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ウィザーズウォーゲーム本文コピー3

※注意

 この物語は、第1弾『古の秘術アンティークマジック』の情報を元に作成したため、後の弾で登場するカードが存在する場合でも、後書きの登場カード一覧に載せません。

 また、以降の番外編におきましても、同様の措置を取らせていただきます。



「さっさと吐け! 何の目的で侵入した!」


 黒いローブの男が脅す。だが、水色のフード付きコートを纏った二人の幼子は、拘束されたままピクリとも動かず押し黙っていた。


「ならば、これでどうだ?」


 ローブの男は幼子へと右手をかざした。途端に幼子の一人が瞳を虚ろに沈ませる。


「さあ、答えろ。何が目的で我々の国、闇の世界を訪れた?」

「……水の世界の栄光を、英知を世に知らしめるため。忌まわしき他の世界へと、破滅を招くため」


 幼子の口からはおぞましい言葉がゆっくりと流れた。

 恐ろしい内容にもかかわらず、ローブの男は顔色ひとつ変えずに佇んだままだ。それは、幼子の発言が予想外ではなかったからである。


「どのようにして我が国を落とす予定だった?」

「……内戦を拡大させ、自滅するように仕向けるつもりだった」

「どこまで我々の情報を握っている?」

「スパイを送り込んであるから、ほとんど全てが筒抜けだ」


 ローブの男は頭を抱えた。他の国との争いが起こることは予知していたが、すでに内部に敵が潜んでいるとは夢にも思っていなかったからだ。


「では、これが最後の質問だ。お前たちはどこまで戦力を増強させている?」

「……闇の世界から伝わった魔術を独自に発展させ、僕たちは新たな魔法の形を手に入れた。科学の力を用いてオリジナルを解析、研究し続け何百年の月日が経った。その結果、超能力という答えに行き着いた僕の国は、こうして幼子に宿る人知を超越した才覚へと目を付けた」

