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魔力ゼロが努力で剣神になったが、実は魔力も膨大な量持ってました。  作者: 冬自慢


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反撃の一番槍

「――ッ」


 途端に意識が覚醒し、激痛で思わず嗚咽を漏らしてしまう。

 ズシリと重い身体が、これが現実であると訴えかけてくる。


 あの真っ白な世界から、ようやく帰ってきたらしい。


 相変わらず意識は朦朧としているし、身体は思うように動く事をキッパリと拒絶してくる。


 だが、視界にリタの姿をボンヤリ捉え、強制的に身体へ対抗措置を取らせる。


 リタはフラフラとしつつもリノアへ迫り、目の前で立ち止まると、長剣の剣先をリノアの腹部へ突き下ろす。

 鉄剣は泥の中で行方が分からず、身体は重く、ほとんど動かせない。


 ならばと咄嗟に右腕を動かし、腹に迫る長剣を防ごうと、重い瞼を見開き視線を下部へやる。

 大雑把な目測で、分の悪い賭けではあったが、辛うじて右腕を長剣の軌道へ滑り込ませる事が出来たようだ。


 すぐにザクッと乾いた音が聞こえ、右腕に深々と長剣が突き刺さったのが分かった。



「うぐっ……!」



 苦痛の嗚咽が漏れたが、同時に腹を守れた事に安堵する。


 長剣の剣先が折れているせいか、勢いに反して威力は落ちているようで、剣は腹に到達してはいない。


 リタがどこを狙って来るかは賭けであったが、右腕の届かない部位を狙われなくて本当に良かった。

 それも"斬撃"では無く、"刺突"でないと、この目論見は成功しない。

 剣を握る事の出来ない右腕など、盾にするくらいしか使い道が思いつかなかったのだ。


 既に感覚を失いつつある右腕を、大声で吼えながら捻り上げ、リタの長剣を力任せに頭上へと引っ張り上げる。

 長剣が深々と突き刺さっていた事が功を奏し、動揺したリタは長剣の支配権を易々と奪われてしまった。


 途端にリタが長剣を追い、リノアに覆いかぶさる様に倒れて来る。



「ッ……! おい……しっかりしろよ……! 俺の身体、穴だらけにしやがって! いい加減、目を、覚ましやがれッ!」



 リノアの言葉を無視し、リタは虚ろな目で長剣へ手を伸ばす。

 そんなリタを見ながら、リノアは小さく悪態をつき、右腕を再び力任せに振り抜いた。


 何度目であろうか、赤い軌跡が弧を描き、長剣はクルクルと宙を舞い、数メートル先の泥を跳ね上げる。


 無論、リタは長剣を追って立ち上がる。


 時間稼ぎにしかならないが、これで何とか悪足掻きの時間は捻出できたはずだ。

 何故剣に執着しているのかは分からないが、そんなリタの行動に救われたのは確かだ。

 だが、右腕は使い捨て同然の行為のせいで、ズタズタになってしまい、同じ事は二度と出来ないだろう。


 つまり、リタが戻って来る間に決着を付ける事ができなければ、今度こそ死が待ち受けている事を意味する。


 リノアはフラフラと長剣へ向かうリタの背中を横目に見ながら、重い頭を少しばかり上げ、辺りを確認するように見渡した。


 すると、すぐ真横にノノの姿を見つけた。

 身体を泥に横たえながら、リノアへ弱々しく右手を伸ばし、小さな呼吸が身体を揺らしている。


 リノアはそんなノノを見ながら少しだけ優しげに微笑み、安堵するように胸をなで下ろすと、すぐさま精霊王へと視線を向ける。


 腕を組み、観察するようにリノアを見つめる精霊王。

 ノノがリノアへ接触していた瞬間も見ていただろうが、何故か彼はそれを止める事は無かった。

 自ら割って入る事をプライドが許してはいないのか、顔を不快に歪めるだけで、精霊王はその力を振るう事は無い。


 精霊王が、あの不可思議空間――"深界"に介入できるのかは不明であるが、精霊王と言う仰々しい名前から推測するに、恐らくは敢えて介入しなかった、と言った所では無いか。


 最初は全く干渉してこない精霊王に対し、不可解に感じていたリノアであるが、精霊王のノノに対する姿勢を鑑み、あながちおかしな事でも無いと思い始める。


 何故なら、精霊王はその力で、いつでもノノを強引に側に置く事だって出来た筈である。

 にも関わらずそうしなかったのは、そんなやり方では精霊王自身が納得しなかったからではないか……?


