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第744話 再起のための奔走

 魔力結晶の補給を終えた俺は、引き続いて負傷者の手当に取り掛かった。


 メダリオンによって自己再生機能を付与した船が、ああも真っ二つになるほどに熾烈な逃走劇だったのだ。


 必然的に怪我人も多くなり、かすり傷程度の軽傷も含めれば、ほぼ全員が何かしらのダメージを負っているようだった。


 無論、彼らも無為に救助を待っていたわけではない。


 持ち合わせた手段の限りを尽くして応急手当を済ませ、戦線復帰できるよう最善を尽くしている。


 俺が担うべき役割は、それでも対応しきれない重傷者の体の【修復】だ。


「待たせた、今から負傷の【修復】に取り掛かる! 可能なら治療が必要な奴を一箇所に集めてくれ!」


 負傷者の手当を担当していた冒険者に呼びかけ、効率的に【修復】して回れるように手伝いを頼む。


「動かさない方がいい負傷者もいますが、どうしましょうか」

「その場合は居場所だけ伝えてくれたらいい。それと、最優先で治さないといけない奴がいるなら、今のうちに教えてくれたら助かる」

「大丈夫です。不幸中の幸いで、急を要する負傷者は発生しませんでした」


 船外の開けた場所に負傷者を連れてきてもらい、到着する傍から【修復】スキルを発動させて傷を治していく。


 中には肉体の一部が()()()しまった者もいたが、回収さえできていれば【修復】で繋ぎ合わせることができるので、必ず一緒に()()()()()ように指示しておくことも忘れない。


「体の一部があれば問題なく治せる! 自己判断で諦めずに持ってきておいてくれ!」


 発動、発動、また発動。


 流れ作業も同然にノンストップでスキルの発動を繰り返し、次から次に負傷者の傷を塞いでいく。


「凄い、これがルーク・ホワイトウルフの【修復】スキル……これなら皆、すぐにでも戦闘に参加できますね!」

「あんまり過信するなよ? 失血の補充や体力の回復はできないんだからな。生きてる奴の負傷は治せるけど、戦えるかどうかは別の問題だ」


 念のため、俺の【修復】スキルについての注意点を再確認しながら、この場に集められた重傷者の手当を手早く終わらせ、続いて別の場所にいる治療対象のところへ移動することにした。


「傷は塞いだけど無理はしないこと。かなり消耗してることを忘れないように。いいな?」


 きっちり言い含めて場所を変え、そちらの【修復】も手早く終わらせていく。


 魔力は供給器(サプライヤー)経由で魔力結晶から引き出しているが、俺の体を通してスキルの効果を乗せて出力しているので、その過程で生じる疲労感は防ぎようがない……はずなのだが。


「(……気のせいか? 前よりも疲労が小さい気がする。もしかして『枷』を外した影響……それとも『右眼』が稼働しっぱなしなせいか……どちらにせよ好都合だ)」


 やがて負傷者の【修復】が一通り終わろうとしたところで、ガーネットが俺を探して姿を現した。


「おっ、いたいた。トラヴィスが探してたぜ。今後の作戦会議をするから、そっちの作業が終わったらお前も顔出してくれってさ」

「分かった、もうすぐ終わるところだ」


 ガーネットは特に焦っている様子ではなく、俺を急かすような素振りも見せなかった。


 この態度から察するに、トラヴィスも俺を今すぐ連れてこいと言っているわけではないようだ。


 もっとも、今は怪我人の治療をしているのだから、急かす理由なんかどこにもないわけだが。


 治療が必要な奴らの肉体の【修復】を済ませ、ガーネットと一緒にトラヴィスのところへ移動する。


 俺はその途中で、何気なくガーネットに話しかけた。


「お前もだいぶ好調みたいだな。体力は回復できたのか?」

「まぁな。さすがに絶好調ってわけにゃいかねぇが、今すぐ一戦交えても負ける気はしねぇぞ」


 ガーネットはニヤリと笑って肩を回してみせた。


 二体の特級人形――ガラティアとテオドールとの連戦を繰り広げ、二つのメダリオンの同時融合の負荷に苛まれ、ガーネットはしばらくまともに歩くこともできないほどに消耗していた。


 しかし肉体的なダメージを回復させ、俺が船や怪我人を【修復】している間に充分な休息を取ったことで、戦闘に復帰できるくらいには回復を果たしたようだ。


 これはガーネットの強がりではないだろう。


 眼帯に封じられた『右眼』は普通の視覚と同じ情報しか伝えてこないが、そんな代物の力を借りたりしなくても、ガーネットの表情や仕草が雄弁に物語っている。


「……どうかしたか?」

「いや、何でも」


 怪訝そうにするガーネットに笑ってごまかし、トラヴィスが待っている天幕(テント)の入り口を潜る。


「おお! 早かったな、ルーク!」


 その一番奥にいたトラヴィスが、俺とガーネットの到着に気付くや否や、戦意に満ちた笑顔を浮かべて片手を上げた。


 天幕に集まっていたのは、トラヴィスを含めた陽動部隊の冒険者の中心人物達と、それに同行していた白狼騎士団の構成員――ソフィアとユリシーズ、そしてマークの三人であった。


「すまんな、面倒な仕事を押し付けてしまって。休む暇もなかっただろうに」

「気にするなよ。お前やガーネットほどには疲れてなかったからな」


 そんなやり取りを軽い態度で交わしてから、天幕の中央に据えられたテーブルを囲む輪に加わる。


 天幕の中には椅子なんて気の利いたものは置かれておらず、全員が立ったままになっていたが、状況を考えれば贅沢は言っていられないだろう。


「さて。早速だが、今後の方針について、大まかな説明させてもらうとしよう」


 トラヴィスはテーブルに地図を広げると、その上に幾つかの駒を置いた。


 地図といってもちゃんとした既製品ではなく、手書きで大雑把に仕上げられた即席の代物である。


 それもそのはずで、地図に記された地形は第三階層の浮遊島の配置であり、戦いが始まってから大急ぎで仕上げられたものだからだ。


「我々陽動部隊は地上に引き返さず、このまま戦闘部隊に合流する。改めて言うまでもないとは思うがな」

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https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] 人を物として扱うのは通常非人道的に見られますが、今にルークはそうするからこそ最大限人に役に立つという。 この思考が枷の影響のフィードバックとかじゃないといいですが
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