「おのれ、小賢しく卑怯な水の国め。超能力、科学、スパイ……。どこまで狡猾こうかつな奴らなんだ!」


 ローブの男は唇を噛んだ。


「超能力は、従来の魔術と異なり手軽に使用することを可能とした。一撃の威力や重みこそなくても、使い手のひらめきと柔軟性によってあらゆる困難を打ち破ることができる」

「もういい! お前の処分は決まっている。覚悟を決めておくことだな」


 男は幼子への洗脳を解き、監獄を出た。



 ――その同刻、火の国において。


ひるむな! 攻めろ!」


 少佐フレイヤは兵たちに支持を出す。

 対峙するはエルフ族の女性たち。彼女らは奇妙な術を使用し、兵たちへと対抗していた。

 足元に水をまくと若葉が芽生え、肥料をやるとそれはグングンと育ってゆく。そうして瞬く間に目の前へと現れた樹木は魔力を放つ。

 その魔力を用い、エルフたちは魔物を召喚して戦わせる。


「くっ! 次から次へと沸いて出てきおって!」


 少佐は火の国の門の前で、炎の盾を守り続けている。

 と、その時……。


「今よ!」


 エルフたちが炎の盾へと魔術を放った。完全に不意を突いたと、エルフたちはそう思っていた。

 だが……。


「それで隙を突いたつもりか」


 少佐はその一瞬の動きに完璧なまでに対応した。彼は焼却の魔法を飛ばし、かけられた魔法をエルフごと燃やし尽くす。


「この盾は……何があろうと突破はさせぬ!」


 少佐はエルフたちをギロリと睨んだ。その場を一歩たりとも動かず、堅く構えつつ指揮をり続ける。



 ――さらに、同刻の天界にて。


「……ご覧なさい。下界で争いが始まりました」


 白い衣を纏った天使が一人、仲間たちに話しかけた。


「他人事ではありません。私たちとて、内部で思想の相違から対立が起こっています」

「そうね。けれども、私たちと彼ら下等生物とでは存在意義が大きく違うわ」


 天使は眼下へと冷たい視線を送る。


「いいことを思いついたわ。彼らから領土や武器、魔法を奪い取りましょう。それを私たちの糧とするのです」


 清々(すがすが)しいまでに暴力的なその言葉は、透き通るような甘美なる声音と流水のような穏やかな冷たさを伴って発せられた。



 ――こうして、開戦の鐘の音は沈黙の調べをもって世界中へと響き渡った。

 そして次の日……。


「おのれ、どこへ消えた!?」

「探せ! 何としてでも逃がすな!」


 闇の世界では、囚われの幼子が脱獄していた。

 水の国へと帰還した彼らは、その様子を超能力で見ながらほくそ笑む。


「笑っちゃうよ。あれで僕らを捕まえた気でいるんだから」

「でも、洗脳をかけられてたじゃない? それで簡単に口を割っちゃってさ」

「……うるさいなあ。別にいいじゃない。どうせ大事なことは聞き出せなかったんでしょ? 何を話したのか自分でも覚えてないけど」

「そうやってすぐ楽観視する。君の悪い癖だ」


 二人の間に険悪な空気が流れたその時。


「まあまあ、いいじゃないか。もし捕まっても問題ないように記憶はあらかじめ消去してから送ったんだから。全て私たちの思惑通りさ」


 眼鏡をかけた青いスーツの男性は、二人の肩を軽く叩いた。


「ともかく、君たちが無事で何よりだ。もっとも、不安など微塵もなかったがね」

「当たり前だよ。僕らを誰だと思っているんだい?」

「そうそう。兵力を減らしたくないからって、わざわざ僕らを使ったんだから。こんなの、捨て駒を用意すればよかったのに」

「まあ、そう言わないでくれ。君たちへの信頼があってこその作戦だったんだ。それに、私が転送を使用しなくても自力で脱出できたんだろう? 本当は洗脳にすらかかってなかったんじゃないかい?」


 その言葉を耳にし、二人の幼子は同時に不敵な笑みを浮かべた。


「さあて、どうだろうね?」

「まったく……。君たちは本当に底が見えないね。双子の天才(ツインジーニアス)リウ君、ミア君」



☆登場カード一覧

 洗脳

 火山兵団の少佐フレイヤ

 水やり

 肥料

 ファイアシールド

 森の秘術

 焼却

 転送



 こうして、全世界は一斉に戦闘態勢へと突入した。

 ある国は生物兵器を導入し、またある国は魔導の解明にいそしんだ。

 そして、闇の国の高所から見下ろす黒い影が二つ……。


「ふふふ、思惑通りね」


 小悪魔ベリルは仲間のサタナに邪悪な笑みを投げかける。


「私たちの祖先、ベリアル様とサタン様の偉大な計画。そう、魔術を伝えたあの時から全ては始まっていたのよ」

「綺麗だね……。壊れゆくもの程この世において美しいものはないよ」


 二人の見つめる先では、闇の世界の一大都市が崩壊を初めていた。水の国の陰謀により情報は各国に漏れ、火の国や光の国の兵団によって攻め込まれている。

 惨状に沈みゆくこの地は、二人にとって生まれ故郷だった。にもかかわらず、その光景をの当たりにして抱く感情に負の要素は欠片も存在しない。


「楽しそうね……。ねえ、私たちも一緒に殺しに行かない?」

「いいね。愚民どもの泣き叫ぶ姿、僕も見たいよ」

「じゃ、行こっか。敵も味方も関係なく、どちらが多くの人数を狩ることができるか競争よ!」


 二人はそれぞれに短刀を構え、左手で魔術を操りながら市街地へと飛び込んだ。

 その時、内部では……。


「被害を最小限に食い止めろ! これ以上の破壊を許すな!」


 魔導士ジェロは必死に抵抗していた。名もなき弟子たちに指示を出し、自らも最前線で身を危険に晒す。


「グアァ! ジェロ様……」


 弟子の一人が火の国の兵に胸を貫かれ、倒れた。

 ジェロはそれを見るや否や彼に左手をかざす。


「貴様にはまだ戦ってもらう」


 発動した魔術により、その弟子は仮の命を手にした。ただし、そこに感情や魂が戻ることはなく、ただの操り人形としてだけ動き始める。


「敵将の首をれ!」


 ジェロの命令に従い、ゾンビと化した弟子は特攻を仕掛ける。

 だが……。


「タフネス!」


 火の国の兵長が味方の兵士に手をかざした途端、その兵士は迫りくる刃へと立ち塞がった。

 そして、特攻した弟子は返り討ちにされ、再び命を失う。


「なぜだ!? そちらの兵の力量は確かめたはず……。少なくとも相打ちには持ち込めたはずだ!」

「我が国の武術魔法をあなどられては困る。今度はこちらからゆくぞ!」


 兵長が味方の軍へと手をかざした途端、兵たちは赤いオーラを纏った。その一斉突撃の合図により、火の国の兵団はジェロたち魔導軍になだれ込む。



 ――そして、同刻。植物の国にて。


「……何用だ?」


 森の入り口を見張るドワーフたちは問いかける。


うららかな光が差し込むいい日ですね。貴殿たちの国はとても美しい森と拝見いたしました。よろしければ御国を私どもにお譲りになり、すみやかに神に召されてくださいますでしょうか?」