 圧倒的な力で強引に側に置いた所で、精霊王にとって、それは本当の意味でノノを手に入れたとは言えない。


 ノノが近付こうとする者や、気に入った者。

 その周りに現れる存在全てを排斥し、孤独の中でしか生きられぬよう、少しずつ追い詰めていく。


 そしていつしか、孤独に苛まれたノノ自らが精霊王に屈服し、その側に置かれる事を望むようになる。

 強引な手を使う事に変わりは無いが、"ノノ自らが望む事"に、意味があるのだ。


 獲物を弱らせ、判断能力を奪い、脆くなった隙を突く。

 その獲物はより従順になり、恐怖とトラウマは考える力を奪い取り、疑問を持つ事すら無くなる。


 純粋な暴力による痛みではなく、長い時間を掛けた恐怖による支配。


 簡単に言えば、タチの悪い洗脳と言った所か。


 理屈は理解できるが、何とも胸糞の悪い話である。



「……実に見苦しい限りだ。その行為に何の意味がある。お前の行く末など、すでに定められていると言うのに」



 尚も動かず、自ら手を出す様子を見せない精霊王。

 目を細め、汚い物を見るような目でリノアを見下ろしている。

 だが、表情はより不快感を増したように見える。

 その証拠に、眉間のシワがより深くなっている。



「……ハァ……、ハァ、……あはは、笑えるや」



 リノアの言葉に、精霊王の眉根がピクリと動く。



「……何が、おかしいのかね?」



「知りたいか?」



「……」



「教えて、やろうか――」



「必要ない。実に、実に不愉快だ。……気が、変わった。今すぐ殺してやる」



「……まあ聞けよ、精霊王。お前、何で、そこまでノノに執着するんだ? たかが、人間1人を、何でそこまで気にかける……?」



 やや、間を挟む。

 冷めきった空気に、精霊王のピリッとした意識が流れ出す。

 その表情には確かに影が差し、少なくない動揺の感情が見え隠れしている。



「……私が、ノノを欲している。それは即ち、世界の総意なのだよ。誰も否定する事は許さないし、邪魔する事も出来はしない――」



「答えになってない。質問に答えろよ」



 長剣を持つリタがピタリと動きを止める。

 今までに無い反応だ。

 今すぐ殺すと口では言いつつも、精霊王には会話の余地を残す意図が見られる。

 流れで適当に進めた会話であるが、予想以上の効果があるようで、リノアは内心驚いている。



「本当に不愉快な人間だね、君は。こうして言葉を交わしているだけでも虫酸が走るよ」



「なんだ、……質問に、答えられないのか。言えない理由があるのか? それとも、単に恥ずかしくて言えないのか?」



「な、に」



「……ああ、そうだった。さっき言ってた、笑える理由だけど」



「……」



「お前、精霊のクセに、人間よりも人間臭い奴だな――」



「――」



 精霊王が目を見開き、一瞬だけ呆気に取られたような表情になる。

 だが、すぐさまリノアをいつもの冷徹な目で見下ろし、もはや会話をするつもりは無いと、リタをリノアへ嗾ける。


 今度こそ息の根を止めようと、リタがリノアの目の前で立ち止まり、長剣を振り上げる。

 リノアに防ぐ術は無い。

 身体は身動きが取れず、一度は盾にした腕はズタズタで泥の中。


 夕焼けに染まる長剣の剣先はリノアの直上、心臓の真上にピタリと位置を決める。



「貴様の悲痛な声をこれ以上聞けぬのは実に残念だが、存在があまりに不愉快なのでね。惨めな人生、ご苦労だったね」



「……、ああ実に残念だ」



「何を――」



「――お前の無様な様を、見る事ができないのは」



 次の瞬間、妙な違和感を覚えた精霊王は弾くように顔を上げた。

 そして、途端に視界に飛び込んできた光景に目を奪われる。


 精霊王が見開いた目の先。

 リノアとリタの直上。


 バチバチと規則性の無い音を響かせ、青白い輝きを放つ一本の槍。


 何の前触れも無く現れた雷を内包した槍に、精霊王は思わず動きを止める。


 明らかに"超級"以上の攻撃系魔技であり、異常な量の魔力を内包していると一目見て分かった。


 断じて幻覚や幻では無い。

 そうでなければ、これほどまでの圧倒的な魔力の説明がつかない。


 だが、だとすればこの槍は、誰がいつ生み出したモノであると言うのか。

 "魔技"発動の兆候など一切無く、それは文字通り忽然と姿を現した。


 それも、魔力を持たない筈の少年が意味深なセリフを吐いたあと、タイミングを見計らったように。



 ――ありえない。



 そんなセリフを小さく呟いた後、精霊王はリノアを血走った目で睨み付けた。



「何をした……? 言え。貴様は一体何だ」



「……」



