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第741話 陽動部隊との合流

 ――ダンジョン『元素の方舟』を舞台とした戦争は、遂に新たな局面を迎えることになった。


 ウェストランド王国軍と冒険者ギルド、魔王ガンダルフの軍勢の連合軍。


 戦闘人形に魂を移し替えた古代文明人の集団、アガート・ラム。


 両者の闘争は、序盤こそ連合軍の陽動作戦が功を奏し、ほぼ一方的に戦いを進めることができていた。


 しかし、アガート・ラムが虎の子のメダリオンを持ち出し、実体化させた魔獣やその力を身に宿した特級人形を戦場に投入したことで、戦況は少しずつ連合軍不利へと偏っていく。


 これを再び覆すべく、俺は連合軍側が調達したメダリオンを改造し、誰でも自分の判断で魔獣の力を引き出せるようにしたのだが――その結果が出るのはもう少し後のことになりそうだ。


「トラヴィス、別働隊の船の隠し場所ってのは、本当にこの辺りなんだな? それらしいモンは何にも見えねぇぞ」


 ガーネットが訝しげに周囲を見渡す。


 この浮遊島の無人に近い市街から少しばかり離れた、遺棄された港湾か何かを思わせる廃墟。


 一部隊を丸ごと乗せられる船を隠せるような船を隠せるような場所など、付近には全くないようにしか思えない。


「同行メンバーに隠蔽魔法の心得がある者がいたからな。展開させたまま動かすことはできんが、一定範囲をある程度まで誤魔化すには充分だ。ルークの『右眼』なら見切れるかもしれんがな」

「そうなのか?」

眼帯(こいつ)を外したら見えるかもな。今は普通の目と同じようにしか見えないけどさ」


 顔の右半分を覆う眼帯に軽く指を引っ掛ける。


「つーか、その状態で()()()()()()()()見えるって、本当(ホント)どういうことなんだよ。ワケ分かんねぇぞ」

「俺に言われても。アルファズルも何とも言ってこないから、そういうものだと受け止めるしかないな」


 まるでノックでもするかのように、ガーネットが指で眼帯を軽く叩いてくる。


 メダリオンを改造するため、俺は『叡智の右眼』の(リミッター)を一つ解除し、【修復】スキルに新たな力を与えることに成功した。


 そしてこの代償として、『右眼』を完全に解除することができなくなってしまい、負担を押さえるために特別製の眼帯を身に着けたのだが――実際に試してみたところ、完全に予想外の事態が判明してしまった。


 眼帯をつけていても()()()()()()のだ。


 視界としては何も着けていないのと変わらない。


 先程ガーネットにも試着してもらったが、その場合は普通に視界が塞がれてしまったので、眼帯が特別というわけではなさそうだった。


 つまるところ、眼帯は『右眼』を完全に封じ込められるわけではなく、普通の眼球と同程度に抑え込む代物というわけだ。


 正直かなり意外ではあったけれど、実用性を考えればむしろ好都合である。


 眼帯の下で瞼を閉じれば普通に視界が塞がれるので、俺自身が慣れさえすれば何の問題もないだろう。


「『右眼』の研究は戦いが終わってからでいいだろう。まずは他の連中と合流だ」


 トラヴィスがゆっくり歩を進めるに連れて、その輪郭がだんだん薄くなっていって、遂には姿が見えなくなってしまう。


 特に驚くようなことではない。

 ただ単に隠蔽魔法の内側に足を踏み入れただけだ。


「思ったより目の前だな、おい」

「あの冒険者、それなりに隠蔽魔法が使えるとは聞いていたけど……報告を受けたときよりも腕を上げてるみたいだな」


 俺とガーネットも迷わず後に続く。


 周囲の風景が蜃気楼のように揺らぎ、それが収まったかと思うと、乾いた港のような廃墟に大破した帆のない船が、中央で二つに割れたまま鎮座しているのが見えてくる。


「想像以上に手酷くやられたな。完全に真っ二つじゃないか」

「メダリオンを組み込んでいなければ、これよりもっと酷かったぞ。大破に至らないダメージを自己修復で塞ぎつつ、どうにか追っ手を振り切ってここに落ちたんだ」

「落ちた? そりゃあ真っ二つにもなるだろうけど、逆によく無事だったな」

「運が良かった……と言い切るのは失礼だな。全員が力の限り奮闘した結果だ。お前の弟もよく働いてくれたぞ」


 そんな会話を交わしながら、大破した船に向かって歩いていると、向こうから見慣れた壮年の騎士が笑いながら近付いてきた。


「いやぁ、お手数掛けてすみませんね、団長。さすがに逃げ切れませんでしたわ」

「本当よくやってくれたよ、ユリシーズ。メダリオン持ちの人形の強さは尋常じゃないからな。そいつらから逃げ切れたってだけで大活躍だ」


 騎士ユリシーズ――召喚系スキルであの船を用意し、また船の操舵手として陽動作戦にも参加していた、白狼騎士団のメンバーの一人。


 もしもユリシーズに何かあったら作戦の続行も難しいところだったが、幸いにも疲れ果てているだけで、目立った外傷は負っていないようだった。


「またそんな気遣いを……っていう顔じゃなさそうですね。どうやらそちらも大変だったようで。右目はどうなさったんです?」

「ちょっとな。詳しい説明は後でするけど、作戦には何の影響もないから安心してくれ」


 右目に眼帯をしている理由については、これから何度もしつこく質問され続けることになるだろう。


 だったら一人一人にそれぞれ説明して回るよりも、大勢が集まったタイミングで纏めて説明した方が確実で手っ取り早い。


「そんなことより、まずは船の【修復】だ。それから怪我人の傷も治して……まったく、少しでも休憩しておいてよかったな」

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https://manga-park.com/app
https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] こりゃ睡眠中もベッドに入る時も風呂でも眼帯が外せなくなったというわけですか。 バレンタイン兄やアンブローズと同じ派閥に・・・
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