「は? ……グアァ!」


 天使たちは目にもとまらぬ速度で剣を振るい、ドワーフの一人を葬った。


「快いお返事、ありがとうございます」


 その冷たい表情と声音に、感情はこもっていなかった。


「て……敵襲ー!」


 ドワーフの内一人が森へ向けて叫び、同時に他のドワーフたちが天使へ向かって突撃する。


「愚かしいですね」


 天使は左手をかざすと瞬く間に光線を連射し、ドワーフたちを壊滅させた。


「く……悪魔め」


 地に伏しながらもそう呟いた一人を、天使はグシャリと踏みつけて森へと入っていった。やはりそこには一切の感情は存在せず、哀れみも、怒りも、敵意すらも抱かずに、残虐極まりない行為の全てが行われていた。

 そうして、樹々でできたゲートを天使たちがくぐり抜けた時。


「待テ……」


 重々しく低い声が地を震わせた。

 天使たちが足を止め状況を見守っていると、目の前にそびえていた二つの大樹が動き出す。

 天使たちは魔法で先制攻撃を仕掛けたが、大樹たちの傷は周囲の新緑のエネルギーを受けてみるみる回復してゆく。


「命ノ代価ヲ払エ!」


 大樹の片方が太い枝を叩きつけた。

 天使たちはそれをかろうじてバリアで受け止める。そして、隙を突いて剣による反撃を試みたが……。


「森ヲ守ル。命ニ代エテデモ……!」


 もう片方の大樹に阻まれ、地へと叩きつけられる。

 攻防共に歯が立たず、天使たちが劣勢に見えたその時。


「行くぜ! お前ら!」

「全部かっさらってきていいんだよな!?」


 天使たちの背後から無数の鳥たちが現れ、森へと侵入していった。

 そのあまりの数の多さに、大樹たちも止めきれずにいる。


「鳥たちよ、兵力をできる限り奪っておいでなさい」


 こうして、光と植物の国による数と力の争いが幕を開けた。



☆登場カード一覧

 小悪魔ベリル

 魔導士ジェロ

 ゾンビ化

 タフネス

 一斉突撃の合図

 ライト

 ジャイアントバウム

 森を守る樹エルブンバウム

 新緑

 バリア



 各国の事件から数時間が経過した。

 闇の国では、秘術の限りを尽くして逃走した魔術師ジェロが宮殿の柱に寄りかかっている。

 と、そこへ……。


「見つけたよ……」


 双子の天才(ツインジーニアス)のリウとミアが姿を現した。


「何とか切り抜けたようだね。よかったよかった」

「だって、最後に息の根を止めるのは僕らだって決めてたもんね」


 リウとミアは口元を歪ませ、手にオーラを纏いながらジェロへと歩み寄る。


「……ふ。貴様らか、脱獄したという水の兵は」

「そんなこと聞いてる余裕があるの? 僕ら、君を殺すことを微塵もいとわないよ?」

「それどころか、とても楽しみで仕方ないよ!」


 リウとミアは邪悪な笑みを投げかけた。


「それは安心だ。ならこちらも……」


 言いかけてジェロは瞬時に距離を取り、左手を双子へとかざす。


「躊躇なく貴様らを消し去れる!」


 ジェロはそう叫ぶなりミアへと狙いを定め、呪文を詠唱した。

 だが……。


「残念!」


 ミアの瞳が赤く光り、ジェロの魔法は中断されてしまう。


「く……。小賢しい!」


 ジェロはミアへと肉弾戦を仕掛けるべく突進した。

 しかし……。


「浅はかだね」


 リウが左手をかざした途端、ジェロの体は泡の中へと閉じ込められた。

 双子はその様子を見ながらケケケと不気味な笑い声を漏らす。


「いい気になるなよ……! ディスペル!」


 ジェロは左手をかざし詠唱した。だが、何事も起こらない。


「な……なぜだ!?」

「キャハハハハ! ばかじゃないの?」


 リウとミアは下品な笑い声をあげた。


「僕らの超能力の方が一瞬早く発動できるんだよ。つまり、君は僕らに成す術がないってこと。わかる? 難しいかあ……」

「君たちの威力重視の愚鈍な魔術は時代遅れなんだよ。僕たちは状況に応じた多種多様な超能力を駆使してどんなことでも可能にする。使い手にパズルのピースを合わせる知能があれば、でき得ることは無限大なんだ」

