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第690話 執拗なる反対者

 リビングでガーネットが戻ってくるのを待っていると、玄関の方から扉を叩く音がした。


 ヘルが言っていた客とやらが来たのだろうか。


 とりあえず誰が来たのかを確認しようと思って、玄関に足を運んで扉の覗き穴から外を確認する。


 ――イーヴァルディだ。


 気難しそうな表情を浮かべたドワーフが、腕組みをして俺が出てくるのを待っている。


「もしかして、客っていうのは……」


 アルファズルの言葉が脳裏をよぎる。


 ――もしもイーヴァルディと出会うことがあれば気をつけろ。この世界が再現に過ぎない以上、無意味な忠告かもしれんが――


 一体どういうことなんだと頭の中で問いかけてみるが、アルファズルからの返答はない。


 奴が俺の肉体に相乗りしているといっても、隣にいるかのように自由な応答ができるわけではなく、会話が成り立つかどうかはアルファズル次第となっている。


 けれど問題が起こりうるようなら、きっと制止が入るはずだ。


 俺はそう信じて扉越しに声を投げかけた。


「イーヴァルディか。ええと、今日の約束は確か……」

「すまんな、急に押しかけちまって。本当なら事前に連絡でも入れとくべきだったんだろうが……」


 こちらから状況を確認する前に、イーヴァルディの方から予定の客ではなかったことが説明される。


 つまりイーヴァルディの訪問は偶然で、約束をしていた相手はまた別にいるというわけだ。


「……せっかく来てもらったのに悪いんですけど、これから人に会う約束をしているんです。申し訳ないんですが、あまり長い話は……」

「おっと、間が悪かったな。それじゃ仕方ねぇ。仕方がねぇんだが……ほんのちょびっとでいいから聞いて欲しい話がある。すぐに終わるからこのまま聞いてくれ」


 ドワーフらしい頑固さというべきか、単にイーヴァルディ個人の性格なのか。


 立ち話くらいはしないと帰ってくれそうになかったので、扉を挟んだまま手短に会話を交わすことにした。


「少しなら構いませんよ。だけど手短にお願いしますよ」

「おう。実はだな……お前達が進めてるっていう研究なんだが、考え直しちゃくれねぇか。前々から言おうとは思っていたんだ。俺と同じ懸念を抱いてる奴も結構いるんだぜ」


 思わず怪訝な表情を浮かべてしまったが、扉を開けていなかったのでイーヴァルディには見られていない。


 研究とは何のことだと聞き返しそうになり、もっと自然な反応にするべきだと思い直して、事情を知っているかのように聞こえる返答を考える。


 前々から言おうと思っていた、つまりこれまでにロキへ伝えた内容ではない。


 そして『お前達』というからには、(ロキ)を含めた複数人で進めている研究であるはずだ。


「(アルファズル。一体何の話だ)」

『ロキは他の錬金術師達と多くのプロジェクトに関わってきた。研究とだけ言われても特定はできん』

「(ワイルドハントとは別口でやってる仕事なんだな)」

『ああ。だが、恐らくは……イーヴァルディが懸念を示すということは、メダリオンと魔獣の研究のことだろう』


 今度はちゃんとアルファズルからの返答があった。


 もっと頻繁に情報をよこせと言いたかったが、まずは目の前の問題への対処が優先だ。


「研究というと、メダリオンのことですか。一体何を懸念しているんです」

「錬金術師にとって、本当の意味で人工的に生命を生み出すことが、一つの悲願だっていうのは理解してる。俺も技術者の端くれだ。実現の可能性が出てきて浮足立ってるのはよく分かる」

「……要領を得ません。従来の人工生命なら問題ないのに、魔力だけを使って生み出す方が問題なんですか?」


 ロキの肩を持つわけではないが、イーヴァルディが何を言おうとしているのか、客観的に理解できない。


 人工生命に対する倫理的問題を懸念するなら、むしろメダリオンとそれによって生み出される魔獣は()()であるはずだ。


 魔王ガンダルフが人間を竜人に作り変えようとしたことも含め、生きている動物や人間を素材に使ったり、あるいは()()()()のようなものを弄り回して加工するのであれば、倫理や道徳を理由に反対するのも分かる。


 俺だってこの世界の光景が過去の再現――もはや干渉できない他人事でなければ、当時の錬金術師が当たり前に研究をしている人工生命に対し、多少なりとも嫌悪感を抱いていたかもしれない。


 だが、魔獣はメダリオンさえ健在なら、魔力だけを消費して肉体を、つまり生命を作り出すことができる。


 普通に考えれば、従来の人工生命よりも批判の余地が少なくなるはずだ。


 それとも俺がまだ知らないだけで、メダリオンを作る過程で非人道的な手法を取っているのだろうか。


 しかし、イーヴァルディの返答は俺の予想を越えたものだった。


()()()()()使()()()()()()()()()駄目なんだ」

「……は?」

「動植物ならまだいい。お前達が魔獣とか呼んでる魔物モドキ。あれならまだ目を瞑れるし、有用な研究だとは思う。上手くやりゃ、魔力だけでメシや酒を作れるようになるかもしれねぇしな」


 イーヴァルディが扉に顔を近付けて、一層声を張り上げる気配がする。


「だがな、これからやろうとしてるのは駄目だ! とてもじゃねぇが見過ごせねぇ! お前だってとっくに気付いて……ちっ、錬金術師共が来やがったか」


 どうやら本来の客が近くに来ているようで、イーヴァルディは彼らと鉢合わせることを嫌ったかのように、扉から離れながら一方的な忠告を投げかけ続けた。


「いいか、思い出せ! お前達のやり方で創造するのは()()()()()()()()()()!」


 どんどん遠ざかっていくイーヴァルディの声。


 俺がその発言を噛み砕ききれずにいると、背後からヘルがやって来て、これまで通りの丁寧な態度で声を掛けてきた。


「もうすぐ来客の方々がいらっしゃいます。大した内容ではありませんので、家を出発なさる直前まで適当に省略いたしますが、よろしいですね」

「……こっちに選択権はないんだろ。それよりさっきのは……」

「イーヴァルディ様ですね。存じております」


 ヘルはあれも予定通りの再演だったと遠回しに白状し、そして冷たさすら感じさせる声色で言葉を継いだ。


「あれこそが魔法文明滅亡の遠因でございます。どうかご記憶くださいませ。私共の夢から覚め、お客様の現実に戻ってからも――」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ロキの一派の見解では、責任はイーヴァルディ側にあり? 双方だか諸方だかで色々な押し付け合いになってそうですが
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