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第696話 過去への旅で得たものは 中編

 一方その頃、ノワールとアレクシアは二人揃って朝から部屋に詰め、新たな魔道具と可動義肢の開発に精を出していた。


 今回の事件で最も大きな収穫を持ち帰ったのは、やはりこの二人だと言わざるを得ない。


 かつて地上に栄えた古代魔法文明――その全貌を解き明かすには至らずとも、当時の技術の一端を垣間見るだけで、彼女達にとってはこれ以上ない収穫である。


 用いられている技術、製品開発の発想と視点、それらを実現する製造機械の数々。


 どれをとっても現代の水準を大きく上回っており、仮に不完全であっても再現できれば、間違いなく王国の生活環境を向上させるであろう知識ばかりであった。


 しかし、持ち帰った知識の全てを一気に再現することはどう考えても困難であり、少しずつ着実に実現させていこうというのが、今の二人が取り掛かっている作業の主旨である。


「小さなことから、できるとこからコツコツと。口で言うのは簡単だけど、やっぱりあんなの見せられたら気が急いちゃうよね」


 アレクシアは作業台の上で義肢の内部機構を弄りながら、楽しげに笑みを溢した。


「右を見ても左を見ても遺失技術が盛りだくさん。道具だけじゃなくてインフラのレベルから桁違い。再現したいことが山盛りだけど、時間もコストも足りないし、何より体は一つだけ。嬉しい悲鳴ってまさにこのことっていうか」

「あ、ああ……本当、に……凄い、光景、だった……な……」


 ノワールも口元に笑みを浮かべながら、アレクシアの感想に共感を示す。


 義肢を動かす内部的な魔法を仕込み直しているところであるが、もしも魔法の専門家がこの作業を目にしたなら、魔力伝達機構が極めて効率化されていることに驚くに違いない。


 古代魔法文明の再現世界から得られた情報の数々――彼女達がそれを最初に投入しようとしているのは、最先端技術の一つである可動式の義肢であった。


 大陸統一戦争が集結を迎えてまだ間もなく、またアガート・ラムとの戦いの激化が予想される現在、失った四肢を機能ごと取り戻す高性能義肢の需要は絶えることがない。


 より高性能に、より元々の腕に近く、現役復帰すらできるような。


 社会から求められる要求性能は青天井。


 実現に必要だと考えられる技術の高度さも最高峰。


 古代魔法文明から持ち帰った収穫物(ちしき)を真っ先に投入する対象として、これ以上のものは思いつかないほどだ。


「……これで、義肢の軽量化が、また……進むな……」

「重さと性能と強度とコスト。あちらを立てればこちらが立たずの典型例だったもんね」

「まさか、あんな……やり方で……強度を、保った、まま……構造を、単純化……できる、なんて、な……」

「部品強度を向上させる手法も、まさに目から鱗っていうか。関節機構の重量を半減させておきながら、強度は据え置きどころかむしろ向上って、ほんとヤバいわ」


 ノワールとアレクシアは作業の手を止めることなく、義肢に投入している新技術の性能に――時系列的には古代のものであるが――感嘆の声を漏らした。


 腕の代わりとして取り付ける以上、重量は生身の腕と大差ない範囲に収まることが望ましい。


 しかし生身の腕と同じように動かせるようにしようと思うと、必然的に内部機構が複雑化して重量が増し、機構以外を軽量化すると義肢全体の強度が落ちてしまう。


 これらの問題を一挙に解決したければ、ルークが身に付けている義肢のように希少素材を大量に用いる必要があり、製造コストが普及を妨げるレベルで跳ね上がってしまうものである。


 だが、そこに古代魔法文明の遺失技術を投入することにより、このジレンマが解決を見る可能性が出てきたのだ。


「むしろ……これ、だと……重量、バランスを、取る……ために、重りが、必要……かも……」

「んー……流石に武装を仕込む場合は『生身の腕と同じように』とはいきそうにないなぁ。その辺は兵器だから仕方ないと割り切ってもらうとして、今回は民生品……日常生活を自然に送れる普段遣いで仕上げますか」

「じ、事故で、脚や……腕、なくしてる、人……意外と、いるから……な……」

「グリーンホロウにも意外といるんだよねぇ。木を切ってるときの事故とか、狩りの最中にやっちゃったとか」


 やがて二人の共同作業によって一本の義手が仕上がっていく。


 それはルークが装備しているものと比べて線が細く、全体的に女性的な曲線を帯びていた。


 武器を始めとした()()()もされていないフラットな仕様であり、本来の腕と変わりなく使えることを最優先にした設計だ。


「うん、完璧! でもさ、仕上がりがここまでくると、いよいよ触覚の再現もしたくなっちゃうよね。使い魔との五感接続の応用で実現できそうなんでしょ?」

「り、理論、上は……でも、上手く、いくかは……どうだろう……」

「次の研究テーマは決まりね! その辺は機巧じゃ逆立ちしても無理だからさ、魔法にはほんと期待してるんだから」

「ま……魔法を、魔道具に……落とし、込むのは……大変、だけど……試してみる、価値は……ある、よな……」


 ノワールは難しそうな話題に頭を悩ませるような素振りをしながらも、難題への挑戦を楽しむような微笑みを浮かべていた。


「とりあえず、今日のところはこいつをテストしてもらいましょうか。妹さんによろしくね」

「あ、ああ……分かった……すぐに、戻る、から……」

「ゆっくりしていきなさいって。私もしばらく休みたいしさ」


 アレクシアは義肢を梱包してノワールに押し付け、そのまま背中を押して部屋の外へと送り出した。


 最初こそノワールは遠慮をしていたが、アレクシアがあっさり部屋の扉を閉めたことで踏ん切りがついたのか、駆け足でパタパタと走り去っていった。


「まったく、妹に会いに行く良い口実なんだから、遠慮しないで行ってきたらいいのに」


 ノワールの双子の妹であるブランは、生き延びるためという切実な理由があったにせよ、魔王戦争において魔王側について人類に敵対した。


 本来なら極刑もあり得る立場であったが、紆余曲折を経て『銀翼騎士団の監視下で収監されながら、ホワイトウルフ商店の魔道具作成の補助を行う労役に従事する』という形で落ち着いている。


 もちろん、その元請けとなるのは魔道具担当のノワールであり、仕事を持ち込むのは収監中の妹に堂々と会いに行ける絶好の機会なのである。


「……ま、私もジュリアに会えてないから、偉そうなことは言えないんだけどさ。躊躇っちゃうよね、やっぱり」


 アレクシアはブランと似たような状況にあった旧友のことを思い返しながら、休憩中につまむ茶菓子を調達するために、いそいそとリビングの方へと向かっていったのだった。

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https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[良い点] アガートラムの口約束では貰えなかった義肢がノワールの手で。 ちょっと感動です。 その分、技術が失われず継続してあまつさえ進化していたら、敵の技術魔法レベルだなと不安になるわけですが
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