「君たちは僕らの手の平の上でもてあそばれてるに過ぎない。僕らがこの世界大戦のゲームメイカーとなって思うがままに君たちを操るのさ」

「そう、全て僕らの計算通り。今頃、他の国も大変なことになっているよ。僕らがそう仕向けたのさ。当然、僕たちの住む水の国へと入り込んだ災厄も僕らが仕組んだもの。凡人にはそれがどう僕らの利益に繋がるか、全く想像もできないだろうねえ……」


 双子の笑みにはおぞましい程の残虐さが込められていた。


「さて、それじゃあそろそろ死んでもらうよ?」


 双子は短刀をぎらつかせながらジェロへと歩み寄った。

 その時。


「なっ!?」


 双子は咄嗟に振り返り、迫りくる魔法へと超能力で対抗した。


「誰だ!」

「ふふ、随分とかわいい兵士たちだこと」


 黒いローブを纏った女性が双子へ向かって杖を構えている。


「ハンナ! 無事だったか!」


 ジェロは隙を突いて泡の魔術を解除し、臨戦態勢を取った。


「二人なら僕らに勝てるとでも?」

「あらあ? 私のこと、なめてるようねえ……」


 ハンナは人差し指を立て、息を吹きかけた。


「させないよ!」


 リウが瞬時に対応し、超能力でその魔術を中断させようとするが……。


「こちらにもいること、忘れたか! ディスペル!」


 ジェロの魔術により、リウの超能力が逆に中断された。


「なっ!? うぐぅ!」


 ハンナの魔術がかかり、リウの魔力が削られた。


「なぜだ……? なぜ僕の超能力がお前らなんかの魔術に追いつかれた!?」

「リウ! まずいよ。何でかわからないけど、今のリウの超能力……発動速度が激減してる!」

「うぅ……。それに、今使ったのは魔力を要しないはずの術だったのに、なぜか魔力が消費されている……!」


 リウは地へと手をつきながら息を荒げている。


「我らの魔術を侮りすぎたようだな。我は自らの魔力により、味方の魔術の発動を促す力を持っている。そしてハンナは、敵の魔術の発動を抑える力を持つ」

「さあ、観念してもらうわよ? 坊やたち」


 ハンナとジェロは同時に双子へと魔術をかけた。

 だが……。


「……消えた!?」

「アハハハ! そうこなくっちゃ!」

「楽しくなってきたなあ……。勝負はお預け。また今度遊ぼうよ」


 空に双子の声が響き渡り、そして静まり返った。


「ハンナ……来てくれてありがとう。助かった」

「私とあなたの仲じゃない。それより、あの子たちどうするつもりなのかしら?」


 ジェロは俯いて黙り込み、しばらくして口を開いた。


「わからない。だが、これが世界中の争いの幕開けであることだけは確かだ」


 ジェロは今後の戦いに向け、意を決する。

 そして、ここから何千年に渡っての長い長い戦争が始まることとなる。



 これで、番外編『開戦の鐘』は完結です。


☆登場カード一覧

 魔術師ジェロ

 死の言葉

 不発

 バブルヴェール

 ディスペル

 魔女ハンナ

 死の息吹



 風雀のフースケは、その瞳にはっきりと映し出した。遠く彼方、雲間にそびえる修道院を……。

 その青い体は、日の光を受け鮮やかに輝いている。


「また、よからぬことを企んではおるまいな?」


 その声にフースケは振り返る。ウィンドホークの真っ白で大きな姿がそこにはあった。


「タカにい、また説教しに来たの?」

「良いか? サンライズ修道院にはかかわるな! さからえばお前もどうなるのかわからないのだぞ!?」

「だって!」


 フースケはタカへとつかみかかった。


「おかしいじゃないか! 島の資源を荒したり、勝手な思想を押し付けたり、教育だってそうだ!」

「耐えるんだ。お前にどうにかできる相手ではない」

「でもっ!」


 フースケが言いかけたその時。


「キャー!」


 突如、けたたましい悲鳴が響き渡った。


「何事だっ!?」

「今の声……ウィンディア姉ちゃんの声だ!」

「あっ! おい待て!」


 タカが止めるのも聞かず、フースケは声のした方へと飛んでゆく。

 そして、着いた先では……。


「やめてっ! 離してっ!」


 フードつきの純白のローブに身を包み、白く美しい髪を携えた少女が叫ぶ。この島のアイドル的存在、ウィンディアだ。


「こいつはよさそうだ。この美しく澄んだ声なら、我らの新たなシスターとして充分な素質があるだろう」