 精霊王の問いに、リノアは返事を返さない。

 と言うよりも、リノアには、もはや言葉を発する力すら残っていない。

 辛うじて意識が残っている程度で、虚ろな目が少しばかり動いている。


 リタの長剣が振り下ろされるのが先が、リノアが最後の力を振り絞って顕現させた【破滅の雷槍】が届くのが先か――。


 さすもの精霊王も、今の借り物の身体では、【破滅の雷槍】をマトモに食らえば、身体を維持する事は出来なくなる。


 傷を付けられる程度であれば、その異常な治癒術で瞬時に傷を癒す事が出来るだろうが。


 しかし、目の前の【破滅の雷槍】は、"相手に傷を負わす"などと言うレベルでは無い。


 神の命にまで届き得るとされた【破滅の雷槍】は、防ぐ事も、避ける事も叶わない。


 防ぎ得るモノがあるとすれば、それは同じく【破滅の雷槍】か、【絶技】を習得した伝説上の存在のみ。


 精霊王と言う超常の存在であるからこそ、それが何を意味しているのか、どれほど規格外な"魔技"であるのか、嫌と言うほど理解する事ができるのだ。


 "生物最強"と言わしめた、"業魔"の最終兵器でもある、【破滅の雷槍】――。


 そんなものをこの少年が……。



「――いいだろう、魔力ゼロの少年よ。不可解極まりない上、癪だが、貴様の悪足掻きに免じ、甘んじてソイツを受けようでは無いか。だが――」



 精霊王は一度言葉を切り、ノノを一瞥して勝ち誇ったように大声で言い放つ。



「よもや忘れてはいないだろうね……! 私を殺せば、その哀れな娘は、自らの剣で喉を串刺しにするのだよ! それが何を意味するのか分かるか!? ああ、そうだ! 結局のところ人間などそんなものだ! 五百年前のあの時のように! 私を裏切った人間共と同じように! 貴様は自らの命可愛さに、その仲間の少女を殺すのだ! ノノ、よく見ておくがいい――! これが人間、これが本当の人の姿! どこまでも身勝手で傲慢な種族の、真の姿だッ!」



 精霊王が高らかに勝利を謳い、笑い声を空へ打ち上げる。


 そんな声を切り裂くように、【破滅の雷槍】が青白い軌跡を残し放たれる。


 槍は唸りを上げ、狂ったように笑い声をあげる精霊王へ迫る――が、

 穂先はその寸分横を通り過ぎ、街道で大きく閃光を上げる。


 キィィンと甲高い音が辺りへ響き渡り、途端に地面を殴り付けたような地響きが遅れてやってくる。


 目を見開いた精霊王が慌てて後方へ視線をやると、街道を起点に森が大きく抉りとられ、真っ白な地層が露出し、泥の中に奇妙な更地が形成されている。


 文字通り、森の一部が消失している。


【破滅の雷槍】の爪痕に目を奪われ、その破壊力を再認識しつつも、精霊王は自分が消失していない事実を少しずつ噛み締めていく。


 狙いを、外したか――。


 そんなセリフが小さく漏れたが、それから精霊王が違和感に気づくのに、それほど時間は掛からなかった。


 途端に身体から力が抜け、思わずガクリと片膝を着いてしまう。


 嫌な予感が背筋を過ぎり、無意識に笑みが消えていく。


 精霊王が思い出したようにリノアの方へ振り返る。

 すると、精霊王の表情がみるみるうちに驚愕へと染まっていく。


 精霊王の視線の先。

 リノアはフラフラとしながらも既に立ち上がっており、相変わらずポタポタと血を滴らせながらも、小さく笑みを浮かべている。


 その隣では――。


 這いずる事しか出来なかったノノが、ゆっくりと、だが確実に、噛みしめるように立ち上がる。


 精霊王は、その姿を信じられないようなモノでも見るような目で、追っていく。


 やめろ、お前は寝ていろ、とでも言うように。


 "精霊王のノノ"の在り方が、少しずつ壊れていく。


 ノノが身体を少しずつ起こす度、見開いた目が、意思が、その視線を離すことを許さない。


 やがて二本の脚でしっかりと立ち上がったノノは、側に落ちていたベレー帽を拾い上げ、深々と被り直す。


 そして一息付き、精霊王を正面から堂々と睨み付ける。


 そこに、あの弱々しかった精霊使いの面影はどこにも存在しない。

 これ以上奪わせてなるものかと、確たる決意が目に宿る。



 今度こそ。


 今こそ。


 果たせなかった誓いを果たすように。


 目を背けてきた全てに抗うように。



 ――もう何一つ、奪わせはしない。



 そんな意思が伝わったのか、気圧されたのか。

 息を呑み、精霊王は思わず片脚を引く。



 そして追い討ちをかけるように、驚愕し、たじろぐ精霊王へ、ノノは臆する事なく宣言する。



「――あなただけは、絶対に許さない」



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