第734話 移りゆく戦況の果て
――絶え間なく続く三対一の死闘。
俺と共に戦い続ける友軍は、融合するメダリオンを炎狼から氷狼に切り替えたガーネットと、同じく氷の魔力を振るう魔将ノルズリ。
ほとんど二人が主戦力のようなものであり、俺は後方支援や負傷の【修復】に掛り切りとなっている。
対するは神獣サンダーバードの力を宿した戦闘人形、ガラティア。
雷の翼を広げ、雷撃を際限なくばらまき続けるその戦闘スタイルは、並の人間では近付くだけで命を奪われかねないほどに壮烈だ。
ガーネットとノルズリは氷の障壁を適宜生成して雷撃を防ぎ、自身の肉体にも纏わせて鎧とし、電撃の余波を受け流していく。
戦場は城内から城の敷地、そして城壁の外へ。
ガラティアの圧倒的な力に押されて、方舟の城から引き離されていく――かのように見せかけて、俺達の方こそガラティアを城から引き離していく。
奴の雷撃の威力には凄まじいものがある。
自然の落雷が火災を引き起こすように、神獣サンダーバードのメダリオンが生み出す雷もまた、周囲一帯を焼き払いかねないほどの火力を秘めている。
ひとまずは二人がかりの凍結で城を守ったものの、あのまま城内で戦い続けていたら、氷壁を破壊されるのも時間の問題だった。
損傷を受けるたびに氷を張り直すことも不可能ではないが、そうすれば大量の魔力を戦闘以外に費やすことになってしまう。
「ガーネット!」
移動時に破壊された城壁を【修復】し、戦場を完全に城外へと移行させる。
言葉による指示を出している余裕はなかったが、しかしガーネットはアイコンタクトだけで俺の言わんとすることを理解して、冷気の出力を上げてガラティアに斬りかかった。
大書庫からガラティアを引き離しきった今こそ、全力を出して戦うべきタイミングだ。
俺も自分にできる範囲での援護射撃をするために、試作品の銃に呪装弾を込めて狙いを定める。
「(戦闘の合間を縫って射撃を当てるのは、俺の技術とスキルじゃ絶対に不可能だ…『右眼』の補正を上乗せしても命中させられる気がしない…狙うべきタイミングは……)」
ガラティアがノルズリの氷の刃を受け止めて砕き、カウンターの蹴りを叩き込んで大き後方へと吹き飛ばす。
「がっ! ……おのれっ!」
「ノルズリ!」
「……やはりこの体では儘ならんな……!」
そこから更に、俺の方へと飛び退くノルズリ。
ガラティアを抑え込む手が減ったその瞬間、俺は呪装弾の残弾全てをガラティアめがけて連射して、入れ違いに戻ってきたノルズリのダメージを【修復】した。
ガラティアは俺が放つ弾丸が呪装弾であると理解しているので、油断することなく雷撃で迎撃する。
俺が放った呪装弾は一発たりとも届くことはなかったが、元より牽制と足止めのための弾丸だ。
迎撃に数秒でも割いてもらっただけで充分過ぎる。
どうせ当たらないと無視を決め込まれ、ガーネットの撃破に集中される方がずっと厄介だ。
「よしっ、行け!」
「私に命令するな!」
ダメージを【修復】すると同時に、俺が持ち運んでいた予備の魔力結晶を供給器に装填――【合成】スキルを使った緊急装填だ――してノルズリを送り出す。
これで肉体も魔力も万全だ。
さすがにスタミナまでは補えないが、コンディションを定期的に一定水準まで回復させられるという時点で、あちら側にはない圧倒的なアドバンテージであると言える。
現にガラティアは、攻撃の出力こそ圧倒していながら、僅かなダメージが少しずつ蓄積して動きが鈍りつつある。
短期決戦での撃破が困難なら、長期戦で粘り勝つしかない。
後はあちらに増援が来ないことを祈るばかりだ。
『ルークさん!』
上方から降り注ぐガラティアの雷撃を、二人がかりの氷壁が防ぎ止めたそのとき、ロイの精霊獣が猛スピードで降下してきた。
先程のメッセンジャーとは違う猛禽型の精霊獣であり、その足には小さな円形の金属塊が鷲掴みにされていた。
『ダスティンが撃破した特級人形のメダリオンです! ルークさん達が有効活用するようにと!』
「本当か? あいつ、上手くやったな……!」
精霊獣が投げ落としたメダリオンを掴み取る。
そのメダリオンは中央を魔槍で穿たれていたが、軽く【修復】を掛けるだけで完全に元の形状を取り戻した。
「こいつは……魔獣のメダリオンか。この状況で活用できるか……? 俺が使っても銃と大差は……」
ガーネットとノルズリの戦闘から目を離したその一瞬。
上空から、落雷とは異なる大質量が急降下し、地響きを上げてガラティアとガーネットの間に墜落した――否、着地した。
「下がれ! ガーネット! そいつもメダリオン持ちだ!」
「ちっ……!」
俺の声を聞くや否や、ガーネットが後方へ飛び退く。
その次の瞬間、鋭い鉤爪が立ち込める粉塵を突き破り、一瞬前までガーネットがいた空間を横薙ぎにする。
「もう一体来やがったか!」
「さすがに時間を費やしすぎたようだな」
ガーネットとノルズリが揃って間合いを広げる。
粉塵が内側からの突風に吹き飛ばされ、ガラティアと並び立つもう一体のメダリオン持ち――特級人形の姿が露わになった。
「ハハハ! 苦戦しているようだな、ガラティア!」
それはガラティアよりも頭一つ分は大きな男の特級人形だった。
金色と銀色が入り混じった金属製のスケイルメイル――羽のようにも見える金属片を織り合わせた鎧に身を包み、同じ色の金属の翼を広げ、両腕は鋭く巨大な鉤爪に変化している。
雷撃を中心としていたガラティアとは正反対に、この男は見るからに物理的な白兵戦特化。
正面突破の困難さは『右眼』に頼らずとも容易に見て取れた。
「テオドールか。余計な真似を。私一人でも充分だ」
「時間をかけ過ぎだ。戦争が終わるまで延々と戦い続けるつもりか?」
二体目の特級人形――テオドールは鉤爪を鳴らしながらこちらに向き直った。
「最優先標的を教えろ。まずはそれから殺す」




