第681話 魔力プラント探索 前編
かくしてワイルドハントの面々は、アルファズルの指揮下で魔力プラント跡地の敷地内へと足を踏み入れた。
先に入っていったドラゴンネストが――いや、それよりも先に到着していたアルファズル達が鍵を開けておいたのか、敷地を囲うフェンスも建物の玄関も既に開放済みだ。
「こいつは酷ぇ。随分な荒れようだな」
イーヴァルディがぼやくように呟く。
「施設が閉鎖されたのは最近なんだろ? なんでったってこんな、天井から床までボロボロなんだ」
「バウンティハンターが魔物討伐のために踏み込み、幾度となく戦闘を行った。それだけで理由は充分だろう」
ガンダルフが冷静に答えたように、建物内部の損壊は時間経過による廃墟化というよりも、戦闘の余波で破壊されたものであるように思われた。
「正面玄関を潜ってすぐにこの有様ですか。どうやら私達が踏み込む前から激しく争っていたようですね。すっかり出遅れてしまったというわけですが……」
「あなたね……残念そうに言うんじゃないの」
戦闘愛好者ぶりを匂わせる炫日女に、エイルが呆れたような言葉を零す。
アルファズルは照明の死んだ玄関ホールをしばらく歩き、施設案内の掲示と思しき図が掛けられた壁の前で立ち止まった。
「さて、このまま七人で探索を続けたいところだけど、さすがに施設が広すぎる。主を見つけても合流するまで手を出さないという前提で、ひとまず二手に分かれたいところだが……どう思う?」
掲示された図を見る限り、確かに魔力プラントは広大である。
隅々まで巡っていたら日が暮れてしまうかもしれない。
メンバー達も二手に分かれての探索には賛成していたが、ふと不安が脳裏をよぎる。
……班分けはどの組み合わせでするのだろう。
エイルと炫日女はアルファズルとの同行を望むとしか思えない。
けれど、魔眼を持つアルファズルと魔法で探知できるエイルが同じ班に加わるのは、さすがに非効率的だと言えるだろう。
となると、エイルと炫日女を揃ってアルファズルと別行動させるべきなのかもしれないが、果たして納得してもらえるものかどうか……。
「じゃ、炫日女。アルファズルのこと頼んだからね」
「言われるまでもありません。そっちこそ、手の届かない場所でヘマしないでくださいよ」
……ところが俺の心配を他所に、当の二人は当然のように役割分担を済ませていた。
うっかりすると忘れそうになってしまうが、彼女達は最低でも五年以上の実績がある賞金稼ぎだ。
強力な魔物との交戦すら想定される状況で、色恋沙汰なんていう私情を優先するようなことはなかったわけだ。
失礼な懸念を抱いてしまった事実を胸の奥に押し込めて、とりあえず班分けには口を出さず結果を待つことにする。
「……これでよし。それじゃあ、西と東に分かれて探索をして、指定した時間に玄関ホールで一旦合流することにしよう。何か発見があっても深追いはしないこと。急を要するなら例の緊急連絡手段で通達するように」
第一班はアルファズルと炫日女とフラクシヌスの三人。
第二班はガンダルフとイーヴァルディ、そしてエイルと俺の四人。
この組み合わせで均等な分配だということなので、部外者同然の俺としては納得して受け入れる以外にない振り分けであった。
正直なところ、アルファズルと腹を割って話したいという思いはある。
けれど、この場面の流れを無視して強引な行動に出たときに、その結果が望ましいものになるとは限らない。
慎重すぎると言われたら反論はできないが、無理に我を通す気になれないのもまた事実だった。
「ついて来い。手短に終わらせるぞ」
ガンダルフの指揮の下、廃墟と化した建物内を探索していく。
魔物が生息している痕跡や、戦闘が繰り広げられた残骸はいくつも目に入ったが、肝心の魔物の姿は全く見当たらない。
これまでに突入したバウンティハンターの戦いで頭数が減らされたのか、あるいはこの辺りは巣穴から離れた場所なのか。
ああでもないこうでもないと四人で意見を交わしながら、薄暗い廊下を慎重に歩いていたところ、エイルが不意に足を止めて表情を引き締めた。
「待った。奥に誰かいる」
「魔物か? 雑魚なら潰していくとして、主ならネームレスと合流だな」
「……ううん、魔物じゃないと思う。ちょっと待って」
エイルが胸の前に出した手の上に、半透明の球状の魔法陣が出現する。
数秒ほどそれを見つめた後で、エイルはどこかホッとした様子で魔法を解除した。
「人間が二人にエルフが一人。ドラゴンネストの連中でもなかったわ。アルファズルが言ってた他のチームだと思う」
「その連中が友好的とは限るまい。慎重に接触するぞ」
ガンダルフの指示を受け、気配と足音を殺してその部屋へと近付いていく。
廊下に面した一室。
俺にはまるで理解の及ばない装置類が敷き詰められたその部屋で、三人の人影が言葉を交わしている。
「……何だ、奴らは」
部屋を覗き込むガンダルフの横顔に、露骨なまでの困惑の色が浮かぶ。
高めに高めた警戒心が盛大に空振りし、目の前の光景に毒気を抜かれてしまった……そんな様子の反応だった。
二人の人間と一人のエルフ。
それらは全て若い女性で、悪意など微塵も感じられない態度で楽しそうに会話を――言葉を選ばずに表現すれば、お喋りを楽しんでいるように見える。
ただし、お喋りといっても内容はかなり高度かつ専門的で、この部屋の装置類について楽しみながら分析をしているといったところだろう。
「まさかあいつら……いやまさか……でも、やっぱりどう見ても……」
「……どうした、顔見知りか」
思わず溢してしまった呟きをガンダルフに聞きつけられ、観念して自白する。
「えーっと、はい。多分よく知ってる相手です。多分ですけど、一人はイーヴァルディもよく知ってます」
「なんだとぉ!?」
周囲を警戒していたイーヴァルディが、大声を上げて部屋に飛び込む。
驚いて振り返った女達は、俺にとってよく知る存在。
エリカと同様、俺の巻き添えでこの世界に引き込まれた可能性があった連中。
アレクシアとノワール、そしてヒルドの三人であった。




