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第721話 秒読みは今終わった

 新型のケーブル式昇降機を用いた浮遊島への上陸が進む中、一人の白尽くめの女が俺のところに近付いてきた。


「まだ終わりそうにないの? 自前の魔力だけならとっくに尽きてるところなんだけど」

「ああ、もうちょっと頑張ってくれ。あと一息だ」


 その女とはもちろん、ノワールの妹であるブランだ。


 半死半生の自分を捕らえていいように扱ったアガート・ラムに報復がしたい――ブランの意志を銀翼騎士団に告げたところ、幾つかの魔法的拘束を加えることを条件に、支援魔法使いとしての参戦が許可されたのだ。


 ブランに与えられた拘束は何種類かあるが、どれも体の動きを束縛するものではなく、魔法の発動を制限するものだ。


 銀翼騎士団が魔法使いの容疑者や囚人を拘束する際に用いるもので、簡潔に言えば許可された魔法以外を使えなくする代物である。


 こういう手段がなければ、魔法使いの犯罪者を逮捕したり禁固刑を与えたりすることができず、現場で殺害して事件解決なんていう手段しかなくなってしまうに違いない。


「白魔法による視覚的隠蔽……皮肉なものね。貴方を見捨てた後で魔王城に近付くために使った魔法を、貴方が率いる作戦のサポートに使うことになるなんて」

「しかも俺達が作った魔力供給器(サプライヤー)で、魔力結晶から魔力を補って、だ。なんというか、ウェストランド王国の縮図みたいな構図だな」


 かつて大陸の覇権を競って殺し合い、策に嵌め合い、出し抜き合った者同士が、アルフレッド陛下という大きな器の中で一つの目的に力を貸し合う。


 それが統一後のウェストランド王国の姿だ。


 内心では恨み辛みもあるだろう。

 未だに拭い切れない対抗意識もあるだろう。


 だがそれでも、彼らは自分達の感情よりも優先すべきものがあると理解している。


 突入部隊に参加している騎士達も例外ではない。


「……まぁ、そういうことにしておきましょうか」


 ブランは踵を返し、所定の場所へ引き返そうとした。


「念の為に確認しておくけど、この魔法は派手に動いたら簡単に剥がれるから、脳筋達がウォーミングアップとか言って暴れないようにさせなさい」

「大丈夫だって。そんな凡ミスはしないような連中を選抜したんだ」


 ケーブル越しに巻き上げ機(ウィンチ)へ【修復】の魔力を送りながら、立ち去っていくブランの背中に声を投げかける。


「お互いに頑張ろうな。お前もノワールにいいとこ見せたいんだろ?」

「なっ……! そういうのはどうでもよくってね……! 私はあの連中に報復が……ああ、もうっ!」


 ブランが振り返ってこちらを睨む。


 そのときだった――遥か上空から腹に響くような重低音が聞こえてきた。


 浮遊島に上陸済みの面々が一人残らず顔を上げる。


 耳を済ましてみれば、金属同士がぶつかり合う微かな音も聞こえてくる気がしてくる。


「……どうやら、向こうでも本格的に始まったなみてぇだな……」


 ガーネットが天井(そら)を仰いでポツリと呟く。


 第二階層経由で侵入した陽動部隊に対し、ようやくアガート・ラム側の戦力が攻撃を開始したようだ。


 陽動部隊の発見が遅かったのか、迎撃体制に何らかの遅延があったのか、それともあえてしばらく泳がされていたのか。


 実情がいずれであるにせよ、トラヴィス達がいよいよ本番を迎えたことは間違いない。


「(これでアガート・ラムの注意は上方に逸れたはず。急がず焦らず、確実に上陸を完了させて、陽動が有効なうちにこちらの作戦を実行に移す……ここから先はタイミングが重要だ)」


 トラヴィスを始めとする陽動部隊の皆が心配じゃないと言えば、それは嘘になる。


 こちらも危険な作戦ではあるが、あちらの作戦は敗北前提。


 戦闘の音が聞こえてこなくなる頃には、適度に戦ってから撤退を成功させたか、あるいは撤退に失敗してこの階層に取り残されるかのどちらかだ。


 かつての冒険者仲間や騎士団の所属員、そして身内が運命の分かれ道に直面しているのだから、不安を覚えないはずなどあるわけがなかった。


 けれど、私情で判断を誤って作戦を台無しにするわけにはいかない。


 不安を堪え、こちらの作戦の完遂に向けて確実に手筈を進めていくだけだ。


「……よし、そろそろだな」


 上陸予定の隊員が全員浮遊島にたどり着き、いよいよ本命の攻撃作戦が動き出す時が来る。


 ここから先は大きく分けて二つの部隊に別れて行動することになる。


 王宮と魔王軍がそれぞれ選抜した戦力で構成された攻撃部隊。


 白狼騎士団と銀翼騎士団、そしてホワイトウルフ商店に縁のある連中で構成された調査部隊。


 陽動部隊が上方に注意を向けさせ、攻撃部隊がアガート・ラムの都市を攻撃して戦力の殲滅を試みる間に、俺達は古代魔法文明の技術とアガート・ラムの犯罪の証拠を探して回ることになる。


 俺達の視点からすると、いわばこれは二重の陽動作戦ということになる。


「ガーネット。巻き上げ機(ウィンチ)の放棄が終わり次第、他の連中と合流するぞ。ここからが正真正銘の本番……俺達の正念場だ」

「へへっ……頼むぜ、隊長。こっちの探索部隊は白狼と銀翼連合部隊だけど、指揮権はこっち持ちだ。責任重大だな」

「今更、プレッシャーを与えるようなこと言うんじゃないっての……」


 俺は【修復】スキルの魔力を注いでいたケーブルから手を離し、銀翼騎士団側の人員に向き直った。


「……本当によろしかったんですか、カーマイン団長」


 そこにいたのは、銀翼騎士団の団長、カーマイン・アージェンティアその人であった。


 銀翼は白狼よりも騎士団としての格が高く、それぞれの団長のキャリアと実績も天と地だ。


 真っ当に考えればカーマイン団長が指揮権を握る方が妥当だろう。


「ああ、もちろん」


 しかしカーマイン団長は、普段と変わりない態度であっさりとそれを肯定した。


「君の任務に僕達が相乗りしたようなものだし、ダンジョンでの活動は君の方がベテランで、何よりアガート・ラムとの交戦経験で君の右に出る者は誰もいない。これで僕が指揮権を持つ方こそ道理に合わないだろう?」

「……分かりました。そう仰るのでしたら、心置きなく全力を尽くさせてもらいます」


 俺はカーマイン団長にそう宣言し、探索部隊を指揮する部隊長としての責務を果たすべく、指示を待つ隊員達の方へと向かっていったのだった。

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https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも飄々としていたカーマイン兄の力も見られるのか楽しみですね。 そして、ガーネットとアガートラムの因縁の坩堝と化してる以上黙って動かないはずがないヴァレンタイン兄も・・・
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