僕達の理想郷
「リセ、俺と駆け落ちしようっ!」
目の前の男のこの台詞に、私は飲みかけていた紅茶を吹き出しかけた。
「ゲホ、ゴホンッ、ちょっと朔空!?な、何を言っているの!?駆け落ちの意味、知ってるの!?」
コイツは、一体何を言っているのだろうか…。
「何となくー?アレでしょ、逃げるやつ。」
「微妙に違う!ってか、わりと違う!辞書でも引け!…にしても、いきなりどうしたの?そんな変なこと言い出しちゃって。」
私が問うと、朔空は途端に真面目な顔になった。
「あのね、リセ。今から俺が言うことよく聞いて。俺達、これ以上ここにいたら、危ないんだ。」
「…どういうこと?ここにいたら、何が危ないわけ?」
私と朔空は、幼い頃から此処・「シャングリ・ラ」という養護施設で生活をしている。子供を守る安全な施設のどこが危ないのかな?
「今は詳しくは言えないけれど、結構ヤバい。ほら、此処を巣だった先輩たちいるじゃん?俺、あの人たちと連絡とって色々聞いてるけど、大分ヤバいよ、ここ。俺達はどっちみち、再来年いなくなることになるけど、それまでに手遅れになるといけないから、駆け落ちしよう。」
結局何がヤバいのか分からないが、朔空の表情からして冗談ではなさそうなので、適当に頷いておく。
「オーケー。駆け落ちの使い方は絶対間違えてるけど、取り敢えず此処が危ないのは理解した。で、いつ、どこに逃げるかとかはどうするの?」
「んー。それは、追々考えよう。ここで話して施設の従業員に聞かれたら、計画がパーになって下手したら命バイバイになっちゃうから外で話そ。それじゃ、おやすみー。」
「命バイバイって、物騒!まあ、おやすみ…。」
朔空と別れてからずっと朔空の言葉を反芻していた。何が危ないの?小2頃からずっと8年も此処で過ごしてるけど、何も変なこと起きてないし。ってか、駆け落ちって!あのね、朔空くん、駆け落ちは愛し合っている男女が親から逃げることなの。我々は、そういう関係ではないの。はー、もうドキドキしたー。…ちょっとは、意識してくれてたら良いのに。そんなことを思いながら、今日も眠りにつくのだった。