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第729話 方舟の城、地下大書庫

 ――二手に分かれた探索部隊の片割れ、地下探索班。


 俺はいつもの顔ぶれで構成されたメンバーを率い、古代魔法文明に関する貴重な資料が保管されているという地下書庫を目指すことになった。


 いざ移動を再開しようと思ったところで、ハイエルフのエイルが迅速な探索を促してきた。


「ほら、さっさと階段なり昇降機なりを探しましょう。早くしないと取り囲まれて殺されるわよ」

「いや……階段と昇降機は駄目だ」

「はぁ? どうしてそんな……」

「そんなに大事な大書庫なんだ。既に侵入を警戒して護りが固められてるに決まってる」


 いくらアガート・ラムの戦力が少数精鋭体制とはいえ、重要な施設に戦力が配備されていないとは考えられない。


 真っ当な移動経路で突入しても真っ向勝負になるだけだ。


「ノルズリ、どこに穴をぶち開ければいい?」

「ふん、貴様の得意の一手だな。当たりは付けてある。ついて来い」


 目指す場所は階段でもなければ昇降機でもない。


 俺のスキルで強行突破できる一点だ。


「ここだ。大書庫の地下一階の隅に()()()はずだ」

「ありがとな。皆、着地に備えてくれ。直通の穴をこじ開けるぞ」


 床に手を突いて高出力で【分解】を発動する。


 城内の片隅の床が音もなく砕け散り、探索班全員が一斉に大書庫へと降下――有り体に言えば()()()()()


 同時に【修復】スキルを発動し、一人残らず地下一階の天井を潜っていったタイミングで、バラバラに【分解】した天井を元通りに【修復】する。


 魔王戦争を始めとして、様々な局面で俺の命を救ってきた切り札の一つだ。


「――――っ!?」


 唯一、俺の得意な手段を知らないエイルだけが驚きに目を見開き、ノルズリに無理やり口を押さえられながら床へ降り立つ。


 着地に難がある面々――俺のことはガーネットが支え、ヒルドはアレクシアが【重量軽減】スキルも併用して着地を補助する。


 そしてアンブローズとライオネルは一人だけで難なく着地した。


「気付かれてない、みたいだな」


 発動させっぱなしの『右眼』で周囲を警戒する。


 そこはまさに大図書館としか言いようのない空間であった。


 吹き抜けの大広間に三階分の回廊。

 俺達が着地したのは、一番上の四階部分の一番端だ。


「なんて膨大な……」


 ヒルドが喜びと驚きが入り混じった表情で、目が眩みそうになるほどの書架の数を見渡した。


 二階から四階にかけての吹き抜けの回廊部分は、全ての壁が文字通り隙間なく書架に覆われている。


 そして広い一階部分には、壁だけでなく広間の隅から中央までくまなく書架が並べられ、上から見ると書庫の並びが網目状の狭い通路を構成していた。


「この本を見てください。魔法による保存が施されていますが、古代魔法文明の当時に印刷、製本されたものです。あれも、これも、それも……あああ、なんと素晴らしい……」


 ヒルドはうっとりした顔で本を手に取って、何冊も抱え込みながら次々にページを開いている。


 あまりに夢中になっていて、エルフの外見を隠すフードがズレそうになっていたので、さり気なく引っ張って直してやる。


「マジかよ。道理で読めねぇ文字ばっかりだと思ったぜ」


 一方、ガーネットの方は大量の本の圧力にすっかり気圧されて、げんなりという表現を絵に描いたような顔で元気を失っていた。


「いやぁ、これは想像以上の……ルーク君、機巧工学の専門書はどこですか? たっぷり持って帰らないと死んでも死にきれませんよ」

「魔獣とメダリオンに関する資料もあるはずだ。是非とも頂いていこう。魔導書と呼べるものがあれば、ノワール君への手土産に確保しておくべきだね」


 アレクシアとアンブローズ――機巧と魔法の専門家も、それぞれの興味の対象にすっかり気を取られているようだ。


 その傍らで、戦闘が専門の騎士であるライオネルが、敵に気付かれないよう注意しながら俺に耳打ちをしてくる。


「団長。さすがにこの量を我々だけで持ち出すのは、やはり困難ですね」

「だろうな。想定通りだ」


 いくらなんでも、全ての資料を戦闘の合間を縫って地上に持ち帰るなんて、現実離れした計画にも程がある。


 ここ最近になって始まった地上での暗躍の資料よりも、古代魔法文明の叡智を継承するための資料の方が桁違いに膨大であることは、現地に赴くまでもなく分かりきっていたことだからだ。


 俺達はそんな計画で乗り込んだわけではない。


 作戦内容は、あくまで『敗北を悟ったアガート・ラムが重要資料を持ち出したり、その他の資料を破棄したりすることを未然に防ぐこと』が中心なのだ。


 そうした苦し紛れの計画が実行に移される前に、こうして現場へ乗り込むことに成功した時点で、作戦の第一関門はクリアしているのだ。


「これから大書庫を占拠し、アガート・ラムが余計な真似をさせないように守り抜く。同時に、何が何でも確保しておかないといけない重要資料だけを確保して、攻略戦が失敗した場合も持ち出せるようにしておくぞ」

「んじゃ、まずは警備をしてる連中を速攻で片付けて、後は増援を叩きまくる。オレとライオネルの仕事は単純明快だな」

「そうだな。ノルズリ、大書庫の中で最も重要な資料はどこに?」


 ノルズリは無言で俺を一瞥し、それから顎をくいと動かして、大書庫の一画を指し示した。


「……よし! 作戦第二段階を開始する!」

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空往く船と転生者 ~ゲームの世界に転生したので、推しキャラの命を救うため、原作知識チートで鬱展開をぶち壊す~
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https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] 紙の本でも1000年は耐えると言いますが、そこに防朽魔法もあれば更に。 研究肌の各人が泣いて喜ぶわけですし、アガートラムに限らずここで火種起こすと後でどんだけ恨まれるか想像もつかない
[一言] 他の多くのなろう作品と違って四次元ポケットないからなあ
[一言] 本を分解しまくったら質量としては少なくなりそう
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