「な、何よアレ!?指から赤い糸が出てる。……糸が消えた!?」




「消えたのが見えたのか。なかなか視力がいいな……だが、ただ消えた訳ではない。……イカンな、ちと喋りすぎたようだ。貴様に恨みはないが消えてもらう。…おっと?貴様に私の名を言ってなかったな。私の名は“妖魔 翠月”、モンスターでもなく人間でもない……私は妖怪だ」





翠月は名を言い出した。翠月はブツブツと何かを唱え、スゥーっと前に“妖刀”が出てきた。因みに妖刀は浮いている。




「よ、妖怪って…嘘でしょ!?でも、ありえない能力を持ってるし本物かも……そ、そんなんでビビる私じゃないわよ!!」






ユイはサッとナイフを四本取り出して左手に二本、右手に二本と分けて持つ。




「声が震えているではないか?素直じゃないな……では、参る!!」





翠月は妖刀を片手で掴んだ瞬間、前に出てユイに向かっていく。




「ムカつくわね……あんたなんか私一人で充分だわ!!」




同じく、ユイも翠月に向かっていく。速さではユイの方が少し早いように見えるが……まだ分からないぞ。





「一人で…だと?フフ……思い切った事を言い出すな……私とモンスターを一緒にするな!!」





翠月はユイの右肩を狙って妖刀を斜め横に振り降ろした。




「くぅぅ……ナイフじゃ防ぐのが精一杯ね…。このぉ…離れなさい…よっ!!」




ユイは翠月の攻撃を、なんとか両手に持っているナイフで防いだ。そして、翠月を軽く押して少し離れた。




「大したやつだ…私の妖刀をナイフで受け止めるとはな?では、人数を増やしてみるか」





“ニンニンポーズ”を思い浮かべてください。そのポーズをとり、翠月はブツブツと何かを唱えた。すると、翠月の分身が二人現れたのだ。簡単に言えば“影分身”である。




「なっ!?わ…私が必死に覚えようとしてる技を使ってくるなんて……成功したことないのに!!」




「なに?貴様は忍術使いなのか……気が変わった。殺すのは辞めておこう。……邪魔したな」





翠月はスッと分身を消し、ユイに背後を見せて去ろうとする。この妖怪は何がしたいのだろうか?





「ど、どういうつもりよ?街を襲っておいて私を殺さないなんて……あんた、一体何がしたいのよ」





「簡単なことだ、貴様は私と同じ忍だからな。まぁ…話してもいいだろう。この街を襲えば奴が来るかと思ってな……私は奴と戦ってみたいのだ」





奴とは一体誰なのだろうか?ユイは奴にについて翠月に聞いてみた。




「だからって街を襲うなんて最悪だわ。それで…奴って誰なのよ?」





「奴の名はエルセレム・ファンダル……魔王に従う者であり、四天王の一人だ。私もその一人だったが、ある理由で抜け出した。やれやれ……また喋りすぎたようだ。次は私から質問させていただく。同類よ…名を何と申す?」





なんと、戦いたいと思っていた相手とはクリス達が手も足も出なかったあのファンダルの事だったのだ。




「話がゴチャゴチャだわ…一気に言わないでよね。……私はミレルダ・ユイよ。それにしても驚きな発言にビックリだわ…まさか魔王の“部下”だったなんて」




ユイはあえてファンダルの事を翠月には言わなかった。




「ミレルダだと……まさかな。ミレルダ・ユイ、貴様に頼みがある。もしエルセレム・ファンダルを見掛けたら私に合図をくれないか?合図は何でもいい。では、これにて失礼する」




シュッと一瞬にして翠月はニーマスの街から消えた。翠月がいなくなったので操られている人達は全て解放された。




「な、なんなのよ…アイツ…。ペラペラと喋っては襲うのはやめて、すぐ消えるだなんて……なんて一方的なの!?私はまだOKを出してないのにすぐに去っちゃうんだから!!ホント、ワケわかんない!」




街に被害が出てないだけまだ良かった方である。ユイがイライラしている時に下からクリス達がやって来た。




「おーい、大丈夫かユイ~!大丈夫なら……いや、あの顔は怒ってるユイだ。機嫌が悪そうだし……どうする?」




「アイツを怒らせたまま行くのはある意味危険だ。仕方ない…宿屋で一晩泊まるか」





ハワードは仲間達を危険に曝したくないのでユイの機嫌が収まるまで宿屋で泊まる事にしたのであった。




第十章:自由自在に操る謎の女、終

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