 真っ白なローブを着た男が、ウィンディアを強引に連れて行こうとしている。

 と、そこへ……。


「やめろー!」


 フースケは男へと飛びかかり、くちばしつつく。


「わっ! こいつ!」


 フースケは男が怯んだ隙にウィンディアの手を引き、そのまま駆け出した。


「我らサンライズ教に逆らおうというのか!?」


 男は槍を構え、追いかけてきた。


「よかろう! 貴様ら二人ともこの場で処罰してくれる!」

「フースケ君! 私のことはいいから逃げて!」

「嫌だ! ウィンディア姉ちゃんは僕が守るんだ!」


 必死に逃げるフースケだが、徐々にその距離は詰められてゆく。

 そして、その槍が届きそうになったその時。


「食らえ!」


 物陰からタカが飛び出し、剣で一突きした。


「う……ぐ! 貴様……我らに楯突たてついて無事でいられると思うなよ……!」


 そう言い残し、男はその場に倒れて動かなくなった。


「タカ兄! 助けに来てくれたんだ!」

「あれ程無茶をするなと言ったであろう……。これで、私たちは反逆の罪を犯してしまった」


 タカは深刻な表情で溜め息を吐く。


「良いか? このことは私が一切の責任を負おう。お前はこの件には関わらなかった。わかったな?」

「タカ兄は!? タカ兄はどうなるの!? 僕のせいで……」

「心配いらない。お前のせいではないさ。この島のアイドルを失うわけにも行かなかっただろう? ウィンディアを救い出したお前は勇敢だ。誇れ」

「そんな……」


 フースケは二の句が継げず、ただ瞳を潤ませる。


「さあ、今日はもう帰れ。ウィンディアは私が神殿まで送ろう」


 そう言い残し、タカはウィンディアを連れて去ってしまった。

 フースケは度重なるサンライズ修道院の理不尽に悔しさを覚え、空の彼方に怒りの眼差しを向ける。

 そして、ある決意を胸に家へと飛んで帰った。


「フースケ!」


 扉を開けるなり、フースケは母に怒鳴られた。


「伝達魔法で聞いたわよ! またサンライズ教相手に無茶なことをしたって!」

「だって! ウィンディア姉ちゃんが!」

「だってじゃありません! 自分の身に何かあったらと思わないの!?」


 フースケは俯き、涙をこぼした。

 と、その時。


「いいじゃないか。この戦乱の世で、安住を目指せると思っていることの方が間違っているんだ」

「あなた!」

「フースケ。サンライズ教は間違っていると思うか?」


 父はフースケの目を真っ直ぐに見つめる。


「間違ってるよ……あんなの。だって、みんなの資源や島は勝手に荒らすし、今日なんかウィンディア姉ちゃんを連れてこうとしてた! 嫌がっているのに、無理やりにだよ!? おかしいと思わない!?」

「そうだな。フースケの言う通りだ」


 父はフースケの頭をポンポンと叩いた。


「父さん……。僕、あいつらの修道院に行ってらしめてやりたい!」

「まあ! 何てことを!」

「そう言わずに……」


 母が大声でしかろうとするのを父が止める。


「サンライズ教がどれだけ危険な連中かわかっているのかい?」

「わかってるさ……。あいつらは僕らの命なんてどうとも思っていない。けど、このまま黙っていても僕らの居場所はきっとなくなる。だから、今立ち上がらなきゃいけないんだ!」

「そうか……。なら行っておいで。その代わり、危ないと思ったらすぐ逃げ帰るんだよ?」

「わかった!」


 母は納得しきらない様子だが、こうしてフースケは修道院へと旅立つことに決まった。

 そして、翌日……。


「……それじゃ、行ってきます」


 フースケは両親に見送られ、サンライズ修道院への一歩を踏み出した。その首には、母がもしもの時にと渡してくれたお守りがかけられている。

 そしてその隣には……。


「まったく……なぜお前まで危険に晒す羽目になったのか……。それにウィンディア、お前は来るべきじゃない」

「そんなことはないわ。私だって、この島の住民代表としてついて行かないと……!」


 タカは頭を抱え、溜め息を吐いた。



☆登場カード一覧

 風雀

 疾風のウィンドホーク

 風魔道ウィンディア

 サンライズ修道院の妄信教徒

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