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第88話 単純明快な攻防一体

「ははっ! 随分なデカブツを引っ張り出してきたぞ! いつの間に準備してやがったんだ?」


 太い蔦と大樹の根が絡み合ったツリーゴーレムを見やり、ガーネットは戦意を刺激された様子で小さく笑った。


 刺激を受けたのはサクラも同じだったらしく、桜色の刀を片手に木製の巨体の方に顔を向け、すぐにでも【縮地】を発動させられるように身を屈めた。


「ガーネット、土人形は任せた。大樹の巨人は私が!」

「あ、おい待て! ……くそっ。しゃーねーな」


 サクラが【縮地】でツリーゴーレムに肉薄したのを見届けて、ガーネットはミスリルの長剣を手に、土人形の群れへ油断なく向き直った。


「白狼の。それとノワール。こいつらはオレが引き受けた。ブランを探すのは任せたぜ」


 一斉に殺到する土人形の一群。


 ガーネットは腰に下げた魔石入れを起動させ、引き出した魔力を長剣に込めた。


 白銀色の刀身に、ノワールが【魔道具作製】スキルで刻んだ魔法紋が浮かび上がる。


「吹き飛べ!」


 横薙ぎに剣が振り抜かれると同時に、魔力の斬撃が眼前の十数体を両断し吹き飛ばす。


 更にガーネットはドラゴンレザー製のブーツを履いた足に魔力と筋力を込め、斬撃によって開いた空白めがけ、目にも留まらぬ速さで突っ込んだ。


 一呼吸で四、五発の斬撃を繰り出して土人形を切り捨て、背後から掴みかかってきた一体の頭を強烈な裏拳で殴り潰す。


 殺到する土人形の群れが一方的に蹴散らされていく様子は、まるで大岩に打ち寄せては弾ける波の様だった。


「ふん、次から次に湧いてきやがる。魔法の発生源が近くにあるのは確定だな。けどなぁ、増えるより速く潰せばいいだけだ!」


 魔力の斬撃が複数体の土人形をまとめて斬り倒す。


 その後方で土人形の一体が風船のように膨れ上がったかと思うと、尖った石を大量に撒き散らして爆発した。


 ガーネットは顔だけを片腕でかばい、全身にその破片を浴びた。


 しかしこの奇策は、ガーネットにまるでダメージを与えることができなかった。


 ドラゴンレザーで補強され、魔力による強化まで受けた着衣によって石礫の衝撃が吸収され切ったのだ。


「大したもんだ。痛くも痒くもねぇ」


 ガーネットの動きが止まった数秒の間に、十体近い土人形と周囲の地面の土が融合し、巨大な土人形の上半身が形作られる。


 地面から生えた上半身だけの土の巨人が腕を振り上げたのを見て、ガーネットはにやりと口の端を上げた。


「次はこっちを試してみるか」


 土の巨人が拳を振り下ろす。

 ガーネットは長剣を盾のように構えて魔力を注ぎ、この剣に施された二つ目の魔法効果(エンチャント)を発動させた。


 直後、刀身を中心にして人間一人を覆う規模の防壁が展開。

 巨大な拳を完全に防ぎ止めた。


「最っ高だぜ、ノワール!」


 ガーネットは防壁の魔力をそのまま転用した斬撃を繰り出し、土の巨人の片腕を根こそぎ吹き飛ばした。


 更に追加で連射された斬撃が次々に巨人を構成する土砂を削り、あっという間に見る影もなく崩壊させてしまった。


 ――ノワールがガーネットの剣に施した魔法効果は二種類。

 至ってシンプルな魔力の斬撃と魔力防壁の二つだけだ。


 これらはガーネット本人が希望した効果だと聞いている。


 搦め手の効果は慣れるまで時間が掛かり、特定の元素属性の付与は不利な相手に効果が薄い。故にシンプルかつ属性を付与しない効果を希望した。


 そして集団を相手取ることになった場合、一体一体を相手取っていては護衛対象を守りきれない。故に範囲攻撃が可能な効果を希望した。


 最後に、護衛こそが本来の役割である以上、自分と護衛対象を敵の攻撃から守る手段がなければ話にならない。故に防御のために特化した効果を希望した。


 単純明快な攻防一体。

 これほどまでにガーネットの任務と戦闘スタイルに合った組み合わせは、他にそうないだろう。


 欠点があるとすれば魔力消費の激しさくらいである。


 ガーネットは自分自身の強化だけでも魔力消費の配分を考えなければならないので、単純にこの剣を振るっていてはすぐに魔力切れを起こしてしまう。


 しかし、俺がノワールに頼んで作ってもらった『魔石を入れたままで魔力を引き出す装備』を用いれば、この欠点も大幅に軽減することができるわけだ。


「……ルーク。私……マッドゴーレムを、調べたい……」


 ガーネットが一方的に土人形を蹂躙している間に、戦意を取り戻したノワールがそんなことを頼んできた。


「サクラが斬り捨てた奴だな。調べたらブランの手がかりを掴めそうか?」

「多分……」


 ノワールは真剣な眼差しで遠くの残骸を見やりながら、小さく頷いた。


「ゴーレムの中の……術者の命令を、受け取る、魔道具……それを調べれば……命令が届く、最大の距離が……分かる……」

「なるほど。居場所を絞り込む役に立ちそうだ」

「そ、それと……もしかしたら……魔力の波動、逆に辿れたら……今の命令が、どこから、出てるのかも……」

「だったら迷う理由はないな。聞こえるか、ガーネット!」


 俺は即座に声を張り上げてガーネットに呼びかけた。


「マッドゴーレムの残骸まで道を開いてくれ!」

「おう、任せとけ!」


 すぐさまガーネットは高く跳躍し、空中から地上めがけて渾身の魔力を込めた斬撃を繰り出した。


 直線上の土人形が吹き飛び、俺とノワールの前にマッドゴーレムの残骸までの直通経路が出現する。


「走るぞ、ノワール!」

「あ、ああ……!」


 ノワールの手を引いて可能な限りの速度で走り出す。


 妨害を試みる土人形はガーネットが素早く斬り伏せてくれたので、一度も足を止めることなく目当ての残骸まで辿り着いた。


「……受信装置は、制御機構の近く……頭の中に……ああっ!?」


 崩壊したマッドゴーレムの頭部を探っていたノワールが、短く悲鳴のような声を上げる。


「そ、装置まで……真っ二つに……なってる……」

「流石はサクラ、こんな金属部品までぶった斬ったのか。貸してみろ。こういうのは俺の領分だ」


 ノワールの手から両断された受信装置――と呼ばれていたよく分からない複雑な金属細工――を取り上げ、素早く【修復】スキルを発動させる。


 綺麗に寸断されていたので【修復】に苦労する要素が全くない。


 一秒と掛からずに復元完了した受信装置を、再びノワールの手の中に戻してやる。


「よし。後は任せた」

「……ま、任された、から……!」


 ノワールは受信装置を両手でしっかりと抱え、目を瞑って集中しながら魔力を注ぎ込んでいった。

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